IMÁN CALIFATO INDEPENDIENTE

  スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「IMÁN CALIFATO INDEPENDIENTE」。 76 年ギタリスト、マニュエル・ロドリゲスを中心に結成。CBS からメジャー・デビュー。作品は二枚。現役。

 Imán Califato Independiente
 
Manuel Rodríguez guitars, vocals, percussion on 1
Marcos Mantero keyboards
Iñaki Egaña bass, vocals, percussion on 1
Kiko Guerrero drums
guest:
Javier Fernández Blanco conga on 1
Juan Iborra marimba on 1
José Antonio percussion & vocals on 1

  78 年発表のアルバム「Imán Califato Independiente」。 内容は、アラビア風のエキゾチックなテーマをフルに活かしたシンフォニックなジャズロック。 70 年代中盤以降、いわゆる「フュージョン」な音が世界的に流行するが、スペインにおいては、ちょうどこの時期が英国からの影響を受けたプログレッシヴ・ロックの隆盛期となっている。 したがって、本来のリズミカルなラテン・テイストと流行のプログレが複合作用し、シンフォニックかつジャジーなサウンドをもったグループがいくつも生まれた。 本作もそういった流れで生れ出た作品だと思うが、演奏力と叙情性のコンビネーションという点で抜きん出ている。 演奏は、細かくたたみかける打楽器、ギターとキーボードによるスピーディなインタープレイなどのジャズロックらしさと、朗々と歌うシンセサイザーやたおやかなストリングスらをフィーチュアした穏やかなアンサンブルなどのシンフォニック・ロックらしさをブレンドして、エキゾチックなメロディで仕上げたものである。 ギターが歌い上げ、ストリングスがうっすらとたなびくと、CAMELGENESIS へとぐっと近づくような気がする。 スキャットも使うが、クロスオーヴァー的なクリシェというよりは、あり得ざるファンタジーを目指した演出に思える。 物静かながらも奥深い広がりがあり、時間がゆったりと流れていくような心持ちになる作品だ。
  A 面全部を占める幻想的な超大作は、一気に聴くことのできる変化に富む傑作。 B 面ではさらにメロディアスでリラックスした曲調となり、ギターが素朴ながらも味のあるパフォーマンスを見せる。 アコースティック・ピアノ、ギターによるクラシカルなアンサンブルもあり。
   プロデュースはテディ・バウティスタ。

  「Tarantos Del Califato Independiente」(20:46) 五部構成の組曲。 エキゾティックな合唱が導く神秘的かつ躍動感もある音響系大作である。 呪術めいたオープニングからシンセサイザーがたゆとう悠然とした演奏と熱っぽいプレイが交錯し、時にサイケデリックでスペイシーな広がりを見せながらスペイン・ロックらしい世界を提示する。 メロディ・ラインは、いわゆるイスパニアン、サラセン風であり、分かりやすいエキゾチズム満載。 スペイン・プログレに顕著な、土着的な音楽を最新の電子機器で再現して新たな価値を生むというアプローチがここでも取られている。 しかし、ギターやキーボードのプレイに情熱を込めつつも、時空間の余白がたっぷりと取られていてどこまでも泰然としているところが特徴的だ。(WEATHER REPORT の「A Remark You Made」辺りの影響はありそうだ) いわゆるジャズロックというよりも、PINK FLOYD(いや、フランスの PULSAR か) にも接近する、熱狂の酩酊感と鋭い創造意識をひとまとめにしたような、独特の音楽である。 フュージョンのテクニカルな「うるささ」が、モーダルなフラメンコの味わいに重なることでちょうどよく嫌味が抜けて馴染みやすくなっている、ともいえそうだ。 舞踏のステップのように溌剌とする場面もあるが、全体を通したイメージは、宇宙の果ての謎めいた荒れ野に吹く風の音というべき幻想的なものである。
    「Canto Al Califa
    「Tarantos
    「Estáte Quieto, Boabdil
    「Paseo Por La Plaza
    「Cuarto Menguante

  「Darshan」(8:30) CAMEL 風のファンタジックで優しげな作品。 ギターとシンセサイザーがピースフルなテーマをおだやかなハーモニーを成して奏でる。 中盤では弾けるように活気ある演奏に変化するが、音の感じはつねに「優しい」。 ギター、シンセサイザー(薄っぺらな音に郷愁があっていい感じ)もソロでたっぷり歌い上げる。 メロトロン・クワイアもあり。インストゥルメンタル。 本曲ではスパニッシュな濃さを抑え目にしたのが正解。

