イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「DEEP FEELING」。 スタジオ・ミュージシャンによって結成されたグループ。(特にグラハム・ジャーヴィス氏は数多くの作品に参加する敏腕ドラマー) DJM からの作品を一枚のみ残す。 ベーシストは RAW MATERIAL のギタリストと同一人物である、という説はガセのようです。
John Swail | vocals |
Dave Green | bass, flute, vocals |
Derek Elson | Hammond organ, harpsichord, piano, vocals |
Martin Jenner | guitars, pedal steel guitar, vocals |
Graham Jarvis | drums, percussion, vocals |
71 年発表のアルバム「Deep Feeling」。
内容は、透明感あるヴォーカル・ハーモニーを活かしたアコースティックなイメージのサウンドにキーボードで彩色し、サイケデリックな感覚を活かしながらアメリカへの憧憬も見せる典型的ブリティッシュ・ロック。
2 曲目のようなパストラルなフォーク・ロックから、5 曲目のような CSN&Y 風のカントリー・ロック(単にスチール・ギターを使いたかっただけか)、スペイシーなインストゥルメンタル、ハードロックと、実にとっ散らかった内容だが、大曲におけるサイケデリックな不安定さ、大胆さを自由に振りかざすアレンジのおかげで、アルバム全体が独特の魅力を放っている。
全六曲中カヴァーが二曲あり、作曲よりもアレンジと演奏で本領を発揮する、ということを主張しているようだ。
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どの作品にも共通するのは、アンサンブルを仕切るハモンド・オルガンらキーボード、安定したリズム・セクション、アコースティック・ギターのパストラルな響き、そして 60 年代風の美しいハーモニーである。
そして、インストゥルメンタル・パートにおけるタイトで挑戦的なパフォーマンスにも驚かされる。
やはり THE BEATLES 調(THE BEACH BOYS 調?)ポップ・ロックから出発し、キーボードを得て新たなアプローチを模索した末の作品なのだろう。
流行のトータル・アルバム志向とは逆行するような内容ではあるが、まとまりよりも多様な音楽性を放り込んでさっと手早く仕上げた、小粋な口当たりがうれしい作品である。
マイナーなのに不思議とアンダーグラウンドな雰囲気がなく、ヘヴィさとポップさが同居した華やいだ音なのもうなずける。
また、腕に覚えのスタジオ・ミュージシャンによる「なんでもできます」というレジュメのような作品と見ることもできる。
確かにドラムスもギターも抜群の腕前である。
曲はマーティン・ジェナー、デイヴ・グリーンの共作。
プロデュースはデス・チャンプとロジャー・イースタービー。
「Welcome For A Soldier」(5:56)
THE BEACH BOYS 風のファルセット・コーラスの生む冷ややかで幻想的な美しさと、変拍子を使った一癖ある進行が同居する、いかにもブリティッシュ・ロックらしい曲だ。
序盤の、オルガンの音のよさにため息をついていると、メロディアスなヴォーカルを断ち切るプログレらしいたたみかけるようなギター・リフに驚かされる。
テンポ、リズム、雰囲気の急激な変化など凝った構成は、ブライアン・ウィルソンの影響下だろうか。
終盤のていねいなインスト・パートは、テクニカルなドラムスに支えられた、アンチ・クライマックス風のみごとな演奏だ。
エコーの彼方のギターは、P.F.M いや ジョージ・マーティンか。
ブリティッシュ・ロック・ファンなら鳥肌ものである。
GENESIS や CRESSIDA にも通じそうな雰囲気がある。
「Old Peoples Home」(3:49)アコースティックでパストラルなフォーク・ロック。
ギターのアルペジオとヴォーカル・ハーモニーは、初夏の野に吹くそよ風のようにのどかでみずみずしい。
プログレというくくりを空しくさせる、だからこそ魅力のある作品である。
「Classical Gas」(8:15)オルガンとハープシコードをフィーチュアしたノリのいいインストゥルメンタル。
キーボード以外にも、冒頭のようにアコースティック・ギターのプレイが冴えている。
ポップ・チューンらしい華のあるテーマによるメイン・パートのリズミカルなアンサンブルを楽しんでいると、意外なブレイクを前触れに、いつしかフリー・フォームに近い夢想世界へと惹きこまれてゆく。
この中間部、ジャズ・タッチで爪弾かれるピアノからヘヴィな演奏へとドラマティックに進んでゆく。
ハモンド・オルガンとギターによるクラシカルなデュオ、それを煽るバスドラ連打など、タイトでカッコいい演奏が続く。
BEGGARS OPERA も取り上げたスタンダード作品のカヴァー。
インストなのにまるで歌があるような語り口がみごと。
「Guillotine」(8:58)センチメンタルな弾き語りとクラシカルかつへヴィな演奏が劇的な起伏で迫る作品。
バロック風の厳かなオルガンをフィーチュアし、ギターとの対位的な絡みも面白い。
運動と停滞、熱気と冷気などくっきりとしたメリハリがある。
リリシズムというか独特の感傷は、初期の PINK FLOYD からルーズさをなくして、ぐっと洗練したような感じである。
サイケデリックな 60 年代色を磨き上げたといえるかもしれない。
後半はギターのリードでサイケデリックでハイ・テンションの演奏が続く。
終盤、デイヴ・ローソン風のシャウトからヴォーカル・ハーモニーが演奏と合流するところもいい感じだ。
「Country Heir」(5:44)スライド・ギターとみごとなハーモニーを活かした西海岸風+αのフォーク・ロック。
2 曲目に続くリフレッシュメント。
デヴィッド・クロスビーを思わせるカントリー・ポップスから、コーラス・グループのようなほんのりクールでラテンなポップス調ヘと変化するなど、和声の流れはなかなか凝っている。
ラウンジ調の展開がまったく自然というのもすごい。
ドラムスのプレイの切れ味がいい。名曲。
「Lucille」(5:29)カヴァー。ロックンロールの名曲を、かなりヘヴィなソロを交えてハードロック調にアレンジしている。
けたたましさも堂々たるもの。
ひきずるビートから遠慮のないフィルまで、ドラムスが非常にカッコいい。
(D.J.M. DJLPS 419 / PHCR-4205)