ポーランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「SBB」。 69 年キーボードのヨセフ・スカルツェクを中心に結成。 ポーランドの国民的ロック・スター、ニェメンのバック・バンドを経て 74 年独立。 九枚のアルバムを残し 81 年に解散 。 なお SBB は SEARCH, BREAK & BUILD の略らしい。 サウンドはクラシック、ジャズの高度なテクニックとロックらしい音響感覚に裏づけられたインストゥルメンタル・ロック。
Józef Skrzek | bass, piano, moog, vocals |
Antymos Apostolis | guitar |
Jerzy Piotrowski | percussion |
75 年発表の第二作「Nowy Horyzont(New Horizon)」。
内容は、ギター、ドラムス、キーボードのトリオ(ベースはキーボードが兼任する)編成による、テクニカルかつ重量感のあるジャズロック・インストゥルメンタル。
原点にはブルーズ・ロックがあるようだが、手数が多くさまざまな表現をするドラムス、シンセサイザーとギターの白熱するユニゾンやインタープレイなど、MAHAVISHNU ORCHESTRA や RETURN TO FOREVER といった往時のクロスオーヴァー・サウンドの影響も強いようだ。
1 曲目のシャフル・ビートとシンセサイザーのテーマを聴いていると、「ジャズのプレイヤーによるロックへのストレートなアプローチ」という印象である。
ビリー・コブハムの名作「Spectrum」に近い世界といってもいいだろう。
そして、突如終盤に切り込むアコースティック・ピアノのふくよかなソロや暗くミステリアスな演奏では、正統的なクラシックの素養とともに、EL&P や PINK FLOYD ら英国プログレッシヴ・ロックの感覚を見事にとらえている。
もっとも、いわゆるプログレ風の凝った作り込みや複雑なクロス・リズムはほとんどなく、ストレートな疾走と叙情的なスロー・パートを交差させ、音色の変化と勢いでリスナーを巻き込んでゆくタイプである。
さて、特に取り上げるとすると、MAHAVISHNU ORCHESTRA 直系のタイトル・ナンバーとエンディングの大作。
特に後者は、SF 的感覚とジャジーなグルーヴ、クラシカルな叙情美、アヴァンギャルドな空気までもを一体化し、YES の大作のようなプログレ的な興奮に満ちたスペクタクルである。
トラッドなメロディも織り込んだクラシカルなピアノ(やや東洋風の響きあり)が白昼夢のように白々と浮かび上がると、大団円を迎える、劇的な作品だ。
硬質にして鈍く輝く音色をもつハイ・テンションのアンサンブルは、正に手に汗握るという形容が相応しい。
そして、神秘的かつサイケデリックな音響の美しさも充分に味わえる。
モノローグが入る以外は、全曲インストゥルメンタル。
「Na Pierwszy Ogien」(4:23)
快調なシャフルのブギー。
シンセサイザーとギターのユニゾンによるうねるようなテーマ。
シンコペーションが特徴的なリフをきっかけに、ソロはギター。
エンディングは一転して内省的なアコースティック・ピアノ・ソロ。
ハードロックのフォーマットでジャズをやってみました、という点で MAHAVISHNU ORCHESTRA のイメージ強し。
クラシカルなタッチが独特。
「Blysk」(3:28)前曲のメイン・パートが甦ったかのような、シャフル・ビートの疾走ナンバー。
今度はピッチ・ベンドを駆使したシンセサイザー、エフェクトされたオルガンがリードする。
なめらかだが、捻じれるように音を変化させるプレイが続く。
再びエンディングは穏やかなピアノ・ソロ。
前曲と対を成すような内容である。
「Nowy Horyzont」(8:27)
荒々しくもレガートなギター、キーボードのユニゾンによるヘヴィなテーマは一瞬で消え、幻想的なソロ・パートを経て、長いクレシェンドとともにハードなアンサンブルが帰ってくる。
