イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「FESTA MOBILE」。 作品は一枚のみ。 ジャズロック・グループ IL BARICENTRO へと発展的解散。
Francesco Boccuzzi | keyboards, vocals |
Tonio Napoletano | bass |
Giovanni Boccuzzi | keyboards, guitar |
Alessio Alba | guitar |
Maurizio Cobianchi | drums |
73 年発表のアルバム「Diario Di Viaggio Della Festa Mobile」。
ジャケットには五人のメンバーが写っているが、三人のメンバー名のみがクレジットされている。
音から考えて一人はドラムス、一人はギタリストまたはリード・ヴォーカリストと思われる。
(後年ドラムスとギタリストの名前も明らかになった)
内容は、爆発的な演奏力をもつピアノをフィーチュアした技巧的かつ豪快なジャズ風ロック。
歌詞は、タイトル通り旅日記になっているようであり、コンセプト・アルバムらしいことが分かる。
ただし、フォーク風のメロディ・ラインとピアノを主役にした熱気の強いアンサンブルで迫るスタイルに一貫したトーンはあるものの、主題に貫かれたコンセプト作からイメージされるような物語的な調子はない。
ピアノは、クラシック、特に民族楽派調のエキゾチックなロマンとジャズ・フィーリングを基調に、豊潤な音色と奔放なプレイで圧倒的な存在感を示している。
このピアノとシャープなギター、若々しく伸びやかなヴォーカルとが一体となって、ダイナミックな演奏を繰り広げている。
また、リズム・セクションは、技巧的で音数の多いジャズロック調にして荒々しさも備えたスタイルだ。
豪腕ピアノ・ソロにぴったり付き従いつつも一撃のパワーも忘れない演奏が、かなりカッコいい。
これらによる、正面からぐいぐいと押し切るような、血湧き肉踊る演奏が基本である。
一方、リリカルなピアノと要所を押さえるメロディアスなヴォーカル・ハーモニーによるロマンティックなパートもしっかり描けており、アルバムを通すと起伏が感じられる。
ストリングス系キーボードが入って、ややイージー・リスニングめいたイタリアン・ポップス調に流れ込むところもある。
しかしながら、クラシカルなピアノが生み出すシンフォニックかつ幻想的な深い味わいが、全体をグレード・アップすることに成功している。
そして、ベッタリした夢見心地だけではない荒々しさもあり、終始劇的に展開するところがいかにもこの時代のロックらしい。
それにしてもこのピアニスト、イタリアのキース・エマーソンといっていい凄まじい技量/迫力である。
アコースティックなジャズロック、ジャジーなイタリアン・ロックの傑作である。
「La Corte Di Hon」(4:54)左右のチャネルにふられる激しいピアノのオスティナートに圧倒され、呑み込まれるオープニング。
4 拍子と 3 拍子が交錯する爆発的な演奏である。
リズム・セクションの重量感とピアノの重量感が凄まじい一つのモーメンタムとなって迫ってくる。
テンポやリズムの変化も大胆にこなしている。
モダン・クラシック風のメロディと伴奏の生む独特の和声感がおもしろい。
途中チェンバロも使われるが終始、変拍子リフの展開とギターのテーマなどでたたみかけてゆく。
ヴォーカリストは声量があり声質もいい逸材。
ずっしりした重みと弦を引き絞るような緊張感のあるアコースティック・ジャズロック。
「Canto」(6:09)
鋭いリズム・パターンとピアノがドライヴするジャズロック風の作品。
オープニングからして、ドラムスとピアノが波打ち、ギターとベースがアドホックな交歓を見せる、神秘的な RETURN TO FOREVER 風の即興演奏である。
(ピアノの演奏にはキース・ティペットの面影もある)
ピアノの跳躍アルペジオとコンプレッサの効いたギターが熱いヴォーカルを呼び覚ます。
インストの緊張感とヴォーカル・パートのイタリアものらしい素朴で感傷的なラヴ・ソング調のギャップがいい。
典型的なジャズロックのイメージを強めるのは、エレクトリック・ピアノによる間奏。
一方、徹底して情熱的なカンツォーネとずしんと腹に響くピアノの音が独特の瑞々しさと熱気を生み出す。
終盤一分間の即興空間は中期 KING CRIMSON (「Lizard」や「Islands」ですな)の作風にも酷似する。
「Aristea」(5:01)
ピアノとギターをフィーチュアしたハードなジャズロック調のオープニングを経て、華やかなバッキングと伸びやかな歌唱によるきわめて王道的な歌ものへ進み、やがてジャズへと変化する。
場面転換を支えるのは幻想的な広がりを感じさせるストリングス、転がる宝石のように美しいチェンバロとしなやかなギターの間奏。
メロディアスなギターをリードにタイトにしてロマンティックな、LOCANDA DELLE FATE に迫るようなインストゥルメンタルが繰り広げられる。
中盤はポップスとしてもかなりの水準になるが、エンディングでは怪しいピアノのオスティナートの冷水をぶっかけて目を覚まさせる辺りがプログレである。
イタリアン・ロックらしい「行ったきり帰ってこない」作品である。
「Ljalja」(6:50)
ファンタジーを正邪両面から描いたようなシンフォニック・ロックの傑作。
冒頭から再び腕力の限界に挑むようなピアノの変拍子オスティナートが炸裂、そしてメロディアスなギター
(TAI PHONG を思わせるストラト特有のコンプレッサ・トーンがいい)
のリードでロマンティックなストーリーが幕を開ける。
ヴォーカル・ハーモニーは健やかにしてほどよい甘みのあるイタリアン・ロックの魅力あふれるもの。
打ち寄せる波のようなピアノと風にわななく夜霧のようなストリングス。
ディミニッシュのギター・リフとピアノのオスティナートが邪悪なアクセントをつけるも、再び優美な世界へと帰ってゆく。
歌を支えるリズム・セクションのていねいなプレイが印象的だ。
フェード・アウトしない、聴き終わった後にすてきな余韻を残す名品だ。
「Ritorno」(8:44)即興演奏を交えた現代音楽風の幻想大作。
不気味なベースに支えられた奇想曲風のきまぐれなソロ・ピアノ(ディミニッシュ・コード好き)が、次々と奔放な即興を呼び覚ます。
鐘の音とピアノのミスマッチがこの後の歪な展開を予言するかのようだ。
場面転換とムードの切り換えは主にピアノのプレイに負っている。
無常感を湛えた歌とピアノ伴奏の和声に微妙なずれがあり、それが緊張を生み不安を強める。
ピアノの間奏もその不安感に気づき、祈るように新しい展開を待ち受ける。
歌は次第に呪文に近づき、ハーモニーにも翳りが現れ、ピアノも一段とざわめきを強める。
一転、ピアノとエレクトリック・ピアノによる EL&P の「Tarkus」と RETURN TO FOREVER が交じったようなド迫力の終局へとなだれ込む。
最後はエレクトリックなノイズが渦を巻く。
旅の終りは再び何かの始まりである(実際後年 Il BARICENTRO として再出発するのだが)、ということを示唆するかのような(曲名も「回帰」である)、不気味なエネルギーをはらむエンディングである。
PINK FLOYD ファンにも受けそうなプログレ大作だ。
(DPSL 10605 / RCA ND 74120)