ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループの「MYTHOS」。
69 年結成。
71 年デビュー。
数々のメンバー交代を経て、81 年くらいまで活動。
作品は、ステファン・カスケのソロを含め六枚。
フルートとパワフルなビートが特徴のスペース・ロック。
サイケにありがちなディープな酩酊感、ガレージの野蛮さ、電気実験などとは趣を異にし、明快で聴きやすい。
Stefan Kaske | synthesizer, drums, keyboards, vocals, flute |
Thomas Hildebrand | drums, percussion |
Harald Weilze | guitar, bass |
72 年発表の第一作「Mythos」。
内容は、フルートとパーカッションをフィーチュアした、空間の広がりを感じさせるサイケデリックなロック。
エレクトリックなエフェクトや呪術的なビート感など、いわゆるサイケデリック・テイストに加えて、ドイツ・ロック特有の原始性や純クラシカルなアンサンブルもあり、全体としてアカデミックな姿勢を感じさせる内容である。
また、素朴で穏やかな表現と主張を持ったハードな表現がともにあるが、どちらかといえば前者が主であり、それが生み出すメルヒェンチックで彼岸的な雰囲気が特徴である。
ふわふわとした、とっつきやすくシンプルな音であるにもかかわらず、哲学的な深みがある。
そこがユニークだ。
ロックは演奏の技巧だけではない、ということが分かる好例ともいえる作品だ。
OHR レーベル。
1 曲目「Mythoett」(3:02)
ヘンデル「水上の花火の音楽」のモティーフによる、クラシカルな序曲。
二つのフルートを主役に、ベース、ドラムスのカルテット編成であり、朴訥な音のイメージとは裏腹に、意外なほどの細やかなアンサンブルである。
全体としては、のどかで素朴な聴きごこちである。
こののんびり感は、フロア・タムの音が、田舎の太鼓風なせいだろう。
インストゥルメンタル。
2 曲目「Oriental Journey」(8:15)
呪術的なフォーク・ロック。
フォークという表現を使いたくなるのは、前半の存在感抜群のアコースティック・ギター・デュオのためだろう。
このアコースティック・ギターと、シタール、パーカッション、のアンサンブルが、空間を波立たせ、うねりをもたらし、曲をドライヴしてゆく。
深いエコーにひたったヴォーカルが、なんとも怪しい。
中間部では、リズムレスのフリー・パートを擁し、フルートやシンバル、電子音などでミステリアスな広がりを演出する。
フルートは、思いきりのいいアドリヴで中盤以降の演奏をリードする。
AMON DUULU の作品にニューエイジ・テイスト(この時代には、まだないのだが)を加味した感じだ。
シタールは、タイトルのアジアン・エキゾチズムを一手に引き受けている。
3 曲目「Hero's Death」(9:37)
ヘヴィかつグルーヴィなサイケデリック・チューン。
ルーズなエレキギターとイコライジングされたクレイジーなヴォイスによる、いわゆるサイケデリック・ロックである。、
ギターは無造作にコードをかき鳴らし(もちろん、それがカッコいいのだが)、ワイルドなアドリヴを放って暴れる。
演奏を駆動するのは、丹念なフレージングを見せるベースと力強いドラムスだ。
リズム・セクションとギターが一体になったときのパワーは、かなりのものであり、それがそのまま曲のクライマックスになっている。
中盤には、メロトロン・ストリングスが朗々とリードする叙情的な場面もあるが、基本は、感傷とは無縁のドライでクールな演奏である。
一つ一つのプレイはそんなに凄いわけではないのに、トータルでは、なぜか、エネルギッシュでカッコいい演奏になっている。
不思議です。
4 曲目「Encyclopedia Terra Part.1」(10:16)
コンクレート、ミニマルなどの手法による叙景的な作品。
序盤は、多彩な SE /ノイズ を駆使したフリー・フォームの演奏である。
シンバルのざわめき、さまざまなノイズ、ベースが丹念に刻む旋律とエコーが、やがて、緊張感にあふれたアンサンブルにまとまってゆく。
ギターの繰り出すパターンもリフ、シーケンスというべきものであり、反復とそのエコーが重なり合って、すべてが漂い出すような効果を上げている。
ドラムスは、スネア連打によるマーチ風のプレイが多い。
