イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「BLOCCO MENTALE」。 72 年結成。75 年解散。作品は一枚。 グループ名は「精神障害」の意。 凄い名前だ。 YouTube に映像がありました。
Aldo Angeletti | lead vocals, bass |
Michele Arena | vocals, percussion |
Gigi Bianchi "Roso" | vocals, guitar |
Filippo Lazzari | vocals, keyboards, harmonica |
Dino Finocchi | lead vocals, sax, flute |
73 年発表のアルバム「ΠΟΑ」。
「ΠΟΑ」はギリシャ語で「草原」の意。
内容は、歌ものポップスに現代音楽、フリー・ジャズ風の演奏を大胆に放り込んだ果てのへヴィ・ロック。
過激なアレンジはアカデミックな気風すら感じさせる。
フォーキーでメロディアスなラヴ・ロックに、ジャズ、クラシックを無造作に交えて変容させるのがイタリアン・ロックの荒業である。
また、KING CRIMSON や VAN DER GRAAF GENNERATOR といった英国のグループの影響が、顕著とはいえないまでも、リズムや編曲などにうっすらと感じられる。
おおらかでパストラルなラテン風のメロディを芯として、管楽器やオルガン、メロトロンをフィーチュアしたアヴァンギャルドな展開からアコースティックなフォーク・ロックまで、一つの曲の中でも大きな振幅で揺れ動く。
また NEW TROLLS と同じく、リード・ヴォーカルをハキハキとしたハイトーン・ヴォイスと男性的なバリトンの二人が取る。
この二人のリード・ヴォーリストを中心に、コーラス含め、ほぼ全員がヴォーカルをとる。
暖かなヴォーカル・ハーモニーの背景を、乾いた風のようなメロトロンが吹きすさぶ場面には、思わず耳を奪われるだろう。
そして驚くべきは、これだけ好き放題をやっても、アルバムを通して一貫したトーンがあることだ。
エネルギッシュな中にもアーティスティックな審美センスとしっとりとした情感を感じさせるロックである。
やや才走りすぎという気もするが、聴き応えのある内容だ。
いわば CERVELLO の唯一作を、より田園風にやさしげにしたイメージでしょうか。
作詞のクラウディオ・メルローニのアイデアによる環境問題をテーマとしたコンセプト・アルバム。
1 曲目「Carita(慈愛)」(4:46)
イントロのバリトン・サックスに吃驚していると、あっという間にギターとオルガンによる、ユーモラスにしてせわしないユニゾンに巻き込まれる。
怪しい勢いに満ちた導入部だ。
ユニゾンの反復とサックスが重なりあい、緊張が高まる。
一転、メロディアスなサックス、オルガンに導かれ、ヴォーカル・パートはアコースティック・ギターの伴奏で静かに始まる。
落ちついた雰囲気だ。
ヴォーカルは、ややくせのあるハイトーン。
オブリガートするアンサンブルをリードするのは、重厚なピアノ、ギター、そしてフルート。
コーラスごとにフルートやオルガンが、巧みに重なってくる。
間奏は、小気味よいオルガンとフルート、ギターがシンプルなテーマに順々に重なり、やがてクラシカルなアンサンブルをなしつつ、目まぐるしく動く。
テンポの変化をごく自然に聴こえさせる、一体感のある演奏だ。
ピアノの落ちついた和音の連打が、再びヴォーカルを呼び覚ます。
悠然と歌いこむヴォーカルとビジーな伴奏が奇妙なコントラストを成す。
ギターのカッティングと手数の多いドラムスがとにかくけたたましい。
オルガンはヴォーカルに寄り添うようにメロディアスだ。
再びドラムスを失い、フルートとアコースティック・ギターに導かれて、メイン・ヴォーカルが戻る。
ヴォーカルに応じるオブリガートのトゥッティ。
フルート、オルガンによる静かな伴奏、ヴォーカルとピアノ、ギターの呼応が幕を引く。
ヘヴィでアヴァンギャルドなオープニングとは裏腹にフォーキーでリリカルな歌もの。
