フランスのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「HALLOWEEN」。 80 年代中盤から活動するグループ。 ヴァイオリン、キーボードをフィーチュアしたミステリアスな作風である。 ANGE や PINK FLOYD を思わせる暗鬱な曲展開が特徴だ。 メロディアスなソロやシンプルなリズムなど、いかにも 80 年代以降の音だが、古典的で重厚な雰囲気をもつところがおもしろい。 2001 年新作発表。
Jean-Philippe Brun | violin, vocals on 2,7,8 |
Stephane Kerihnel | guitars, vocals on 5 |
Phillipe Di Faostino | drums, percussion |
Emmannel Martre | bass |
Gilles Coppin | keyboards, backing vocals on 2 |
guest: | |
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Geraldine Le Cocq | vocals on 1,3,4,6,7 |
Antoine Guyomard | backing vocals on 7 |
Stphie Bellard | backing vocals on 5 |
2001 年発表の第五作「Le Festin」。
待望の新作は、フレンチ・ロックの伝統とエキゾチズム、モダンなポップ・センスのかみあった傑作。
狂おしいヴァイオリン、妖艶なるフレンチ・ヴォイスの女性ヴォーカルらによる、ヘヴィで耽美な世界である。
今回の特徴は、バンド形態がしっかりしていること、さらには、ヴァイオレントかつタイトなアンサンブルを貫くヴァイオリン、ヴォーカルが闇黒にして濃密な詩情を浮かび上がらせることである。
特に、リーダーのヴァイオリニストがリード・ヴォーカルをとるナンバーは、ゴシック・ホラーもしくはポー・ラヴクラフト的といってもいい。
シンフォニック・ロックというよりは、ゴシック・メタルからヘビメタ臭さを払拭して、現代音楽/チェンバー風味を加えたような音であり、大仰さよりも、そぎ落とした音を演出で「見せる」芸の世界ともいえる。
男女のヴォーカルの対比や、ヴァイオリン、ピアノらアコースティック楽器対エレクトリック楽器などの音質の対比を巧みに用いてダークな演出を効かせており、エンタテインメントとしてとても分かりやすく、ある意味ポップ・フィーリングがある。
それでも、コミック・ブック、ハリウッド映画的にならず、オーセンティックな芸術性を感じさせるところがみごとだ。
暗鬱で耽美なトーンにさまざまな音楽性を交差させて、そこから浮かび上がるものを、うまくすくいあげて提示しており、ボーダーレスな音楽的逞しさというプログレ本来の魅力をたっぷり盛りこんだ内容といえるだろう。
4 曲目、10 分にわたるシェーラザードの物語は、ミステリアスなモノローグと、フリーなようで緊密な連携を見せて蠢くアンサンブルが流麗な筆致で進む傑作。
5 曲目は、ヘヴィ・メタリックなギター、ベースが牙を剥き、ヴァイオリンが狂喜乱舞する強力な作品。
6 曲目は、コケットなささやきが底なしの不気味さをもつバラード。
アン・ライスのファンにはお薦め。
7 曲目、タイトル・チューンは、リリカルなヴォイスと KING CRIMSON のケイオティックな爆発力を兼ね備えた力作。
「L'Autre」(6:37)
「Le Retour Du Bouffon」(6:26)
「Neurotic」(4:54)
「Sheherazade」(10:23)
「Coma」(5:06)
「Araignee」(5:25)
「Le Festin」(7:55)
「Carnage」(6:55)
(MUSEA FGBG 4365.AR)
Gilles Coppin | keyboards, lead vocals on 2,3,4,7(French),8 |
Jean-Philippe Brun | violin, guitar, bass, lead vocal on 1,5,7,9,10 |
Thierry Gillet | drums |
88 年発表の第一作「Part One」。
トリオ編成によるデビュー作品。
