ベルギーのプログレッシヴ・ロック・グループ「MACHIAVEL」。 75 年結成。 97 年復活、99 年新作を発表。 初期の二作は、GENESIS、YES、SUPERTRAMP 風のケバめのプログレッシヴ・ロック。 英国流を意識しつつも流れるようにポップなタッチに抜群のオリジナリティあり。 オフィシャル・サイトはとてもカッコいいです。
Albert Letecheur | keyboards |
Roland De Greef | bass |
Marc Ysaye | drums, voices |
Jack Roskam | guitars |
76 年発表の第一作「Machiavel」。
内容は、ブルージーな泣きの叙情派プログレッシヴ・ロック、かなり普通のポップなロック寄り。
後年の作品で顕著となる GENESIS の影は、高鳴るメロトロン風のストリングス・シンセサイザーとキーボードのオスティナート、スピーディなフレージングの生む緊張感に見え隠れするが、全体にまださほどでない。
この段階では、PINK FLOYD や CAMEL のようなナチュラルなブルーズ・テイストと初期 KING CRIMSON 風の繊細なメランコリーを舌触りのいいメロディでまとめる作風である。
ブルーズ調といっても英国ブルーズ・ロック的ではなく、むしろアメリカン・ロック的に突き抜けた自然なブルーズ・テイストであり、スワンプ系にも近い。
そして、ドラマティックでエモーショナルな展開を支えるためにはジャズやクラシックも平然と巻き込んでゆく。(2 曲目など)
サウンドの核は、多彩なサウンドを操って雰囲気を決めてゆくキーボード、そして表現力に富み、なおかつ安定感もあるリズム・セクションである。
ブルージーな曲調でもキーボードの鋭角的でスペイシーなサウンドが登場すると一気に 70 年代中盤らしい「新しさ」が際立ってくる。
ストリングスによるバッキングと切れのいいプレイによるアクセントの緩急、硬軟のバランスがとてもいい。
位相系エフェクトとストリングが迸ってもべったりした感じがないのは、このアクセントのおかげだと思う。
ギタリストは技巧的には申し分ない(5 曲目もみごと)が、音楽性がキーボーディストが目指した方向とはやや異なったのかもしれない。
ブルージーな哀愁は本作までで、次作では同時代の先鋭的なポップ・センスを開花させる。
リード・ヴォーカルの弱さも次作以降で補強されていく。
ヴォーカルはやや巻き舌気味の英語。(ISOPODA のヴォーカリストに発声がよく似ているのは、ベルギー人の英語だからということだろうか)
プロデュースは、グループとジャック・セイ。
「Johan's Brother Told Me」(7:30)高まるメロトロン風のストリングス・シンセサイザーに雑踏の SE がオーヴァーラップし、ギターがゆったりとささやき始めるというシンフォニック・プログレまっしぐらなオープニング。
オープンニングだけで 2 分以上かかるあたりがホンモノだ。
シンセサイザーの泡を吹き上げるような位相系の音もいい。
エレクトリックで人工的な音とヒューマンでハートウォーミングなムードのミスマッチがこの時代らしい。
ギターが驚くほどに「普通」(うまいですが)な一方、ドラムスが必要以上に細かく刻んで個性をアピールする。
ものすごく懐かしい音です。
「Cheerlesness」(6:40)英国ものに近いファンタジックな広がりのあるバラード。おだやかなエレクトリック・ピアノの和音。透き通るストリングス。なぜか訛りが気にならない。
「Cry No More」(5:20)アコースティック・ギター弾き語り風の作品。
和声へのこだわりあり。
ストリングス・シンセサイザーが風のように吹き抜ける。
60 年代 SSW のノリも。
「When Johan Died, Sirens Were Singing」(9:20)技巧的なピアノのオスティナートと素っ頓狂なオルガンのオブリガートが印象的なグラム系ロック。
このギターとリズム・セクションなら普通のロックバンドとしても売れたはず。
終盤のキーボードのリードする演奏でややジャズロック化し、ギターもいい感じでのってくる。
「I Am」(1:30)軽快なアコースティック・ギター・ソロ。
「Leave It Where It Can Stay」(8:35)びしょびしょのギターが寄り添う、純で切実なバラード、そして堅実なミドル・テンポのまま、甘い夢に酔うような歩みを続ける。
後半のギターはあたかもむせび泣くサックスのようだ。
フェイザーに濡れそぼるシンセサイザーの調べ。
カーテンコールではクラシカルなエンディングを噛み締めるようにじっくりと繰り返す。
