A PIEDI NUDI

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「A PIEDI NUDI」。  91 年結成。 作品は四枚。 2007 年十年ぶりに新作「Nic - G And The Mogsy」発表。
  オリジナリティあふれるハード・プログレッシヴ・ロック。 プログレ・メタルかと思えばたおやかな歌心もあり、アヴァンギャルドな展開も見せる、予測不能の変態ロック。

 A Piedi Nudi
 
Carlo Bighetti durms
Simone Bighetti bass, 12 string guitar
Nicola Gardinale guitars
Cristian Chinaglia keyboards
Mirko Schiesaro vocals

  93 年発表の第一作「A Piedi Nudi」。 オリジナル・メンバーにヴォーカリストを加入させ、本作にてデビュー。 内容は、オペラチックで情感たっぷりの歌唱と轟音ギターが合体した、いかにもイタリアらしいハードロック。 ギターは、ひとたび走り出せばワイルドなリフを刻みまくり、ハモンド・オルガンと交錯、衝突する。 一気に高まるスリルの源は、このギターのプレイによるものだ。 ヘヴィに迫るばかりか、アコースティック・ギターをたおやかに奏でるのも堂にいっているから、大したものである。 リズム・セクションは、派手さこそないが、シャープで骨太なリズムを堅実、敏捷に打ち出している。 上等の演奏力の基盤は、このリズム・セクションの安定感である。 キーボードは、ハモンド・オルガンに加えて、懐かしめのアナログ・シンセサイザーの音もある。 そして、最大の特徴は、リード・ヴォーカリストである。 個性という名の下の音痴か、「ゲイブリエルもどき」ばかりの昨今には珍しく、往年のイタリアン・ハードロックを思い出させる伸びやかな歌唱である。 いきり立つようなシャウトではなく、呼気の大きなベル・カントで、勇ましくもメロディアスに決めるスタイルだ。 そして、ロバート・プラントやイアン・ギラン、ポール・ロジャースなど大御所に敬意を表しているのも明らかだ。 また、決めどころではコーラスも巧みに用いている。 (初めて聴いたときに、なぜか NEW TROLLS を思い出したのは、このハーモニーのせいである)
   ただし、ハイトーン・ヴォイスがシャーマニックな表情を見せ始めると、歪に折れまがる曲調のせいもあって、IL BALLETTO DI BRONZO 的な世界になってゆく。 もっとも、ギターが主役であるため、ニコ・ディ・パロが歌う NEW TROLLS のハードロック・ナンバーのようなイメージもある。 さらには、6 曲目のオルガンのリフは、FORMULA TRE だし、8 曲目の大作のアコースティック・ギター弾き語りになる瞬間では OSANNA すら思い出してしまう。
   極端に平板で不気味なメロディや、奇妙な和声、反復を多用するアンサンブルなど、70 年代プログレと同じアプローチについては、現代音楽からの直接的影響というよりは、現代 HR/HM の一表現方法として確立されているものを取り入れているというべきだろう。 もっとも、モダンな HM 調を強く印象つけるのは、もっぱらギターのプレイであり、全体としては昔のハードロックまたはヘヴィなシンフォニック・プログレに近いニュアンスだ。
   各パートの音が明確な主張を持っている上に、バンドとして一体となったときに、総和以上のパワーも感じられる。 そして、これだけ凝った演奏をするにもかかわらず、小難しくも大仰でもなく、独特のチープなノリがある。 昨今のプログレ・メタルに明るくないため断言はできないが、少なくとも判で押したような GENESIS クローンがひしめくネオ・プログレ・シーンにおいては、かなりの実力を持った個性派といえないだろうか。
  本作は、イントロダクションから始まりエピローグへと到達するアルバム構成から考えて、主題をもつトータル・アルバムと思われる。 しかし、肝心の主題については皆目分からない。 スリーヴの装飾文字が全く読めないのだ。
  本格的なヴォーカルと炸裂する HM ギターが、邪悪にしてミステリアスな曲想を貫く、70 年代ハードロック風ヘヴィ・プログレ。 時おり見せる破綻気味のアヴァンギャルドな展開もユニークだ。 ハードロック・ファンにはお薦め。 ヴォーカルはイタリア語。 若干だが、時期的にシアトル系の影響もあるかもしれない。 プロデュースはグループ。 エンジニアでクレジットされるポール・チェイン氏は、イタリアン・メタル界の鬼才らしい。

(MMP 199)

 Creazione
 
Carlo Bighetti drums, vocals, flute
Simone Bighetti bass
Nicola Gardinale guitars
Cristian Chinaglia keyboards
Enrico Barchetta french horn