内容は、ヴァイオリンをフィーチュアしたクラシカルで陰鬱、官能的で虚無的なフランス圏らしいメロディアス・シンフォニック・ロック。
不気味なジャケットやフランス語による演劇風のヴォーカル・スタイルなどは ANGE、エキセントリックで自己陶酔風なところは VAN DER GRAAF GENERATOR に通じる、一種の闇の力を感じさせるパフォーマンスである。
そもそも HALLOWEEN のいうグループ名からして、現実とはうまくやっていけないんです的雰囲気全開。
深刻なヴァイオリンの音色やミステリアスなシンセサイザーの音、そして不安をかき回しながらドラマチックに進んでゆく展開など、決して期待は裏切られない。
当然ながらニューウェーヴ以降のモダンなデカダンスを匂わせるタッチもあり。
また、おそらく、メンバーは時期的に MARILLION の音は耳にしていたであろう。(ギターの表現など)
ただ、暗さ、病み方の英仏での違いが、そのまま音に出ているような気がする。
何にせよ、フランス暗黒ロックの正統後継者としてその名に恥じぬ傑作といえる。
ユーロ・ネオ・プログレの中では屈指の作品。
1 曲目「Outsider」(5:54)オープニングは、パガニーニを思わせる鮮烈なヴァイオリンのアルペジオである。
すばらしい演奏だ。
ヴァイオリンと透明感のあるシンセサイザーが二声で演奏をリードする。
シンセサイザーはテーマから伴奏、効果音で全体を仕切る。
ヴォーカルは重苦しい表情だ。
英語である。
「Outsider」とはコリン・ウィルソンかラヴクラフトか。
間奏は、シンセサイザーによるオーケストレーション。
音色がかわいい(DX7 か)のが難点。
ヴァイオリンは随所で鮮やかなプレイを見せる。
やや英語のヴォーカルに力が足りないが、暗く重いムードはネオ・プログレッシヴ・ロックの中では珍しい個性である。
重厚にして切実な情感がストレートに訴えかけてくる。
2 曲目「What's In」(3:52)シンセサイザー特有の、管弦鍵盤すべてがまじったような倍音豊かな音色のリフレイン。
英語のヴォーカルはやや舌足らずでつたない。
メロディは、切実だがどこかエスプリを感じさせるユニークなもの。
ヴォーカル表現では母国語でない英語のせいで独特の拙さ、幼さが強調される。
間奏はフルートのようなシンセサイザーのソロ。
高く流れるシンセサイザーに対してベースが心地よく動く。
ドラムレスの感傷的なバラードである。
3 曲目「Beginning」(5:54)
意表を突く長調のリフレイン。
エフェクトされたピアノのようだが、おそらくシンセサイザーだろう。
パッセージは、あたかもメリーゴーラウンドのように、くるくると回転する。
ロングトーンのギターが入り、ティンパニや低音のストリングスが轟く辺りから、どんどん重く強圧的なムードが高まる。
ヴァイオリンもリフを刻んでいる。
8 分の 6 拍子と 8 分の 5 拍子による複合リズム。
シンセサイザーがリフに合流し、ヴァイオリンとクラシカルなアンサンブルを形づくりながら走り出す。
ここは 8 分の 7 拍子。
ドラマチックな展開だ。
再び、シンセサイザーがオープニングを思わせる軽快なリフを刻み、ヴァイオリンとともにジャジーな演奏を続ける。
いってみれば、ダークなステファン・グラッペリである。
一転リズムが止み、ストリングス系のシンセサイザーが響き渡る。
そして憂鬱なヴォーカル。
オブリガートから間奏へと続くヴァイオリンが美しい。
ピアノが静かにアルペジオを奏でている。
ロマンチックなヴァイオリンの調べ。
そして、ストリングス・シンセサイザーの幻想的な響き。
フェード・インするパーカッション。
再び勢いよくアンサンブルが走り出す。
ヴァイオリンとシンセサイザーのクラシカルなデュオ。
リズムが強まり、加速するトゥッティ。
急激な停止。
目覚めの気鬱と白昼夢が交じりあったようなファンタジックにして薄暗いメロディアス・シンフォニック・チューン。
ヴァイオリンとシンセサイザーがクラシカルなアンサンブルからヘヴィなインタープレイまで多彩な演奏を見せる。
調性とリズムの変化、運動と休止の切換がコントラストし劇的な効果を上げる。
アコースティックな音とエレクトリックでヘヴィな音をゆき交う演奏は、アルバム中でも屈指の出来だ。
スピーディなリフや叙情的なメロディなど、ヴァイオリンは卓越した演奏を見せる。
ヴォーカルは英語。ただし、インストゥルメンタルが主。
4 曲目「Never Die!」(3:50)アコースティック・ピアノとギターが美しい陰鬱なバラード。
