IL BARICENTRO

  イタリアのジャズロック・グループ「IL BARICENTRO」。 FESTA MOBILE の後継グループ。 作品は二枚。 サウンドはツイン・キーボードによるテクニカルなジャズロック。

 Sconcerto
 
Francesco Boccuzzi keyboards, guitar, percussion
Vanni Boccuzzi keyboards, percussion
Tonio Napoletano bass, percussion
Piero Mangini drums, percussion

  76 年発表のアルバム「Sconcerto」。 内容は、ツイン・キーボードをフィーチュアしたテクニカルかつファンタジックなジャズロック・インストゥルメンタル。 ギターはない。 挑戦的な変拍子リフの上で、二つのキーボードがせめぎあい火花を散らす緊張感あふれる演奏から、たゆとうシンセサイザーをピアノが波打たせる幻想的な演奏まで、多彩な音とアンサンブルがある。 キーボードは、エレピ、クラヴィネットを主に、ストリングス・シンセサイザー、ピアノ、ムーグ・シンセサイザー、オルガンさらにはチェンバロも用いている。 こういう作風で生のチェンバロを使うのは、なかなか珍しい。 そして、サウンドの幅広さだけでなく、演奏面でもセンスのよさが際立つ。 特に、レガートとスタカートの対比による音の立体感の演出が巧みであり、とりわけソロ・パートでは、サステインを効かせたソリストとシャープなバッキングを巧みに対比させて、みごとなメリハリをつけている。 さらに、息詰まるようなユニゾンからメロディアスなフレーズへの緊縮/開放の妙、ふんだんに盛り込まれた華やかなオブリガート、流れるようなテンポ/調子の変化など、演奏力を活かした華麗な表現が盛り込まれている。 そして、リズム・セクションは、ジャズ的な丹念さをもつドラムスと、ファズを用いたり大胆なラインを走るなどプレイに幅を持たせるベースによる、柔軟かつ迫力もある理想的なもの。 おそらく、刻みたたみかけるプレイが派手なだけに、メローなテーマやファンタジックな音の広がりが、いっそう美しく感じられるという面もあるだろう。 ソウル・タッチでファンキーに跳ねたりもするが、どちらかといえば、弾力性よりも鋭角的で硬いタッチが感じられ、カラフルでファンタジックなイメージが強い。 ハービー・ハンコックのリリカルなプレイにヤン・ハマーの押しの強さを少し加えたような感じ、といえばいいだろうか。 アグレッシヴな演奏にも、汗や熱気よりも、クラシカルな落ちつきとアートっぽい審美センスがある。 全編インストゥルメンタル。 イメージは、ギターのいない中期 RETURN TO FOREVER、もしくは派手な SOFT MACHINE、もしくはギターのいない ISOTOPE。 なににせよ、キーボード・ジャズロックの傑作の一つといえるでしょう。

  「Sconcerto」(4:54)SOFT MACHINE を思わせる 7+4 拍子のリフがダイナミックにドライヴし、次々と華々しいキーボード・プレイが現れるワイルドなジャズロック。 メローなメロディを織り交ぜつつも終始ノリノリです。チェンバロ、粘っこいムーグ・シンセサイザーが新鮮。密度の高い名曲です。

  「Lido Bianco」(9:56)幻想的かつクールなスロー・バラード。 波打つアコースティック・ピアノ、泡立つエレクトリック・ピアノ、さえずるムーグ・シンセサイザー、そして体の芯まで染みとおりそうなストリングス。中盤、終盤の木管楽器を思わせるムーグ・ソロがみごと。ファズ・ベースによる引き締めも効いています。 終盤メロトロンもうっすらと。スタイルはジャズロックながらも、アメリカ風の「いいや、よくわかんなくなったから踊っちゃえ」みたいな頭の悪い感じは皆無です。 悠久の物語があるところがヨーロッパです。

  「Meridioni E Paralleli」(6:12)抑制と開放の連続が MAHAVISHNU ORCHESTRA 風の緊張感をもたらす佳作。 シンセサイザーによるスペイシーな 4+3 拍子のリズム・パターン、リフともに非常にモダンなセンスを感じさせる。 職人系ミュージシャンらしく時代の音には敏感な模様。 ファンキーなようで変拍子、ハウスっぽいのにストリングスがさーっと流れる。 「抑制と開放」というスキームとファンタジックなストーリーがうまく融合している。 エピローグのピアノが粋。

  「Afka」(6:22)小気味いいソウル・ジャズ、ややシティ・ポップス寄りのジャズロック。 クラヴィネット系キーボードが 5+4 拍子のリフを刻み、ここでも管楽器系のムーグ・ソロがフィーチュアされる。 パーカッションの音や跳ねる全体演奏はクインシー・ジョーンズ風、しかしそういったブラコン風味を多彩なエレクトリック・キーボード・サウンドが凌駕する。

  「Pietre Di Luna」(4:26)硬軟、動静メリハリのある HAPPY THE MAN 風の作品。

  「Della Venis」(4:17)ムーグが歌い、ストリングスが霧のようにファンタジーを吹き上げる叙情的な作品。ドラムレス。アコースティック・ギターのような音はチェンバロだろう。

  「Comunque....(Todo Modo)」(5:27) 後期 RETURN TO FOREVER のような壮大でポップなジャズロック・チューン。 パット・メセニーの世界に迫る。 悠然たるストリングスの調べ、湧き立つグランド・ピアノ、ギターのようにジャジーでまろやかなエレクトリック・ピアノ。 ベースが大きくフィーチュアされている。
  
(3C064-18152 / MMP210)

 Trusciant
 
Francesco Boccuzzi electric & acoustic keyboards, electric & acoustic guitar
Vanni Boccuzzi electric & acoustic keyboards
Tonio Napoletano bass
Piero Mangini drums
Luis Agudo berimbau, cuica, agogo, african percussion
Max Rocci congas

  78 年発表のアルバム「Trusciant」。 内容は、前作よりもシンセサイザーを多用し、ドリーミーなサウンドとファンキーなビート感を強めたフュージョン寄りのジャズロック。 反復こそ用いられるが、攻め立てるような調子はなくなり、リズミカルにしてメロディアスなテーマを活かした聴きやすい音になっている。 テクニックの応酬のようなスリリングな内容を期待すると、やや外すかもしれない。 楽曲から生み出されるイメージの世界に、ゆったり遊ぶような聴き方がいいだろう。 それでも、イージーに流れそうなところで、ヨーロッパの哀愁の象徴たるアコースティック・ピアノがロマンティックなアクセントとして現れるなど、さすがと思わせる瞬間も多い。 全編インストゥルメンタル。

  「Karwan」()
  「Trusciant」()
  「Falo」()
  「Akua」()
  「Flox」()
  「Font'amara」()
  「Vivo」()
  
(EMI 3C064-18322 / VM CD 079)


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