  95 年発表の第二作「Creazione」。どうやらヴォーカリストは脱退、代わりにクラシック畑のフレンチ・ホルン奏者が加入。 その内容は、ハードなギターを中心とした耽美かつ頓狂なメタル・プログレである。 ストレートな HR/HM 志向は後退、むしろ、モダン・クラシック風の歪曲したイメージが強まる。 いいかえると、ハードロックという様式は一つの構成要素へとレベル・ダウンし、叙情的な歌もの、メタル、アヴァンギャルド、クラシック、シンフォニック・ロックなどの要素とともに、ごちゃごちゃに混じりあった個性的なサウンドになった。 「様式」に安住することを潔しとしない(もしくは、できない)姿勢は、前衛芸術の故郷、イタリアの伝統なのだろうか。 極端な曲調の変化や、ねじくれるあまりに、スタート時点で目指した場所とは全く異なる方向へ発展するところなど、間違いなく 70 年代イタリアン・ロックの血を受け継いでいる。 また、ドラムスが前作よりもジャズ寄りのプレイも試みているようであり、このリズムの印象の変化が、全体のイメージの変化に結びついている。 このドラムスは、ヴォーカルも兼任しているが、声質や声量では前任者にはかなわないまでも、かなり健闘している。 シンセサイザーのプレイなども、ことさらに 70 年代アナログ・サウンドを装うことは少なくなっているようだ。 また、ちょうど忘れたころに登場するフレンチ・ホルンの音が、いいアクセントになっている。 アグレッシヴかつ厳かなハモンド・オルガンや断続的に押し捲る演奏など、今回も IL BALLETTO DI BRONZOEL&P のイメージがある。 ただし、それ以上に軽妙なアンサンブルやイージーなメロディ、奇天烈な曲調の変化に驚かされる。 二作目にして方向性が整理されるどころか、かえってとっ散らかっているのだ。 おそらく「ふざけた IL BALLETTO DI BRONZO」というたとえが一番いいだろう。 1 曲目「Memorie」は、コワレ方含めイタリアン・ロックの魅力を伝える大作。 3 曲目「Lungo Il Sentiero」は、DEUS EX MACHINA に先んじた変態ロックの傑作。VAN DER GRAAF GENERATOR とか好きなんだろうなーと思わせる作品です。 4 曲目「Regina Del Torrente」はクラシカルな力作。 プロデュースはポール・チェイン。

(MMP 269)

 Eclissi
 
Carlo Bighetti durms, chorus
Simone Bighetti bass
Nicola Gardinale guitars
Cristian Chinaglia keyboards
Enrico Barchetta french horn
Mirko Andreasi vocals

  97 年発表の第三作「Eclissi」。 再び専任ヴォーカリストが加入。 サウンドは、ギターのリードによる HM 色が強まり、全体としては、邪悪にしてアヴァンギャルドなタッチもあるヘヴィ・ロックとなる。 今までで一番ヘヴィな音であり、70 年代型ハードロック・テイストは若干後退していわゆるプログレ・メタルに近接していると思う。 それでも、ストリングスをはじめシンセサイザーやオルガンが前面に出たり、無理やりなキメが多く素っ頓狂で極端に折れ曲がる演奏は、メタルというには、ひねくれ過ぎていると思う。 特にアルバム後半は、かなり多彩な音、曲調を散らかしてメタル・ギターで串刺しにしており、ヘヴィでパワフルなサウンドながらも、何でもやってやれ百花繚乱的なおもしろさが思いきり出ている。 往年のプログレ・ファンにはピンとくる内容といっていいだろう。 さらに、ポリリズミックな演奏が GENTLE GIANT のイメージだったり(GG 影響下のメタルだっていっぱいあるじゃん、といわれればそれまでだが)、フレンチ・ホルン(7 曲目の終盤にみごとな場面がある)がメンバーにいるなど、どちらかといえば、いまだ純正プログレをひきずる輩なのだろう。 また、ギターのリードによるヘヴィな演奏には、近年流行したグランジ系に通じるものもある。 何にせよ、サウンド面でこそメタリックなギターの存在感が大きいが、そういう道具をうまく使った音楽そのものがきちんと主役の位置におり、奇天烈で凝った展開と腰の据わったグルーヴで堂々と迫ってくる。 したがって、ジャンル云々をすっ飛ばした痛快で聴き応えあるロックになっている。 ヴォーカリストが金属的なハイトーンではなく、どこまでも伸びやかな発声であるところも、ステレオタイプ化しない重要なファクターだろう。
  予想を覆してゆくように大胆な展開は、今回も顕著な特徴となっている。 さっきまでザクザクいっていたギターが、突如生音となってロマンティックなヴォーカルと絡んだり、エアポケットへ落ち込んだように弛緩したサイケデリックな演奏があり、モダン・クラシック調のピアノがあり、など油断はできない。 もっとも、これだけヘヴィして過激、変態なわりには、演奏には、切れのいい敏捷性と腰のすわった安定感がある。 急転するリズムや折れ曲がった曲調にもかかわらずすらっと聴けてしまうのは、この「語り口」のうまさによるのだろう。 おそらく、メンバーの音楽的バックグラウンドがかなり広いのだろう。 個人的には、こういう前衛アーティスティックな HR/HM が、たとえばアメリカ人の典型的なメタル・ファンにどのように聴こえるのか、とても興味があります。
  ヴォーカルはイタリア語。 プログレという点では、ヘヴィなトゥッティは KING CRIMSON、急激な曲展開は GENTLE GIANT 、そしてシンセサイザーが走り出すと EL&P。 メロトロンが高鳴ると中期の LED ZEPPELIN を思わせるところもある。 4 曲目では、DEUS EX MACHINA ばりのしなやかなハードロックから、かなり「普通の」ネオプログレッシヴ・ロック風なところまでを見せる。 最終曲であるタイトル曲は、呪術的、エキゾティックという言葉が似合う。 おそらくトータル・アルバムなのだろうが、テーマは不明。 ちなみに、内ジャケットの諸星大二郎をヘタにしたようなかなりダメダメなホラー系のイラストはギタリストによるらしい。 プロデュースはポール ・チェイン。

(MMP 329)


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