スウェーデンのシンフォニック・ロック・グループ「LANDBERK」。 70 年代初期のブリティッシュ・ロックの影響を強く受けたヘヴィでダークなサウンド。 モノクロームな渋味そして怨念に近い情感の濃密さはトラッドの流れか。 まだ解散してないそうですが、後継グループは PAATOS。
Stefan Dimle | bass |
Reine Fiske | guitar |
Patric Helje | vocals & guitar |
Andreas Dahlback | drums & percussion |
Simon Nordberg | keyboards |
guest: | |
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Simon Steenland | drums on 7 |
92 年の第一作「Riktigt Äkta(LONELY LAND)」。
内容は、枯れ果てたメロトロンの響きと熱を秘めたギターのパッセージが生みだす厳かなるヘヴィ・シンフォニック・ロック。
初期 KING CRIMSON の叙情性に加え、BLACK SABBATH などのヘヴィなハードロックにも通じる凶暴さと憂鬱が渾然一体となった作風である。
演奏以上にサウンドへの細やかな配慮とこだわりがあり、それがこの独特の重厚さ、朴訥感、そして無常感を生み出しているようだ。
ヴォーカルはスウェーデン語。
英語盤も発表された。
「I Nattens Timma」(4:28)メロトロンをフィーチュアした 8 分の 6 拍子のフォーク調バラード。
古の笛の音のようなメロトロンとトラッド的な哀感の強い歌によるアンサンブル。
ギターもリバーヴの強いサイケデリック調である。
メロトロンの音色はフルートとストリングスを巧みに使い分けている。
枯れ果てた音が連なる中、終盤のピアノの音だけが透き通るような美しさをもつ。
ANGLAGARD と通じる衝撃的なオープニング・ナンバー。
ベース・ドラムレス。
「Skogsrået」(8:01)警鐘の如く高鳴るギター・リフと個性派ヴォーカルがリードするハード・チューン。
ヘヴィにしてミステリアスな雰囲気は ANEKDOTEN と同じだが、若々しい性急さもあり、よりストレートなハードロック色を打ち出している。
後半はすっかり澱んでしまい、ストーナー系へ。
しかし、ハードロックでありながら、高速度/高密度でなく疎にして行間を重ねて色を浮かび上がらせるスタイルは、もはや侘び寂びの世界である。
若い HR/HM 世代と 70 年代ロックおじさんが共有できる世界ではないだろうか。
「Trädet」(8:36)ギターとベースが呼応する眩惑的イントロダクション。
轟々たるファズ・ベースとシンプルなフレーズを繰り返し刻み込むギターそして雄たけびのようなヴォーカル。
鈍くメタリックな光沢をもつサウンドにアコーディオン風のオルガンが繊細なアクセントをつける。
そしてすべての現を夢とかき消すメロトロン。
珍しくヴォーカルもファルセットで切々たる表情を見せる。
淡々とした繰り返しはやがて呪術的な酩酊感を生みクライマックスへと向かう。
息苦しいまでのヘヴィネスとかぼそい抒情をゆき交う幻想曲。
「Vår Häll」(6:15)翳りあるヴォーカルをトラッド調のアコースティック・ギターとメロトロンが伴奏するミドル・テンポの哀愁バラード。
ここでの発見は、ヴォーカル、楽曲ともに U2 に似ているということ。(つまり、英国王道であるということか)
メロトロンは 1 曲目同様ストリングス、フルートを使い分け、シンフォニックな広がりと深みを生み、有無をいわさない説得力で迫る。
すばらしいのは、静々と、淡々と進んでいるようで細やかに演奏の表情を変化させているところ。
エンディング、訥々とした語りのようなピアノ独奏が哀しい。
KING CRIMSON の 「Epitaph」直系のサウンドだ。
「Visa Från Kallsedet」(6:28)アコースティック・ギターをフィーチュアしたフォーク調のインストゥルメンタル。
序盤は、クラシカルなアコースティック・ギターとベースがトラッド風のテーマを刻みつける静謐なアンサンブル。
やがてエレキ・ギターも加わり、フルートのような物悲しいメロトロンのささやきを背景に、アドリヴ風のソロが静かにゆったりと広がってゆく。
闇夜に浮かび上がる街灯のような寂寥感、そして郷愁。
シンバルが時折つぶやく他はドラムレス。
沈み込むような暗さ。
一部 PINK FLOYD 風。
終盤、ベースの提示したトラッド風のテーマをギターが繰り返す。
北欧のサウンドに共通する昭和歌謡風の味わいあり。
「男泣き」の世界。
「Undrar Om Ni Ser」(8:36)悲劇的な重みを支えて畢生のエネルギーを絞りだすようなミドルテンポのバラード。
静々と進むギター・アンサンブルに浮かび上がるテーマは前曲のそれに似ている。
うっすらとしたメロトロンが寄り添うヴォーカルは決然と力強い。
駆け上がるようにエネルギーを一瞬で爆発させるクライマックスは、まさしく「Epitaph」。
メロトロンとドラムスが壮絶である。