ギターのアルペジオを背景に、管楽器を思わせるノイジーなシンセサイザーのアドリヴ、ベース・ソロが繰り広げられ、それとともにドラムスも次第に加熱してゆく。
中盤からはギターの華やかなソロ。
そしてキーボードとギターによるテーマを軸に、2 拍子と 3 拍子が交錯するタイトな演奏へ。
崩れ落ちるようなブレイク、アドリヴのブリッジを経てシュアーな 8 ビートに変化し、シンセサイザーとギターが押し捲るオープニングの MAHAVISHNU ORCHESTRA 的な演奏へと回帰。
またもや最後は、熱狂を激しいトリルで受けとめるリリカルなソロ・ピアノへ。
即興的なパートを大幅に導入し、逞しい演奏力を活かしたジャズロック・インストゥルメンタル。
ハードロックのサウンドとジャジーな演奏が合体した力作。
「Ballada O Pieciu Glodnych」(4:01)
祈りのような、呪文のような、アジテーションのようなミステリアスなモノローグ。
うねるノイズときまぐれな打撃音など、さまざまな音が通り過ぎる。
「Wolnosc Z Nami」(13:22)
スペイシーで叙情的な大作。
ゆったりとした色彩のうねりのような曲調であり、印象派の作品にも通じる世界である。
中盤からは、ムーグ・シンセサイザーとギターによる圧巻のバトル。
エンディング、ベートーベン風の哀感が募るピアノもいい。
残念ながら、本 CD ではオリジナル作(20 分弱)から抜粋した編曲となっている。
(SX 1206 / PNCD 371)
Józef Skrzek | bass, electric piano, hammond organ, synth, vocals |
Antymos Apostolis | guitar |
Jerzy Piotrowski | percussion |
76 年発表の第三作「Pamiec(Memory)」。
三つの大曲から構成される傑作アルバムである。
前作よりも叙情的な面が強調され、シンセサイザーを用いたドリーミーな音響美が際立っている。
ヴォーカル・パートも大幅に拡張され(作詞の専門家が詩を提供)、エモーショナルなメロディが、主題として全編を貫く。
アンサンブルのメローでドリーミーなタッチは、フェイザー系エフェクトの使用やアコースティック・ピアノに代わるエレピの使用にもよるのだろう。
暗く硬質なインストゥルメンタルと対比するエモーショナルなヴォーカル・パートもいい。
リリカルな表現に、アルゼンチン・ロックのような、南米的な感覚があるところが興味深い。
叙情的であると同時に、ジャズロック調の緊迫感ある演奏が常にメロディを支えるフレームとしてがっちりと存在し、スピードと重量感を兼ね備えた、堂々たる表現を行っている。
直線的でハードなタッチが主だった演奏は、やや柔らかみを帯び、輪郭にも丸みが現れているようだ。
これは、テクニックに走り「剛」で押しっ放しだった部分に旋律/歌という「血」を通わせ、音楽全体をさらに活き活きと瑞々しいものにするという意図によるのだろう。
メロディアスに歌うギターやピッチ・ベンドを用いたムーグのプレイもすばらしいが、やはり本作最大の魅力は、スカルツェクによる憂いを帯びてくすんだエキゾチズムを漂わせるヴォーカルである。
テクニカルなアンサンブルが、魅力的なヴォーカルを得て、シンフォニック・ロックとしての深みを増した好作品。
ヴォーカルに代表される「静」を基本に、「動」のエッセンスを加え、様々な色の糸を丹念に織り込んだような大作は、独特の幻想美を湛えている。
メロディアスになっても「泣き」過ぎず、神秘的なムードを維持できるのも、優れたバランス感覚といえるだろう。
名盤。
CD はセカンド・アルバムとのカップリング。
「W Kolysce Dloni Twych」(9:12)
スペイシーでファンタジックなサウンドによるたゆとうような開放感とタイトな演奏の生み出す躍動感が一体となったクロスオーヴァーの傑作。
哀愁を帯びたヴォーカルもフィーチュア。
主役はキーボードであり、シンセサイザーがなんとも懐かしいいい音です。
終盤、ジャズロック的なスリルにあふれる疾走を見せ、堂々と着地する。
これがまたカッコいい。
「Z Ktorych Krwi Krew Moja」(10:16)