荒々しい音ながらも、厳格な感じのある作品だ。
インストゥルメンタル。
終盤のシンセサイザー、ドラムスらによる効果音は、軍靴、空襲、銃撃、爆音など、戦争のイメージのようだ。
「戦争」は当然の如く「地球事典」の重要な項目である、ということか。
5 曲目「Encyclopedia Terra Part.2」(7:25)
エレジー風のテーマによるシンフォニックな終曲。
序盤は、前曲を払拭するような、教会の鐘の音、鳥のさえずりなどの SE。
そして、鐘の音に合わせて、バス・クラリネット風のシンセサイザーが、ゆるやかにうら寂しい旋律を歌う。
このテーマに、フルート、メロトロン・フルート、ギター、オルガンらが次々と重なり、素朴ながらも、ノイジーで重厚な演奏となってゆく。
大仰なリタルダンドから、メロトロン・ストリングスが轟々と鳴り響き、深い反響の中、讃美歌のようなシンセサイザーに取り巻かれて「破滅」と「永遠」を説くモノローグが始まる。
(OMM 556.019 / SPALAX CD14879)
Stefan Kaske | synthesizer, guitars, vocals, flute |
Robby Luizaga | bass, accoustic guitar, mellotron |
Hans-Jürgen Pütz | drums, percussion, vibes, moog drum |
75 年発表の第二作「Dreamlab」。
内容は、ぼんやりと薄霞がかった世界を武骨なタッチで描くスペース・ロック。
ディレイを用いたギターとフルートがフィーチュアされており、サウンドは全体的に前作よりもアンビエントな方向へシフトする。
ワウ・ギターやパーカッションによるねっとりしたサイケ風味に、歌曲調のヴォーカルも動員して、謎めいた世界を作り上げている。
しつこいサイケ味を和らげ、すっきりさせているのは、ストリングス系のシンセサイザーやアコースティック・ギターだ。
独特のエキゾチズム、エレクトリックなギミックも当然の如くあり。
野蛮だが低俗ではなく、素朴なロマンティシズムあふれるドイツ・ロックである。
激情とともに優しさも伝わる。
リズム・セクションがメンバー交代。
本作は、著名なロケット科学者のフォン・ブラウンに捧げられている。
KOSMISCHE MUSIK レーベル。
「Dedicated To Werner Braun」(6:00)ディレイを駆使した夢見る(どちらかというと悪夢か)ような作品。
伴奏のベース音、前景のギターともに、静かに刻まれてはさざ波のようなディレイとともに去ってゆく。
矛盾するようだが、夢も見ないでぐっすり眠るときに、最低限の活動をしている脳が静かに脈打っている、そんな感じです。
「Message」(8:19)
シンセサイザー、フルートがエフェクトとともに気まぐれに散りばめられ、ドラムスが乱れ打ちを続ける大混乱。
ベースは前曲とおなじような鼓動である。
フルート乱れ吹きとドラムス大暴れによるドシャメシャ系の演奏は、ファズ・ベースと人が変わったようにメロディアスなニューエイジ風フルートに取って代わられる。
ざわめくシンバル、切々と歌うフルート。
短い歌詞のカノンをはさんで、一気にフルートのリードする快調な演奏がスタートする。5:00 あたりから突然朗々たるバリトンが歌いだす。
奇妙な SE に歌が断たれるとワウ・ギターのソロ。
なんともチープな感じは CAN か BEACH BOYS か。
トーキング・フルートが前に出てくると、どうしても JETHRO TULL である。
後半の疾走だけが印象を残す奇妙な作品である。
「Expeditions」(6:11)フルート、アコースティック・ギター、パーカッションが彩る素朴にして高貴なフォーク・ロック。
「Mythalgia」(2:10)小品ながらもフルート、メロトロン・ストリングスが幽玄の響きをなす逸品。メロドラマ風の切迫感と無常感が同居する。
「Dreamlab」(11:04)GONG をやや頼りなくしたような宇宙ロック。
「Going To Meet My Lady」(7:10)
フルートをフィーチュアしたメランコリックでリズミカルなオールド・ウェイヴ・ロック。
パンチのあるプレイで位相系ノイズで揺らぐ世界に芯を通す。
特に、ベース・ラインがいい味を出している。
オルガンのない CRESSIDA か。
(KM 58.016 / OHR 70020-2)