  「Cerro Alegre」(7:33)アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノをフィーチュアし、情念の埋火が時おり焔を上げるバラード調のジャズロック。 ギターとベースを小刻みなリズムが追い立てる、ローズ・ピアノがジャジーな憂鬱に沈む、などなど、即興風にさまざまな雰囲気を駆け巡る。 取り乱しそうなほど沈痛な心持ちを何とかして和らげようとしているイメージだ。 クラシックの独奏器楽に通じる、最低限の音で演出できるセンスがある。インストゥルメンタル。名曲。

  「Cancion De La Oruga」(5:32)スペイシーな広がりのある、たおやかな歌もの。 中盤のドラムスと低音弦楽器をフィーチュアした性急なアンサンブルがおもしろいアクセントになっている。
  
(CBS S 82843)

 Camino Del Aguila
 
Manuel Rodríguez guitars, vocals
Marcos Mantero keyboards
Urbano Moraes bass, percussion, backing vocals
Kiko Guerrero drums, percussion

  80 年発表のアルバム「Camino Del Aguila」。 スパニッシュ・ジャズロックを代表する作品。 「フュージョン」というよりも、イージー・リスニングというべき心地よさのあるサウンドであり、明るく爽やかなテーマにカステリヤ風(いわゆるスパニッシュな)の和声やメロディを組み合わせるのが特徴だ。 パーカッション、ファンキーに跳ねるベース、ラウンジ風味を演出するエレピなど、典型的なフュージョン・スタイルを見せつつも、メロディにはデリケートな表情の変化があり、全体に上質のポップ・ミュージックがもつ余裕とユーモアのセンスがある。 その語り口のうまさは、CAMEL 風の柔らかな全体演奏が、いつしかレガートなシンセサイザーとテクニカルなギターがせめぎあう中期 RETURN TO FOREVER ばりの演奏へと流れ込んでいる辺りに明らかだ。 明快なソロ、アンサンブルを組み合わせたストーリー作りはかなり巧みといえるだろう。 エネルギッシュに盛り上がっても汗臭さはなく、華やかながらもドリーミーで優しい。 特筆すべきは、超一流の表現力と音色をもつギターだろう。 レスポールのナチュラル・ロング・トーンがすばらしい。 一方シンセサイザーは、アナログ特有の音色が美しい。 主題をリードし、ギターの相手役として小気味いいプレイを決めている。 最終曲の哀愁あふれるヴォーカルもいい。
  高度な音楽性とテクニックを備えながらも、それを露にしないであくまで愛らしくファンタジックなタッチでまろやかにまとめあげているところが最大の魅力である。

  「La Marcha De Los Enanitos」(10:30)愛らしくキャッチーなテーマ、謎めいたアラビア・サラセン風味によるドラマ、渦を巻くようなハイ・テンションのアンサンブルなどが特徴のシンフォニックなジャズロック。 神秘的な表現を支えるのは、きわめてテクニカルで安定した演奏である。 インストゥルメンタル。 ストリングス・シンセサイザーを多用する RETURN TO FOREVER です。
  
  「Maluquinha」(6:29)エレクトリック・ピアノ、フランジャー・ベース、さらりと爽やかなギターのコード・カッティングなど、典型ともいえるメローなタッチが懐かしい「フュージョン」。 前半のエレクトリック・ピアノのテーマなどそのまま FM 放送のジングルになりそうです。 私はフュージョンが肌に合わないのですが、こういう音に触れると、高校時代がそのまま甦ってきてしまい、苦笑せざるをえません。 ギターのプレイは、オーソドックスながらも、センスあふれるものです。 終盤の暖かいムーグ・シンセサイザー・ソロもいい。 高中正義という名前も思い出します。
  
  「Camino Del Aguila」(14:00) バラードからスパニッシュなソロ、ユーモラスなリフレインなど、ギターとともにシンセサイザーがよく歌う大作。 マイナーなむせび泣きでもベタつかないし、そういう場面なのに何気なくもトリッキーなリズム・ブレイクを決めたりする。 終盤のギターとシンセサイザーのかけあいなど、余裕たっぷりでユーモアすら漂う演奏だ。 YES の「危機」を思わせる霞みのたなびくようなエンディングは、いわゆるフュージョン・グループには決してできないでしょう。 全体にスパニッシュなメロディの強みを感じます。
  
  「Ninos」(3:05) 木管フルート風のシンセサイザーと湖を渡る風のようなストリングス伴奏による、切なさあふれるギター弾き語り。 エレクトリックなサウンドでこういう上品なセンチメンタリズムを醸し出せている作品を、本作品と CAMEL の「Moonmadness」以外には知らない。
  
(CBS S 84277 / FGBG 4109.AR)


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