イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「E.A.POE」。 67 年結成。76 年解散。 グループ名から考えてジャケットの猿のネガ写真は「モルグ街の殺人」なのだろう。 作品はアルバム一枚とシングル二枚。 略歴とメンバーについては、ItalianProg の発掘データを参照。
Giorgio Foti | keyboards, vocals |
Beppe Ronco | guitars, mandolin |
Lello Foti | drums |
Marco Maggi | bass |
74 年発表の唯一作「Generazioni(Storia di sempre)」。
メンバー・クレジットが見当たらないが、音からギター、ベース、ドラムス、キーボードにヴォーカルという一般的な編成と思われる。
演奏はベースのリフを支えにジャズ・ギターとキーボードがリードするスタイルであり、曲調はジャズロックからクラシカルかつヘヴィなナンバー、たおやかなフォークまで多彩である。
全体に翳のある内向的な音ながらも、ミステリアスな雰囲気と時に垣間見せる邪悪な表情、そしてジャズ・タッチが特徴だ。
演奏全体の安定感は、ドラムスのプレイから来ているようだ。
プロデュースはジジ・フィウメ・メネガツィ。
作詞作曲を委託したのか、メンバーとは異なる名前がクレジットされている。
KANSAS レーベル。
1 曲目「Prologo」(4:48)
タイトルからして、「序章」の位置付けなのだろう。
オープニングこそ呪文のようなモノローグによるミステリアスなタッチだが、一旦演奏が始まると怪しげながらもリズミカルなジャズロックへと変貌する。
特徴は、シングル・ノートを訥々と爪弾くジャジーなギター・ソロ。
ドライヴ感を生むエンジンは、ベース・リフ、丹念なシンバル・ワークと音数多く迫るドラムスである。
アコースティック・ピアノのバッキングは、いい感じに重く、神秘的な雰囲気を演出する。
サビでは、ユニゾンから全体のハモリへと一気に高まり、アクセントをつけている。
安定した技巧を見せるリズム・セクションの上で、ジャズ・ギターが気ままに振る舞い続ける。
演奏には、やや固さがあり、ヴォリューム/曲調の変化は乏しい。
2 曲目「Considerazioni」(5:29)
再び堅実なベースのリフが先導し、クラシカルなキーボードとサイケデリックなギターが気まぐれに出たり入ったりを繰り返す、ややコケオドシ風の怪作。
全編に散りばめられるエレクトリックなノイズやスライド・ギターなどが、乱調美を演出。
ベースのリフを軸にした浮遊感のあるイントロから、英国 R&B 調、唐突に恐ろしげなユニゾンなど目まぐるしく変化し、中盤からは、けたたましいギター・リフをぶち上げてハードロック風の盛り上がりを一瞬見せる。
そして、新たなベース・リフでぐいぐいとクラシカルに盛り上げ直し、邪悪でヘヴィなシンフォニック・ロックへと発展する。
リズム、曲調の変化の激しさは、イタリアン・ロックならでは。
ベースのパターンが展開をリードするのが基本のようだ。
まじないのようなヴォーカルは、後半に現れる。
オルガン、アコースティック・ピアノ、オルゴールのようなエレクトリック・ピアノなど、クラシカルな味付けは効いている。
終盤の圧迫感ある演奏がすごい。
3 曲目「Per Un'anima」(2:37)
イタリアン・ロック特有の牧歌的なムードあふれる弾き語りの小品。
ヴォーカルは素人風で表情に乏しいが、柔らかなイタリア語の響きには、えもいわれぬ郷愁がある。
1 曲目のジャズ・ギタリストとは同一人物と思えないほど、アコースティック・ギター(12 弦か)のセンスはいい。
こういう曲の美しさこそ本当の魅力だろう。
弦楽を模したストリングス系シンセサイザーがゆったりとすべてを包み込んでゆく。
