HORIZONT

  ロシアのプログレッシヴ・ロック・グループ「HORIZONT」。 作品は MELODYA より二枚。

 Summer In Town
 No Image
Sergey Kornilov keyboards
Vradimir Lutoshkin guitar, flute
Alexey Eremento bass
Valentin Sinitsin drums
Andrey Krivilev vocals, keyboards
Igor Pokrovsky vocals
Yuri Beliakov vocals
Sergey Alekseev vocals

  85 年発表のアルバム「Summer In Town(ЛЕТНИЙ ГОРОД)」。 内容は、キーボードをフィーチュアしたクラシカルなシンフォニック・ロック。 クラシック・アンサンブル出身らしく、近現代クラシックの解釈が盛り込まれている。 ジャズ色は皆無。
   1 曲目は、ギターとキーボードが活躍する 70 年代 YES 風のシンフォニック・ロック。 現代音楽調なぞと高尚なイメージの前振りをしたが、この曲だけは直接的な影響を隠そうとしない天晴れな内容。 クラシカルで陽気なキーボードとスティーヴ・ハウ・フォロワーらしきギター(ナチュラル・トーンにややワウとコンプレッサ)が縦横無尽に駆け巡る、懐かしくも微笑ましい作風である。 キーボードは華やかな音でクラシカル、悠然と迫る一方、ギターがスケールや跳躍アルペジオの荒削りな速弾きでドライヴ感を演出する。 ギターは、ヴァイオリン奏法による幻想的な演出も怠りない。 ただし、リズム・セクションは、健闘するも、個性/技ともに本家に及ぶべくもない。 したがって、比重としては、ドライヴ感よりもキーボードによるファンタジックまたはスペイシーなサウンドに傾斜気味である 。 コピーに近い音楽性の中で光るのが、本格イタリアン・バロック調のキーボードである。 ただし、キーボーディストのクラシックのカヴァー領域は、どちらかといえばロマン派のイメージがあるウェイクマンとは若干異なるようだ。
  2 曲目は、PINK FLOYD 風の序盤から、「危機」の冒頭が憂鬱になったような演奏へと発展するスペイシーな作品。 シンセサイザーのシーケンスをノイズの嵐が取り巻き、ドラムスのフリーな打撃が攻め立て、ギターが咆哮する、ジャーマンな世界である。 凛としたシンセサイザーと神秘的なヴォカリーズでクライマックスに達し、泥酔ギターで破断、終盤はメロディアスなハッピーエンド=涅槃へと旅立つ。
   後半の大曲は、即興的な断片が大胆に綴られてゆく。 リチャード・ライトの名作、組曲「Sysyphus」を思わせる重厚な場面から、EL&PMAGMA かといった近現代邪悪系クラシックの影響や、コンクレート・ミュージックのようなアヴァンギャルドな姿勢も強く見せる。 電子音楽風の処理から、人力シーケンサ、ハウス・ミュージックの原型ような表現もある。 終盤、ノイジーなシーケンスの上で奏でられる挽歌のような旋律が印象的だ。 おそらく音楽的なリードを取るキーボーディストの現代音楽志向が前面に出ているのだろう。 ややチープな音によるモダン・クラシカル・テイストという点で、スペインの FUSIOON などもイメージさせる佳作である。

  「Snowballs(Снежки)」(8:34)
  「Chaconne(Чакона)」(10:37)
  「Summer In Town(Летний город)」(18:46)
    「March(Марш)」
    「Minuet(Менузт)」
    「Toccata(Токката)」
  
(C60 23911 005 / BOHEME CDBMR 008152)

 The Portrait Of A Boy
 No Image
Sergey Kornilov keyboards
Vradimir Lutoshkin guitar, flute
Andrey Krivilev vocals, keyboards
Alexey Eremento bass
A. Pavlenko drums

  89 年発表のアルバム「The Portrait Of A Boy」。 内容は、ヘヴィなエレクトリック・サウンドと強圧的なシーケンス、変拍子アンサンブル、不協和音を多用したチェンバー・ロック。 一作目とはかなり作風が異なる。 ヘヴィさと反復に注目すれば、MAGMA 系といえなくもないが、シンセサイザーなどのエレクトリックな音を取り入れ方やモーメンタム、スピード感などが異なる。 快速アンサンブルには、サイケデリック・ロック調の酩酊感もある。 この独特の味わいは、Edward Artemiev に似た豪勢さはあるものの、古いのか新しいのか、高級なのか安っぽいのか分からない個性的なキーボード・サウンドに負うところ大である。 そして、前作からの変化には、作曲者の嗜好に加えて、直接的には、メンバー交代によるドラムスの強化も関連がありそうだ。 なぜなら、ドラムスのプレイが積極的に演奏をリードしているからだ。 この音数の多いリズム・セクションは、独特のサイケ・テイストの源でもある。 個人的には、MAGMA 路線なのになぜかファンタジックという Jean Paul Prat の唯一作との共通性を感じた。 ただし、叙情的な(ドラムスが主導権を握らない)作品では、当然のように高尚なクラシカル・タッチが現れる。 2 曲目のような小品にも音楽性に裏打ちされた説得力がある。 3 曲目、4 曲目は、バレエ組曲「華氏 451」の一部のようだ。

  「The Portrait Of A Boy. Suite In 3 Movements(Портрет Мальчика, Сюита В 3-х Частях)」(19:50)
  「Prelude Fis Moll(Прелюдия Fis Moll)」(4:06)
  「Guy's Solo (The Fragment Of The Ballet "Fahrenheit 451") (Соло Гая(Фрагмент Балета "451°По Фаренгейту"))」(3:36)
  「The Final Of The Ballet "Fahrenheit 451"(Финал Балета "451°По Фаренгейту" )」(8:21)
  「Vocalise(Вокализ)」(3:49)
  
(C60 28665 002/ BOHEME CDBMR 008153)


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