フィンランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「FINNFOREST」。 双子のテゲリマン兄弟によって 72 年に結成。 作品は三枚。 初期二作は、冷気しみわたるシンフォニックなジャズロック。 三作目も近々 CD 化との話も。(LP は出ました)
Pekka Tegelman | guitar, bass |
Jussi Tegelman | drums |
Jukka Rissanen | organ, grand piano, electric piano, synthesizer |
75 年発表の第一作「Finnforest」。
内容は、ギター、ドラムス、キーボードのトリオによる、シンフォニックにして冴え冴えと透徹なるジャズロック。
心地よいナチュラル・ディストーション・トーンで饒舌にして鋭利なプレイを操るギターと、神秘の森に響きわたる木霊を思わせるオルガン、ピアノがせめぎあう。
このきりりとした冷気の満ちたサウンドに、ハイ・テンションのプレイとメロディアスなテーマが交差する。
ストイックな抑制と無限の想像の広がりを矛盾なく紡ぐ理想的なプログレッシヴ・ジャズロックである。
ギタリストのプレイ・スタイルのせいか、初期の MAHAVISHNU ORCHESTRA や Terje Rypdal の作品とイメージが共通するが、最も近いのは、ギタリスト加入後の、カール・ジェンキンズ主導となった SOFT MACHINE である。
デリケートな線の細さを活かしたクールネスとヒリヒリした熱気が、互いに打ち消しあわずに曲の展開を支えてゆく。
二十歳前の少年によるものとは思えない、みごとな楽曲と演奏である。
豪快にしてナーバスなギターとともに、クラシカルで厳かな(ときに怪しげな)雰囲気を作り上げる重量感あふれるオルガンの存在感が抜群である。
不気味に蠢くシンセサイザーはアクセントとして機能している。
キーボードに注目すると、ジャズロック/フュージョンに接近した CAMEL のような印象も現れる。
全体に叙情的な作風が主だが、5 曲目、8 曲目のような加速するリズムとともに機関銃のようなプレイを放って溜飲を下げる場面も、もちろんある。
本グループが気に入ったら、スウェーデンの LOTUS、ENERGY も当たりのはずです。
氷の刃で切りかかるような酷薄さのうちに激しく燃え上がる情熱が見えるジャズロックの傑作。
プロデュースはマンス・グランドシュトロム。
「Mikä Yö」(5:27)泣き叫ぶようなギターのテーマが印象的な傑作。冷ややかな空気感がいい。
「Sanaton Laulu」(3:51)ギターが走りムーグやオルガンがざわめくが、基調は北欧フォークだと思う。
「Happea」(4:40)挑戦的でスリリングな典型的テクニカル・ジャズロック。タメの効いたギターがいい。
「Koin Siipesi」(2:55)エフェクトを多用した即興風の小品。幻想的。
「Paikalliset Tuulet」(4:19)再び挑発的なジャズロック。ギターとオルガンがせめぎ合う。電気処理したドラムス・ソロあり。
「Aallon Vaihta」(4:59)耽美でミステリアスな作品。ピアノやギターのアコースティックな音処理が効果を上げている。
EL&P と BRAND X の中間位置。
「Kunnes」(4:39)GENTLE GIANT が得意とするリズム、アクセントを一定させない無機質なフレージング反復で翳のあるアンサンブルを波打たせる、謎めいた作品。
「P.S.」(1:44)瞬く間に沸騰する一気呵成のクライマックス。毛羽立ったエレクトリック・ピアノのせいか、テクニカル・フュージョンらしさが際立つ。
(LRLP 136 / LE 1025)
Pekka Tegelman | guitar |
Jussi Tegelman | drums, congas, synthesizer, timpani |
Jarmo Hiekkala | bass |
Jukka Linkola | electric piano, grand piano, organ, synthesizer |
guest: | |
---|---|
Pertti Pokki | synthesizer on 10,11 |
String section | on 12 (conducted by Otto Donner) |
76 年発表の第二作「Lähtö Matkalle」。
内容は、独特の冷気にひねりとキレが加わった、タイトで気難しいジャズロック。
MAHAVISHNU ORCHESTRA よりもサイケデリックな澱みがあり、粘っこさや酸味は電化マイルス直系である。
ベーシストが正式に加入し、カルテット構成となる。
同時にキーボーディストはメンバー交代。
カンタベリー風のユーモラスな表現やフュージョン風のメローさも若干強まるが、ハードエッジなギター、ファンキーなキーボードのプレイを中心とした引き締まったアンサンブルは変わらない。