4 曲目「Alla Ricerca Di Una Dimensione」(4:23)
ロマンティックなラブ・ロック風の歌をクラシカルで重厚なアレンジで取り巻く好作品。
教会風のオルガンをフルに活かしている。
オルガンの提示するバロック調のテーマを繰り返して緊迫感を高め、ギターとのクラシカルなハードロック風のユニゾン、ブレイクやテンポの変化など、大仰な演出を次々と繰り出す。
圧力のある全体演奏に対して、ヴォーカルをオブリガートするギターの弱々しい爪弾きが、奇妙な味わいをもつ。
突如現れるエレクトリックなノイズがすごい。
緩急の変化もおもしろい。
LE ORME を思わせる瞬間も。
やはりベース音が大きめにミックスされている。
5 曲目「Ad Un Vecchio」(6:53)
陰鬱なトーンが貫くも、やや破綻気味の展開を見せる怪作シンフォニック・チューン。
いくつかのモチーフをつなぎ合わせたような、オムニバス風の大胆な展開を見せる。
ノイジーなキーボードによって思い切り憂鬱に始まり、苦悩し沈み込むような演奏と悩ましげなヴォーカルが続く。
ピアノ、オルガンが物憂げに響く。
ベーシストだけは、タイミングよく切り込み、俊敏なプレイを見せている。
今更ながら、腕前に感心。
ギターは、ここでも気まぐれ風の爪弾き主体。
ついにヘヴィで邪悪な正体をさらしたか、と思うまもなく、5 分過ぎ辺りで開き直ったように能天気なアンサンブルに突っ込む。
躁鬱なのか、とにかく不条理である。
終盤も、復活した欝状態をエチュード風の能天気なエレピが取り巻くという奇妙な演奏である。
1 曲目の雰囲気を元に、さらにひねくりまわしたような内容だ。
6 曲目「La Ballata Del Cane Infelice」(4:54)
トラッド風のアコースティック・ナンバー。
素朴なマンドリンの音色が全編を彩り、リズミカルにして華やかである。
純な歌メロもいい。
ベースが加わって、リズミカルに変化した後のマンドリン・ソロが鮮やかだ。
眠気を誘うように繰り返しの多いヴォーカルが、やがて暖かみのある郷愁を広げてゆく。
STRAWBS を思わせる演奏だ。
ドラムレス。
7 曲目「Generazioni」(5:27)
シンセサイザーによる田園風の雰囲気からクラシカルな歌メロへと続き、見る見るうちにエネルギッシュなシンフォニック・ロックへと変化する終曲。
頼りなげながらもストレートなヴォーカルと、波のように変化するアンサンブルの組み合わせが、最終的には、シンフォニックな広がりを生み、強烈なクライマックスへ向けてグイグイと突き進む。
後半、いかにもイタリアンなメロディを力強く歌うヴォーカルから、高鳴るシンセサイザー、オルガンへとわたってゆくところは、なかなか感動的だ。
フォーク調のアコースティックな音と、シンセサイザーのエレクトリックな響きがマッチしたシンフォニック・ロックは、あたかも YES のようなイメージである。
なんとなく、明日に希望を抱かせるような心持になるから不思議である。
切れのいい全体演奏のうまさとフォーク・タッチをまとめあげた力作。
ミステリアスで邪悪な表情と牧歌的な表情を併せもつ佳作。
エレクトリックなナンバーでは、思い切り大胆な音使いとプレイを繰り広げ、フォーク・タッチの作品では、ひたすらのどかで素朴なイメージを作り上げる。
そして、終曲では、両方の面を巧みにブレンドして、物語をまとめている。
この時代のプログレとしてクラシカルなキーボード・アレンジは当然として、本作は、ジャズ風のアレンジが多めなところがユニークである。
ヴォーカルは、パワーのなさがかえって独特の味わいをもつタイプ。
そして、もっとも目を引くのが、的確なプレイで前に出てくるベーシスト。
全体演奏のまとまり具合はかなりのものなので、もう少しクリアな音で聴くと、だいぶん印象が変わりそうだ。
やや薄味ながらもバランスの取れた佳作といえるでしょう。
(KANSAS 5300 503A / VM 027)