イギリスのハードロック・グループ「BLACK WIDOW」。 69 年結成。 72 年解散。 作品は四枚。 グループ名から連想されるような黒魔術系 HR/HM の元祖ではなく、オルガンや管楽器を用いた典型的ブリティッシュ・ロック。
Jim Gannon | lead guitar, vibes, spanish guitar |
Zoot Taylor | organ, piano |
Kip Trevor | lead vocals |
Clive Jones | flute, sax, clarinet |
Bob Bond | bass |
Clive Box | drums, percussion |
70 年発表の第一作「Sacrifice」。
内容は、通常 4 ピースに、管楽器奏者とキーボーディストを加えた六人構成によるジャジーなアートロックである。
グループ名から連想されるようなハードロックではなく、ビート・グループがサイケデリック・エラを経て到達したようなスタイルである。
ヴォーカルやギターのプレイにはそれなりのヘヴィさもあるのだが、管楽器とキーボードを交えたサウンドがハードロックというにはあまりにカラフルであり、ソロをフィーチュアするスタイルはジャズ風ですらある。
ややアフロっぽいリズム上でシンプルなリフとフルート、オルガンなどのソロを組み合わせた演奏は、思いのほか表情が多彩だ。
ストリングスを多用するかと思えば、モンド・ラウンジ風の曲まである。
突出した曲がないために初めの印象は地味だが、味わうほどにブリティッシュ・ロックらしい渋みが分かってくる。
グダグダな緩さとスリルがない交ぜになり、神秘的な響きを持つに至った個性的な作品といえるだろう。
「In Ancient Days」(7:40)
軽めでリズミカルなのに憂鬱さが支配するブリティッシュ・ロックらしい作品。
オルガンを活かしたクラシカルなイントロは、思わせぶりかつ迫力満点、なかなかカッコいい。
一転して始まるアコースティック・ギターの軽快なストローク、ドラムスの連打とともに飛び込む演奏もドキドキさせる。
ヴォーカル直前や間奏部には、サックスとメロトロンによるシンフォニックな盛り上げもあり。
ただし、ヴォーカリストの声質が地味で存在感が弱い。
演奏の特徴は、オルガンが歌メロをしっかり支えてベースが重くアクセントをつけるところ。
サビで入るフルートとペナペナなギターのオブリガートも面白い。
シンプルな歌に、さまざまな楽器を絡めてシンフォニックかつハードな演奏に仕立てている。
サックス・ソロも憂鬱でいい感じだ。
やや繰り返しが多く冗長ではある。
「Way To Power」(3:58)
音に広がりのあるフォーク調の初期ハードロック。
投げやりなアコースティック・ギターのコード・ストロークがすてきな、フォークロック風のオープニング。
リズムと歌が入ると、雰囲気はやや引き締まり、LED ZEPPELIN 調ともいえそうなハードロック調のバラードである。
くせのあるヴォーカルに寄り添うコーラス。
サックスのキャッチーなオブリガートには、ブラス・ロック的なまろやかさと甘さあり。
幻想的にコーラスの広がるサビを経て、ジャジーなギター・ソロ。
前曲よりもヴォーカルに味わいがあり、メランコリックなハードロックといえなくもない。
サックスのオブリガートやアコースティック・ギターのストロークに、独特のひねくれ感と渋さあり。
ZEPPELIN なら「III」。
「Come To The Sabbat」(4:55)
邪教の儀式のイメージをマンガ的なデフォルメで描いたユーモラスな作品。
エキゾチックなドラム・ビートと道化のように舞い踊るフルート、ヴォカリーズらによる序盤から思い切り怪しい。
メイン・パートは素朴なフォーク・ロックが基本である。
バッキングには弦楽が加わっており、ピチカートが奇妙な効果を上げている。
サビにおける邪悪で不気味なはずの「Come To The Sabbat...」という連呼もひょうきんに響く。
アーサー・ブラウンに近い作風である。
「Conjuration」(5:45)
やや病んだ感じのあるマーチ風の作品。
