イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「NUOVA ERA」。 85 年結成。作品は六枚。 EL&P の影響を強く受けているそうだ。 キーボードを駆使したアグレッシヴなサウンドは 70 年代イタリアン・ロック直系。 2016 年、なんと新譜です。
Walter Pini | keyboards |
Alex Camaiti | voice & guitars |
Rudi Greco | bass |
Maurizio Marra | drums |
2016 年発表の作品「Return To The Castle」。
ついに現われた新作は、不易という言葉そのもののようなクラシカル・シンフォニック・ロック。
正調ロック管弦楽を目指して古典的な係り結びとともにケレン味すらもひたすら丹念に紡ぎあげ、ハイテンションを維持したままひた走る珠玉の作品である。
基調は、EL&P の築いた邪悪で大仰で泥臭いスタイルの堅持であり、いうまでもなく、そこへイタリアン・ロック特有の天然の芸術性が加わっている。
このグループ本来の魅力もしっかりと維持しており、鈍臭いまでの誠実さ、人より百歩遅れようがそんなことは屁とも思わない頑固さ、ヨレる進行、すべてそのまま。
ドン・キホーテばりの信念に加えて何本か神経が抜けていないとこういう境地にはなかなか達し得ないが、達した人は至上の幸福を手にできる。
80 年代ネオ・プログレの呪縛からは自由になったようであり、70 年代のグループと同じように、ラテンな感性を素直にぶちまけて潔くイタリアン・ロックの冥府魔道を歩んでいる。
(もちろん、70 年代初頭の英国プログレの毒気にもたっぷりさらされている)
エマーソンの怨霊とともに怒号を放つハモンド・オルガン、古代ローマの閲兵式のファンファーレの如きシンセサイザーの高鳴り、イアン・アンダーソンが百歳になったような老いぼれギターの調べ、そして村外れに立つ縛り首の木を揺らす木枯らしのようなメロトロンなど、武骨過ぎる音の輪舞に呆気に取られているうちに、やがて物語が心にしみじみと響き渡る。
それにしても、ワザと下手に聴こえるようにやっているのではないかと勘ぐりたくなるほど天晴れな演奏である。
しかし、何度もいうが、日本のフュージョン・バンドのようなうまいだけの演奏には決定的に失われているものがここには確実にある。
鄙びたる軍楽の憶い、手にてなすなにごともなし。
ヴォーカルだけは英語。ノン・クレジットだがフルートもあり。
「Return To The Castle, Part 1」(9:55)
「Carousel I: Through The Battles And The Years」(2:56)
「The Dragon And The Knight」(12:21)
「Carousel II: Dancing Shadows In The Forst」(4:05)
「The Prophecy」(8:00)
「Carousel III: Living For The King」(2:36)
「The Castle」(9:47)
「Carousel IV: At The Banquet (including The Princess) 」(6:25)
「Court Life」(6:08)
「Carousel V: The Dreams Of Childhood」(4:31)
「Return To The Castle, Part 2 - Conclusion」(7:45)
(AMS 273 CD)
Walter Pini | organ, synthesizer |
Alex Camaiti | guitar, vocals |
Enrico Giordani | bass |
Gianluca Lavacchi | drums |
Ivan Pini | words |
88 年発表の第一作「L'ultimo Viaggio」。
内容は、素朴にして若さに溢れるクラシカルなシンフォニック・ロック。
どたばたなリズムとチープなサウンドに難あるも、ギターとキーボードによるクラシカルなアンサンブルや挑戦的なキーボード・ソロなどに 70 年代ロックへの憧れが感じられる痛快作である。
