スウェーデンのジャズロック・グループ「KORNET」。 鍵盤奏者ステファン・ニルソンを中心に結成。 作品は三枚。 黄昏のテクニカル・ジャズロック。
Stefan Nilsson | keyboards |
Stefan Björklund | guitars |
Sten Forsman | bass, cello on 4 |
Allan Lundström | soprano & tenor sax |
Åke Sundquist | drums, conga, vibraphone on 4, French horn on 3 |
Johan Engström | flute, acoustic guitar on 4 |
guest: | |
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Anders Jonsson | xylophone, vibraphone, tamtam, percussion on 8 |
Jan Skoglund | bassoon on 8 |
75 年発表の第一作「Kornet」。
内容は、エレクトリック・キーボードを中心にしたテクニカルなジャズロック、一部ややモダン・ジャズ寄り。
メロディアスなテーマすらも 1.5 倍速で奏でる、キツキツの技巧で迫る作品だ。
キーボーディストはただただ凄腕。バッキング、ギターとのからみでも容赦なく前に出てくる。
そして、フルート、ソプラノ・サックス、シロホンといった可愛げある音も使って、強面になりすぎないように気をつけてもいる。
リズミカルになってもファンキーではないし、ほのかなブラジリアン以外のラテン・テイストもない。
ラウンジ風というか、リラックスした、どこか素朴で子どもっぽい感じは北欧ジャズロックに共通する特徴である。
一方、フルートやピアノ、ホーンが上品でクールなアンサンブルを成すときには、表現にジャズ・プレイヤーとしての本気が見えるし、かなりの技量であることも分かる。
スピードやスリルで攻め捲くるだけではなく、楽器の音色の特性を活かしてゆったりと歌い、神秘的な広がりをつけることもできる。
フルートやホルン、バスーンの響きがとてもいい。
全体的には、透明感のある音が生かされ、なおかつ人懐こさもある良作だと思う。
「Skriket Fran Vildmarken」(3:08)まずはガツンとショックを与えるオープニング。
「Sju Hungriga År」(4:45)
「Jojk」(5:16)スペーシーなモダン・ジャズ。ピアノ、テナー・サックスの表現力に注目。民謡の翻案?
「Friska Fläktar」(5:05)洒脱なジャズロック。後期 SOFT MACHINE を垢抜けさせたような作品だ。
「Frunk」(3:45)
「Intrude, Tretaktar'n」(7:08)
「Pygges Blues」(3:43)
「Musik Ur Filmen 'Adams Födelse'」(3:41)フルート、バスーン、ピアノを主役にした南国風の作品。ニューエイジ・ミュージックの魁なんていうには、もったいないほどのいいセンスです。
(MAN 005)
Sten Forsman | bass |
Åke Sundquist | drums, percussion |
Stefan Nilsson | acoustic & electric pianos, synthesizer, clavinet |
Stefan Björklund | guitars, mandolin |
Ed Epstein | sax |
Örjan Fahlström | vibraphone, marimba, percussion |
Sabu Martinez | congas |
Thorbjörn Eklund | flute |
Nils Holmstedt | Cor Anglais |
77 年発表の第二作「Fritt Fall」。
テクニカルでファンキー、なおかつクラシカルでロマンティック、音の足し算であらゆる演出を試みた濃密なるジャズロック・アルバムの傑作である。
フュージョンとソウル、シンフォニックなプログレとトラッド・ミュージック、そしてラテンのいいところをすべて重ねて詰め込んだ作風といってもいいだろう。
メロディアスで気品あるテーマ、さりげなくも挑戦的な変拍子パターン、俊敏で爆発力あるアンサンブル、センスのいいソロ、すべてが一つの曲に収まり、たまに収まり切らずあふれ出す。
そういうときには惜しげなくテクニカルなプレイの嵐で押し切ってくれる。
主役のキーボードは当然として、ヴァイブ、マリンバ含め、勢いがついたときの打楽器パートがすごい。
そして、圧巻のアコースティック・ピアノ、さらにムーグおよびアープ・シンセサイザーによるアクセントもみごと。
キーボードのプレイは、前に後ろに上に下に変幻自在に動き回り、演奏に濃い縁取りをしている。
今回は RETURN TO FOREVER の向こうを張るようなラテン風の展開もあり。これはかなり意図的と見た。
チェロのような音はベースのボウイングでしょうか。A 面 3 曲目の「Bilder Om Våren 」は傑作。
B 面 2 曲目「Skotten John」は英国民俗音楽風味を取り入れたジャズロック。バグ・パイプをまねるシンセサイザーがおもしろい。
「Lyrisk Olåt」(3:54)
余韻の透き通るヴァイブ、毛羽立ったベース、なめらかで逞しいサックス、誰とも寄り添える超絶キーボード、クランチなギター、パワフルなリズムなど役者の揃ったハイ・テンションでダイナミックなジャズロック。
急き立てるような調子にもかかわらず、音に弾ける粒立ちときらめく色彩がある。