(Harvest 4C 064-23565 / WPCR-16879)
Albert Letecheur | grand & electric & honky tonk piano, harpsichord, string ensemble, Mellotron, synthesizer, tubular bells, glocken spiel |
Roland De Greef | bass, cellobass, 6 & 12 string acoustic guitar, carillon, bells, whistle, comb, tape effects, vocals |
Marc Ysaye | drums, vocals, tambourine, maracas gong, wood blocks, glass blocks, broken glass, bell tree, sleigh bells, flextone, nutcracker |
Mario Guccio | vocals, flute, sax, clarinet |
Jean Paul Devaux | guitar, 6 & 12 string acoustic guitar, vocals |
77 年発表の第二作「Jester」。
ギタリスト交代と、ライヴ強化のためのリード・ヴォーカリストの加入があった。
内容は、華やかなキーボードを中心とした緻密な演奏とモダンなポップ・センスをドッキングさせた 70 年代後半らしいプログレッシヴ・ロック。
ARP シンセサイザー、メロトロンなどのスペイシーなキーボード・プレイと豊かな表情をもつヴォーカルを軽快で弾力のあるリズム・セクションが支える演奏スタイルである。
特徴は、メタリックな光沢を放つシンセサイザーとグラマラスなハイトーン・ヴォイス、意外なほどブルージーなギター・プレイ、そしてヒネリの効いた歌メロ。
キーボードを軸としたリズムに凝った作風は中期 GENESIS に通じる。
3 曲目のように、12 弦アコースティック・ギターのアルペジオを使ったメランコリックで切ない演奏は、まさしくそういえるだろう。
一方、ギターは比較的オーソドックスであり、センチメンタルなフレーズをしっかりと歌わせるスタイル。
したがって、主としてプログレらしさを担うのは、カラフルなシンセサイザーと多彩なパーカッションも交えた鋭く折れ曲がるリズム・セクションということになる。
派手なフィル・インを見せるドラムスは、特に貢献大だろう。
また、ヴォーカルは二人がリードをとっているようであり、ハイトーンのヴォーカリストの方はグラム・ロックを経たようなスタイルを見せる。
コーラスも用いており、YES を真似るアメリカのグループのようなイメージもある。
いわゆるプログレッシヴ・ロックにありがちな露なクラシック、ジャズ指向はなく、歌メロやハーモニーはチャート・ポップスとしても十分通用するほどキャッチー。
メロディがいいために、せわしなく刺激的な演奏をたたみかけてきても単なるテクニックの見せ場に終わらず、きちんとメッセージが伝わってくる。
そして、スケールの大きな展開こそないものの、語り口は小気味よく流麗で何気ないフレーズの音使いにもピリッとスパイスが効いている。
これだけポップだとプログレッシヴ・ロックにカテゴライズしては迷惑かなと思わせておいて、しっかり 7 拍子で走ったりする。
音楽的に英米国ものの影響は強いが、メインストリームを意識した自分たちのスタイルを確立していて非常にプロっぽい。
やや巻き舌の英語に違和感はあるとはいえ世界最古のポンプ・ロックはいまだ 70 年代にあるだけあって本腰入りである。
唯一残念なのは、あまり録音が明確でないこと。
しかしこの曲の出来なら GENESIS ファンでなくとも納得でしょう。
SUPERTRAMP や BAD FINDER、JELLYFISH のファンにもお薦め。
ヴォーカルは英語。
プロデュースは、グループとアーウィン。
「Wisdom」(6:00) FLAME DREAM によく似たグラム調 GENESIS。
「Sparking Jaw」(7:00)聖歌調のハーモニーがスペイシーな広がりとマッチした、メロディアスで落ちつきある好作。
「Moments」(3:17)
メランコリックなアコースティック 12 弦ギターとハーモニー、そして翳りあるメロトロンの調べ。
きわめて GENESIS、英国ロック的なバラード。
大袈裟なヴォーカル表現は、後のポンプ・ロックへ直結する。
「In The Reign Of Queen Pollution」(6:56)「月影」GENESIS の世界に近いメロディアスなシンフォニック・チューン。
