アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「EL RELOJ」。72 年結成。77 年解散。80 年代に再編。93 年再復活するもリーダー格の二人はすでに鬼籍。ワイルドな快速ハードロック。グループ名は「時計」の意。
Willy Gardi | lead guitar |
Juan Esposito | drums, vocals |
Eduardo Frezza | bass, lead vocals |
Osvaldo Zabala | guitar |
Luis Valenti | hammond organ, vocals |
75 年発表のアルバム「El Reloj」。
内容は、ツイン・ギターとオルガン、ハイトーンのヴォーカル・ハーモニーが特徴の性急きわまるハードロック。
ヘヴィなギターと荒々しいリズム・セクションが徹底して音数多くスピーディに駆けずり回り、それに負けじとヴォーカルが金切り声を張り上げる。
DEEP PURPLE のような快速ハードロックにアーティスティックな感性とラテンの熱狂を注ぎ込んだ火傷しそうな演奏である。
ベースも含め複数パートが自分の旋律を主張して競い合う演奏なため、ヘヴィなシンフォニック・ロックという区分けもできそうだが、どちらかというとオルガンよりも、忙しなくフレーズを詰め込むギターが主役を張っていて、その分、ハードロックとしてのイメージが強くなる。
オルガンが轟くシーンももちろんあるが、ツイン・ギターがブギー調の雄たけびを上げて野性の勢いそのままに走り出し、すぐにオルガンと横一線に並んでしまう。
したがって、どうしてもギターの印象が強い。
ひたすら切り刻み、連打し、アクセル踏みっぱなしのドラムスも含めて、このスピード感と忙しさは、現代的な見方でいえば完全に HR/HM の作風だろう。
同国の CRUCIS からジャズ色を完全になくして、極端にハードロック寄りにした演奏といってもいいかもしれない。
ギターのスタイルは、リッチー・ブラックモアやロリー・ギャラガーのような 70 年代ハードロック路線。
つまり、終始走り気味のテンポで弾き倒す。
この、細かなパッセージを引っかかり気味なのに無理やり弾き倒すエレキ・ギターのプレイというのは、なぜかロック・ファンの DNA に強く訴えかけてきて止まない。
キーボードはオルガン中心であり、ギターが焼き尽くした後にたなびく煙のような焦げ臭いバッキングで演奏を支え、オブリガート風の短いソロで見せ場を作る。
バラードではクラシカルなストリングスも鳴り響き、チープなエレクトリック・キーボードのサウンドを活かしたメロディック・マイナーなソロも見せている。
また、シングル盤ではかなりワイルドなサウンドのハモンド・オルガンを使っているが、アルバム曲では別のエレクトリック・オルガン(シンセサイザー?)を使っており、ややおとなしい感じがするとともにプログレ的なファンタジックな味わいが出ていると思う。
もう一つ特徴的なのは、ハイトーンのコーラス、ハーモニーである。
不思議なほどに透明感のある CSN&Y か NEW TROLLS 風のハーモニーが、へヴィなサウンドにひときわ映える。
音数多くガンガン突っ込んでゆく、この荒々しい潔さと性急さを基本に、南米ロックのデリケートな叙情性も加味した好作品である。
CD は 4 曲のボーナス・トラック付き。すべて 73 年と 74 年のシングル曲であり、アルバムよりもシンプルなロックンロールではあるが、ギターが叫びクラシカルなオルガンががっちり支える濃厚なテイストである。
「El Mandato」(3:03)ボーナス・トラック。シングル。
「Vuelve Ei Dia A Reinar」(4:02)ボーナス・トラック。シングル。
「Alguien Mas En Quien Confiar」(4:03)ボーナス・トラック。シングル。
「Blues Del Atardecer」(5:38)ボーナス・トラック。シングル。名曲。
「Obertura/El Viejo Serafin」(8:21)
「Más Fuerte Que El Hombre」(3:09)ブギー調だが、ものすごいドラム・フィルのせいで HR とは別の世界に突っ込みかけている。
「Hijio Del Sol Y La Tierra」(5:56)