美しいテーマから、神秘的な香りをまとったまま「動」へと変化するスリリングな作品。
序盤は、深い海の底か満天の星空に漂うような幻想美がある。
中盤は、ドラムスが存在を見せつけるハードな演奏。
終盤は、悠然たるシンフォニック・ロック。
雰囲気は前曲と似るが、ややギターの比重が高い。
モノローグ調から終盤の歌い込むところまで、ヴォーカルがいい。
「Pamiec W Kamien Wrasta」(19:51)
ドラムレスのニューエイジ風オープニング。
シンセサイザー、フェイザーをかけたギター、ていねいなシンバル・ワークによる得意の幻想的なアンサンブルを経て、一気にヘヴィなテーマがうねり出す。
濃密なヴォーカル・パートは、イタリアン・ロックの洗礼を初めて受けたときの衝撃を思い出させるものだ。
3 連フレーズを打ち出し、挑戦的に迫るオルガンが頂点を極めると、再び、たたきつけるようなベースとともに、謎めいた演奏へと沈み込んでゆく。
緊張感漂う空間をベース、ギターのアルペジオ、きめ細かなハイハットが着実に切り刻む。
湧き上がるオルガン、シンセサイザーも一瞬で呑み込まれてゆく。
ムーグとギターのソロ。
最後は、オルガンとギターで攻めたてるスリリングな演奏から、シンフォニックなスキャットへと至る。
凶暴なエネルギーと幻想神秘に満ちた世界観を兼ね備える傑作。
即興的な逞しいプレイと叙情的な表現が、がっちりと組み合わさった力作である。
(SX 1345 / PNCD 371)
Józef Skrzek | moog, clavinet, mellotron, piano, electric piano, vocals |
Antymos Apostolis | guitar |
Jerzy Piotrowski | percussions |
77 年発表の第四作「Ze Slowem Biegne Do Ciebie」。
再び 20 分弱の大作二つから構成される作品である。
その内容は、技巧、サウンドの色彩感ともに BRAND X クラスにひけをとらない。
1 曲目「Ze Slowem Biegne Do Ciebie」(19:17)
テクニカルなリズム・セクションと流麗なギターによるクロスオーヴァー・サウンドに、ミステリアスな翳りを加味した、スペイシーな大作。
演奏は沸点ギリギリのところで温度を下げてゆき、メロディアスかつ冷静なヴォーカルとともに、次第にシンフォニックに膨れ上がってゆく。
感動的だ。
極端な緩急やハイ・テンションを持続する展開は見られず、ドラマは静かに進んでゆくが、微妙な押し引きや起伏を経るにしたがって、音楽がしみわたってくる。
なめらかに疾走した後、一際静かな空間がヴォーカルで次第に満たされてゆくシーンには、何ともいえぬエクスタシーがある。
また、プレイとサウンドはクロスオーヴァー系だが、ヴォーカルなどのメロディにはエスニック・トラッド色も強い。
2 曲目「Przed Premiera」(19:31)
エレピによる神秘的なオープニング。
スネアのロールからヘヴィな決めを繰り返すと、ジャズロック風のアンサンブルが一気に立ちあがる。
ファンキーに跳ねるリズムと重みのあるドラム・フィル。
テクニカルでグルーヴある展開だが、抑制が効いており、ミステリアスな雰囲気を生んでいる。
ドラムスは堰を切ったようにストレートな 8 ビートに切り換えたり、一転正確なシンバルでアジテートするなど、多彩な技を見せる。
スピードと決めのカタルシスで酔わせるスタイルなのは間違いないが、引きのパートの色彩感も、テクニカルな場面に負けず劣らずすばらしい。
ヘヴィ・ロック風のギターとジャジーなキーボードのコンビネーションがなかなかキャッチーな演奏を見せ、シャープなドラミングが重量感を演出して、バランスを取っている。
メロディアスなフュージョン・タッチのあるインストゥルメンタル作品といえるだろう。
テクニカルなアンサンブルによるスペイシーなシンフォニック・ジャズロックの傑作。
楽曲の完成度の高さも、今までで一番か。
シンセサイザーがたゆとうような幻想性を生み、表情豊かで正確なドラミングが演奏に前進するベクトルを与えている。