後半の現代音楽風のストリングス・セクションを配した作品における、垂れ込める霧のように冷ややかで湿り気のあるタッチは、やはりお国柄というべきなのだろう。
アドリヴのスペースが拡大し、ミニマルな表現の中に切れ味鋭い音の熱気があふれ出てくる。
独特の行きつ戻りつな展開がいつか限界に達して、ため込んだエネルギーを一気に解き放つのではと緊張させるところは、MAHAVISHNU ORCHESTRA と似ている。
シンセサイザー(前作がムーグ系だったのに対して今度は ARP オデッセィ系だろう)の使い方やピアノの音の配分など、キーボーディストはかなりの逸材のようだ。
このシンセサイザーのせいで、神秘的な冒頭部分などは BRAND X に聴こえてしまう。
ギター・ソロは、やはりジョン・マクラフリン、もしくはテリエ・リプダル調のヒステリックな速弾きスタイル。プロデュースはマンス・グランドシュトロム。
Laser's Edge の CD(LE 1025) はファースト、セカンドの 2in1 です。
「Alpha」(8:16)神秘的なオープニングを経て、リフとアドリヴ(ギターから>エレピへ)による "Bitches" マイルス・ディヴィス的な展開へ。
スクエアなリフにはそこはかないユーモアが漂い、アシッド感が ISOTOPE のようでいて実は HATFIELD AND THE NORTH らカンタベリーにも近い。
わりとラフに仕上げた作品である。
「Elvin」(8:38)飛び出しそうでなかなか飛び出さない、その逡巡のような蠢きが特徴的な作品。
独特の緊張感の中に二拍三連のアクセントを打ち込んでゆくところは、後期 SOFT MACHINE そのもの。
中盤、4+3 拍子の上で堰を切ったようにほとばしるシンセサイザー・ソロがカッコいい。
「Don」(4:24)ライト・ファンク調のキャッチーなテーマが際立つ。ガリ勉の優等生が突然ミーハーになったような感じ。ピアノのオブリガートとユーモラスなエフェクト。ドラムス・ソロあり。ベーシストも活躍。
「Lähtö Matkalle 1」(8:43)弦楽セクションを採用した SBB ばりのスリルのある大人向けのファンタジー。傑作です。
「Lähtö Matkalle 2」(10:48)前半はピアノ、ファズ・ベースがリードする神秘的かつ祝祭的な展開、それを受けて中盤からは交響曲風の重厚な演奏となる。
ややニューエイジ風。
(LRLP 193 / LE 1025)
Pekka Tegelman | guitars, drums on B3 |
Jussi Tegelman | drums, percussion, vocals |
Tuomo Helin | bass |
Jari Rissanen | guitar |
Jarmo Savolainen | keyboards |
Heikki Keskinen | tenor sax on B4 |
Juhani Altonen | tenor & soprano sax, flute, bass flute |
Ilkka Pettersson | vocals on B5 |
79 年発表の第三作「Demonnights」。
内容は、メロディアスかつアグレッシヴでうっすらとフォーク的な翳りのある北欧ジャズロック。
メンバーはタゲルマン兄弟以外を総入れ替え。
サックスを大きくフィーチュアし、前二作と比べると、格段にファンキーでメローな「フュージョン」らしい芸風になっている。
サックスのメロディアスなプレイは抜群の存在感だ。
リズム・セクションはやや背伸び気味だが音数で健闘はしている。
作曲ものから即興主体の楽曲まで多彩な作風をカバーするために、編成もデュオ、トリオからセクステットまで多様である。
ただし、それでも、独特の透明感や湿り気はキープされている。
おそらくそれは、テーマとなる旋律にフォーク的な土の香りがあるためだろう。
デリケートで時にヒステリックなギター・プレイは健在であり、独特の線の細い凶暴さを発揮している。
モノ・シンセの名器、アープ・オディッセイの黒光りするような響きもいい。
ただし、アドリヴのキレは前任者ほどではないと思う。
B 面では即興をきっかけに音が解き放たれてゆるやかに広がり、幻想的なムードが強まる。
前作までのサイケデリックでデリケートな、一種きわどい魅力はやや減退した。
プロデュースはユシ・タゲルマン。
「The First And The Happy Schoolday」(5:22)
「Ann」(5:34)
「Demonnights」(4:44)
「Fighter」(6:03)
「Half Blues」(2:06)
「Religions」(5:03)
「Firth」(5:21)
「Far Away From」(4:54)
「Pablo」(4:41)
(LRLP 306 / SRE 059)