JETHRO TULL のようにヘヴィなギターが突然ポルタメントするかと思えばスティーヴ・ハケットばりにわななくなど、リーダーのピニは否定しているようだが、英国ポンプ・ロック・ムーヴメントの影響もありそうだ。
また、ヴォーカルはイタリア語であり、少年のような若々しく甘めの声質である。
狙っていると思われるミステリアスな雰囲気を出すには、やや重みに欠けるが、これはこれで魅力がある。
しかし、なんといってもユニークなのは、主役である EL&P をかなりチープにしたような八方破れキーボードの存在である。
シンセサイザーもオルガンも、アナログ・キーボードらしくはあるが、みごとに音が薄っぺらい(キーボードが主役なので特にそう思うが、全体に製作にさほど手をかけていないということだろう)。
大き目のリコーダーなど木管楽器を安っぽくしたような音である。
それでも、ためらいなくクラシカルで勇ましいフレーズを放って前面で暴れまわる。
また、リズムの揺らぎでアンサンブルはよろめいているが、各人の意気込みのおかげで、傾いだままながらも突進を続けている。
ポンプでキーボード主体というと初期の CAST 辺りが思い浮かぶが、この未成熟な感じと性急な感じはまさに遠からずである。
音のチープさなぞあふれる情熱と若さがふっ飛ばすのだ、という勢いは感じられる。
いろいろと技術面で問題を抱えながらもそれに頓着せず、大仰で劇的な展開を繰り広げてゆく(5 曲目はそれが顕著)、そういう大胆さ、能天気さまで含めて、全盛期のイタリアン・ロック風だ。
6 曲目のリリシズムには、ポンプとは到底かたづけられない、イタリアン・ポップス王道のフィーリングが感じられる。
「Eterna Sconfitta」(5:34)ピアノが印象的な、若々しい歌ものシンフォニック・ロック。
「L'ultimo Viaggio」(12:55)粘っこい泣きのギターとキーボードが主従を交代しつつさまざまなフレーズでリードし、(多少ヨレようが)堂々と歩むクラシカル・ロック力作。
ティンパニ風のドラミングも合っている。
レゾナンスの効いたシンセサイザーのオブリガートがかわいい。
後半のドラムレス・パートのブリッジでは幻想的な演出をしっかりこなしてドラマを途切れさせない。
ロックっぽい性急な攻め込みや走りもあって楽しく聴ける。
「Cattivi Pensieri (I)」(2:13)シャフル・ビートでシンセサイザーとギターが走り回る小品。けたたましくアッパーなクラシカル・ロック・インストゥルメンタル。
「Cattivi Pensieri (II)」(3:22)前曲と大きくは変わらない。教会調と噛み付くような攻撃性が並存。
「La Tua Morte Parla」(9:14)大胆な起伏をつけた展開の中で、神秘性と邪悪さを際立たせる現代音楽風シンフォニック・ロック。
ノイズも交錯する波乱含みの幕開けから、メロトロン・クワイアとギターによるへヴィな展開をシンセサイザーが受け止め、一気に盛り上がる。
泥酔した鼓笛隊のようなドラミングが特徴的。
そのドラムとともにオルガン系キーボードも大胆不敵に胸を張って暴れる。
この乱調と怪しさは OSANNA 的であり、70 年代イタリアン・プログレの遺産である。
「Ritorno Alla Vita」(4:55)クラシカルでエレガント、田園風の暖かみもあるイタリアらしい歌もの。
チェンバロ風のエレクトリック・ピアノ、ストリングスとギターのアンサンブルが守り立てる、ヴォーカル表現は 70 年代そのもの。
情熱よりも優しさが先立つあたりが新しい、というか現代的。
「Epilogo」(3:11)マーチ風のハードな終曲。
ノイジーなシンセサイザーがうなりを上げ、チャーチ・オルガンが厳かに響く。
クラシカルでヘヴィであり、ロッカーとしての意気込みを感じる。
(CONTE 122)
Walter Pini | organ, synthesizer, piano |
Alex Camaiti | guitar, vocals |
Enrico Giordani | bass |
Gianluca Lavacchi | drums |
Ivan Pini | words |
89 年発表の第二作「Dopo L'infinito」。
内容は、70 年代テイストにあふれ、素朴さと情熱が交じりあったクラシカルなキーボード・ロックである。