明快でグルーヴィな、ポップ・フュージョン化の方向も、若干見えてきたようだ。
大作主義の頂点。
(SX 1434 / PNCD 395)
Józef Skrzek | vocals, grando piano, Minimoog, Concert Spectrum, Fender Rhodes, Hohner Clavinet D6 |
Antymos Apostolis | guitar, percussions |
Jerzy Piotrowski | drums, percussions |
77 年発表の作品「Jerzyk」。
内容は、ファンク・テイストの強いエレクトリック・キーボード・ジャズロック。
デジタルな感覚のビートと生々しいシンセサイザー・サウンドによる挑戦的な作風であり、その大胆さは、いってみれば、ポーランドのハービー・ハンコック。
ジョー・ザヴィヌルやミロスラフ・ヴィトウス同様、東欧のミュージシャンには根深いファンク体質があるようだ。
ブルーズやアーシーなロックンロールの感覚ももちろん忘れておらず、結局ここの音の微妙な違和感は、シンフォニックな未来志向のサウンドと R&B 系の音楽との取り合わせがあまりにほかに類を見ないためといえそうだ。(懐かしい感じの 7 曲目!)
エコーなどの加工の少ないライン一発録音のような音も独特である。
ボーナス・トラック 8 曲つき。
(WIFON / MMP CD 0325)
Józef Skrzek | keyboards, organ, vocals |
Antymos Apostolis | guitars |
Jerzy Piotrowski | percussions |
78 年発表の第六作「Follow My Dream」。
内容は、アナログ・シンセサイザーをフィーチュアしたスペイシーでシンフォニック、なおかつ悠然としたジャズロック。
哀愁を越えて幽玄ですらあるヴォーカルとオーロラを思わせる色彩のある器楽による幻想的な演出が特徴である。
また、その悠々たるサウンドをテクニカルなリズム・セクションがドライヴすることによって、スリルとサイケデリックな浮遊感が一つになり、心地よい緊張感が続いてゆく。
緩急自在のアンサンブルに身をゆだねられる、まさに、忘我のリスニング体験である。
さらに、色彩美で酔わせるとともに、メロディアスに迫ってオプティミスティックな開放感を演出するシーンや R&B ベースの 70 年代後半ポップス路線で迫るシーンも配されている。
そういう意味では、YES と MAHVISHNU ORCHESTRA とトッド・ラングレンの合体技といえなくもない。
急激な音量やダイナミズムの変化をつけず、大きな波がゆったりと揺らぐような展開も特徴的だ。
広々と視界が広がり、空と大気の色と温度がゆっくりと変化してゆくような、雄大なイメージを訴えてくる演奏だ。
アナログ・シンセサイザーの音色に浸りたい場合にもお薦めできる。
今回も大作二曲。ヴォーカルは英語。
「Going Away」(24:01)
「Freedom With Us」(8:10)神秘的な歌ものシンフォニック・チューン。
「3rd. Reanimation」(6:11)圧巻のドラミングとアナログ・シンセサイザーがリードする緊迫感あふれるジャズロック・インストゥルメンタル。
「Going Away」(6:47)シンセサイザー・オーケストレーションによるメロディアスなシンフォニック・チューンから、バネの効いたベースがリードするファンキーな歌ものへと変化。キーボードは一貫してファンタジックなサウンド・スケープを描く。
「Mountain Melody」(2:53)ヴァンゲリスやアルテミエフばりの鮮烈なシンセサイザー・オーケストレーション。
「Follow My Dream」(22:05)
「Wake Up」(4:59)
「In The Cradle Of Your Hand」(2:45)
「Growin'」(6:16)
「Follow My Dream」(8:05)
(160611 / 33719-2)
