カナダのプログレッシヴ・ロック・グループ「FM」。 76 年結成。 87 年解散。 作品は七枚。
Cameron Hawkins | synthesizer, bass, piano, lead vocals |
Martin Deller | drums, percussion, synthesizer |
Nash The Slash | violin, mandolin, glockenspiel, vocals, effects |
77 年発表の第一作「Black Noise」。
77年に録音、限定的に発売され、78 年に再発された。
この間にオリジナル・メンバーのナッシュ・ザ・スラッシュは脱退し、ベン・ミンクが加入している。
内容は、シンセサイザーとヴァイオリンをフィーチュアしたつややかでカラフルなサウンドのエレクトリック・ポップロック。
キャッチーなメロディを万華鏡のように多彩な音で包み込んだ歌ものと、スリリングなインストゥルメンタルを組み合わせた作品であり、本気度はどちらかというと後者にありそうである。
作風は、ELO や UTOPIA、ALAN PARSON'S PROJECT のようなスペイシーなポップスに、STYX 辺りの北米のハードポップを交えたものであり、ややテクノっぽい音の使い方などからも、スペイシーにしてあくまで明快な 70 年代後半らしい音といえる。
ただし、エレクトリック・ヴァイオリンとシンセサイザーのなめらかなプレイには、相当なテクニックの裏づけがありそうだ。
快速アンサンブルをキリキリ舞いするようにドライヴする技巧の冴えがある。
70 年代前半は、雑多な音楽志向とチャレンジングな演奏で日々を過ごしていたのではないだろうか。
本作、キャッチーな歌とカラフルなサウンドによるスペイシーなポップロック路線を主役にしつつも、プログレ志向をしっかりと配置していると思う。
ただし、そのサウンドゆえ、70 年代前半プログレ固有のクラシック/ジャズ・テイストや重厚さ、深刻さ、神秘性はやや見えにくくなっている。
歌詞は SF 趣味だが、思索性よりは「STAR WARS」的な娯楽性が強い。
この SF チックなイメージが、シンセサイザーに代表される未来風のサウンドとよくマッチして、効果を上げているのは確かである。そして、このディズニー・ランド的、コミック・ブック的なイージーさ (ついついロックに高尚な芸術性を求めてしまうのは私の悪い癖) を払拭するのが、上にも述べたジャズ/フュージョン風の、テクニカルでスリリングなインストゥルメンタル・チューンの存在だろう。
絢爛たるシンセサイザーの音に隠され気味ではあるが、音数の多いリズム・セクションとヴァイオリンの絡みはかなり刺激的である。
また、ギターの代わりに使われるエレクトリック・マンドリンの何ともいえぬユーモラスな味わいも、忘れてならない特徴である。
ELO や APP らが拓き、80 年代に入って ASIA、90125YES らが拠り所として求めた道に、彼らは 77 年にしてすでにたどりついていたようだ。
個人的には、U.K. 同様懐かしい音だが、やや深みに欠けることも否定できない。
もちろん、聴きやすくプログレ心をくすぐる音であるのも確かなのだが。
「Phasors On Stun」(3:49)シンセサイザーがきらめくスペイシーな歌もの。
歌メロと明快なドラム・ビートのせいで、どこかで聴いたようなチャート向きハードポップのイメージが強まる。
ただし、インストゥルメンタルはなかなか凝っている。
「One O'clock Tomorrow」(6:05)シンセサイザー・ストリングスがざわめくファンタジックで甘めのポップ・ロック。
ELO や 10CC がやっていそう。
クレジットはないが、エレキギターのプレイが演奏をリードしていると思う。
後半はシャフル気味のミドル・テンポで安定感のあるアリーナ・ロックとなる。
「Hours」(2:36)シンセサイザーとエレクトリック・ヴァイオリンがスリリングなインタープレイを見せるジャズロック調の小品。
ピアノがバッキングし、ドラムスも手数を惜しまない。インストゥルメンタル。
「Journey」(4:41)ELOY のようにディープ・スペイシーなハードロック。
「Dailing For Dharma」(3:15)シンセサイザー・ビートながらもフュージョン風という、ミスマッチが特徴的なインストゥルメンタル。「ライディーン」のようだが、こちらのほうが泥臭い。
「Slaughter In Robot Village」(5:02)スペイシーなシンセサイザーとヴァイオリンをフィーチュアした、勇ましくたくましいインストゥルメンタル。
デジタルな EL&P。
ジャズロック的なリズムで演奏を駆動するドラムス、ベースが聴きもの。
シンセイサイザーが生み出すサイケデリックな酩酊感というのは、GONG 以外ではわりと珍しい。
「Aldebaran」(5:02)ロマンチックな歌もの。
エレクトリック・マンドリンがキュート。
「Black Noise」(9:56)デジタル・フィーリングとスペイシーな広がりをブレンドし、動と静をコントラストしたドラマチックな佳作。
特に、ヴァイオリンとシンセサイザーによるリズムレスのファンタジックなシーンがいい。
ドラムスや効果音をうまく使っている。
これだけ感情移入をしながらも、どこか能天気さが隠せないヴォーカル・パートが、いかにもアメプロ・ハード風。
(LM455 / OW 33651)
Cameron Hawkins | keyboards, bass, lead vocals |
Martin Deller | drums, percussion, synthesizer percussion |
Ben Mink | 5 string violin, 5 string electric mandolin |
77 年発表の第二作「Headroom」。
リード・ヴァイオリニストがベン・ミンクに交代。
「Direct to disc」の副題通りのダイレクトカット盤である。
LP の A/B 面それぞれに、15 分あまりの大作を 1 曲づつ収録している。
当然ながら演奏はややラフだが(最低限リアルタイムでの調整/加工を施されているためバランスは悪くない)、エレクトリック・ヴァイオリンの音を活かしたロマンティックかつスリリングな内容である。
ギター不在を補うホーキンスのベースのプレイもみごと。
RUSH よりもずっとプログレ寄り。
2013 年 ESOTERIC より CD 化再発。
「Headroom」5 パートから構成される。序盤はヴァイオリンとベース、ドラムスによるスリリングな演奏、ドラムレスのブリッジをはさみ、ヴァイオリンがリードするジャジーなバッキングが冴えるヴォーカル・パートへ。ここからシンセサイザーも活躍し始める。再びヴァイオリンが歌い上げるファンタジックなブリッジを経て、長いクレシェンドとともに幻想的な演奏が高まってゆく。
「Vorder Crossing」自ら「ロック、ジャズ、クラシックの影響を受けた作曲」と掲げる作品。4 パートから構成される。冒頭、ジャジーな変拍子のパートでは、ギターとキーボード・シーケンスが聞こえるのでヴァイオリニストは休憩か。
(LBR 1001)