フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ACINTYA」。76 年結成。79 年解散。作品は 2012 年の発掘ライヴを含めて二枚。
Jean-Louis Tauvel | bass |
Bernard Petite | drums, percussion |
Philippe de Canck | synthesizer, organ, piano |
Philippe Clesse | guitar, violin |
78 年発表のアルバム「La Cité Des Dieux Oubliés」。
内容は、WAPASSOU や CARPEDIEM に通じる、繊細にして妖しくどこまでも頼りない演奏に PULSAR 調の幻想悪夢テイストを盛り込んだ、クラシカルなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
ドラムスがあるのでロックらしさもあるが、哀愁とエスプリを束ねた旋律とともにテンポを揺るがせつつふわふわと進む演奏には、学生フォーク・バンド、お神楽、あるいは小劇場専属楽団といったニュアンスが強い。
また、クラシカルといったが旋律や和声にそういう面があるだけで、演奏そのものは、交響楽というには音が薄過ぎ、室内楽というにはあまりにとりとめがない。
個性的なのは、たどたどしくもきらびやかであり、素朴なようでいて洒脱であり、へなへなのようで独特のサイケデリックな毒気もあるところである。
つまり、ただのヘタではなく、妙に引っかかる味があるのだ。
おそらく、想像力や思い込みの強さが演奏力をはるかに上回っていて、頭で思い描いた壮大なヴィジョンをなんとかかんとか音に出力したのだろう。
一歩間違えればエネルギーの無駄遣いになってしまう行為に全力でのめり込んだに違いない。
そのわけの分からないパワーが、このなんともいい難い味を引き出しているのだ。
若いってすばらしい。(作者たちが若かったかどうかは知りませんが)
演奏とサウンドのなんとも独特な感じは、リード楽器がギターではなくヴァイオリンであり、なおかつそのヴァイオリンの演奏があまりに訥々としていることに起因している。
このヴァイオリン、キーボードらによって弦楽奏的な音を構成して、流麗な運動性、整合感と華やぎ、重厚さといった効果の演出を試みているようだ。
しかし、サウンドそのものの薄っぺらさとけばけばしさのために、思ったようにはそういった効果は上がっていない。
むしろ、その安っぽさや毒々しさが、巧まずして、別のバロックな魅力を引き出している。
(交響楽、室内楽というには緩すぎるアンサンブルの味わいが、交響楽の初期形態であるバッハの管弦楽組曲に通じていることも発見だ)
フル・インストという点で、マイク・オールドフィールドの作風からの触発もあったのではと想像している。
時おり思い出したように大胆なラインをなぞるベースはギターとしても機能を兼ねており、このベースが主としてヴァイオリンと対位的なアンサンブルを成していて、気がつけば、演奏の中心ラインを担って進行をリードしている。
(ギターそのものは和音やアルペジオなどバッキングが主)
キーボードは、ほとばしるようなメロトロン、ムーグ系アナログ・シンセサイザー、ストリングス系シンセサイザー(チープさと豪奢な感じが合わさった不思議な音)と湧き立つようなピアノなど。
ファンタジックなサウンド・テイスト、クラシカルで雅な空気など演奏面、サウンド面で背骨になっているのはキーボードである。
タイトル大作のように、フリー・フォームの即興や効果音のコラージュなど、自由な発想とアヴァンギャルドなセンスも十分ある。
(これは、サイケ/アシッド・フォーク/ロックからの流れや英国プログレ(GENESIS か?)の影響と思う)
詰めの甘いアレンジや製作によるのか、どうしようもなく垢抜けないが、個性的なサウンドと自由闊達なムードがそれを補っており、総体としては魅力ある音楽になっている。
クラシックのサイケデリックな換骨奪胎と思えば、十分プログレッシヴなアプローチといえるだろう。
なににせよ、「フランスのプログレ」という言葉から連想されるイメージにはかなり近い音だと思う。
夢のようなとりとめなさにいったん酔わされれば、かなり楽しめます。
全編インストゥルメンタル。
タイトルは、忘れ去られた神の街、という意味らしい。
「Adyane」(4:26) 愛らしく、滑稽味もある作品。妙に元気なリズム、ヴァイオリン、弦楽風のシンセサイザーをフィーチュア。
「Espoir」(15:43)しっとりとクラシカルで、ライトな幻想にあふれる作品。クリスチャン・ミュージック的というか、お迎え系。
前半はふわふわと明朗であり、後半は重厚さや哀愁の味わいも現れる。10 パートから構成される。
「La Cité Des Dieux Oubliés」(19:01)前半は QUELLA VECCHIA LOCANDA ばりのクラシカルでスリルもある浪漫路線。
エコーの深い荘厳な演奏から、天使が頭の周りを輪を描いて踊るようなディープすぎる酩酊の果てに、あたかも彼岸に辿りついたかのように、ここまでとは別人のようにアグレッシヴで重厚で謎めいたプログレらしい演奏を繰り広げてゆく。エンディングもカッコいい。傑作。8 パートから構成される。
以下 CD ボーナス・トラック。
「Le Revers Du Miroir」(9:43)ライヴらしくスタジオよりも重量感のあるダイナミックな演奏。録音は海賊盤並み。
「Le Fiacre Des Enfers」(8:21)こちらもライヴ演奏のようで、破壊力あり。録音は海賊盤並み。
(SRC 161.754 / FGBG 4521)