Józef Skrzek | electric & acoustic piano, clavinet, mellotron, moog, organ, marimba, vocals |
Antymos Apostolis | guitar, bouzouki, percussion |
Jerzy Piotrowski | percussion |
79 年発表の八作目「Welcome」。
77 年からのワールド・マーケットを狙ったツアー中、西ドイツで制作された作品である。
ヴォーカルは英語。
アコースティック・ピアノも活かしたテクニカルにして端正なアンサンブルは、一段と練磨されている。
オープニング・ナンバー、いきなり豊かな音色のシンセサイザーと反応いいリズム・セクションが生み出すシンフォニック・サウンドに、度肝を抜かれるだろう。
この作品での豊かな音色とスピード感、スペイシーな広がりは、本当にすばらしい。
美感、ダイナミックなスケール感で P.F.M に十分匹敵する。
叙情的な作品では、ヴォーカルとキーボード、ギターによるアンサンブルが幻想的な静けさと薄暗くも透明な美感を演出している。
シンフォニックな響きとともに、適度なポップ・テイストとファンキーさを感じさせる作品もある。
巧みなシンセサイザーとギターの生み出すスペイシーな音響と華麗なメロディ、存在感あるピアノの豊かな表現力、スピーディで弾力あるリズム・セクションの迫力がバランスした、メロディアス・シンフォニック・ロック・アルバムである。
ヴォーカルももちろん魅力的。
「Walkin' Around The Stormy Bay」(6:25)ロックらしからぬ非常に洗練された印象を与えるインストゥルメンタル。「フュージョン」にならないのは独特の重量感があるためだろう。
スペイシーだがどこまでも明快である。ハンガリーの EAST をすべてにわたってグレードアップした感じである。
「Loneliness」(5:25)CAMEL を思わせるメランコリックかつスペイシーなバラード。
「Why No Peace」(6:00)メロディアスな歌もの。
ポップ・フィーリングと幻想的なサウンドの組み合わせがやや中途半端になっている。
「Welcome Warm Nights And Days」(3:00)STYX や JOURNEY のバラード作品のような感じもあるが、幻想味が勝って、いい色合いになっている。
「Rainbow Man」(5:00)ジャジーなシティ・ポップス風の作品かと思いきやブズーギのような音も現れて、ファンタジーにもシフトしてゆく。ステレオタイプ化しないところがいい。
「How Can I Begin」(6:55)
「Last Man At The Station」(9:05)アーシーなアメリカン・ロック風の作品。エリック・クラプトンがアメリカン・ロックをやると独特になったように、これもまたどこか、何かが違うアメリカン・ロックになっている。一つにはシンセサイザーが無闇に鳴っているせいだろう。
(WIFON LP 004 / KOCH 33720-2)
Józef Skrzek | vocals, moog, string, concert spektrum, clavinet, piano, organ |
Apostolis Antymos | guitar, bouzouki |
Jerek Piotrowski | drums |
79 年発表の作品「Slovenian Girls」。
チェコのみで 78 年にリリースされた第五作「SBB (Wolanie O Brzek Szkla )」の西ドイツ盤。
本作も、20 分弱の大作 2 曲(曲名はチェコ盤から変更されている)から構成される。
MAHAVISHNU ORCHESTRA 系のテクニカルなジャズロックを基調に長いクレシェンドとデクレシェンドによる雄大な起伏を設け、キーボードを駆使して幻想的な世界を音作りをするなど、スケールの大きいドラマティックな作風は変らない。
また、1 曲目中盤のブルージーなハーモニカ・ソロや、2 曲目オープニングの民族音楽調のブズーキなど、ステレオタイプにならないための、明快で強烈なアクセントも活かしている。