伴奏は、冷たい質感のシンセサイザー。
ギターは、伴奏ではピックアップの切り換えで音色の変化をつけ、グリッサンドを巧みに使いながらなめらかなメロディを紡ぐ。
オーヴァーダビングされ、木霊のように響きあうギターの間奏も美しい。
ヴォーカルは激しく表情をかえるが、メロディ自体はポップであり聴きやすい。
ヴォーカルは英語。
5 曲目「Heart Beat」(4:24)
コラール風のシンセサイザーと鼓動のようなビートが、ゴシック・ホラー的な恐怖感をあおるミステリアスな作品。
フランス語の一人芝居風バリトン・ヴォーカルが、強烈に演奏をリードする。
重く暗い演奏は、巨大な生き物のようにのっそりと動きだす。
対照的に、ギターは、ここでもハケット、ロザリー調のなめらかなグリッサンドを用いたフレーズで躍動的だがどこかぬめぬめとした感触を演出する。
間奏にはヴァイオリンも加わり、メロディアスな演奏でシンフォニックな盛り上がりを見せる。
そして、再び力を回復したかのようなヴォーカルが、ややスピードを上げて襲い掛かる。
低音を強調した器楽も迫力があるが、ここでは何よりヴォーカルの存在感が圧倒的。
ごくシンプルな展開だが、一つ一つのプレイが重みを持ち、恐怖映画的な効果を鮮やかにあげている。
傑作。フランス語の語り調はやはり強烈。
6 曲目「The Passage」(1:30)
キーボードをフィーチュアしたインストゥルメンタル小品。
シンセサイザーはフルートのような繊細な響きで天翔け、キラキラと星をはくような伴奏をまろやかに奏でる。
湧き立つ泉のようなピアノも美しい。
7 曲目「Jester's Dance」(4:36)
ベースとシンセサイザーが織り成すダークな演奏と、英仏まじったヴォーカルが演劇的な効果をもつオープニング。
ヴァイオリンのリードによる邪悪なムードの横溢する間奏。
そして華麗なソロ。
シンセサイザーは、厳かな儀式のように大仰な和音を轟かせる。
再びビートが強まり、ヴァイオリンが狂おしく暴れる。
噛みつくようなヴォーカルとなめらかに舞うギター。
再びシンセサイザーがイントロの低音リフを刻む。
「Jester...」と吐き出すヴォーカル。
弾けるようなスネア・ドラムがフェード・アウトしてゆく。
シアトリカルなヴォーカル、分厚いシンセサイザー、なめらかなギター、8 分の 7 拍子リフなどなど、MARILLION 直系の GENESIS クローン型ネオ・プログレッシヴ・ロック。
ANGE 直系ではなく MARILLION が思い浮かんでしまうのは、ひとえにメイン・ヴォーカルが英語のため。
したがってフランス語のモノローグが入ると、途端にリアルな感触があらわれる。
独特の暗さとヴァイオリンに代表されるオーセンティックでパワフルな演奏が、まがいものっぽさを払拭し、新たなスタイルを提示している。
これくらい演奏技術があると、「道化師」のようなやや手垢のついた表現もリアリティをもってくる。
リズムは 8 分の 7 拍子が基本だが、どこかこっけいなリフのおかげでかえってステレオ・タイプ化していない。
やはり ANGE の伝統が生きている。
ヨーロッパ・ロック特有の暗黒面を誇示する佳作。
8 曲目「Halloween」(10:15)感傷的にして沈痛、官能的にして幼いシンフォニック大作。
不気味なモノローグによる怪しいイントロダクション。
ストリングスはウェットで怪奇な響きで泣きそぼるギターの調べを包み込む。
一転して、5 拍子による
そこでもヴォーカルは冒頭のモノローグを引き継ぐ無表情を貫くも、ピアノのストロークに合わせて、朗唱へと変化し、やがては怪しいシャウトへと発展する。
ごぼごぼと沸き立つハモンド・オルガン、そして狂おしく暴れるギターをストリングスが果敢に取りまとめようとする。
序章のインダストリアルな音響がよみがえるも、ストリングスがシンフォニックな高まりを志向し、テンポ・ダウンとともにギターとストリングスがステージを整える。
雨だれのように感傷的なピアノの爪弾き、この幼年期の感傷と狂気を綴る語り口は、初期 MARILLION の作風に近い。
憂鬱なる弦楽の調べは、ゆったりとしたアンサンブルを導き、ギターは哀愁と狂気の狭間で泣きじゃくる。
うつむくかと思えば、顔を上げ、昇天の時に周囲を取り囲む天使のようなストリングスとともにギターはりゅうりゅうと歌い続ける。
暗く憂鬱なオープニングから、変化に富んだ情景を経て、壮大なシンフォニーへと翔け上がる巨編。