キレもいい。
「Sista Skriket」(9:27)8 分の 9 拍子の律儀なテーマが耳に残るプログレッシヴなジャズロック。
曲想を変えて場面が次々と目まぐるしく移ってゆく自由な作品だ。
デメオラ風のアコギ・ソロあり。
「Bilder Om Våren」(7:06)映像を喚起する印象派的なジャズロック作品。
ピアノと管楽器が抑制された調子でそれでもふくよかな音色でリードする。
ペッカや ISILDURS BANE とも通じる作風である。
フュージョン的なグルーヴよりもファンタジックな響きの方が勝っている。
「Plåtniklas」(7:10)
やはり ペッカやユッカ・トローネンの作風に通じる上品なファンク・チューン。
「Skotten John」(5:57)バグ・パイプ風のキーボードとスネア・ドラムスによる英国伝統音楽風のイントロから、にぎにぎしいキーボードとしなやかなギターのリードするシャープなジャズロックへ。
鍵盤打楽器がキーボードをなぞり、パーカッションがドラムスの隙間を埋め尽くすなど、軽快な曲調のわりには音数は多く、その重さ、しつこさがなかなか胃腸に応える。
「Darjantan」(6:33)ユーモラスな嬌声の SE で幕を開けるアコースティックなラテン・ジャズロック。
大きくたわむようなフレットレス・ベースの響きがグルーヴの源。
サックスはつやっぽく、パーカッション、ドラムスはダンサブルにしてキレキレのリズムを放つ。
ピアノとマリンバの絡みもさりげなくハイテンションになる。
なめらかすぎるアコースティック・ギターのアドリヴ。
やはりお郷はチック・コリアか。
(MAN 11)
Stefan Nilsson | keyboards |
Örjan Fahlström | percussion |
Stefan Björklund | guitars |
Sten Forsman | bass |
Åke Sundquist | drums |
79 年発表の第三作「III」。
内容は、無類の技巧を哀愁フォーク風のメロディと無常の漂流感で貫いた個性的なジャズロック。
安定感ある演奏で余裕たっぷりに北欧らしい叙情的な曲想を描く傑作である。
メイン・ストリーム的なライトなファンク/フュージョン・タッチもあるにはあるが、北欧独特のユーモアのセンスが重なると、R&B 的な汗臭さは払底して、ラウンジーなイージー・リスニング風の親しみやすさと知的なクールネスがにじみ出てくる。
デヴィッド・フォスターかデイヴ・グルーシンかという西海岸風のオシャレなサウンドも、紡がれるメロディに素朴な哀愁とスペイシーなファンタジーがあるので、CAMEL と同じ種類の幻想夢に近づいてくる。
そして圧巻は A 面 3 曲目の北欧呪術の秘儀である。
物寂しいヴァイブの響きや黄昏たメロディ・ラインなどは RAGNARÖK に通じる。
ローカル色濃いメロディ・ラインに隠れがちだが、ギターに寄り添って曲をリードする透明で転がるような音色のシンセサイザーやエレクトリック・ピアノが非常にいい。
ワールド・ミュージックに注目が集まり始めた時代だったので、欧米のリスナーにスウェーデンから音を放つには絶好のタイミングだったと思う。
B 面ではさらに幻想味に磨きがかかり、美しくも儚い世界をみごとに描き出している。
一級品の技巧をもちながら欧米志向の「フュージョン」から個性的なインストゥルメンタル・ミュージックへと進んだ傑作である。
プレイでは、ナチュラル・ディストーション・サウンドで余裕たっぷりに、メロディアスに迫るギター、ECM 風のピアノ、出過ぎないのに目立つアナログ・シンセサイザー、マリンバ/ヴァイブらがいい。
軽やかさに嫌味がなく、すべてに北の国の草原を吹きぬける風のような軽快さがある。
その風が、ジャズというナイト・ミュージック本来のブルージーな響きをそっとなぞってゆくところに、この作品の魅力がある。
デンマーク録音。
デンマークの名トランペッター、パレ・ミケルボルグがゲスト参加。
プロデュースはミケル・ブルーンとグループ。
「Florent Florant」(4:22)ラウンジ風のサウンド、テーマによるソウルフルでグルーヴィーな変拍子/ポリリズム作品。
ピアノによるテーマからヴァイブ、ギターの順でソロが回る。ギターもなかなか個性的なスーパー・テクニシャン。
クラブ向け。
「Apollinaris」(5:27)ファンタジックなメロー・フュージョン。ギターよし。スロー・テンポにもかかわらず、その中に流れやよどみといった動きがある。キーボードやエフェクトによるエレクトリックな小技もイヤミにならない。ギターとキーボードの静かなせめぎ合いは相聞歌のイメージ。
「Lailet Hob」(8:25)北欧トラッド調を前面に出した作品。民族楽器風シンセサイザーをフィーチュア。傑作。
「Stararnas Vår/Brainstorming」(7:42)スリルとファンタジーにあふれたシンフォニックなジャズロック。
自然な呼吸で展開しながら叙情的なストーリーをつづってゆく。
ゲストのブラス・セクションが熱っぽくアンサンブルを守り立てる。
ピアノのプレイは一級品。
「ソロ」というよりは、イメージしたストーリーを自然に描いたらこういう流れになったという感じがいい。
「Folklåt」(10:00)スペイシーな幻想曲。
前半はヴァイブとベースをフィーチュアして緩やかにスウィング、ギターのアドリヴが道を拓き、ピアノが寄り添うリリカルなバラードになる。
幾何学的なバッキングのリフとセンチメンタルなソロの組み合わせは、中後期 SOFT MACHINE をさらに研ぎ澄ました感じ。
終盤、透明なスキャットが幻想夢を完成させる。
(PULP 79-301)