ロシアのプログレッシヴ・ロック・グループ「LOST WORLD」。90 年結成。作品は四枚。 攻めの技巧一辺倒のクラシカル・ロック・トリオ。近年はややトラッド・バンド化。
Andrii Didorenko | all violins, acoustic & electric guitars, bass, percussion |
Venjamin Rozov | drums |
Vassily Soloviev | flute |
Yuliya Basis | keyboards |
2009 年発表の第三作「Sound Source」。
鍵盤奏者が交代、ドラマーに専任メンバーが加わった。
内容は、アコースティックなサウンドを軸にしたアグレッシッヴなクラシカル・ロック・アンサンブル。
テーマを奏でてアンサンブルをリードし、主役となるのはヴァイオリンとフルートである。
ヴァイオリンを先頭に攻め立てる調子を主に、そこへギターのパワーコードを轟かせてさらに火の海にしたり、フルートが一閃して風景をたおやかに描きかえたりする。
ピアノの重量感あるオスティナートが勢いのあまり散逸しそうになる展開を引き締める。
鍵盤奏者のピアノの技量と重くならないリズム、攻めと引きの呼吸(というか攻めっ放しからいきなり抜く瞬間など)、ヘビメタ方向への逸脱など、思い切ってアコースティックな EL&P といってもいいかもしれない。(ただし、オルガンはほとんどない)
したがって、AFTER CRYING を引き合いに出すのはまあ当たりだろう。
ただし、あちらの主役の一人である管楽器が、こちらではヴァイオリンに置き換わっているので、そこの音質や効果の違いはある。
端的にいうと、こちらは開放的な勇ましさよりも、緊迫感と無慈悲な感じが強調されている。
また、フルートがフィーチュアされる場面も多いので、フルート+へヴィなサウンドということで、 SOLARIS ファンにもお薦めできる。
ただし、ダイレクトなトラッド色というよりは、東欧系民族主義楽派的なフィルターを通ったイメージである。
そう考えると、変り種のクラシックとして純粋なクラシック・ファンにも受けるかもしれない。
全編インストゥルメンタル。プロデュースはグループ。
(FGBG 4840)
Vassily Soloviev | flute, guitar on 4 |
Andrii Didorenko | guitars, bass, violins |
Alexander Akimov | keyboards, percussion |
Alexei Rybakov | vocals |
2001 年発表の第一作「Trajectories」
内容は、ヴァイオリン、フルートをフィーチュアした、トラッド風味あるクラシカル・ロック・インストゥルメンタル。
硬軟攻守ともに巧みだが、特に、東欧ジプシー系超絶技巧と実験的な近現代クラシックを取り込んだテクニカルなハードロックの印象が強烈である。
ただし、ハードロックといっても硬直した頭悪い単調さやプロレス的演芸感は皆無であり、オーケストラ的なスケールの大きい勇壮なロックであり、クラシック経由の高尚さと独特のダンディズムが感じられる。
(パンクな凶悪さや乾いたハードボイルド・タッチもダンディズムの一種だろう)
一方昔の VIRGIN レーベルのニューエイジ・ミュージックのような作品もあり、その落差の大きさに耳がキーンとなる。
また、歌ものの独特な逸脱感、垢抜けなさは「狙っている」のかどうか判然としないが、クラシック畑からのポップスへとアプローチするとなぜかこういう味わいになることは、すでにいくつかのバンドで経験済みである。
もちろんすべて悪いわけではなく、GENESIS に憧れをもっているような作品ではすなおなリリシズムが心地よい。
フランク・ザッパも好きだが HM/HR がもっと好きなやや小編成の AFTER CRYING といえばいいかもしれない。
ヴァイオリンもフルートも曲想に合わせて特殊奏法のような大胆なプレイをガンガン入れてくる。
サウンド面でキーボードに頼りっぱなしにならないところは楽器の腕達者としてさすがだし、アコースティックな音の説得力というのは実験的な音楽においてもスペシャルである。
あらゆる場面で活躍し、即興も得意であろうヴァイオリンのプレイは、誰だろう、ギドン・クレーメル辺りを思い浮かべてほしい。6 曲目から 7 曲目への流れがいい。
12 曲目は 70 年代 KING CRIMSON と 80/90 年代 KING CRIMSON の優れた融合作品。
そう、ここまできてようやく分かったが、1、2、3、Z と続くアルバム表題作は KING CRIMSON なのですな。
そうなると、12 曲目の終盤の展開がもう「Starless」にしか聴こえなくなる。
抜群の音響感覚をいかし多彩な音楽をクールでモノクロームなイメージでまとめた個性派である。
(BOHEME CDBMR 301258)
