ATLAS

  スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・グループ「ATLAS」。 74 年結成。 79 年アルバム・デビュー。 作品は二枚。 最初のラインナップで 77 年から 80 年まで活動し、ビヨルン・エクボム脱退後に、二作目「Mosaik」を残す。

 Bla Vardag
 
Janne Persson guitars, conga
Uffe Hedlund bass, basspedal guitar
Micke Pinotti drums
Erik Bjorn Nielsen organ, piano, synthesizer, Mellotron, Rhodes
Bjorn Ekbom organ, piano, synthesizer, clavinet, klocka, Rhodes, tambourine

  79 年発表の第一作「Bla Vardag」(神話の復活)。 内容は、ツイン・キーボードと朴訥なギターを活かしたシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 初期 YESCAMEL のフュージョン・タッチをブレンドしてメロトロンも放り込んだ、スペイシーで明るめの曲調が主である。 他にも、スウェーデンのグループらしい人懐こいメロディ・ライン、キーボードを中心にした暖かみのあるトーンなどの特徴あり。 演奏の軸となっているツイン・キーボードは、オルガンとストリングス、メロトロンとエレクトリック・ピアノなど、音色を大事にした組み合わせ技を得意としているようだ。 オーソドックスなピアノのプレイもいい。 一方、ギターは、キーボードに寄り添って、太く朗々と歌ってゆくタイプ。 多彩な音色とメロディアスなプレイを信条とするキーボード、ギターに加えて、アンディ・ウォードによく似た切れのいい小技を見せるドラムス、見せ場ではきっちり音数を出すベースなど、リズム・セクションもいい。 技巧を云々ではなく、サウンドの工夫と明快な抑揚付けを心がけた演奏であり、演者の誠実さがにじみ出ている感じである。
  基本的な作風は、耳にやさしいテーマを配したクラシカルできめ細かいアンサンブルと YES などのグループから学んだと思われる器楽の明快なフレージングを主たるパーツとして、ゆったりと波打つような緩やかな雰囲気から、ほどよい緊張感、さらには、ジャズロック調のダイナミックな場面までをていねいに描き分けてゆく作風である。 明快で自然な抑揚のフレーズ、アンサンブルの立体感を意識させる適度な反復など、聴きどころが分かりやすくリラックスして音に耳を傾けることができる。 さほど難しいことをしているわけではないが、無駄な繰り返しやぎこちない展開がないために、印象がいい。
   メロディアスでありながら小気味よく、上品なユーモアも感じられ、なおかつジャジーなソフトさもある語り口は、やはり中期 CAMEL 風ということになるのだろうか。 また、70 年代の多くのグループがそうであるように YES からの大きな影響もある。 こういう風に、ごく自然にシンフォニックな高まりを見せる想像力豊かな楽曲を味わってしまうと、ポンプ・ロックやアメリカ中心のメタル系プログレ・リヴァイヴァルものには、どうしても点が辛くなってしまう。 ここにあるのは、伝えるべき物語が豊かならば、口角泡飛ばす必要はなくたとえ素朴な語り口でも、音はしっかり心にしみわたってゆく、という見本の一つである。
  日本のファンへむけての謝辞があるところから、CD 化に際しては、日本からの強力な要請もあったものと思われる。全曲インストゥルメンタル。

  「Elisabiten」(7:12)クラシカルなピアノのオスティナートに、YES 風のアタックの強いキメが重なる印象的なオープニング。 流れるようなギターとキーボードによるややフュージョン・タッチのアンサンブルで走りながら、ムーグのソロや小気味いいユニゾン、ドラム・フィルを決めてゆき、次第に主役を入れかえながら進んでゆく。 前半最後の変拍子テーマに魅力を感じられるかどうかが、一つのポイントだろう。 後半、テンポをぐっと落としてメロトロン、ギターらでゆったりと歌ってゆき、いつしかメロディアスなテーマへと帰ってくる。 フュージョン CAMEL にテクニカルな YES 風味を加えた名品だ。

  「Pa Gata(I & II)」(14:10)ギター、オルガンのリードによるオーソドックスな 7 拍子テーマ演奏は GENESISCAMEL 直伝か。 2:30 辺りのオルガン、ピアノのリフレインは、明らかに GENESIS からの拝借だろう。 ここまでギターとキーボードが交互にリードを取りつつ進んできている。 8 ビートになるとともに、ミステリアスな色合いも生まれるが、オルガンのオスティナートをバックにしたヴァイオリン奏法ギターからの粘っこいギター・ソロで、再び GENESIS 風味が強まる。 ピアノ、メロトロンが加わって、ぐっと厚みを出すとパート 1 の終了だ。
  勢いのいいオルガン・リフレインがドライヴする演奏は、ピアノも加わり 8 分の 6 拍子で走り出す。 巻き舌での早口言葉のようなフレーズをたたみかけ、再び「ブロードウェイ」GENESIS からの拝借フレーズが繰り返される。 再び、オルガンとともにミステリアスな 7 拍子へと復帰、アコースティック・ギター、ピアノによるややジャジーなドラムレスの即興パートをはさみ、ジャズ・ピアノとジャズ・オルガンがリードする R&B 調のジャズロックへ。 最後は、たなびくオルガンとともに、ピアノがざわめき、ムーグのファンファーレに称揚された気高き全体演奏でしめる。
  GENESIS 風のフレーズを散りばめた大作。 メロディアスな場面もあるが、どちらかといえばせわしなさと変化してゆく面白さが主だろう。 終盤のジャズ・アドリヴは、リラックスした感じがいい。

