フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「HECENIA」。 キーボードのセリ・ブランデによるプロジェクト・チーム。 グループの母体は元 ELOHIM のメンバーによって 85 年に結成。 作品はニ枚。 キーボード中心の清冽なメロディアス・シンフォニック・ロック。
Thierry Brandet | Korg Polysix, Korg Poly-61, Mini-moog, Ensoniq Mirage, drum programming |
Pierre-Yves Chiron | bass, solo guitar on 2, acoustic guitar on 1 & 4 |
Daniel Trutet | lead guitar on 1, 3, 4 |
Jean-Paul Trutet | lead & backing vocals |
89 年発表のアルバム「Legendes」。
CD は 91 年のリミックス版であり、ギター・パートは完全に再録されている。
内容は、透明感あふれるメロディアスなシンフォニック・ロック。
優美で清潔感のあるシンセサイザー、オルガン、ピアノと、アコースティックなきらめきを放つギターらによるファンタジックで清冽な演奏である。
ドラムスは打ち込みだが、やや音が軽いかなという程度であり、さほど意識させるようなところはない。
むしろ、軽めながらもビートは自然であり躍動的な演奏の支えになっている。
多くのネオ・プログレ・グループの音が、HR/HM 調の泣きのメロディに流れるか、珍奇奇天烈さに訴えるか、はたまたヒーリング系の無難な音になるかのいずれかの傾向に陥りがちなのに対して、本作は、万華鏡のようにカラフルな音、オーケストレーション、ダイナミックな力強さ、スピード感、ナチュラルにしてポップな聴きやすさなど、さまざまな要素をバランスよく機敏に組み合わせて、カッコいいロックとしての条件をクリアしている。
特にキーボードの存在感が大きく、軽快なリフが下品で頭悪いイメージにならないのは、このキーボードによる音作りのうまさにある。
優美なばかりではなく、凛とした気品と心地よい緊張感もある。
たとえば、4 曲目後半のギターがリードする展開には、目の醒めるような迫力がある。
また、ロンドン・ポンプの影響がどれだけあるのか定かではないが、こちらは後期 YES、中期 GENESIS のロマンチシズムをほぼそのままコンテンポラリーなサウンドで再現した作風であり、英国的な暗さはほとんど感じられない。
むしろサウンドのニューエイジ調のスピリチュアルな響きが現実逃避的なファンタジーを正当化している。
あまり健康的ではないが、巧みな手腕であることは間違いない。
全体に女性的な優しげでたおやかな音であり、役割分担があると思う。
つまり、クラシック、ニューエイジ系のキーボードは、優美で女性的な役割を果たし、メロディアスながらもしっかりとした重みをもったギターが駆動力である男性的な役割を果たしている。
そして、そのコンビネーションがみごとに成功したのが本作の魅力である。
いわゆる GENESIS フォロワー的なプレイも多く見られるが、そこは深味のある音質でカヴァーし、透明にしてドリーミーな独自のクラシカルな世界を提示している。
アコースティック・ギターやピアノなどデリケートな音の入れ方もいい。
楽曲は王道的な展開を見せる堂々たる大曲が主。
しかしながら、展開の妙にひれ伏す前に、まずは美しく聴きやすい音の魅力に惹きこまれる作品だと思う。
もろにハケットの真似をする以外は、ナチュラル・トーンを活かした軽快なギター・プレイは、名手クリスチャン・ベヤのイメージに重なる。
そうなると演奏全体が ATOLL をソフトにしたような感じに聞こえてくる。
ヴォーカルはフランス語。
「Hecenia」(10:44)
「Le Passage」(12:46)ナイーブな GENESIS。クラシカルな表現が冴える。
「Le Grimoire」(10:00)
「La Vieille Femme Et La Chandelle」(12:43) ギターがカッコいい YES 風の作品。
(MUSEA 4129.AR)
Thierry Brandet | keyboards |
Pascal Tremblay | bass |
Claude Chauveau | drums |
Delphine Douillard | harp |
94 年発表の第二作「La Couleur Du Feu」(The Color Of Fire)
第一作からメンバー刷新、レコーディングのためにハープ奏者を加入させる。
