イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「GIZMO」。 75 年結成。作品は五枚。ヴァイオリンとキーボードをフィーチュアしたプログレ・ポップ。なんだかんだ現役。
Steve Wise | drums, percussion |
Brian Gould | keyboards, Mini-moog, Farfisa organ, clavinet |
Maurice Memmott | Farfisa organ, Fender Rhodes, violin |
Dave Radford | vocals, guitar, 12-string guitar |
79 年発表のアルバム「Just Like Master Bates」。
内容は、ヴァイオリンの存在とキラキラとしたキーボードの多用が特徴のリズミカルなプログレ・ポップ。
牧歌調ですらある詩的でおだやかな歌ものにエレクトリック・キーボードで思い切り化粧を施した独特の路線である。
ベース・パートもシンセサイザーでカヴァーしているところが、ニューウェーヴ、モダンポップ的である。(ベーシストはツアーには参加したようだがアルバムには不参加)
AOR っぽいメローで落ちついた感じをキッチュで鋭いタッチ(つっかかるような変拍子もあり)が切り刻むところもおもしろい。
ローズ、クラヴィネット、ファルフィッサなどアナログ・キーボードながらもキツめでとんがった感じになるは、SEVENTH WAVE 出身のブライアン・グールドのセンスだろうか。
鍵盤楽器とヴァイオリンがうまくまとまるとクラシカルな響きのアンサンブルになることもある。
そして、英国ものらしいウェットで感傷的な響きは、曲調を問わず随所に現れる。
どんなに奇天烈でケバくても、必ずこのデカダンスすれすれの哀愁があるから英国ロックのファンが絶えないのである。
何にせよ、デイヴ・ラドフォードの作曲センスにキーボード中心のサウンド・メイクが合わさって完成したスタイルだと思う。
リード・ヴォーカルは、ヴィヴラートが独特な美声だが節回しがイアン・アンダーソン似。
70 年代終盤ではあるがポンプ、ネオプログレというよりは、グラム経由のオールドウェーヴ寄りプログレ・ポップというべきだろう。
(こんなことをいっても英国ロック・ファン以外には違いが分からないとは思うが)
ドラムスが音を惜しまないのもこの時期が最後。
「Gravity Brings You Down」(4:36)変拍子のリフとヴァイオリン、癖のあるメロディ・ライン、個性的な美声のヴォーカルが特徴。
「Long Gone Song」(5:20)要所で広がりのあるインストがフィーチュアされるも、テクノやエレポップ路線に近づいた作品。
チープなキーボード・サウンド、軽妙な反復、シンプルな縦揺れビートがニューウェーブっぽさの主たる理由か。
終盤のロマンティックなヴァイオリン・ソロからエンディングへの展開は極めてプログレ的。
「Storyteller」(4:10)キーボードをフィーチュアした繊細なバラード。
エレクトリック・ピアノやオルガンなどチープながらもオルゴールのような響きに童心へのノスタルジアを感じさせるキーボード群とシンセ・ベースが不思議なコンビネーションを成して、細やかな表情を見せる。
曲のセンスは初期の MARILLION に近い。
「Those Lying Eyes」(6:06)一転してアコースティックなニュアンスのあるフォーク・ロック風の作品。
ここでも愛らしいキーボードの音が聴ける。ドラムスが渾身のフィル。
「Kismet-Hour Glass-Not That Far To Go」(9:22)スペイシーで疾走感ある大作。
「Come The Day」(5:10)ヴァイオリンを生かしたセンチメンタルなバラード。ここでも MARILLION と同じ匂いを感じる。
「Dance Of The Emmets」(4:24)Y.M.O や カナダの FM ばりのスペイシーな変拍子シンセサイザー・インストゥルメンタル。往時の用語でいうなれば「テクノ」です。ヴァイオリンも活躍。
「One And One Is Two」(3:06)ハートウォームな、というかかなりカマトトで不気味なラヴ・ソング。
ドイツ・ロックの感性に近いような気もする。
「Onto The Sun」()次作収録曲。ヴァイオリンを生かしたドイツ・フォーク風の過剰にロマンティックな作品。
「Armageddon」()未発表曲。デモ音源。
(ACE 001 / CANTERD003)
Dave Radford | guitars, vocals |
Brian Gould | keyboards, backing vocals |
Steve Wise | percussion, backing vocals |
Maurice Memmott | piano, violin, organ |
Graeme Quinton-Jones | lead guitar on 8 |
81 年発表のアルバム「Victims」。
内容は、時宜を得たテクノ風味も交えるプログレ・ポップ。
シンセサイザーと人力ドラムによる縦揺れ 8 ビートとヴォコーダー・ヴォイスにびっくりするが、もろなテクノ・テイストはさほどでなく、前作同様妙にオペラ風の力みかえったヴォーカルと軽妙なシンセサイザーが特徴的な、プログレなのかクラウト・ロック・フォロワーなのか判然としない、奇天烈な個性を発揮する作品が主である。
メロディ・ラインや和声は普通にロックっぽいが、人工的でチープなエレクトリック・サウンドに固執しており、B 級 SF 映画を思わせる珍妙でコミカルな雰囲気が横溢する。
とはいえ、ミニマリズムやマシン・ビートによる無機性を強調しつつも、メロディアスでクラシカルな展開も多く、結局 70 年代プログレの感性そのままに、サウンドだけ 80 年代に入ってしまったということのようだ。
何にせよあまり例のない屈折のしかたである。
ドイツ・フォーク調の素朴なメルヘン・タッチとけばけばしいエレクトリック・サウンドの取り合わせもかなり不気味だ。
CD ボーナス・トラックは、基本的にはシンフォニックなプログレを志向していることが分かる佳作。
「Time Waits For No-one」(4:17)
「Victims」(4:22)
「Man With The Plastic Knows」(4:00)
「Onto The Sun」(2:40)
「Looking Through The Knothole In Granny’s Wooden Leg」(2:54)インストゥルメンタル。
「Small Garden」(5:47)ネオ・プログレ、ポンプ・ロックに一歩先んじた作風。
「Diorama」(2:25)ピアノ・ソロ。
「Mary Celeste」(9:34)アナログ感あふれるエレクトリック・サウンドによるシンフォニックなインストゥルメンタル。
「Hey You」(8:30)85 年のシングル(カセット)盤。CD のみの収録トラック。ヴァイオリンをフィーチュアした哀愁メロディアス・チューン。TAI PHONG に迫る。
「Mars」(7:13)85 年のシングル(カセット)盤。CD のみの収録トラック。グスタフ・ホルストの名作のアレンジ。
(UGU 00291)