アコースティックなフォーク・ロック調にバリトン・サックスとフルート、オルガンなどで味つけし、クライマックスでシンフォニックに盛り上がる、つまり典型的なイタリアン・ロックである。
オルガン、ギターらヘヴィな音とフルート、ピアノらの軽やかな音の対比、サックスらによるジャジーな演奏とクラシカルなアンサンブルなど盛りだくさん。
メイン・ヴォーカル・パートの空ろな表情と沈み込むような風情がなかなかいい。
2 曲目「Aria E Mele(空気と林檎)」(4:34)
湧き上がるオルガンにエレクトリック・サックスがオーヴァーラップする、ギラギラとしたオープニング。
伴奏はティンパニのようなドラム・ロールから、ギター、ベースのユニゾンによる 8 分の 6 拍子の機械的なパターンが繰り返される。
メロディはサックスからオルガンへ。
一瞬のブレイクからピアノが邪悪な現代音楽調の 8 分の 6 拍子リフレインでたたみかける。
ピアノがバロック/古典調に変化し、ギター、ベースが重なれば、いかにもクラシカルなアンサンブルとなる。
鋭いトゥッティから再び現代音楽調のリフをピアノ、ギター、フルートら全体で繰り返す。
じつに目まぐるしい展開だ。
ブレイク。
リズムレスのまま、フルートとヴォーカルが登場。
ヴォーカルを追いかける。
たたきつけるピアノ、ギターによるうねるような間奏は歌メロの変奏だ。
2 コーラス目は伴奏にビジーなドラムス連打も加わる。
不気味な決意をはらむヴォーカル。
間奏は頓狂なサックス。
長調へ転調、サビは 3 拍子でクラシカルである。
再び不気味な短調に移り、男臭いメイン・ヴォーカルが呪文を唱える。
オルガン、ギターが伴奏し、間奏はサイケデリックなエレクトリック・サックスが暴れる。
長調のクラシック調に転じ、最後はピアノが冒頭に提示した現代音楽調のリフレインを全体で荒々しく繰り返す。
現代音楽調とフリー・ジャズ・テイストが交錯するプログレッシヴ・ロック。
現代音楽調の険しい無調フレーズ/歌メロとエチュード風の純クラシック・アンサンブルが強い対比をなす。
ヴォーカル・パートでもミステリアスな旋律を強調し、クラシカルかつヘヴィである。
転調後のシンコペーションによるテーマは意外に愛らしい。
ピアノのプレイはモダン・クラシックから現代音楽まで幅広く、サックスはフリー・ジャズ的な荒々しさを放ち、ギターは歪み切ったハードロック調。
とにかく全体に攻撃的だ。
トゥッティによるリフは前曲同様 KING CRIMSON を思わせるハードなもの。
ここまで 2 曲は、アイデアを詰め込みすぎたような過激にして発散した内容である。
3 曲目「Impressoni(印象)」(8:27)。
メロトロンの調べが神秘的なハーモニーを成すオープニング。
哀愁の余韻を残しつつ、フルートとアコースティック・ギターによるものさびしいアンサンブルへ。
笹沢佐保の時代劇かマカロニ・ウエスタンの BGM 風である。
フルートのテーマの周囲には、メロトロンの響きが波紋のようにうっすらと広がってゆく。
厳かなピアノが伴奏へ加わり、トラジックにして気品あるみごとな演奏がたゆとうように繰り広げられる。
雷鳴のように轟くティンパニ。
悲劇的かつ神秘的な序章を受けて始まるのは、物寂しく素朴な弾き語り。
アコースティック・ギターをかき鳴らし、センチメンタルなメロディを情熱的な声で膨らませてゆく。
ストリングスが夢の名残のように歌を取り巻く。
ピアノ、ドラムスが、しっかりと歌を支えてゆく。
まっすぐに通ってゆく歌には感傷に終わらない力強さもある。
ストリングスが高まると同時に、あまやかな、優しさあふれるハーモニーが湧き上がる。
一転、ハードなギター・リフの導きで始まるのは、ジャジーなインストゥルメンタル。
サックス、オルガン、シンセサイザーらが手数の多いドラムスとともに、パワフルなトゥッティで走る。
ギター、オルガンの鋭い問いかけに応じるフルート。
オルガンが導くのは、野性味たっぷりのサックス・ソロ。
オルガンのバッキング、ギターのオブリガートもシャープで小気味いい。