歌詞内容は、タイトル通り「呪い」なのだろう。
ドラムスは終始ドタドタと打ち鳴らされ、オルガンとクラリネットのユニゾン/ハーモニーが高らかになめらかに響く。
ヴォーカルは神がかったアジテーションである。
サビでは、上品なストリングスが響き、狂乱気味のヴォーカルとのコントラストが凄い。
演奏は勇ましいオルガンを中心に力強いテーマで堂々と進む。
不気味なボレロとして雰囲気はよくできているが、もう一ひねりあるともっと面白かった。
それでも、エンディングの高揚は見事です。
ヴォーカルのネジの外れ具合は、やはりアーサー・ブラウンに近い。
「Seduction」(5:37)
幻想的かつクールなソフトロック。
緩やかに波打つギターとたゆとうストリングスをバックに密やかな歌が始まる。
ファンタジーの幕開けだ。
さえずるようなフルートが寄り添うクラシカルで愛らしい展開もつかの間、中間部では、オルガンのバッキングとサックスのリードによるジャジーなラウンジ・ミュージックに変貌する。
オランダのグループにありそうな演奏だ。
これはこれで悪くない。
オルガン・ソロもクラシカルかつジャジーな本格派のプレイだ。
夢から覚めてもまだ夢の中、といった感じ。
「Attack Of The Demon」(5:37)
アップ・テンポのキャッチーなビート・ロック。
オルガンがクラシカルなテーマを示すイントロダクションを突き破るように、パーカッションの効いたオルガンが中心となったシンプルなリフが感傷的な表情のヴォーカルを引っ張ってゆく。
サビにおけるメイン・ヴォーカルとスキャットのハモりが熱っぽくもクールでいい。
バブリングのスキャットなど思い切りジャズっぽいが、メロディやフルートの加わったアンサンブルなど随所でクラシック風味も見せる。
洒脱なのに、くすんだような、突き抜けきらない感じがあるところが特徴か。
「Sacrifice」(11:09)
DEEP PURPLE 風のシャフル・ビートのハードロック。
フルートが鳴り続けているところが特徴。
間奏部分は、ジャズ風のフルート、オルガンのアドリヴ。
フルートは二声で挑発しあうようにからむ。
ベースがランニング・ベースに変わった辺りから、ワイルドなオルガン・ソロが始まる。
中間部のアドリヴ大会こそセッション風ではあるが、メイン・ヴォーカル・パートはなかなかキャッチーである。
(RR 4067-CC)
Jim Gannon | lead & acoustic & 12 string guitar, vocal harmony |
Geoff Griffith | bass, vocals |
Kip Trevor | lead vocals, tambourine, maracas, vocal harmony |
Zoot Taylor | organ, piano |
Romeo Challenger | drums, bongos, congas |
Clive Jones | sax, flute |
70 年発表の第二作「Black Widow」。
ドラムスがメンバー交代。
妙な演出がなくなって、ヴォーカルの力がぬけた分、より一層味わいが出てきた作品だ。
フォーキーなメロディに浮かび上がるメランコリックな表情や、繊細なコーラス・ハーモニーがいい。
あからさまなジャズ・テイストやストリングスなどの大仰なアレンジも後退しており、アメリカ風といってもいいストレートなメロディをもつ曲を、ごく自然にこなしている。
フルート、オルガンに加え、ギターも、前作よりもぐっと見せ場を増やしている。
全体としては、LED ZEPPELIN や URIAH HEEP ら一流ハードロックの「またいとこ」といった趣である。
ハードロック・バンドが演る一番ソフトな曲と、プログレ・バンドが演る一番ストレートな曲を、合わせたような作風ともいえる。
ドキっとさせるような凄みがない代わりに、気軽に流しておいて心地よい曲調である。
今この時代にわりと「当り」な音である。
6 曲目「Poser」は、FREE を思わせるファンキーな佳曲。