「Alguien M´s En Quien Confiar」(5:25)序盤では厳かなオルガンが響き渡るも、本編は得意のつんのめりブギーである。ただし、キーボードはバッキングでも目立つ。キメのハーモニーがカッコいい。
「Blues Del Atardecer」(8:57)シングル盤ではこのドラム・ソロが短く切られている。
「Haciendo Blues Y Jazz」(4:12)
(LZ-1316 / RR-0150-2)
Willy Gardi | lead guitar, violin |
Juan Esposito | drums, vocals |
Eduardo Frezza | bass, lead vocals |
Osvaldo Zabala | guitar |
Luis Valenti | hammond organ, vocals |
guest: | |
---|---|
Carlos Mira | acoustic guitar |
76 年発表のアルバム「El Reloj II」。
内容は、テクニカルなハードロック。
ブルーズ色は皆無、ロケンロー/ブギー色も減退し、ヘヴィでスピーディでけたたましいが無機的でアヴァンギャルドな作風となった。
新時代にアップデートされたサイケデリック感覚といってもいいかもしれない。
ハイトーンのシャウトと緊密なツイン・ギターだけが唯一前作から一貫する要素である。
荒々しくもニヒリスティック、トレモロ風の連続音を駆使する変拍子のリフとドラムス連打で隙間を埋め尽くそうとするかと思えば唐突なブレイクで世界の時間を止めるスタイルは、北欧の知将、TRETTIOARIGA KRIGET に通じる。
攻めから一転してアコースティックな音に抑え込み、クールなロマンチシズムや感傷に打ち沈むところもいい。
3〜4 分の曲に極端な変化と大仰な展開を持ち込んで何倍もの聴き応えを生み出している。
狂気とデリケートな審美感覚がとけあった、ハードなプログレッシヴ・ロックの佳作である。
前作に収録されたシングルはアルバム曲よりもキャッチーでシンプルな売れセンだったが、本作の 1、2 曲目に収録されたシングルの作風は、アルバムと大きくは変わらない。
大胆にアヴァンギャルドで攻撃的な作風をバンドのセールス・ポイントとして自信を持って打ち出していたということだ。
「El Hombre Y El Perro」(3:19)ボーナス・トラック。シングル。テクニカルに折れ曲がったハードロックの秀作。
「Camino Al Estucofen」(3:13)ボーナス・トラック。シングル。猛烈かつテクニカルなハードロック。
ブルーズ色が無く JEFF BECK GROUP をさらに尖らせた感じ。ドラムスがすごい。オルガンも暴走に拍車をかける。
「Al Borde Del Abismo」(3:14)せわしなさ全開ながらもドラマのあるハードロック。
ギター、ベースのトレモロとドラムスのロールが重なり合って強烈に共振する。とても 3 分あまりと思えぬ内容だ。
「Tema Triste」(4:47)ヘヴィなエレクトリック・サウンドによる攻撃的なパートとアコースティックなサウンドによる神秘的なパートを組み合わせたプログレらしい作品。
オルガンが活躍する。
はち切れそうなダイナミズムはイタリアン・ロックに似る。
「La Ciudad Desconocida」(10:42)厳かなヴァイオリンが波乱の幕開けを告げる、叙情プログレ大作。
「Aquel Triangulo」(3:07)オルガンがギターを受けて立つ、変則ビートの爆走系作品。
ロケンローに吹き荒れるリズム・チェンジと変拍子の嵐。
「Harto Y Confundido」(4:15)やたらと唐突にブレイクする放送事故寸前系の狂気じみたハードロック。ギターが時計の刻む音に聴こえる。
シンセサイザーのような音はギターのエフェクトか。躁鬱のような落差。
「Tema De Todas Las Epocas」(1:11)アコースティック・ギター・アンサンブル。
「Aquella Dulce Victoria」(3:15)クラシカルなマーチ風の作品。ここでもアコースティック・ギターがかき鳴らされる。
そして、得意の性急なブリッジとリズム・チェンジを叩き込んで波乱を起こす。
「Egolatria」(3:16)肩をいからせたまま走り続けるハードロック・インストゥルメンタル。
中盤のスペイシーな音はさすがにシンセサイザーか。
オルガンが生き血を通わせるいい仕事をしている。
(AVSL-4401 / RR-0160-2)