  「Bla Vardag」(6:56) ホイッスル風のムーグ・シンセサイザーがロマンティックなメロディ(ほんのりエキゾチックでもある)でリードする。 5+6 拍子やソフトなにじむようなエレクトリック・ピアノのサウンド含め、今度は CAMEL 流だろう。 強いアクセントの利かせ方も巧み。
   エレクトリックなサウンドを駆使しつつもハートウォーミングで人懐こいフォーク・ジャズ。 素朴なテーマを奏でるシンセサイザーには草笛のようなペーソスがあり、そこへジャジーで垢抜けたアレンジを持ち込むところが、新鮮。 まさに、よくいう「北欧らしい鄙びた感」である。 名曲。

  「Ganglat」(2:52) 一転、タイトなジャズロック小品。 たたみ込むようにきつめのリズムの上で、ヒステリックなギターやエレクトリック・ピアノのソロ、そして決めのユニゾンなどが披露される。 ドラムス、ベースが力演。 エレクトリック・ピアノは安定感あり。 背伸び感はあるのだがそれもよし。 これを磨くと FINNFOREST になる。

  「Den Vita Tranans Vag」(7:18) 前々曲と同じくフルートを思わせるムーグとエレクトリック・ピアノによるメローなデュオが、AOR 系ジャズロックを予感させるも、ベースがビートをほのめかし、ドラムスとオルガンが演奏のリードを取ると堅実なシンフォニック・ロックへと変化してゆく。 下降音形のユーモラスなユニゾンのテーマはこの冒頭でちらりと紹介されている。 この、ドラムスが入るまでの「もたせ方」がカッコいい。 淡々と厳しめの表情で進むアンサンブルは、ギターの参加でややリラックスする。 律儀に真っ直ぐなギター、キーボードのレガートな反復となだれのようなユニゾン、さらにはオルガン主導の全体演奏でリズム、テンポを揺らしながら一気に加速する。 シャープなオルガンとエレクトリック・ピアノ、ギターとのやりとり、なだらかなトゥッティを緊迫感あるユニゾンで破断して変化をつけるところもいい。
  転がるようなブリッジでテンポ・アップし、オルガンのリードで走り出す。 クラシカルながらもユーモラスであり、逞しい演奏を繰り広げる。 素朴なギターの再参戦、オルガンとのやり取り、そしてめまぐるしく急展開するアンサンブル。 衝撃的な和音を放ち、クラシカルなオルガンのリフレインを経て、得意のユニゾンが沸騰する演奏に急ブレーキを引く。 いつしか、すべては記憶のかなたに去ったかのように、ホィッスル風シンセサイザー、エレクトリック・ピアノ、メロトロンによる夢心地のアンサンブルがおだやかに流れる。 急下降するユニゾンも、テンポを落とせば、もはや遠い思い出の中。
  自由な発想で遊びまわる、人懐こくファンタジックなジャズロック。 ゆらゆらと融通無碍であり、思い出せそうで思い出せない午睡の夢のようだ。 ユーモアとスリル、また AOR とプログレの間の微妙な均衡でもある。 気ままな悪戯書きのようなムーグ・シンセサイザーのオブリガートが印象的。 傑作。

  「Bjomstorp」(6:17)ボーナス・トラック。 82 年の二作目「Mosaik」より。本アルバムと変わらない作風の、明朗なるシンフォニック・ロック。 ドラムス・ソロあり。

  「Hemifran」(7:50)ボーナス・トラック。 77 年の作品を 95 年に再録。 ギターがやや甘めのネオプログレ風である以外は(余談ながら、ネオプログレ・タッチは英国風のウェットさと結びつくとどうも鼻につくが、北欧系のユーモアと結びつくとまったく悪くない。湿度が人格形成に及ぼす影響は大きいのだろうか)オルガン、ピアノを用いた演奏は 70 年代の音に近い。 力作。

  「Sebastian」(4:31)ボーナス・トラック。 78 年のリハーサル・トラック。 雑音は大きいが、端正なバロック調のピアノから始まる、クラシカルなシンフォニック・ロックの逸品である。 オルガン、メロトロンもすばらしい。ファズ・ギターはフィル・ミラー的なアクセント。 この味わいは KAIPA から学んだのだろうか。

(Bellatrx BLP 705 / AMP 9508 - SYMPHILIS 3)


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