イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「IBIS」。 NEW TROLLS 分裂期に、ニコ・ディ・パロらが結成したグループ。 前身含め、三枚の作品を残し、再編 NEW TROLLS へと合流。
Nico Di Palo | vocals, guitars |
Gianni Belleno | drums, vocals |
Maurizio Salvi | keyboards, vocals |
Franck Laugelli(Rhodes) | bass, vocals |
73 年発表の作品「Canti D'Innocenza Canti D'Esperienza」。
NEW TROLLS 脱退組メンバー 四人によるアルバムである。
カヴァーに描かれた大きな、思わせぶりなクエスチョン・マークは、この分裂事件に係わる彼らの置かれた状況を表しているに違いない。
(まあ、そんなことをこういう形でリスナーにアピールしても、という気もするが)
ウィリアム・ブレイクの引用らしき「無垢の歌、経験の歌」というタイトルにも、そんな含みがあるのかもしれない。
(ちなみに、この名を冠する詩集には、アルフレッド・ベスターの小説で有名な「虎よ、虎よ、ぬばたまの夜の森に燦爛と燃え、そもいかなる不死の手はたは眼が作りしや、汝がゆゆしき均斉を。」が含まれている)
さて、そういった混乱の中で発表された作品ではあるが、内容は決して悪くない。
シンバルを多用するドラミング、オクターヴで深みをつけたギター・リフ、金属的なシャウトといった特徴のある、シャープでつややかなハードロックである。
ニコ・ディ・パロのメタリックな英国風ハードロック志向が表れているのは確かだが、よく味わえば、それはいろいろある中での一つの顕著な傾向であるに過ぎない。
全体としては、いわゆるハードロックから、熱っぽい歌唱、ハーモニーを生かした牧歌フォーク調、ヴィヴァルディ調バロック風味といった要素が突出して、いかにもイタリアン・ロックらしいアーティスティックな音楽になっている。
確かに、ハイトーンのシャウトとへヴィなギター・リフ、音数の多い直線的なビートはハードロックのスタイルだが、男臭い弾き語りやヴォーカルやギターの節回しに色気というか流し目というか、独特の官能がある。
けたたましいギター・アドリヴやパーカッシヴなオルガンにしても、その暴発の仕方に、英国ロックの無常さとニヒリズム漂うコワレ方とは一味違うロマンティックな情熱が感じられる。
そして、プログレらしさというか、クラシカルなタッチや無茶で奔放で思わせぶりな展開も随所に盛り込まれている。
ところで、NEW TROLLS の作品にもあったと思いますが、各曲のクレジットにある Dini という人物はどなたでしょう。
ヴォーカルはイタリア語。
「Innocenza Esperienza」(5:45)鋭く尖ったハードロック。シンバルを多用するドラムスがカッコよし。
重いのに敏捷な感じは DERAM の ROOM というグループに似ていると思う。
「Signora Carolina」(7:40)イタリアン・ロックの魅力あふれるプログレッシヴなハードロック。
繊細なハーモニーによるフォーク・ロックから、華麗極まるピアノ独奏のブリッジを経て、オルガンが炸裂するハードロックへと進む。
5:20 くらいからのシンセサイザーを使ったスタイリッシュなインスト・パートに痺れます。
「Simona」(1:40)埋め草風ながらも渋い味わいの弾き語り。
「L'Amico Della Porta Accanto」(6:50)パワフルなリフにロマンを感じさせる雄々しきハードロック。
しなやかなシャウトと重量感あふれるオルガン。
「Vecchia Amica」(7:50)イマジネーション豊かなイタリアン・ハードロックの逸品。ギターがカッコいい。
どことなくセルジオ・レオーネ(エンニオ・モリコーネか?)風。気まぐれ過ぎて到底アルバムなぞには収まりきらない。
「Angelo Invecchiato」(3:45)力を使い果たしたかのような、虚脱感あふれる作品。
(FONIT CETRA CDLP 423)
Nico Di Palo | vocals, guitars |
Ric Parnell | drums (SPIDER) |
Maurizio Salvi | keyboards |
Franck Laugelli(Rhodes) | bass |
74 年発表の第一作「Sun Supreme」。
「人間と神」という壮大なテーマをもつトータル・アルバム。
内容は、ハイトーンのヴォーカル・ハーモニーとクラシカルなインストゥルメンタルをフィーチュアしたハードなシンフォニック・ロック。
シャウトや性急なリズムなど思い切ってハードロックといってしまっても問題ないと思う。
ただし、ハードな音を使いながらも細部の音使いや構成に凝るところに、アート精神というかプログレ根性を見る。
前半は、苦悩の果ての彷徨と無限の探索による無常感を強くイメージさせ、後半は、原初の生命の輝きと超越した力による救済をイメージさせる。
したがって、音による主題の叙述という意味では、屈指の内容といえるだろう。