Vassily Soloviev | flute, percussion |
Andrii Didorenko | guitars, bass, violins |
Alexander Akimov | keyboards, percussion, programming, sound design |
guest: | |
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Yuliya Basis | keyboards on 3 |
2006 年発表の第二作「Awakening Of The Elements」
内容は、ヴァイオリン、フルートをフィーチュアした、トラッド風味あるテクニカル・ロック・インストゥルメンタル。
特徴は、アグレッシヴなフルートと饒舌極まるヴァイオリンの存在と、各楽器が一歩も引かず、前のめりで突進するために生じる「けたたましさ」である。
東欧の快速フォークダンスと昨今のプログレ・メタルをかけ合わせたような演奏であり、一貫してかなりの速度があり性急なビートがあるためか、クラシカルな印象はあまり強くない。
ヴァイオリンやキーボードは確かにクラシック音楽そのもののようなフレーズを奏でているが、単純でアクセントの強いリズムと息せき切って突っ走るせいで、どうしてもトラッドなダンス・ミュージック = 民族音楽に聴こえてしまうようだ。
実際、リズムのアクセントや旋律には、かなりトラッド・ミュージック的なところがある。
アコースティック・ギターのスケールなども、思い切り民俗舞曲風である。
したがって、音楽的なシーンの巧みな配置による曲想/イメージはほとんど浮かび上がらず、全速力でもつれるように突進する演奏の勢いばかりが印象付けられる。
ただし、ひとたびヴァイオリンを中心にした演奏がショスタコーヴィッチ辺りのモダン・クラシックと重なれば、それはそれでなかなか風格がある。(これは失礼な物言いだ。演者がインスピレーションのままにプレイしているとすれば、それを民族音楽と聴くか、民族音楽を換骨奪胎したクラシック音楽と聴くかはリスナーの勝手なのだから)
存在感あるフルートとトラッド風味、一直線にヘヴィ・メタリックなギターなど、東欧の雄、SOLARIS の作風とも共鳴する。
一方、テクニカルなパッセージをしつこいくらいに突きつけるところや、アコースティックな楽器が比較的多用されるにもかかわらずヘヴィで圧迫感のあるところは、AFTER CRYING 的というべきだろう。
おもしろいことに、ロックとクラシック、トラッドの邂逅という点もさることながら、その「こなれなさ」具合という点でも、SOLARIS と同じ味わいがある。
つまり、ロックが妙に安っぽく浮き上がるのである。
邪悪な変拍子オスティナートが決まっているうちはまだいいが、EL&P ばりのオルガンと快速ジプシー・ヴァイオリンにファズ・ギターによるロケンローなリフが重なってしまうと、一気にチープな感じになるのだ。
こういう作風もなかなか信じられないが、ロシアでは、ロックがいまだに「監獄ロック」の世界にとどまっているのかもしれない。
たとえベースが鋭いスラッピングで迫っても、タメやキレやグルーヴといった英国人なら生まれもっている「ロックなカッコよさ」とはかなり遠いところにある。
サウンド・メイキングのセンスと演奏能力はあるが表現したいものが見つからないのか、または、表現衝動そのものの執拗さが強くないのかもしれない。
専任のドラマーがいないせいでバンド・アンサンブルの呼吸を制御できていないことも、この弱点につながる一因だろう。(2014 年版ではドラムスが打ち込みから人力に変わっているようだ)
最終曲の取って付けたようなニュー・エイジ・テイストにも唖然。
楽曲はきわめてコンパクト。
4 分以下の楽曲が大半であり、最長でも 7 分弱。
この時間をいっぱいに使って、テンション高くたたみかけるので、「濃さ」はかなりのものである。
7 曲目からの組曲はこのバンドの魅力をコンデンスした力作。
最近の作品の中では、「喧しい」シンフォニック・ロックとして最右翼でしょう。
一曲目のテーマでスカッと気持ちよくなれれば、最後までついてゆけるはず。
「Awakening Of The Elements」(4:23)
「Infinity Street」(6:44)
「Simoom」(3:42)
「Over The Islands」(3:55)
「Scenery With A Guitar」(3:30)
「Shostoccata」(5:18)
「States Of Mind. Part I」(3:47)
「States Of Mind. Part II」(3:42)
「States Of Mind. Part III」(3:26)
「Paranoia Blues」(2:26)
「Collision Of The Elements」(5:13)
「Sky Wide Open」(3:02)
(Musea FGBG 4695)