TERRACED GARDEN

  カナダのプログレッシヴ・ロック・グループ「TERRACED GARDEN」。 1980 年代の SSW カール・タフェルのソロ・プロジェクト。作品は三枚。

 Melody & Menace
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Carl Tafel guitars, bass, piano, mellotron, clavinet, synthesizer, glockenspiel, vocals, percussion
    featured players
Peter Weeks drums
Phil Dewhurst drums on 6
Ian Colvin flute, sax, recorder
Simon Jacobs violin
Don Dingwall piano

  82 年発表のアルバム「Melody & Menace」。 内容は、ノーブルなヴォーカルをメロトロンやヴァイオリンなど多彩な器楽で守り立てたシンフォニック・ロック。 英国アコースティック・フォークの叙情的な表現からエレクトロニックで攻撃的なインストゥルメンタルまで振れ幅は大きいが、基本的に 70 年代前半の英国ロックの影響下にあると思う。 まず何より、ヴォーカリストの声質とジェントルな歌唱スタイルがリチャード・シンクレアによく似ていることをいうべきだろう。 したがって、やわらかな弦楽と心地よいリズムが支えるバラード風の楽曲では雰囲気が CARAVAN の「Winter Wine」になる。 (やや頼りなげな風情は、McDONALD & GILES 的でもある) 真摯で内省的な表情に加えて、2 曲目のように、歌メロやアレンジがモダン・ポップ/ニューウェーヴがかってシニカルさが浮かんでくる作品もある。 それでも、声質ののんびり感と間延び気味のヴァイオリンがとぼけたいい味を出していて、プログレ・ポップの域を大きく逸脱しない。 一方、インストゥルメンタルでは、ジャズロック的な表現から、シンセサイザー・ミュージック、KING CRIMSON ばりのミステリアスで強圧的な作品までプログレ好きを隠さない。 それでも、英国ロックを体得したのか本人もともとのセンスか分からないが、攻めと受けの切りかえや語り口が巧みであり、曲展開はとても自然になっている。 単なるプログレ・ファンというレベルではない。 ギターやベースのプレイには、YES を意識しているところもある。(フォークっぽくプログレしようとすると、どうしても YES になってしまうんだろう) 80 年代に入り大好きなプログレが影も形もなくなったので遂に自分で取り組んでみた、そういうスタンスに違いないと思う。 全編に共通する独特の内向性、閉塞感も、いかにも SSW の一人プロジェクトらしい。 最終曲は、タイトルとおり、英国古楽風のアレンジが冴える GRYPHONGordon Giltrap のような好作品。 82 年という微妙な時期の製作ながらも、英国フォークそのものである繊細でうつろな表情と、メロトロン含めた的確なプログレ・アレンジのおかげで名前が残った作品といえるだろう。 プロデュースはカール・タフェル。

  「Black Tie」(3:10)メロトロン・ストリングスとヴァイオリンがたなびくフォークソング。
  「Creature Of Habit」(3:20)のんびりした宮廷モダン・ポップ。変わった音のキーボードが入っている。
  「Passages」(4:37)PENTANGLE のような本格フォーク・ロック。無常感あるヴォーカル・ハーモニー。冷え冷えとしたフルート。
  「Afterlife」(3:13)シリアスかつ悠然としたシンセサイザー・ミュージック。もちろんメロトロンもあり。佳作。
  「Threnody」(2:41)攻撃的かつスペイシーなインストゥルメンタル。ベースとギターがぶつかり合う。

  「Noise And Haste」(2:56)ロバート・フリップによるニューウェーヴ作品のような異色作。バカっぽいテーマ・リフ、へヴィ・ディストーションのアグレッシヴなギターと変拍子パターンが印象的。
  「Old Friends」(4:54)ドリーミーでプログレッシヴなフォークロック。間奏パートでは、鋭く弾けるようなアンサンブルから牧歌調ながら神秘的な演奏へと大胆な変化を見せる。
  「Dry Leaves In The Wind」(5:16)幻想世界に遊ぶメランコリックなプログレ・フォークの名曲。 箱庭を丹念に整えてゆくように内向的な感じは初期 GENESIS か。展開部のたたきつけるようなベースのトリルはラザフォード流。もう少しきちんと製作すればさらにすごい名曲になったような。
  「Coventry」(5:23)古楽調の雅でそこはかなく哀愁あるインストゥルメンタル。終盤に KING CRIMSON ばりの嵐吹くクライマックスが。
  
(CT 1956)

 Braille
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Carl Tafel guitars, keyboards, additional bass on B2, glockenspiel, marimba, percussion, vocals lyrics
Darrell Flint bass, bass pedals, additional backing vocals on A1, B2
Scott Weber drums, cymbals
Simon Jacobs violin
Jody Mitchell lead electric end of A5, left channel B2, lead acoustic B3, all guitars B5
    featured players
Ian Colvin flute & sax on B1, B5
Don Dingwall incidental piano on A3
Michael Fitzgerald French horn on B1, B5

  84 年発表のアルバム「Braille」。 内容は、リチャード・シンクレアばりのジェントル・ヴォイスを中心としたリズミカルな牧歌調シンフォニック・ロック。 正確なニュアンスとしては、シンフォニック・ロックというよりは、フォークロックが田舎から出てきていきなりスーツに細いタイを決めてディスコにいってみたような感じである。 この微妙なニューウェーヴっぽさ、いかにも 80 年代の音である。 しかしながら、若干イージーなノリと性急なビートに隠されがちながらも、GENTLE GIANT のような変拍子パターンやリズム・チェンジをさりげなくこなし、KING CRIMSON ばりのアグレッシヴさも見せている。 独特の粘っこいアンサンブルにも不思議な味がある。 また、ベースやギターのプレイのキレがよくなり格段にバンドっぽさが出てきている。 そうなると、ヴァイオリンやフルート、サックスといったゲストのプレイも映えてきて、CARAVAN のようにうっすらと霞む風景を独特のクールネスで彩るジャジーなロックンロールになってくる。 そして、アコースティックなサウンドを生かした曲では、上品なメランコリーが操る繊細な表現で美しく夢想的な世界を描出している。 楽しみ方がいろいろとある好盤だと思います。 プロデュースはカール・タフェルとジェローム・マクピーク。

  「Silent Disarray」(2:34)
  「Gentlemen Of Leisure」(4:40)
  「Versailles」(3:42)
  「Delusions Of Grandeur」(4:33)
  「Structural Damage」(5:46)

  「Internment」(3:10)
  「Winter」(4:03)
  「Fallen Honour」(1:55)
  「Blobo」(5:00)
  「Empty Beach」(6:33)傑作。
  
(CT 1958)


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