スペインのミュージシャン 「Alfredo Carrion」。 ヴィヴァルディの「四季」をアレンジした LOS CANARIOS の作品のアレンジャーとして名高い。 ソロ・アルバムは一作のみのようだ。
Antonio De Diego | vocals on 4 | Maria Aragon | vocals |
Angel Andrada | guitar | Julian Llinas | recorder, keyboards |
Jose Maria | drums | Gonzalez Maldonado | drums |
Celestino Charro | bass | Francisco Martin | violin |
Marcial Moreiras | viola | Belen Aguirre | cello, viola da gamba |
Manolo Figuero | contrabass | Jose Luis Montolio | piano |
Antonio Cal | flute, sax | Vicente Gasca | trumpet |
Jimmy Kashisian | trombone | Javier Benet | percussion |
Juan Iborra | percussion |
76 年発表のアルバム「Ios Andares Del Alquimista」。
素朴なエキゾチズムを漂わせる歌ものと管絃、バンド、フル動員で大盛り上がりのシンフォニック大作からなる作品である。
歌ものの女性ヴォールは、きわめてオペラチックな歌唱ながらも、声質のせいかなぜか場末の酒焼け歌姫を連想させるフォークロック調である。
イタリアン・ポップスを思い切り垢抜けなくしたような、昭和歌謡曲のゴテゴテしたメローさ、やるせないなじみやすさがある。
弦楽や合唱などクラシカルなアレンジもあるものの、スパニッシュ/アラビアンな旋律が土着性を強めてしまい、あたかも崩れかけた土壁に痩せ犬が片足を上げているメキシコの田舎の教会の礼拝堂のようなムードになっている。
4 曲目ではフォルクローレと電子音楽をいっしょくたにした実験作にして素朴な味わいもある作品。
全体的にアカデミックなスタンスで、クラシック、フォーク、ロック、現代音楽まで多彩な音楽性を対比、協調させてみようという心意気が感じられる内容だ。
カリオンは、作曲者、指揮者として参画している。プロデュースは、テディ・バウティスタ。
「Espejo Sumergido」
素朴な響きを持つアコースティック・ギターと物悲しい女性ヴォーカル(カトリーヌ・リベイロを田舎臭くした感じ)がリードする
クラシカルなフォークソング。
音質のせいか、RENAISSANCE というよりは懐かしの 70 年代フォークに近い。
サビでは、バックに弦楽とともにムーグ・シンセサイザーが高鳴り、一転してシンフォニックに盛り上がる。
それでも基調は、哀愁の木枯らしフォーク・ロックである。
垢抜けない音ばかりなためにタイトなリズム・セクションがやたらとカッコよく聞こえる。
歌詞は、ホセ・ルイス・テレーズによる。
「Tensa Memoria」
1 曲目と同系統のクラシカルなフォークソング。
スパニッシュなモードが強調され、マジカルな響きが強まる。
和声、調性の変化とともに、ヴォーカルを軸にした演奏の表情もさまざまに変化する。
そして、1 曲目にはなかったギターとフルートが活躍。
リズムを強調しないため、独特の物悲しさがより浮かび上がってくる。
スパニッシュ・ギターの調べも印象的だ。
女性ヴォーカルをフィーチュアし、歌詞は、ホセ・ルイス・テレーズとジュリアン・リナスによる。
「Vino De Silencio」
ポップス調のピアノがヴォーカルを支えるジャジーでメロディアスなポップ・チューン。
哀愁とともに、長調になる時の歌メロにオプティミスティックな響きがある。
オペラ風の女性ヴォーカルは、演奏とともに次第に力強く盛り上がり、混声コラールが鳴り響く。
イタリアのカンタゥトーレ風の作品だ。
歌詞は、ジュリアン・リナスによる。
「Romance」
ムーグ・シンセサイザーのデジタルなトーンと男声詠唱が対位的な構成を見せる実験作。
伴奏のシンセサイザーは、単調で無神経な電子ノイズを放ち続ける。
シンセサイザーは複数加わって、ポリフォニックなアンサンブルとなる。
いつしかドラムスが大きく役割を主張し始め、鋭いスネアロールなどさまざまな表現で引っ張る。
背景にはうっすらメロトロンも響いている。
歌詞は、ホセ・ルイス・モントリンによる。
ヴォーカルは、アントニオ・デ・ディエゴ。
「Los Andares Del Alquimista(Soledades Compartidas)」
前半の歌ものからは思いも寄らない 16 分余りにわたる大作。
この作品こそが、本アルバムを傑作として歴史に留めている理由だろう。
クラシカルなピアノ、緩やかな管弦楽の演奏からパワフルなジャズ・アンサンブルへ、そしてアートロック調のギター、オルガンが炸裂し、同時にコラールが響き渡るハードなバンド演奏へとドラマチックに発展する。
前半のクラシカルなボレロ調のクライマックスにジャズ・ブラスが絡むところや、中盤ハードなジャズロック調のバンド演奏が始まるもフルートやマリンバ、管弦を動員してクラシックに、ジャズにと振れ幅大きく往来するところなど、聴きどころは多い。
後半は、厳粛な男声聖歌から始まり、バロック音楽調の管弦楽を経て、やがてシャープなバンド演奏とコラールがオーヴァー・ラップする。
最後は、切れ味鋭いドラムスとギター、オルガンがリードするジャズロック調の演奏に、スペイシーなムーグがオーヴァーラップする。
引き締まった、なんともカッコいい演奏だ。
ラベル、ストラヴィンスキー調のクラシック、ジャズを華麗に取り込んだ、明快にして小気味のいいシンフォニック・ロック・スペクタクル。イージー・リスニングになりそうでならない、微妙なところに位置しています。
歌詞は、アルフレッド・カリヨン。
女性ヴォーカルをフィーチュアした歌ものが主の前半と、シンフォニック大作の後半という、おおまかにいって二部構成のアルバム。
ヴォーカル・ナンバーにおいては、古臭いサウンドが予期せぬ功を奏し、昭和歌謡曲風のノスタルジックな響きがある。
一番の魅力は、歌だろう。
昔からプログレのくくりで語られるだけあって、インスト・パートにも工夫がこらしてある。
そしてラストの大曲は、見せ場の多い万華鏡のような名曲。
決して垢抜けたサウンドではないが、演奏はかなりテクニカルであり、管弦の使い方もオーソドックスな中にセンスを感じさせる。
(fon music CD-1069)