ラストの「Legend Of Creation」は、オルガン、サックス、ギターをフィーチュアしたカッコいい R&B ナンバー。
「Tears And Wine」
「The Gypsy」
「Bridge Passage」
「When My Mind Was Young」
「The Journey」
「Poser」
「Mary Clark」
「Wait Until Tomorrow」
「An Afterthought」
「Legend Of Creation」
(RR 4031-C)
Kip Trevor | lead vocals, acoustic guitar, percussion |
Geoff Griffith | bass, vocals |
John Culley | electric & acoustic guitar, vocals |
Zoot Taylor | organ, piano |
Romeo Challenger | drums, percussion |
Clive Jones | sax, flute |
71 年発表の第三作「III」。
ギタリストが、元 CRESSIDA のジョン・カリーに交代。
ハードロック的なイメージのジャケットとは裏腹に、サウンドは、さらに混迷して面白くなっている。
初期 YES のようなプログレ・ナンバー、ビート・ポップ、ジャズ/ブルーズ風、さらにはアメリカンで土臭い曲などを、オルガン、サックス、フルート、アコースティック・ギター、コーラスを用いて、柔らかなタッチで奏でている。
メロディアスなうわものを支えるのは、安定感/敏捷性ともに優れたリズム・セクションである。
単調にならず、なおかつしっかりしたビートを失わないように、地味ながらも堅実なプレイを見せている。
ハモンド・オルガンは、ワイルド過ぎないソフトな音を用いて、クラシカルな薬味としてはたらいている。
サックスは、力強いブローとセンシティヴな表情を巧みに使い分けている。
また、フルートもこっそりと加わるわりには、きちんと雰囲気をつくっている。
ヴォーカルもさほど強烈なシャウトを見せるわけではなく、したがって、全体に淡々とした演奏なのだ。
しかしながら、多彩な楽曲とワサビの効いたアレンジでかなり楽しく聴くことができる。
英国ロック・ファンへはお薦め。
「The Battle」(10:54)YES のようなリズミカルでトリッキーなアンサンブルで進むプログレ大作。
ヴォーカルこそアメリカンでイージーだが、コーラスの入るパストラルなパートやメロディアスなベース・ラインなどは YES、サックスが唸りを上げると VAN DER GRAAF GENERATOR のようになる。
「Accident」(4:11)ビート・ポップの名残の見えるヘヴィ・ロック。
サックス、ギターらのユニゾンによるリフでたたみかける。
スピードがなく、のっそり重いところが、予期せぬ不気味な味わいとなっている。
なんとなく初期の KING CRIMSON に通じなくもない。
「Lonely Man」(4:51)ソウルフルなヴォーカル、オルガンが冴える R&B チューン。
ジャジーなハモンド、うねるベース、そしてカッティングを決めるギター、すべてがカッコいい。
トーキング・フルートも現れる。
間奏が、リリカルなフルートとベースによるジャジーなデュオというところが、いかにも英国ロックらしい渋さ・深さである。
ヴォーカルは、どことなく一流どころのハードロック・ヴォーカリスト(プラントでしょう)を模するような表情。
「The Sun」(4:30)サイケ・フォーク風味のあるナイーヴで若々しい弾き語り風のナンバー。
「Kings Of Hearts」(6:40)またもビート・ポップの名残を見せるソフト・ロック。
ビター・スウィートな歌メロ、リリカルなフルート、ジャジーなギターがいい。
スキャットのコーラスは、そよ風のように爽やかだ。
走る場面では、波打つようなオルガンがしっかりとヴォーカルを支える。
「Old Man」(9:11)エンディングの長い繰り返しの後、ひょっとしてと思ったとおりに、THE BEATLES の最長曲へとなだれ込む。
(RR 4241-WZ)