複合拍子、ハモンド・オルガン、スリリングなインタープレイそして悠然たる叙情と、GENESIS に代表される 70 年代ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロック特有の成分を惜しみなく叩き込んだ力作である。
ストリングス系のシンセサイザーを伴奏に、リリカルなヴァイオリンそしてそのヴァイオリンから旋律を受け継ぐハケット風ギターが歌い上げるさまは感動的。
終盤、朗々たる讃歌を奏で続けるギターはアルバム一の名演。
大傑作。
「Jester's Dance」(4:32)。
ライヴ・テイクのボーナス・トラック。
ほぼスタジオ盤とおなじアレンジのようだ。
「Outsider」(6:42)。
ライヴ・テイクのボーナス・トラック。
スタジオ盤と異なりヴァイオリンによる強烈なカデンツァを聴くことができる。
クラシカルでミステリアスに黒光りするサウンドによる悪夢的なシンフォニック・ロック。
ANGE や MONA LIZA を思わせるフランス語のヴォーカルと 70 年代にはなかった透明感のある音色のコンビネーションが新鮮だ。
緊張感を高め、重厚さを演出するヴァイオリンは、本格的な技巧派。1 曲目の鮮やかなアルペジオに明らかだ。
このヴァイオリンに加えて、きらめく音色と相反する漆黒の闇を連想させるシンセサイザーと、邪悪な祈りのように感情を高ぶらせるヴォーカル、ギターなどの要素が重なりあい、交響曲的な高まりを見せるかと思えば、頼りなげな歌が繊細な叙情を紡いでゆく。
緩急の変化やリズムのチェンジも頻繁に起こり、演奏はあちこちで澱み、渦を巻く。
しかし、いつしかすべては怒涛のような演奏に押し流されてゆく。
ヴォーカルは、フランス語独特のモノローグ調と単語毎にシャウトするようなエキセントリックなスタイルを存分に活かしている。
ヴォーカルは英語(PINK FLOYD 風)とフランス語が混在するが、5 曲目を聴いてしまうと絶対にフランス語で通すべきだと確信する。
ドラムスがやや歯切れ悪いことと、デジタル・シンセサイザーの薄味の音色をのぞいて文句なし。
演劇的で悪夢を描いたようなナンバーから最終曲のような雄大なシンフォニック・ロックまで、幅広い音楽のつまった傑作である。
ダークなサウンドが好みの方には無条件でお薦め。
(MUSEA FGBG 4123.AR)
Gilles Coppin | synthesizer, vocals |
Jean-Philippe Brun | violin, guitar, lead vocals |
Philippe Di Faostino | acousitc & electric drums, percussion |
Yann Honore | bass |
89 年発表の第二作「Laz」ドラムスがメンバー交代、ベーシストも迎えて 四人編成になった。
H.P.ラブクラフトを素材にとるなど、暗黒シンフォニー路線は堅持されているようだ。
アンサンブルをドライヴするのは、もちろん狂気のヴァイオリンとカラフルなシンセサイザーである。
シンプルなリズム・パターンやなめらかなギターのフレージングは、いかにもネオ・プログレッシヴ・ロック調ではあるが、ヴォーカルやピアノの創出するダークな音像には本格的な重みがある。
ゴシック・ロマン調の重々しいサウンドの描き出す世界は、きわめてユニークであり、プログレッシヴ・ロックのさらなる可能性を感じさせる。
ただし問題はベースの音。
プレイに安定感はあるものの、目指す曲調と合っていない。
もっとストレートに低音を強調するべきではないだろうか。
特に、ベース・ソロのナンバーの存在は疑問。
また、ヴォーカルも英語で無理せずに、フランス語で迫って欲しかった。
ボーナス・トラックのフランス語ナンバーの出来が最もアルバムのムードをよく出しているだけに残念。
各曲も鑑賞予定。
「The Wood」(6:28)
「Waltz」(5:49)
「Just For You」(4:43)ベースのソロによるジャジーなインストゥルメンタル。
「Yule Horror」(6:38)
「Iron Mickey」(6:31)インストゥルメンタル。
「Suburb」(4:47)ボーナス・トラック。
フランス語による演劇風のヴォーカルが強烈。
「Blue Nightmare」(6:42)エレクトリック・パーカッションをフィーチュアしたインストゥルメンタル。