スピーディな力演であり、70年代中盤の日本でもよく耳にしたジャジーなロックの「あの」音である。
エンディングは、ブレイクをはさんだ不規則で挑発的なユニゾンで大胆に締める。
劇的な展開が冴える大傑作。
オープニングは、P.F.M を思わせるクラシカル、フォーク・タッチの演奏がすばらしい。
堰を切るようにティンパニがなだれ込み、感極まってヴォーカルが、歌いだすところまで、みごとなドラマがある。
メイン・ヴォーカル・パートでは、イタリアの街角で長髪の若者がギターをかき鳴らしながら歌っている姿が目に浮かぶような、すばらしい歌が堪能できる。
後半の技巧的なジャズロック・インストゥルメンタルへの展開には、センチメンタリズムに終わらず現実的な力で行先を切り開いてゆく気合が感じられる。
名曲。
4 曲目「Io E Me(私とわたし)」(4:29)。
ハーモニカ、アコースティック・ギターをフィーチュアしたアーシーな歌もの。
ほんのりアメリカンな乾いた空気感は冒頭のハーモニカのせいだろうか。
とはいえ、やはりたまらないのは、メロトロンの枯れた音色と切なくなるほどイタリアンなハーモニー。
3:00 くらいから始まるコーラスのメロディ・ラインは、典型的なイタリアン・テイストである。
エンディングのギターとハーモニカの絡みは、ややスワンプ調。
全体に、胸を締めつけるようにセンチメンタルながらも、各種薬味がピリリと効いたフォークソングの名品である。
5 曲目「La Nuova Forza(新たなる力)」(7:38)。
メロトロン、ドラムスによる勇壮なるイントロダクション。
弱々しいメロトロンとうるさいドラムスのズっこけたコンビネーションが微笑ましい。
電子音がきらきらと渦を巻いて走り、次第にピッチを上げ、気まぐれに漂う。
そして、すばやいフェード・インにて、やおらノイジーなキーボード、フルート、ギターらによるクラシカルなアンサンブルが走り出す。
コミカルだが、バスドラを連打するドラムスがつき従い、かなりやかましい演奏だ。
ひっかかるようにブレイクをはさみ、クラシカルなテーマを強くアピールする。
一転テンポ・ダウン、フェイズ・シフタでトリミングされたアコースティック・ギターのコード・ストロークが始まる。
たおやかなフルートに導かれて、ハイトーンのヴォーカル・ハーモニーが始まる。
柔らかなトリルは何の音だろう。
サビは、スキャット。
ギター、リズムが加わるとややスワンプ風味も漂う。
力強いメイン・ヴォーカルで出直すと、ハーモニーも気分を変えて追いかける。
オルガンがたなびくブリティッシュ調の伴奏。
クラシカルなピアノ伴奏により、一気にロマンティックな気分が強まる。
ヴォーカル・ハーモニーは、まっすぐ高らかに歌い続ける。
再びファルセットによるハイトーンのヴォーカル・ハーモニーへと回帰。
スペイシーなキーボードとアコースティック・ギターをかき鳴らす音。
切なく高まるハーモニーを経て、再び力強いメイン・ヴォーカルへ。
今度はメロトロン・ストリングスが湧き上がり、ハーモニーを支える。
最後は、しなやかなギターが濃厚なヴォーカルを支え、ピアノ伴奏も加わる。
ヴォーカル・ハーモニーにしっかりとジャジーなギターがしたがってゆく。
ヴォーカル・ハーモニーを多彩なアレンジで取り巻くフォーク・タッチの歌もの。
イントロこそかなり派手なクラシカル路線で迫るが、本編は、ハーモニーをフィーチュアした素朴なイタリアン・ロックである。
巻き舌のヴォーカルやしなやかなメロディなど、いかにもイタリアンだが、淡いスワンプ、カントリー風味が英国ものに通じる瞬間もある。
ヴァースごとに、フルート、オルガン、メロトロン、ギターが順繰りに伴奏を務めてゆく。
6 曲目「Ritorno(帰還)」(5:37)。
前曲冒頭の、クラシカルにしてコミカルなアンサンブルが復活するオープニング。
なかなか凝ったアレンジである。
ひょっとするとこの部分は前曲のエンディングなのかもしれない。
ブレイクをはさんだせわしない演奏を経て、一転華麗なるピアノ・ソロへと移る。