冒頭からのメロトロン・クワイアに支えられた哀愁のシンセサイザー・ソロが胸を打つ。
ヘヴィに轟くベース、シアトリカルなヴォーカル・ハーモニー、まろやかな管楽器、パーカッションのアクセントなど、ぜいたくな音を配しつつ、緊張した雰囲気が続く。
メロトロン・コーラスの尾を引きながら、アップ・テンポで快活に走り出すアンサンブルのみごとさ。
後半の、エレピに導かれるイージーなロックンロールへの展開が、スティーヴ・ハケットのソロ作や SUPERTRAMP、BAD FINGER を思わせる。
「The Jester」(5:20)
ややジャジーなテイストのロマンティック・バラードが、軽快なロックンロールへと変貌する。
オープニング、エンディングのジャズ風味は、エレクトリック・ピアノの響きや 7th 系の和声のせいだろう。
中盤以降はシアトリカルなヴォーカルが冴えるロックンロール。
伴奏は、ギターよりもエレピ、ムーグなどキーボードが目立つ。
終盤の 7 拍子への変転は、ちょっとやり過ぎ気味ではあるが、みごとなまでに GENESIS になる。
かなりいろいろな演奏スタイルを詰め込んだ作品だ。
IL VOLO そっくりのプロローグとエピローグがカッコいい。
「Mr.Street Fair」(7:55)
マーチング・スネアとシンセサイザーに彩られた行進曲風の歌ものから、メランコリックなバラードへ。
つややかなシンセサイザーがヴォーカルに絡みつき、リードする。
間奏のメロディアスなギターとシンセサイザーのハーモニーが泣かせる。
メロトロン・コーラスがゆったりと広がり、ヴォーカル・ハーモニーとともに演奏が高まる。
小刻みなハイハット、語りあうようなヴォーカル・ハーモニー。
再び 7 拍子を刻むキーボード、リズム・セクション。
メロディアスでレガートな歌、ギターと、せわしなく刻むリズムの対比がおもしろい。
忙しい 7 拍子アンサンブルに、メロトロン・コーラスが、ゆっくりと立ち上がり重なってゆく。
「A Trick Of The Tail」直系のトリッキーなナンバーである。
最後はオルゴールの音。
「Rock, Sea And Tree」(9:52)
いかにもなアナログ・シンセサイザーと静かな歌による序盤。
エレクトリック・ピアノがやわらかく伴奏する。
2:30 辺りからリズム・セクションが加わり、テンポ・アップ、THE BEATLES /英国王道ポップスを思わせる軽やかなポップチューンへと変貌。
PILOT、BAD FINGER 辺りのファンが喜びそうな展開である。
中盤、再びスロー・テンポでじっくり歌いこむヴォーカル中心の展開へ。
流れるようなシンセサイザーとともにテンポ・アップ、小刻みなビートがドライヴするスリリングな演奏は、またもやきわめて GENESIS 的。
鮮やかなアッチェレレーション、そして尾を引くメロトロンの響き。
「The Birds Are Gone」(1:49)ボーナス・トラック。
「I'm Nowhere」(2:22)ボーナス・トラック。
(HARVEST 1A 064-99289 / spalax 14282)
Mario Guccio | vocals |
Marc Ysaye | drums, vocals, percussion |
Albert Letecheur | electric & acoustic piano, string ensemble, Mellotron, synthsizers |
Jean Paul Devaux | electric & acoustic guitars, steel guitar, mandoline |
Roland De Greef | bass, bass pedals, acoustic guitar |
78 年発表の第三作「Mechanical Moonbeams」。
内容は、70 年代後半らしいポップ・フィーリングを強めた GENESIS、YES、SUPERTRAMP、QUEEN 風の明朗なシンフォニック・ロック。
洗練されたメロディアスなヴォーカル・ハーモニーを中心に、エレピやモノ・シンセサイザー、エレキギターの暖かみのある音色がふんわり包み込む作品である。
全体に演奏の水準は高い。
コーラスとギターのアンサンブルは YES 風、そして、シンセサイザーのソロや変拍子で快調に走る場面では、とたんに「静寂の嵐」GENESIS に変貌する。
透明感あるヴォーカル・ハーモニー付の GENESIS とは、なんともぜいたくではないか。
