ドイツのハードロック・グループ「BIRTH CONTROL」。
68 年結成。
81 年活動停止。
90 年代にドラマーを中心に活動を再開。
ドイツを代表するハードロック・グループの一つ。
76 年の「Backdoor Possibility」を代表にプログレッシヴな作品も発表する。キーボーディスト、ゼウスのソロも野心的な力作。
Bernd Noske | drums, percussion, vocals | Peter Foeller | bass, vocals, vibes |
Bruno Frenzel | guitars, vocals | Zeus B.Held | keyboards, sax, trumpet |
guest: | |||
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Jochen Grumbkow | cello | Christoph Noppeney | viola |
Friedemann Leinert | flute | Eddie Jobson | keyboards |
Morgan Fisher | keyboards |
75 年の第六作「Plastic People」。
内容は、ギターがリードするハードロックにハモンド・オルガン、シンセサイザー、管絃を加えて、AOR 調のライトなファンキーさを交えた、ユニークなプログレッシヴ・ロック。
男臭いハードロックが基調、そして、それに対してせいいっぱいジャジーにクラシカルにとアーティスティックなアレンジをこと細かに施すスタイルが珍しい。
ミックスのせいもあってかキーボードの存在感は非常に大きく、特に、ハモンド・オルガンとシンセサイザーは、"シンプルなウェイクマン" か "荒っぽいバンクス" といった趣で迫っており、音量的にも演奏面でも主役をはっている。
ブルージーなハードロックにキーボードのゼウスのセンスが加わった楽曲は、ハードにして叙情的、そして不思議なファンタジーと軽妙さすらあるものになった。
そして、キーボードのおかげでシンフォニックかつジャジーなゆったり感が生まれている。
ギターもヘヴィな直進性よりもメロディアスなプレイを主に決めている。
さらには、音質は荒々しいが、ゼウスのサックスを筆頭に、ギターやエレピなどのプレイがぐっとジャズ・フュージョンに接近するところもある。
また、ノスケのヴォーカルはパワフルにして男性的声質も魅力の逸品。
曲調が甘くなりすぎないのは、どえらくパワフルなドラミングに加えてこのヴォーカルに負うところ大である。
全体に、70 年代中盤にして早やそれまでの英国プログレのエッセンスを総括、整理し、ポップなアプローチも加えた秀作といえるだろう。
アルバム前半は、手っ取り早くいうと DEEP PURPLE が YES を意識したような感じ、後半は、思い出したようにハードロック的な調子が増える。
最終曲ではかなりびっくりする。
ハードロック・グループというイメージをくつがえす飄々たる作風がおもしろい。
エディ・ジョブソン、モーガン・フィッシャーら、英国の腕利きキーボーディストもゲスト参加。
HOELDERLIN のメンバーによる弦楽器も印象的だ。
「Plastic People」(9:20)二つのギターとキーボードをフィーチュアしたシンフォニック・チューン。
さまざまに変化しつつ、途切れなく進み、ハードに攻め立てる以上に、軽妙でリズミカル、ジャジーな演奏が目立つ。
また、リズムレスのファンタジックなシーンは、きわめて YES 的。
その一方で、ヴォーカルはなぜかジミヘンの「All Around The Watch Tower」を思わせる。
ハモンド・オルガン、ムーグ・シンセサイザーはクラシカルなプレイで圧倒的な存在感を見せる。
完全にバンド対キーボードという図式になっている。
ハードロックに YES 風味とジャズ・フィーリングを取り込んだ佳作である。
「Tiny Flashlights」(7:33)
「My Mind」(6:44)
「Rockin' Rollin' Roller」(5:41)タイトル通りストレートなロックンロール。
太く男性的なビートと荒々しいサウンド。
しかしシンセサイザーはリフ、ソロともにここでも存在を誇示しシンフォニックな抑揚をもたらす。
バラード調の中間部が印象的。
「Trial Trip」(6:39)ヘヴィな決めをもつ英国風のハードロック。
ピアノによるクラシカルなオブリガートがおもしろい。
中間部からは泣きのギターが盛り上がり幻想からドラマティックな昂揚へと一気に突き進む。
やはりハードロック的な内容をシンフォニックな方向へとシフトする作品である。
「This Song Is Just For You」(7:25)ブラス・セクション、弦をフィーチュアしたジャジーで R&B な名曲。
アメリカン・ロックを吸収・変容した英国ジャズロックの伝統が花開く。
弦とフルートによるワイルドなテーマに応じてハモンドが轟きエレピが舞う。
黒っぽいヴォーカルも冴える。
モータウンなバック・コーラス(アレサ・フランクリンを思い出す)はやりすぎかもしれないが個人的には問題なし。
(REP 4944)
Bernd Noske | lead vocals, Sonor drums, marimba, tympani, vibra-slap, finger cymbals, guero, cabasa, flexitone, congas, claves, sand blocks, percussion |