跳躍アルペジオによる優美な演奏だ。
しかしながら、すぐに低音を多用する挑戦的なスタイルへと演奏は変化する。
ピアノの和音にリードされて、全拍にアクセントをおくようなミドル・テンポの固い演奏が始まる。
フルートとベースのユニゾンによる、ひねくれたテーマ。
続いて伸びやかにして男性的なヴォーカルが、オペラチックに歌いだす。
効果はともかくドラムスのプレイが、なかなかユニークである。
間奏は、かなりヨレ気味のギターとオルガン、ピアノ伴奏。
バスドラ連打がリズムを沸き立つような調子へと変化させ、サックスがスリリングに切り込んでくる。
エフェクトでジンジンいうキーボード・ソロ。
ムーグらしい管楽器風のポルタメントも音色のために、荒れた印象である。
再びサックスによるスリリングなテーマ。
続いてフリーキーなオルガン・ソロ。
次に飛び込むのはなんと、1 曲目オープニングのサックス、オルガン、ギターによる攻撃的なテーマである。
そして、そのままフェード・アウト。
タイトル通り、巡り巡って元に戻ったという怪曲。前半はクラシカルな音を用い(ピアノ・ソロはかなりエマーソン風)、中盤はバラード風の歌もの(ただし伴奏がかなり変わっている、というかヘタ)、後半はビッグ・バンド調のスリリングなジャズロック。ものすごい音のシンセサイザー・ソロもあり。
無理やりな展開は、まさしくこの時代のイタリアン・ロック。
7 曲目「Verde(草原)」(4:00)。
ピアノが和音を刻む THE BAND 風のオープニング。
管楽器を思わせるシンセサイザーが、リリカルなテーマを奏でる。
ハイトーンのヴォーカルが、フルートとスキャットに彩られて歌いだす。
伸びやかなサビからは、アコースティック・ギター、メロトロンもしっかりとヴォーカル・ハーモニーを支えてゆく。
甘めのメロディ・ラインに、うっすらと漂う切ない響き。
そして高らかなハーモニー。
ハーモニーを、シンセサイザーとフルートが 3 拍子をはさんでアクセントをつけつつ、軽やかに受け止める間奏。
再びハイトーン・ヴォイスのヴォーカルが引き継ぎ、メイン・パートを繰り返し。
そしてすてきなハーモニーだ。
リズム・ブレイクをはさみながら、最後までメロトロン、シンセサイザーが、このハーモニーをドラマチックに支えてゆく。
かなり甘めではあるが、ビター・スウィートな佳作、というかスワンプ調を取り入れた切ないラヴ・ロックである。
切なく高まるハーモニー、シンフォニックに彩るキーボードもいい。
いい余韻をいつまでも引っ張ってくれる終曲である。
キーボード、管楽器を中心に多彩なアレンジを施した、情感豊かな歌ものへヴィ・ロック。
フルートやサックスによるジャジーでまろやかな味わい、オルガン、メロトロンによるシンフォニックなアレンジ、アグレッシヴなギター・リフ、さらにはアコースティック・ギターとピアノの落ちついた演奏など、曲調はきわめて多彩である。
それでいて、どこを切っても詩的な瑞々しさとポップなアクセスしやすさがあるところが、特徴だ。
多くのイタリアのグループがそうであるように、最大の魅力は「歌」なのだ。
伸びやかな美声と渋めの声によるツイン・ヴォーカル、そして全員で歌い上げるコーラス・ワーク。
イタリアらしい素朴な美しさとやや枯れた味わいをもつメロディ・ラインを、スウィートなハーモニーやスワンプ調で味つけしている。
そして、感情のこもった歌唱にもかかわらず、ベタベタしたところがなく、むしろ爽やかである。
シンプルで親しみやすいメロディは、ごくあたりまえの生活の中にある何気ない喜びや哀しみを、おだやかに語りかけてくるようだ。
器楽のアレンジや曲展開/構成には、KING CRIMSON や VAN DER GRAAF GENERATOR を髣髴させるアヴァンギャルドな感性が横溢するが、この歌のおかげで優しいながらもハッタリのない、重みのある音楽ができている。
ここで紹介した CD は VM の再発盤。
ちなみに MELLOW 盤には、シングル 2 曲のボーナスがつく。
入手の際は、お気をつけください。
個人的に大好きな作品です。
(VM032)