フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「DÜN」。 76 年結成。唯一作は、孤高のチェンバー風テクニカル・ジャズロック。
Laurent Bertaud | drums |
Jean Geeraerts | electric & acoustic guitar |
Bruno Sabathe | paino, synthesizer |
Alain Termol | percussion |
Thierry Tranchant | bass |
Pascal Vandenbulcke | flute |
Philippe Portejoie | sax on 5-8 |
81 年発表のアルバム「Eros」。
内容は、ダイナミックかつマニアックな即興を荒々しくも稠密なアンサンブルによる反復が支える室内楽テイストのジャズロック。
演奏面での特徴は、マリンバなどパーカッションを大きく取り上げているところと、フルートが主役に近い位置にいるところ。
そして、独特の性急さとハイテンション、強圧/独善的な姿勢、容赦のなさ。
本来知的であった音楽性を、自己流で突き詰めた挙句、殺伐となり、凶悪で暴力的になってしまったのかもしれない。
刻み捲くるドラムスの上でギターとフルート、マリンバ、ピアノらが細やかな文様で強引にキャンバスに埋め尽くしてゆき、ギターのレガートによる大胆な一閃がその文様を容赦なく削り取ってゆく。かと思えば、メロディアスなフルートとギターのソフトな息遣いがファンタジックな世界への入り口を示し、ストリングスとピアノ、ヴァイブが放つ眩い光に酔わされる。ギターはなめらかなプレイだけではなくファズを使いフィル・ミラーのようなギクシャクとしたプレイでもアンサンブルをリードする。
エレクトリック・ピアノやフルートらによるエレクトリック・ジャズ的なグルーヴを感じさせる場面もある。
また、SOFT MACHINE が生み出した、付点を巧みに使った変拍子パターンとそれらが絡み合うポリリズミックな展開もふんだんにある。
打楽器の音が強調されるアンサンブルに、凶悪さや凄絶な迫力とともに、意図しているのか偶然なのか、逸脱調のユーモアが感じられる瞬間があるのもおもしろい。
室内楽風というのは、管楽器、ピアノなどのアコースティックな音があることと、アンサンブルにクラシカルな多面的な表情があることからの連想である。
反復パターンに乗ってヘヴィなサウンドで狂ったように暴れ回るかと思えば、ドラムレスでフルートやアコースティック・ギターが優美な表情を見せるなど、よどみない口調で移り変わってゆく音楽に、クラシック的なストーリー性が感じられるのだ。
ヘヴィでワイルドなおかつ緻密ということで、まず MAGMA や UNIVERS ZERO、続いて、あまりに込み入った演奏の印象から、GENTLE GIANT、果ては、狂乱するギターからの連想で初期の KING CRIMSON、フュージョン/エレクトリック・ジャズ的な表現からカンタベリー一派までが引き合いに出されそうな音である。
捨てるものなど何もないといわんばかりにあらゆるアイデアを詰めこんで、音が出るのも待ち切れずに息せき切ってひたすら熱っぽくもがきながら走り続ける、そういうイメージの演奏であり、凝りすぎ、という言葉がよく似合うパフォーマンスである。
タイトル曲は、リリカルなタッチと現代音楽調がマッチしたかなりの傑作。
何にせよ、自主製作系としては、破格の音楽です。
スリーヴの写真やソロ作の数から判断するに、フルーティストのパスカル・ヴァンデンバルク氏はかなりの傑物のようだ。
CD には LP 収録曲の別ヴァージョンと未発表曲が計 4 曲、ボーナス・トラックとして収録されている。
不気味なスキャット以外全曲インストゥルメンタル。
「L'Epice」(9:23) MAGMA と SOFT MACHINE が合体したようなド迫力。
「Arrakis」(9:36)
「Bitonio」(7:09)
「Eros」(10:17) 美しさが際立つ名品。
(Soleil Atreides 03)