中盤は、堂々たる歩みを見せるリズム・セクションのキープするビートの上で幽鬼のようなギターのフレーズが浮沈する、サイケデリックなフリー演奏。
ここのイメージは再び PINK FLOYD である。
終盤は、再び KING CRIMSON に戻って、埋み火のような情熱をかきたて、涙を絞る。
終曲らしい力作。
「Tillbaka」(2:46)ボーナス・トラック。
KEBNEKAISE か GS 歌謡を思わせるリズミカルなトラッド調のギター・テーマが印象的な歌もの。
リッケンバッカー・ベースが唸りを上げる。
間奏部では、スペイシーなメロトロンを背景にファズ・ギター、ベースがアグレッシヴでスリリングな演奏を繰り広げる。
本曲のドラムスは、サイモン・スティーンランド。
特徴は、メロトロン、ギターに見られる確たる 70 年代ロック志向である。
メロディには伝統的なハードロックや現代英国シーンの影響が感じられる。
そして、北欧のトラッド・ソングに根差すと思われる哀愁と粘りもある。
ヴォーカルの濃密さはハードロック以前にこのフォーク感覚に起因するのだろう。
風に身を切られるような厳しい寒さや夜明け直前の空のような険しい暗さは、シンバルを多用しミドルテンポを重厚に刻むドラミングと硬質なディストーション・ベースのリフレインさらには黒光りするギター、荘重なメロトロン、陰鬱なヴォーカルの総合作用から生まれると思われる。
たたみかけるような動きはまったくないが、静々と道をたどるうちに煮えたぎるようなクライマックスへと到達する。
そういうダーク・シンフォニック・ロックである。
繰り返しの生む幻覚的な効果は意図的と思われる。
(RECORD HEAVEN RHCD1)
Stefan Dimle | bass |
Reine Fiske | guitar |
Patric Helje | vocals |
Jonas Lindholm | drums |
Simon Nordberg | keyboards |
94 年の第二作「One Man Tells Another」。
内容は、重く凶暴なサウンドに静かな哀しみをにじませる、沈痛のハードロック。
枯れ果て、焦げついたアコースティックな音から、よりエレクトリックでコンテンポラリーな音になっている。
ギターは、研ぎ澄まされたクリアなサウンドへと変化し、80 年代初頭のギター・ロック復権を思わせる、懐かしきナチュラル・トーンが主である。
英語のヴォーカルは U2 のボノの唱法をなぞったようなスタイルであり、独特の力みのある歌唱である。
さらに、新メンバーのドラムスの音はぐっと硬質であり、リズム/パターンの変化も細かい。
メロトロン、オルガンはうっすらと背景ににじむ。
サウンドの変化に対して無常感と陰鬱さを湛える作風はそのまま。
なんというか、あまり「弾かない」ことが独特の空気感を生んでいる気がする。
1 曲目「Time」(3:42)から、クリアにしてエッジのあるギター・リフと力みかえった英語のヴォーカルなど、サウンドの変化は顕著である。
ベース、硬質なドラミング、メロトロンの生む空気感が変わらない分、ギターの音色の変化が浮き上がる。
U2 の作品といっても通るでしょう。
2 曲目「Kontiki」(7:18)比較的第一作に近いイメージの作品。
淡々と進む演奏がいつのまにかクライマックスへ向けて熱を増している様子は、やはり独特だ。
とはいえ、声を絞りだすようなヴォーカルの表現法は新しい。
静けさを意識させる語り口がいい。
3 曲目「Mirror Man」(6:00)4 ビート・ジャズやトラッド調のメロディも用いたダークな作品。
音に厚みはなく、ひたすら静かだが、間違いなくプログレである。
4 曲目「You Are」(6:06)跳ねるようなアルペジオと短二度の不安な音程の歌メロが特徴的なバラード。
堅実なビートによるリズムがやがてうねりを呼び、そして燃え上がる。
5 曲目「Rememberence」(6:35)エコーの深いギターのアルペジオとメロトロンが反響しあう、ハードにして幻想的、そしてコンテンポラリーな作品。
ヴォーカルのメロディは意外にメロディアス。
後半は、ベース・ライン主導の反復が民族音楽的な熱い浮遊感を生む。MARILLION もこういうサウンドを求めてはどうか。
6 曲目「Valentinsong」(9:38)ピアノ、ギター、ヴォーカルによるか細く儚いバラード。
ピアノのパッセージは、美しくもうち捨てられた記憶をたどるようなイメージである。
終盤、リズムは堅実に刻まれ、熱気も巻き上がる。
メロトロンがこだまする。
前作の世界から、やや角を取ってまろやかな味わいに仕上げた作風だ。
7 曲目「Tell」(8:36)静かに巻き起こる嵐のようなダーク・シンフォニック・ロック。
ワイルドなベースとノイジーにフィードバックするギターと哀しげに吼えるヴォーカルでラウドに迫る。
スピードではなくじわじわと増してゆく威圧感とその果ての狂気のとば口。
ANEKDOTEN に近い世界だ。
(MEGAROCK RECORD MRRCD 007)
Stefan Dimle | bass |
Reine Fiske | guitar |
Patric Helje | vocals |
Jonas Lindholm | drums |
