イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「CERVELLO」。 OSANNA のダニロ・ルスティチの弟コラード・ルスティチを中心に 72 年結成、74 年解散。 作品は一作のみ。 解散後コラード・ルスティチは OSANNA に合流し、OSANNA 分裂後は、NOVA に参加。 グループ名は、「頭脳」の意。
Antonio Spagnolo | 6 & 12 string acoustic guitar, bass, pedal, recorder, vocals |
Giulio D'Ambrosio | electric sax(contralto & tenor), flute, vocals |
Corrado Rustici | guitar, recorder, flute, vibraphone, vocals |
Gianluigi Di Franco | lead vocals, flute, small percussion |
Remigio Esposito | drums, vibraphone |
73年発表の「Melos」。
内容は、ギターとエレクトリック・サックスが狂おしく迸り、ヴィブラフォンとフルートが舞い踊るあやかしのプログレッシヴ・ロック。
タイトルはギリシャ語の「メロディ」の意であり、「韻律」を具現化したと思われるメロスと神々の対話をはじめ、古代の神々が跳梁跋扈するありさまが、ギターと管楽器で時に荒々しくそして時に妖艶に描かれる。
演奏は初めラフな印象を受けるが、聴き込むほどに不思議と繊細でなおかつ肉感的な手触りを持ち始める。
これは、わらべ歌のような素朴な無残さ、相聞歌のような妖艶さ、俗謡のようなたくましさなどを現代的な不安やニヒリズムと交わらせて生み出した奇怪な音楽だ。
メロトロンの如く迸るエレクトリック・サックス、乱舞するフルートによるミステリアスなオープニングは、やがて寂莫たるフルートとギターの不気味なアルペジオを導き、サテュロスとメナディの呪文を呼び覚ます。
この 1 曲目から、演奏は不自然なまでに音程を動かない(もしくは激しく上下する)テーマや複合拍子、エレクトリックな処理によって歪曲しささくれだったまま、エネルギッシュに疾走し続ける。
ナチュラル・トーンを逆手に取ったようなアシッドなギターがドライヴする凶暴な演奏に、眩暈のするような色彩を与えているのは、上ずりながらも声量豊かなヴォーカルとエロティックなサックスである。
熱っぽく絡みあう演奏が、気を許せばすぐに命を奪われそうな危険な魅力を放っている一方で、フルートやヴァイブのプレイには幼子のささやきのような無邪気さもある。
暴力性と健やかな官能、背徳のほめきが混然となった音は、ギリシアの神々の乱舞というイメージを鮮やかに描いているといえるだろう。
アコースティックな音を多用したギターによる荒ぶる演奏は、初期の OSANNA と音楽ルーツが同じなのだろう。
しかし力強く混沌とした演奏には、リフで攻め立てるようなハードロック的シンプルさはほとんどなく、むしろジャズロック的なダイナミックでテクニカルな演奏がひそんでいる。
フリー・ジャズ的ともいえる奔放なギター・ソロに耳を傾けると、それがよく分かる。
リズム・セクション、特にドラムスも決めどころでのプレイは、じつにテクニカル。
変拍子で驀進するパートの密度・テンションの高さは、MAHAVISHNU ORCHESTRA や KING CRIMSON に十分匹敵する。
この器楽とイタリアン・ロックらしいしなやかで官能的な歌が一体となり、狂おしくも知的な音楽を成り立たせている。
タイトル・ナンバーである、凶悪なインストとリリカルなヴォーカルが生み出す異様な変拍子シンフォニーは、一聴の価値あり。
作曲は、メンバーではない G.マラッツア。
プロデュースは OSANNA のダニロ・ルスティチとエリオ・ダーナ。
妖しいフルートに調べに酔いしれたい方にお薦め。
ギリシア神話への造詣と恐るべき想像力の生み出した、稀有のコンセプト・アルバムである。
「Canto Del Capro(野羊の歌)」(6:30)
「Trittico(三部作の絵)」(7:14)
「Euterpe(女神エウテルペ)」(4:27)
「Scinsicne(T.R.M)(解放)」(5:39)
「Melos(メロス)」(4:55)メロスとは「韻律」の意。
「Galassia(ガラッシア)」(5:45)「銀河、星雲」の意。
「Affresco(壁画)」(1:11)
(KICP 2707)