西欧ツアー中、チェコでの録音。
1 曲目「Julia」(18:50)フェイズ・シフタがうねる長いイントロダクションから、悩ましきシンセサイザーが取り巻く幻想的なヴォーカル・パート(ブリティッシュ・ロック風である)を経て、タイトな演奏へと移ってゆく。
6 分過ぎのギターのアドリヴ辺りから、MAHAVISHNU ORCHESTRA、RETURN TO FOREVER、BRAND X 直系のテクニカルなジャズロックへと変貌する。
10 分付近からは、意外にも、ハーモニカをフィーチュアしたカントリー、ブルーズ・テイストある演奏になる。
14 分付近から、再びタイトなジャズロック(今度は、ピッチ・ベンドを駆使した、ヤン・ハマーばりのムーグ・シンセサイザーがリード)に戻って、大団円。
キーボードのプレイは、終盤のソロまではバッキングやオブリガートに徹する。しかし、さりげなく多彩な音を散りばめている。
流れるような自然体で曲調は変転して行き、派手な場面もあるが、最も印象的なのは、演奏の堅実さである。
2 曲目「Anna」(19:30)冒頭のブズーギやシンセサイザーのフレーズなど、エキゾチックなタッチを交えた作品。
5 分半周辺からエキサイト、緊迫感と雄大な広がりを兼ね備えたシンフォニックなジャズロックへと進んでゆく。
7 分付近からは、リズムレスのファンタジックな世界へ。厳かなヴォカリーズと透き通るようなサウンド。
気品と優美さを備えたバラード調の歌唱は、アルゼンチン辺りのアーティストと共通するスタイルである。
11 分付近から、ファンキーなジャズロック調に変化し、ギターがリードする。
幻想的なインストゥルメンタル・パートは、YES の叙情的な部分と共通する。
終盤は、1 曲目と同様に、ムーグ・シンセサイザーがリードするハードな演奏である。
インスト主体だが、一部ヴォーカル入り。フリーなパートの多い作品なので、即興もあるのかもしれない。
(BUS 1002 / KOCH 33721-2)
Jerzy Piotrowski | drums on 1,3,4 |
Apostolis Antymos | electric & acoustic guitars on 1,3,4 |
Sławomir Piwowar | electric & acoustic guitar, clavinet, electric piano, bass, handclaps |
Józef Skrzek | vocals, synthesizer, bass, cowbell, clavinet, electric piano, mellotron, harmonica, organ, percussion, banjo, handclaps |
81 年発表の第九作「Memento Z Banalnym Tryptykiem」。
内容は、メロディアスな表現をうっすら神秘的なサウンドと緻密な演奏で支え、開放感も盛り込んだロマンティックなジャズロック。
第二期 MAHAVUSHNU ORCHESTRA や中後期 RETURN TO FOREVER に通じる作風である。
第四のメンバーとしてギタリストを迎えている。
未来的なイメージを示すことの多いシンセサイザーを使いながら、ポルタメントやレゾナンスを操って演歌や民謡に近い肉感的でペーソスあふれる表現をできるところが大きな特徴である。
オールド・スタイルのうねるような HR ギターの魅力、哀愁の歌声の魅力も変わらず。
1 曲目冒頭はオーケストラの調べで幕を開け、最終 4 曲目の後にもエピローグ風にオーケストラが現れる。
2 曲目は新メンバーの作品。
ヴォーカルはポーランド語。
「Moja Ziemio Wyśniona」(8:36)冒頭のキャッチーなノリが嘘のように後半はシャープな演奏になる。
「Trójkąt Radości」(7:46)
「Strategia Pulsu」(3:27)
「Memento Z Banalnym Tryptykiem」(20:56)
(SX 1966 / PNCD 407)