Simon Nordberg | keyboards |
95 年発表の第三作「Unaffected」。
イタリア、カステルヌウォーヴォ・デル・ガルダ、ドイツ、ウルツベルグでのライヴ録音プラス 1 曲のスタジオ録音から構成される。
第一曲こそ、VAN DER GRAAF GENERATOR のカヴァー「Afterwards」だが、残りは第一作(原語盤、英語盤)、第二作から選曲されている。
淡々と進む、一種謎めいた演奏はライヴでも変わらない。
安定したリズムに支えられ、ミステリアスな音に囲まれた原語のヴォーカルは妖しくも力強い。
TRETTIOARIGA KRIGET にも通じる独特のダークな音像も魅力的だ。
「Afterwards」(4:42)VdGG のカヴァー。遠景のようなオルガンの響きがいい。トリビュート盤用のレパートリーらしい。
「Waltz Of The Dark Riddle」(5:05)第一作より。原題は「I Nattens Timma」。
「You & I」(6:22)第一作より。原題は「Vår Häll」。
「The Tree」(9:35)第一作より。原題は「Trädet」。
「Rememberence」(8:28)第二作より。
「Pray For Me Now」(8:50)第一作より。原題は「Skogsrået」。前半の性急な荒々しさがいい。
「Song From Kallsedet」(5:38)第一作より。原題は「Visa Från Kallsedet」。
「Undrar Om Ni Ser」(10:52)第一作より。イタリア、ソニカ・スタジオでの再録音。より KING CRIMSON 風味を増したインプロ・パートが冴える。
(Melodie & Dissonanze M&D 001)
Stefan Dimle | bass |
Reine Fiske | guitar |
Patric Helje | vocals |
Jonas Lindholm | drums |
Simon Nordberg | keyboards |
96 年発表の四作目「Indian Summer」。
個性的な男性ヴォーカルを中心とする、重厚にしてきわめてデリケートな表現を操るヘヴィ・ロック。
ポスト・ロック的な音の中でも、特に 70 年代初期型ブリティッシュ・ロックの影響を強く受けた作風というべきだろう。
個人的には今風の音としては最も好きであり、この音と比べると GOD SPEED YOU BLACK EMPEROR は映画音楽だし、SIGUR ROS は賛美歌だし、MOGWAI はイージー・リスニングである。
おそらくは、FIVE FIFTEEN や MOTROPSYCHO といったグループと同じく、フォロワーから始まって、その枠組みのまま進化を遂げた音楽なのだろう。
こういう音は、もはや、現代ロックの一潮流を成しているといっていい。
ヴォーカルがどう聴いてもボノなのをさておけば、メロトロンの調べとともににわかに霞が立ち込め、怪しく軋むタイムマシンが VERTIGO の渦巻きを吹き上げて、時空を遡っていってしまう。
70 年代プログレの木霊に耳傾ける、誠実にして孤高のアーティストといえるだろう。
そして、同じく孤高のリスナーは、生き難い世間を渡る便としてこういう音もあるんだと思えば、幾分は気楽になれそうだ。
ヴォーカルは英語。
何年か経って、「90 年代ってどういう音だったっけ」と感じたときに、このディスクを思い出したいです。
「Humanize」
冷ややかな空気の中、焦げつくような香の立ち込めるスロー・バラード。
ポスト・ロック風の音使いながら、情念や怨念といった時代遅れの言葉が似合う。
ハードロックに宗教的な厳粛さを感じるのは珍しいことだ。
「All Around Me」
ドラマティックかつ現代的な感触をもつ作品。
感傷、拒絶、苦悩がない交ぜになり、重苦しい空気が立ち込める。
「1st Of May」
前曲までの抑制をクールに解き放つ。
「I Wish I Had A Boat」
再びささやくようなヴォーカルをフィーチュアした幻想的な作品。
風に巻かれて切れ切れになったような演奏の中で、アコースティック・ギターの調べが力強い。
ヴァイブ、弦楽の様なギター、転調後のロマンティックな響きもいい。
「Dustgod」
シャープでキャッチーな、しかし陰影あるオルタナティヴ・チューン。
モダンなスタイルのロックであり、U2 そのもの。
そして、リズムのグルーヴ、メロディともに第一線級。
PORCUPINE TREE よりもいいかもしれない。
大傑作。
「Dreamdance」
「Why Do I Still Sleep」
けだるいバラード。
アルバム全体をまとめる、冷ややかな空気の中で燃え盛る埋み火のようなイメージは、確かにここにもある。
ただ、どちらかといえば、そういった素朴なパワーよりも耽美で病んだ(英国風といってもいい)印象が強い。
ギターはアタックよりも余韻が響く奏法で曲の雰囲気を支える。
終盤の絶唱は女性。
「Indian Summer」
挽歌。
アコースティック・ギターがささやき、女性ヴォーカルがつぶやき、男性ヴォーカルがうめく。
(RECORD HEAVEN RHCD2)