ミステリアスな音色とメカニカルなドラムスのコンビネーションが不思議な効果を生む。
「Laz」(9:42)
(MUSEA FGBG 4124.AR)
Gilles Coppin | keyboards, vocals | Jean-Philippe Brun | violin, guitar, bass, vocals |
Philippe Di Faostino | drums, percussion | Jean-Francois Delcamp | acoustic guitar, lute, bass |
Geraldine Le Cocq | vocals | ||
guest: | |||
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BICINIA | brass | Quartet MATHEUS | strings |
Gilbert Gonzalez | trombone | Pierre Cano | trumpet |
Pierre-Louis Ducreux | cornet | Patrick Crestani | tuba |
Jean-Christophe Spinosi | violin | Fransoise Paugam | violin |
Laurence Paugam | viola | Laurent-Yann Guiguen | cello |
Benoit Pace | bass | Chierry Runaevot | contrabass, bass |
Jean-Mare Goujon | flute |
94 年発表の第三作「Merlin」。
五年ぶりの作品は、ブラス・アンサンブルとストリングスをゲストに迎えてスケール大きく描く、アーサー宮廷の魔術師マーリンの物語。
管弦楽の参加もあって、ダークに押し捲るのみならず、幻想的な美しさを追求する作風も見えてきた。
音楽的な幅が広がったようだ。
ミステリアスでダイナミックな演奏にも、確かな成長が感じられる。
物語性に富み、幽玄で透明感のある音が全編を貫く。
トータル・アルバムは、ともすれば思い入れが先行し、散漫さと中だるみだらけの作品になりがちだ。
しかし本作は、そういう心配とは無縁の、確かなテクニックと表現力のあるヴォーカルによる筋の通った作品である。
英語ヴォーカルをやめてクラシカルなアンサンブルを採用するなど、みずからのカラーを把握した音創りが功を奏した。
前作の反省もあったにちがいない。
ネオ・プログレッシヴ・ロック的な音質感をベースとしながらも、管弦楽の豊かな音色とフランス固有のシアトリカルな暗黒プログレッシヴ・ロックが脈々と息づく大傑作。
渾身のコンセプト・アルバムだ。
怪奇なイメージを先行させながらも、演奏はあくまで強靭である。
アコースティックな音を含めクラシカルなアンサンブルを取り入れたへヴィ・ロックとして出色である。
初期 KING CRIMSON や VAN DER GRAAF GENERATOR、GENESIS のファンは一度トライしてみては。
各曲も鑑賞予定。
「Le Conseil Des Démons」(6:59)弦楽アンサンブル、金管楽器をフィーチュアした重厚なイントロダクションから、メロディアスにしてミステリアスなバンド演奏へと進む。
怪しげなフレンチ・ヴォイスが冴え渡るネオ・プログレッシヴ・ロック。
キーボード主体のアレンジ。
終盤のホラー映画のサントラ風のヘヴィなトゥッティが強烈。
「Le Procès」(7:51)コントラバスとモノローグ、現代音楽風の弦楽奏をフィーチュアした前半からダイナミックなバンド演奏へと進む。
怪奇オペレッタ風であり風変わりな印象を残す作品だ。
ジェラルディン嬢の麗しきコントラルトとブリュン氏による不気味なモノローグ、エレクトリック・ヴァイオリン。
中盤ヘヴィなギターとシンセサイザーのリードで爆発的な演奏を見せ、一気にタイトで恐ろしげな世界へと変貌する。
地味ながらもオルガンがいい味わいだ。最後のモチーフはアルバム終盤に再現される。
「Après La Bataille」(5:47)デジタルなシンセサイザー、オーソドックスなギター、ヴァイオリンを用いたインストゥルメンタル。
ニューエイジ系のシンセサイザーとあくまでヘヴィ・ロック調のギターそして本格クラシック調のヴァイオリンが、三様の主張の仕方でぶつかり合う、いかにもモダンなサウンドである。