さらに、変拍子も交えた演奏にややこしさがまったく感じられないのは、ポップなメロディ、ヴォーカル/コーラスのうまさに加えて、リズム・セクションが敏捷に動き、安定した音楽的な枠組みを供給し続けているからだろう。
全体的に 70 年代初期の幻想性よりも、ぐっと現実感のある音質である。
個人的にこの時代をリアルに生きたせいもあるだろうが、この音が、プログレの成長の一つの到達点なのかもしれないとも思う。
いわゆるプログレ・ポップという名前が似合いそうな凝った音なのだ。
そして、素朴な GENESIS "wannabe" にしてはメロディがよすぎる。
やはり、ELO や KAYAK が到達した、プログレを進んだ果てのポップスなのだろう。
プロダクションは今一歩なようにも思うが、音楽と商売が互いにハッピーだった最後の時代の贈り物の一つであるのは間違いない。
白眉は 5 曲目。
アコースティックな音からヴォコーダーまで使った、軽快にしてロマンに満ちたロックンロール大作である。
いくつもの流れが次第にまとまりを見せ、やがてほうき星のように、夢を噴きながら天翔けてゆく。
QUEEN もあり。
6 曲目は、アコースティック・ギター・アンサンブルによるファンタジックなバラード。
7 曲目は、シンセサイザーがフィーチュアされた透明感のある GENESIS 風幻想絵巻。
これ以上ポップになったら、ここでは取り上げないぎりぎり限界の名作。
「Beyond The Silence」(6:10) 「The Yes Album」を思わせる序盤から目まぐるしく変転する作品。
シンセサイザーの変拍子オスティナートは、中期 GENESIS そのもの。
メロディアスなヴォーカル構成にもかかわらず、リズムの過激な変化からトリッキーなイメージを与える。
メロトロン・クワイヤをバックにしたシンセサイザー、ギターのテーマ演奏は、そのままポンプ・ロックへと継承されてゆくスタイルだ。
エンディングも大仰であり、意外なほどプログレてんこもりなオープナーである。
「Summon Up Your Strenght」(5:03)多声ハーモニーを活かした KAYAK 風のバラードは、みるみるうちに軽やかなグラム調ロックンロールへと姿を変え、夜空に舞い上がるように走り出す。
それでも、もつれるようなギターのオブリガート(ソロではなく)や野太いベース・ラインはプログレ風。
エレクトリック・ピアノ(クラヴィネットか)の和音が、やんちゃなロックンロールに都会的で AOR チックなテイストを与えている。
「Rope Dancer」(3:40)
スペイシーにしてファンタジックなバラード。
初期 GENESIS の影響はありそうだ。
シンセサイザーが星の歌のように切なくさえずる。
KAYAK か「安全地帯」なみの甘くみごとなメロディ・ラインです。
「Rebirth」(7:10)
ツイン・ヴォーカルとクラシカルなプレイを活かしたメロディアスなシンフォニック・ロックの傑作。
YES、GENESIS にシティ・ポップス風味(という用語はまだなかったと思う)を加味したような作風であり、さりげない序章を経て最後までアップ・テンポで軽やかに走り抜ける。
キーボードを中心としたクラシカルなアレンジが冴えている。
ヴォーカルがローランド・オーザヴァルに聴こえる、と思ったら、メロディ・ラインとエンディングを導くシンセサイザー・ソロは完全に「The Cinema Show」。
メローな音にして忙しなく攻め立てるタッチがポンプ・ロック的。
「After The Crop」(7:55)QUEEN 調のドラマティックなロックンロール大作。
アコースティック・ギター弾き語りによる序盤は、英国 SSW 直系の感傷的で繊細きわまる表現がみごと。
シンセサイザーが高まってからは、哀愁のメロディとともにゆったりとスペイシーな幻想で世界を染め上げてゆく。
泣くギター、打ち鳴らされるドラムス、エキセントリックなパワーを迸らせるヴォーカル、小気味いいオルガン、すべてがブギーのパワーの下に結集して頂点を目指して駆け出し、ギターの轟きとともに、スターシップが離陸する。
アルバムのクライマックス。
「Mary」(4:10)アコースティック・ギターの力強いアルペジオがリードする歌もの。硬質で頑なな感じ。
「The Fifth Season」(7:25)ピアノ、シンセサイザーをフィーチュアしたロマンティックな王道シンフォニック・チューン。
モノローグも動員して劇的に迫る。
エンディングは感動的。
「Wind Of Life」(6:12)ボーナス・トラック。
81 年録音。
「I'm Not A Loser」(5:42)ボーナス・トラック。
(HARVEST 4C064-23805 / spalax 14261)
Mario Guccio | vocals |
