フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「METABOLISME」。69 年結成。79 年解散。 CRYPTO レーベルからの唯一作で知られる。
Robert Durantet | guitars, vocals |
Thierry Scaduto | keyboards, vocals |
Jackie Poillot | bass |
Carmine Versace | drums |
77 年発表のアルバム「Tempus Fugit」。
内容は、ソフト・サイケ調の甘いヴォーカル・ハーモニーと、やや厳ついが YES、GENESIS、P.F.M 風の立体的な器楽が特徴のシンフォニック・ロック。
全体に、77 年製とは思えない古めかしさがあり、元々 URIAH HEEP に影響を受けたハードロックをやっていたという逸話にうなずける音である。
構成要素は、不安定ながらも手数の多いドラムス、目立つラインを取るベース、変調してうねるオルガン、ファズを効かせた荒々しいギター、アコースティック・ギターのアルペジオなど、シンフォニックなプログレらしい音ばかりだ。
そして、これら角張った器楽の間をゆるゆると響き渡るのが、ファルセットのハーモニーである。
このような音の取り合わせが思い出させるもの、それはずばり 70 年代初期のブリティッシュ・ロックである。テーマとなるメロディやキーボードのフレーズに大陸らしいエレガンスが現れることもあるが、基本的に、ヘヴィな音や叙情的な表現には、VERTIGO や NEON のオルガン・ロック路線に連なるものがある。
メロディアスなスキャットに粘っこいファズ・ギターや R&B 風味あるオルガンが重なる瞬間など、へたをすれば想いは THE MOODY BLUES や初期 PINK FLOYD 辺りにまで遡ってしまいそうなのだ。
もちろん、アコースティック・ピアノやクラシック・ギターのプレイなど、ユーロ・ロックらしい耽美で小洒落たタッチやオーセンティックなクラシックの格を感じさせるところもあるが、まずは全体に漂うやや垢抜けない英国ロック調が特徴だろう。
さて演奏には突出して特徴的なプレイはなく、楽曲はアンサンブル全体による紆余曲折の展開できている。
その紆余曲折も、練られたストーリー・テリングを感じさせるものではなく、テーマとなる旋律やフレーズを軸にして、比較的緩く気ままに発展してゆくスタイルである。
GENESIS 風の叙情的な演奏から突如として JETHRO TULL のようなハードな演奏が飛び出して、やがて教会風のオルガンに落ちつく、といったイタリアン・ロック的な無鉄砲さもある。
そして、即興風の展開に、巧まずしてユーモラスな表情が浮かぶこともある。
逆に、ハードな音とメロディアスで歌い上げる音がごちゃごちゃになって、結局何をいいたいのかよく分からないこともある。
アンサンブルは、無造作な速度の変化こそなんとか対応しているが、音量への配慮がないため、各パートの主張が打ち消し合っているのだ。
決して陰惨なジャケットが示すような、モノクロームの怪奇な世界ではない。
不器用でやや強引でもあるが、ハードにして叙情的なヒネリもある佳作である。
英国プログレをこれだけまっすぐ受け止めて再現しているところが、フランスのグループにしては珍しいのだろう。
また、英国ロックのイメージは、スキャットが多い、つまりフランス語による歌唱の割合が少ないためかもしれない。
ノン・クレジットだが、2 曲目、3 曲目、5 曲目にはフルートも現れる。
「Apotres Et Martyrs」(15:25)
「Tempus」(3:08)ハードで邪悪なハイ・テンションの小品。インストゥルメンタル。
「Khoros」(6:24)激しく変転する PINK FLOYD 風の作品。
序盤はアコースティック・ギター、ピアノによるクラシカルなアンサンブルがフィーチュアされる。が、突如 JETHRO TULL ばりのハードロックが炸裂。結局、泣きのバラードに落ちつく。後半のオルガンのアドリヴ・パートは、けっこうジャジーである。
「Nadia」(6:28)PROCOL HARUM のような重厚さとBLACK SABBATH 系快速ハードロックが交差する作品。というか、URIAH HEEP ですかね。カッコいいです。
「La Danse Des Automates」(6:18)
硬軟自然な表現が叙情的な響きとゆったりとした広がりを持たせるシンフォニック・ロックらしい佳作。
ヘヴィで唐突な音とクラシカルで愛らしい音がバランスよく配されている。
(ZAL 6413 / FGBG 4385 AR)