Peter Foller | Rickenbacher & Fender bass, vocals |
Bruno Frenzel | electric & acoustic guitars, vocals |
Zeus B.Held | Hammond & Yamaha organs, Farfisa, Moog & Arp synthesizer, grand piano, Fender & Hohner electric pianos, Arp string ensemble, alto sax, tubular bells, vocals |
76 年の第七作「Backdoor Possibilities」。
内容は、オルガン、シンセサイザー、ギターらのトリッキーなアンサンブルによる、シンフォニックなハードロック。
前作よりも、さらに英国プログレ色が強まった作風である。
リズムやテンポの変化が多い GENTLE GIANT そのものなトリッキーな作品から、叙情的なシンフォニック・チューンまで、多彩な調子を見せる。
全体に、音と旋律が重層的に絡みあう技巧的な演奏だ。
日常生活から脱出する男を描いたトータル・アルバムらしく、それに相応しい SE が散りばめられている。
ギターは、ハードロック調のうねるようなプレイに加えて、ピッキング主体のせわしないフレージングも用いて、変化をつけている。
アコースティック・ギターのクラシカルなソロもあり。
キーボードは、攻めのムーグ・シンセサイザー/ハモンド・オルガンは当然として、引きのストリング・アンサンブルによるスペイシーなステージづくりもみごと。
クラヴィネットとローズのジャジーなプレイも、リズミカルな演奏を支えており、ハードロックにありがちな一本調子とは無縁の演奏に大きく貢献している。
このギターとキーボードのコンビによるせわしないユニゾンとかけあい、ハーモニーが、アルバムを通しての演奏の中心である。
それでいて、テクニカル一辺倒ではなく、巧まざるユーモアのような余裕もある。
また、ヴォーカルは非常に伸びやかでスタミナのありそうな、いかにものハードロック・スタイル。
ドイツのグループにしては、英語に癖がないのも驚きだ。
ハードロック調のストレートな唱法と、プログレ風の込み入ったメロディ・ラインの組み合わせも面白い。
さらには、サックスやマリンバ、GENTLE GIANT 完全コピーのコーラスなど、細かい仕かけもいろいろと用意されている。
全体的に、英国プログレッシヴ・ロックの影響が顕著なハードロックの突然変異にしては、やや様式的な音ではあるものの、よくできている。
今聴くと、キーボード中心のシンフォニックな演奏に漂うややチープな味わいが、かえって新鮮かもしれない。
聴きものは SF チックなシンセサイザー中心に、テクニカルな盛り上がりを見せる「La Ciguena De Zaragoza」。
プロデュースはグループとデヴィッド・ヒッチコック。
録音とミックスにもヒッチコックの名前がある。
「One First Of April」3 パートから成る導入部。
「Prologue」(2:31)ホームにすべりこむ地下鉄と人いきれの SE。
ムーグに導かれてフェード・インするアンサンブル。
ヘヴィながらもリズミカルな曲調は、GENTLE GIANT 風である。
西洋音階からの逸脱を試みるのか、やや東洋風のリフが面白い。
ヴォーカルはソウルフルで黒っぽいタイプ。
「Physical And Mental Short Circuit」(3:56)オルガンとティンパニにリードされる重厚なスタート。
ヴォーカルは前曲のテーマを引き継ぎ、伴奏ではメロトロン、ストリング・アンサンブル、ムーグが層を成す。
ギターは完全にハードロック。
そのギターとシンセサイザーが軽妙なかけ合いを見せる。
シンセサイザーの放り込まれたファンキーなハードロックだ。
マリンバやティンパニの軽やかなプレイを経て、終盤はすっかり音量が落ちて、スペイシーなインタープレイが続く。
最後のヴォーカル・パートで再び元気を取り戻すも、やや波乱含み。
「Subterranean Escape」(1:19)
一気にリズムが細かくなってテンポ・アップ。
モノローグ風のヴォーカルからスピーディなギターとシンセサイザーのかけ合いへ。
そして快速ユニゾン。
こうなると DEEP PURPLE 風である。
ドラムスも手数が多い。
緊迫感をぐいぐいと高めるインストゥルメンタル。
キーボードを中心とした技巧的なアンサンブルが冴えるハードロック。
「Beedeepees」再び 3 部から成る組曲。
「Film Of Life」(5:56)
自動車が通り過ぎる。
シンセサイザー・シーケンスがきらめきながらぐるぐると回りだし、沈んだ調子のヴォーカルがささやき始める。
アタックを消したギターが寄り添う。
ひねくりまわしたようなメロディがシーケンスと絡まり合い、愛らしい音にもかかわらず、ねじれた、不安定な感じを演出する。
何かを待つようなベースの反復。
湧きあがるストリングスが不気味だ。
一転、すべてを叩き壊すような演奏が飛びこみ、ジャジーなクラヴィネットとギターが叫ぶと一気にテンションが上がる。
ヴォーカルも高潮し、入り組んだアンサンブルとともに走り出す。