アコースティックで叙情的なパートから、エキセントリックで強固なアンサンブルまで、演奏は大胆緻密であり、速度、音量をダイナミックに変化させながら突き進む。
しかし、変化しながらも、トータルなイメージとして暗く硬質で透明なトーンがある。
これが特徴だ。
この音質と運動性は、まずブリティッシュ・ハードロックを連想させる。
しかし、オルガン、シンセサイザー、メロトロン、ピアノらキーボードの生み出す幻想性や、アコースティック・ギターによる端正な演奏は、ハードロックとしてはあまりに破格である。
管弦楽を思わせるスケールの大きな起伏など、やはり、プログレッシヴ・ロックと呼ぶにふさわしい。
そして、熱く粘りつくようなメランコリーを孕む歌メロは、まさしくイタリアン・ロックのものである。
空ろな表情にもツヤっぽさがあるところが、ディ・パロのヴォーカルの特徴であり、決め所では華麗なコーラスも用いられる。
また、ドラマーには英国人リック・パーネルを迎えており、リズムの切れと重さも、イタリアン・ロックとしては別格だ。
バスドラのロールもみごと。
主題も合わせて考えると、ハードロック寄りの YES というのが的を射た表現だと思う。
やや様式的なところなど、後世の HR/HM やプログレ・メタルにダイレクトに通じるのではないだろうか。
ヴォーカルは英語。
「Divine Mountain/Journey Of Life」
苦悩の色と攻撃性が一体となったハイ・テンションの作品。
IL BALLETTO DI BRONZO の「YS」に通じる重さとエキセントリシティあり。
「Part 1: Vision Of Majesty」(3:41)
スパニッシュなアコースティック・ギター伴奏による悩ましきバラード。
冒頭の狂おしいギター・ソロは、往時のフュージョン・シーンの名手に劣らない卓越したもの。
「Part 2: Travelling The Spectrum Of The Soul」(5:56)
EL&P ばりの攻撃的なキーボードと豪快なリズムで突進するヘヴィ・シンフォニック・チューン。
前半の拍子抜けするほどメロディアスなサビがイタリアン・ロックの真骨頂である。
バスドラ連打も快調だ。
中盤、ヴォーカルの表情が空ろになるに連れ、荘厳なるシンセサイザーが津波のように押し寄せる。
突如、チェンバロと讃美歌調ハーモニーによるバロック調のブリッジを大胆に放り込み、再びハードロックに回帰する。
リプライズしながら去ってゆく凝ったエンディングがカッコいい。
LATTE E MIELE ばりの大仰でクラシカルな作品だ。
「Part 3: The Valley Of Mists」(4:54)
クライマックスたるメタリックなハードロック。
再び苦悩しもがくようなヴォーカルをアコースティック・ギターのメランコリックな調べが支える序盤。
メタリックなストリングスが逆巻き、「No more pain ...」という叫びをきっかけに一気にハードな演奏へ突っ込む。
けたたましいが、歌メロは意外にキャッチー。
血管の切れそうなシャウトやけたたましいギター、引きずるような調子など完全にハードロックである。
ギターやオルガンのオブリガートがカッコいい。
チェンバロがさりげなく散りばめられるなど、アレンジは凝っている。
「Part 4: Vision Fulfilled」(4:37)
前半は、ドラムスをフィーチュアし、腰の据わった反復が盛り上がる「ドラムン・ギター」。
サブタイトルとおり、アフリカンで原始的なうねりがあるが、ギターのおかげで人心地というか華やぎがある。
後半は、Part 1、Part 3 の重苦しいアコースティック・ギターの調べと憂鬱な歌唱が再現される。
ストリングスの隠し味が利く。
かき鳴らされるギターが静かに、あきらめを促すようにハーモニクスの響きで幕を引く。
「Divinity」
A 面と比べると、格段に NEW TROLLS らしくメロディアスでロマンティックな味わいをもつ作品。
ストリングスを活かす編曲にもよるのだろう。
「Part 1」(3:59)ストリングス系キーボードが気高く美しく彩るメロディアスなシンフォニック・チューン。
タイトル通り神を讃えるような祝祭的な調子に満ちた作品。
ハイトーン・ヴォイスが神々しいイメージを演出する。
ギター、オルガン、ドラムスらのけたたましいハードロック調をストリングス系の音のうねりでねじ伏せている感じだ。
「Part 2」(7:16)
ノイズを導入しリズムを強調した現代音楽調の作品。
主役はピアノ、ジャジーなギターだろうか、いずれにしろ緊迫感ある作品である。
再び EL&P を思わせる華麗にしてヘヴィなピアノ、シンセサイザー。
ドラムス、ピアノ、ギターによる切り刻むようなアンサンブル。
ピアノは華麗に舞うが、エキセントリックなアンサンブルがすべてを叩きのめす。
バスドラ連打、超速ロールなど、後半は強烈なドラム・ソロ。
「Part 3」(5:58)
再びエキゾティックな SE から、トムトムのようなドラム・ビート、そして、ゆっくりと湧きあがるまろやかな調べ。
力強い歌唱も甦り、イタリアン・ロックらしい希望と癒しにあふれた感動の終曲である。
(POLYDOR POCP-2371)