したがって編成は、ギターの代わりにハープ奏者がいるという変則的なものだ。
内容は、キーボード中心の透明感あふれるシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
幻想的なシンセサイザーと優雅なハープによるドリーミーで美しい響きから連想されるのは、GENESIS 系ネオ・プログレにドビュッシーなど近代クラシックもしくはニュー・エイジ・ヒーリング系のサウンドを加味したイメージである。
つややかなまろみと同時にデジタル・サウンド特有の明確な輪郭をもつ音群が醸し出す、神秘的で想像力を刺激するサウンドである。
また、変拍子をドライヴするドラムスのリードで全体が走る場面では、EL&P 的な迫力もある。
宝石のような色彩をもつシンセサイザーが、ソロでは奔放に舞い踊り、バッキングではリズミカルなフレージングでベース、ドラムスと呼応しあう。
複雑なタイムを駆使しながらスピーディに展開し、なおかつ美しいメロディが流れ続けるところは、やはり GENESIS の影響というべきだろうか。
一方、ギター不在により、ロックらしいワイルドさやオナカにズンとくるような重みはなくなっている。
弦楽アンサンブルのように奥行きある音響や壮麗なチャーチ・オルガンが、ごく自然にロックのリズム・セクションとつながってゆくところが、この作品の見事なところだろう。
また、クラシックとロックをブレンドして、スピード感とお行儀のよさをともに失わないという珍しいケースともいえるだろう。
意外と他に同じようなサウンドが見当たらないユニークな傑作である。
リズム・セクションに今ひとつ重みがないせいか録音のせいか、音が高音主体にまとめられているところが好みを分けそうだ。
ECM の Rainer Bruninghaus の作品にも一脈あるような気がする。
各曲も鑑賞予定。
「Capricorne "Ultime Condensation De La Matiere"」(2:10)印象派風のピアノ・ソロ。音質こそ儚げだが、オスティナートはキース・エマーソンにも似る。
「L'Empreinte D'Uranus "Eclatement De La Matiere"」(6:56)
水晶のざわめきのようなシンセサイザーが流麗に歌い続けるキーボード・ロック。
ワールド・ミュージック/ニューエイジといったニュアンスの音質だが、キーボードにぴったり付き従うドラムスだけはネオ・プログレ調。
不思議なことにトニー・バンクスを思わせる変拍子オスティナートを用いながらも、エマーソンに近い弾き飛ばし感がある。
やや思いつき風の展開のため、聴きどころがよく分からない。
「La Roue Du Temps "Espace Chronique"」(1:50)ストリングス、ピアノの美しい幻想絵巻。
女声のヴォカリーズがあると、ステレオ・タイプではあるが、さらによかったかも知れない。
「Dialogue H2 O "Articulation Des Complementaires"」(10:50)三つの章からなる大作。
第一章は、音質はたおやかながらもムーグ、オルガンなどクラシカルなプレイで押し捲ってくる。
チャーチ・オルガン風のキーボードなどかなり EL&P である。
ドラムスは、2 曲目に比べるとよりツボを押さえたメリハリあるプレイ。
ベースもしっかり活躍している。
いわゆるキーボード・シンフォニック・ロックらしい名曲だ。
第二章は、ハープをフィーチュアした幻想美の世界。
ストリングスがうっすらとたなびき、人知れない深い森や海の底といったイメージ。
ハープとシンセサイザーによる細やかなアンサンブルを経て、再び静かな演奏へと帰ってゆく。
第三章は、再び重厚なチャーチ・オルガンとハープが導くゴシック調のシンフォニック・チューン。
厳かなオルガンと可憐なハープの応酬がドラマチック。
エンディングは、オルガンとハープのデュオによるシャフルの華やかなダンス。
全体に PAR LINDH PROJECT をぐっとニューエイジ風にしたような演奏だ。
「La Course Des Nuages "Levee Du Voile"」(1:46)シンセサイザーによるきわめてスペイシーな演奏。
アンビエントというには勇ましさのある動きがある。
「Les Jardins "Ethernels"" Ici, Ni Mouvement, Ni Joie Ni Peine Et Pourtant Tout Y Est"」(24:40)
透明感あるファンタジー大作。
ややアンサンブルは単調ながらも、最後まできらめくようなイメージで進んでゆく。
制作方法に起因するのか、全体に音に深みや迫力がない。
それだけは残念。
(MUSEA 4129.AR)