ストリングス系の冷ややかな音色が印象的。
「Le Sacre」(4:08)メロディアスなギターを大々的にフィーチュアしたタイトな演奏に、古楽アンサンブルがアクセントする作品。
イントロは、管弦楽による純粋クラシックからリコーダー、リュート、ヴァイオリン、バロック・トランペットらによる擬古楽アンサンブルへと進む。
インストゥルメンタル。
「Table Ronde」(5:08)バロック風のアンサンブルを模すシンセサイザー、ヴァイオリンらを主にした、重厚にして美しいクラシカル・ロック作品。
きわめて映画のサウンド・トラック的。
ヴァイオリンを軸にした終盤のたゆとうような演奏がいい。
インストゥルメンタル。タイトルは円卓の騎士の「円卓」でしょう。
「Morgane」(3:42)ジェラルディン嬢がヴォーカルをとる小品。
怪奇なメロディ・ラインと和声が ANGE のイメージと重なる。
伴奏はキーボードとヴァイオリンのみでドラムレス。
エンディングの笑い声が強烈。
「Arthur Contre Morgane」(5:42)挑戦的なリズム、シンセサイザー・シーケンス
、メロディアスなヴァイオリンが一体となった、得意の怪奇な歌もの。
売れ線風の強いビート感とリフをもちながらも、いかんせんエキセントリックで暗い。
中間部のジェラルディン嬢のヴォーカルも存在感あり。
シンセサイザーは、プレイはみごとだが音がややチープ。
「Viviane」(2:11)アコースティック・ギター・ソロ。
インストゥルメンタル。
「Dragon Rouge, Dragon Blanc」(5:38)キーボードとベースが重く刻むリズムによる蠢くようなアンサンブル。
序盤のマリンバの音が印象的。後半はブラスっぽいシンセサイザーとヴァイオリンによるやや華やいだ展開も。
ロココというよりは新古典か。フォーレやラベルを思い出させる作風である。さすがフランスというべきか。
インストゥルメンタル。
「Dernière Bataille」(5:59)ブラス・セクションが高鳴り、へヴィなギターも唸る重厚な作品。
ロココ調のヴァイオリン、キーボードに歪んだギターが絡みつき、ネオプログレらしいセンチメンタリズムと性急さを見せる。
インストゥルメンタル。
「La Mort De Morgane」(6:55)キーボードかギター・シンセサイザーが E-Bow か判然としないが、ノイジーなサウンドが可憐なヴォイスを支える変拍子シャンソン。インダストリアルで怪奇な童謡である。第一曲後半のモチーフを回想する。
「Forêt」(4:14)いかにもプログレらしいドラマチックな終曲。管弦楽による導きを経て、ギターがここぞとばかりに大見得を切る。
インストゥルメンタル。
(MUSEA FGBG 4084.AR)
Jean-Philippe Brun | violin, guitar, vocals |
Jean-Pierre Mallet | guitars |
Phillipe Di Faostino | drums, percussion |
Christophe Dagorn | bass |
Geraldine Le Cocq | vocals |
Gilles Coppin | keyboards |
98 年発表の第四作「Silence...Au Dernier Rang !」。
98 年フランスでのライヴ録音。
ダークにしてミステリアス、そしてヒネリも効いたフレンチ・ロックである。
シアトリカルなヴォイスとヴァイオリンがリードするデリケートなニュアンスを持ちながらも、変幻自在のアンサンブルが奏でるのは、悪夢的シンフォニック・ロック。
この演奏のセンスは、むしろ 70 年代のプログレに近い。
今やロック・プロパーではない方が、音楽としては面白くなるのかもしれない。
スピードと音圧で迫るばかりが能じゃないのです。
曲目は、過去の作品からと VAN DER GRAAF GENERATOR のカヴァー「House With No Door」(名演)。
何度もいいますが、ヴォーカルがゲイブリエルの猿真似でなければ、ネオ・プログレでもこんなにもカッコよく聴こえるのです。
「フランスのプログレ」という言葉からくるイメージにピッタリはまる内容です。
ジェラルディンの唸るコントラルトとエリッヒ・ツァンの如きヴァイオリンの応酬に酔いしれましょう。
(MUSEA FGBG 4257.AR)