調子っぱずれな伴奏、オブリガートがおもしろい。
パワフルなヴォーカルが自在に曲をリードし、演奏がそれにぴったりとついてゆく。
モード風のメロディ・ラインや綱渡りのようなきわどいアンサンブルがおもしろい。
曲調の変化の激しさ、音数の多さに目もくらむ。
最後は、ポリリズミックなアンサンブルが凄まじい勢いで突進する。
爆発的なテクニカル・チューンである。
「Childhood Flash-Back」(0:52)
エレキギターのエコーが消え去る中、子供の声が聞こえてくる。
吹き上げるよう蒸気のようにゆらめくオルガン。
きらきらとしたヴァイブに導かれて、エレクトリック・ピアノとギター、うるさいドラムスによるチャイルディッシュな、軽妙きわまる演奏が突っ込んでくる。
一瞬のブリッジ。回想でしょうか。
「Legal Labyrinth」(2:08)
四声ハーモニーは、何度もいうが、まさに GENTLE GIANT そのものである。
力強く打ち鳴らされるバスドラ、そして、ギター、シンセサイザーの技巧的なユニゾンがもつれるように続く。
一転、ビートが細かく飛び散って、ジャズロック調のスピーディな演奏が始まる。
予想外の変転である。
リードはギターであり、キーボードもエレピへ。パーカッションが効いている。
せわしなく小刻みに変転するインストゥルメンタル。
しつこいですが、もろに GENTLE GIANT です。
際立った演奏力を見せつける。
「Futile Prayer」(5:56)
謎めいたアコースティック・ギターの弦のざわめき、ストリングス・シンセサイザーの響きはチープな書き割りのような背景を淡く染め上げ、モダン・クラシック調のギター・ソロが続く。
このギターのプレイはなかなか本格的だ。
メイン・ヴォーカルは、ややうつむきながらも伸びやかな声で歌う。
轟くティンパニ、そして伸びやかな歌唱。
チャーチ・オルガンが高鳴り始めると、勇ましくも厳かなクライマックスとなる。
たゆとうオルガンの大河の流れとともに、再びギターが静々と奏でられ、轟く太鼓とともにシンセサイザーがさえずる。
ミドル・テンポでとうとうと進む正調シンフォニック・チューン。序盤のギター、終盤のシンセサイザーの音色がいい。
「La Ciguena De Zaragoza」フル・インストゥルメンタルの組曲。
「The Farrockaway Ropedancer」(4:26)
細かなビートとともにフェード・インするミステリアスな演奏。
冷ややかなストリングス・シンセサイザーが渦を巻くと、ジャジーなギターと怪しげなシンセサイザーが緻密なリズムの上で疾走し始める。ユニゾンに、ハーモニーに、つかず離れず互いに距離を保って鋭く突き進んでゆく。
やや泥臭いながらも GOBLIN を連想させるテクニカル・ジャズロック。
アナログ・シンセサイザーのレゾナンスを効かせたトーン、エフェクトが懐かしい。インストゥルメンタル。
「Le Moineau De Paris」(2:23)
ほとばしる電子音は、毒々しくもマジカルなオルガンのリフレインへと変化し、ギターが切なく歌いだす。
テーマは、やや中近東風だ。
ドラムス・ピックアップ、ミドル・テンポでギター・ソロが続いてゆく。
謎めいた和声の伴奏がギターになかなかカタルシスを許さない。
「Cha Cha D'amour」(1:26)
サックスのリードとともに、再び細かなリズムによるファンク、ジャズロック調の演奏が始まる。
クシャクシャしたバッキングはギターだろうか。なかなイイカンジにファンキーである。
メロディアスなサックスはダビングされて、鋭いユニゾンとネジの外れたハーモニーで迫る。
瞬間 「Take Five」 を経て、1 曲目のギターのテーマが懐古される。
技巧的ながらも A 面とは異なるメロディアスでファンキーなジャズロック調のインストゥルメンタルである。
イタリアの NOVA を思い出しました。
「Behind Grey Walls」(6:51)
一転して、高尚なアコースティック・ピアノ・ソロが導かれる。
苦悩するロマン派のイメージだ。
ピアノ伴奏を得たヴォーカルも、正調ドイツ・ロマン風である。
重厚なオルガンが炸裂、ファズ・ギターとともに伴奏に加わってエモーショナルな歌唱を支える。
オーセンティックな調子を揺るがせるのが、奇妙なコード進行のサビ。
オブリガートや間奏は、泣きのハードロック調。しかし、キメのところの和音や軽妙なギターのブリッジが変である。
終盤は、チャーチ・オルガンとギターによる DEEP PURPLE のバラード風の演奏である。
雰囲気を決め切れず、奇妙に抽象的な感触を残すバラード。
「No Time To Die」(6:09)
再び GENTLE GIANT 風の奇妙なアンサンブルを散りばめたジャジーな歌もの。
強いアクセントのあるリズムを多彩なキーボード・サウンドが貫き、ヴォーカルのリードで意外としなやかな演奏が続く。
すべては冗談だったのさ、といわんばかりの人を食った結末ではあるが、力強い歌唱のフェード・アウトに、なんとなくオプティミスティックな後味がある。
「Fall Down」(2:50)
キーボードをフィーチュアした逞しいファンキー・チューン。ディスコかな。
ボーナス・トラック。
「Laugh Or Cry」(2:57)ボーナス・トラック。
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