Marc Ysaye | drums, percussions, vocals & loop on 5, vocals on 9, chorus |
Thierry Plas | electric & acoustic guitar, chorus |
Roland De Greef | bass, Taurus pedals, 6 & 12 string acoustic guitars, Fx & loops, keyboards on 9 |
Herve Borbe | keyboards |
99 年発表のアルバム「Virtual Sun」。
96 年のベスト・コンピレーション発表を契機に二度目の再結成を行い、遂に新作発表へとこぎつけた。
オリジナル・メンバーは、ドラムスのマーク・セイヤ、ベースのローランド・デ・グリーフ、ヴォーカルのマリオ・グッチオの三人。
ギターのセリー・パラスは、87 年の再結成時のメンバーなので、新メンバーはキーボードのエルヴェ・ボルベということになる。
内容は、濃密な情念をしみわたらせたコンテンポラリーなギター・ロック。
作品は、70 年代風のメロディアスな部分を現代のサウンドでリアレンジしたようなデリケートなロックから、迫力のハードロック、アコースティックなナンバーまで多彩だが、通低するのは、ポスト・ロックを意識した独特の暗く重い色調である。
どの作品も、ヴォーカル中心に必要十分なアレンジを効かせ、本来の魅力を活かしつつも、よりシンプルな流れを重視しているようだ。
リード・ヴォーカリストを中心にメンバー全員が歌えることの強みも、しっかり生かしている。
甦ったベテランバンドの作品にありがちなスタイリッシュな HR/HM っぽさは皆無であり、「いいたいこと」の熱さから必然的にパワフルな演奏になった、必定ヘヴィなトーンになったという感じである。
時代に迎合するということを意識するには、プロ過ぎるのだろう。
やるせなくも荒々しい轟音ギターが迸るポスト・ロック調の音にメロトロン・ストリングスが浮き上がり、あのグラムっぽい歌声までもが高まると、この作品が、現在における彼らの志向をしっかりと反映していることが分かる。
細かくいえば、ギター主体のインストゥルメンタルが単調に思えてしまうところもある。
そうかといって、キーボードが効果音以上に活躍してしまうと、サウンドの幅こそ広がるかもしれないが、あまりにプログレ然としてしまって、結局彼らの今の意図とは異なるものになってしまうのだろう。
特筆するなら、オープニング・トラック。
ダークなベースの響きとイコライズされたヴォーカルがミステリアスに迫り、サビで華麗に弾けるダイナミックかつデリケートな佳作。
そして 2 曲目は幻想的なイントロから始まり、シンプルなヴォーカル・リフレインとメランコリックなギターが心の暗部をえぐるように進む作品。
ハードロックでもキーボードの音は独特である。
スタイルへの依拠を主にするのではなく、センスあふれるアンテナがキャッチした今の音とオリジナルなアイデアに根ざした作品を、年季の入ったスタイリッシュなアプローチでひねるのだから、悪いわけがない。
プログレッシヴ・ロックは超えており、コンテンポラリーなヘヴィ・オルタナティヴ・ロックとして個性を発揮している。
メロディアスでありながら暗黒を抱えて鬱々と突き進み、突如炸裂する作風は、非常に面白い。
スタイリッシュな洗練という点では、ANGE を越える力作である。
プロダクションも、一流グループらしい堂々たるものです。
「Until The End」(4:58)U2、VdGG、いや ANGE だろうか、暗く力強いアルバム・オープナー。
「Something」(6:40)絶唱。
ギターがカッコいい。
「It's A Dream Again」(4:36)
「Down On My Knees」(6:27)
「Dirty Hands」(4:58)
「All Around The World」(2:57)
「The Rumour」(4:50) LED ZEPPELIN がまだ現役だったらこんな音?と思わせるロックンロール。
「Calling You」(4:21)ピアノ、アコースティック・ギターによる弾き語りが、こんなにカッコよく変貌する。
グラムっぽい歌声も健在。
「Mary's Dream」(3:38)
「Forget Your Hate」(5:17)風格あるヘヴィ・チューン。
ダークにしてキャッチーという、どうしようもないカッコよさ。
「Running In The Desert Again」(7:53)幕開けはシタール。
再び LED ZEPPELIN の面影が。
(CNR 2102552)