前作にも魅力的なメロディやフレーズはあったが、全体のバランスがよくなかったために損をしていた。
本作品では、そこを修正して、情熱的なメロディと怪しげながらもパワフルな演奏がバランスよくかみ合い、過剰なバタバタ感や安っぽさを意識させない、自然で安定した語り口が生み出されている。
一曲目のテーマ部だけでも違いは歴然だろう。
フレーズやサウンドはじっくりと練られたに違いない。
一度聴いただけで耳に残るメロディも多い。
これは丹念な作曲/アレンジの研鑽の賜物であり、製作面に力を注いだ結果だろう。
そして、圧倒的な技巧、音圧や刺激の強さを売りにする作風がモダン・プログレでは主流となる中で、簡にして超素朴にして華もあるという作風がきわめて新鮮である。
キーボードは、今回もハモンド・オルガン、ピアノ、アナログ・シンセサイザーで変拍子を交えたプレイを連発、MUSEO ROSENBACH や BANCO を思わせるクラシカルかつ重厚、そしてどこか親しみやすい語り口で、ぐいぐいと押し進んでくる。
サウンドに手を入れただけあって、ストリングスやブラス系の音も美しい。
特に、二番目の組曲の第二楽章のキーボード・プレイはかなりのもの。
たたみかけるようなソロから逸脱調の展開まで、めまぐるしくも巧みな語り口でストーリーを紡いでいる。
ギターはペンタトニック中心ながらも凝ったフレーズを繋ぎ合わせてめまぐるしい動きを見せ、キーボードとの対位的な絡みもしっかりしている。
フルートやブラスのような音にはサンプリングもあるのだろうか。
イタリア語のヴォーカルは今回も若々しい。
そして、その若々しさが郷愁をあおるのだ。
ゴリゴリの押し捲りインストゥルメンタルと無常感漂うバラードを交錯させながら、ときにクラシカルに、ときにスペイシーに迫るとくれば、もはや降参するしかないでしょう。
とにかく、いわゆるプログレらしさはてんこもりです。
ネオ・プログレでは英国寄りの音が多い中、大健闘の正統大陸プログレ後継者。
そのバロックな輝きは 70 年代イタリアン・ロックと同質のものです。
「Dopo L'infinito(時空の果てへ)」ファンタジックでスペイシーな正調 70 年代プログレの佳曲。
「Nel Nulla(誕生前夜)」(4:34)素朴きわまるピアノが柔らかなテーマを導く序曲。
「Odissea(オディッセア)」(2:48)スペイシーなインストゥルメンタル。
「Tra Te Stelle(星の物語)」(1:45)躍動感溢れ、乱調美に磨きがかかったプログレらしいインストゥルメンタル。この短さで大いに展開する。
「Dentro Tignoto(未知空間)」(8:43)イタリアンな情熱たっぷりのオールド・ロックとして完成された名曲。魅力的なフレーズやプレイがてんこ盛り。
70 年代に作曲されたと勘違いしそう。
「Rassegnazione(失望の時)」(2:53)沈んだ調子のインストゥルメンタル。タイトルとおりの失意を表すのか。
厳かに始まるも、ヤケッパチ気味のロックンロールが繰り広げられて、幾分荒っぽく幕を閉じる。なんだろう、ようやく天竺かと思ったらお釈迦様の手の中だった、みたいな感じ?
「Pianeta Trasparente(透明の惑星)」ウェットなカンタゥトーレ調に現代音楽風の器楽をぶつけた、やはり 70 年代イタリアン・ロック路線の作品。
「Ai Margini Dell Olimpo(オリンポスの縁)」(5:18)メロディアスで悩ましい歌ものを大仰な器楽で彩るシンフォニック・チューン。
泣きのギターとブラス系のシンセサイザーの音が印象的。
「Miraggio Cosmico(蜃気楼)」(9:50)
序盤は、PINK FLOYD のスペイシーかつブルージーな感覚と GENESIS 風の忙しなく波打つキーボード・プレイが合わさったような演奏。
中間部では幻想的なオルガンのアドリヴを皮切りに、スペイシーでサイケデリックなイタリアン・ロックらしい乱調アンサンブルが突進する。
リコーダー風のキーボード・ソロから前曲のメロディアスなヴォーカルが復活する。
間奏の唐突なブラス・アンサンブルがカッコいい。
「Scomparendo Nell'addio(消えゆく幻想)」(7:44)
牧歌調をギターのブルーズ・フィーリングやけばけばしいキーボードが取り巻き、やがては勇ましい行進曲風のシンフォニーへと飛躍する終曲。
ヴォーカルは内省的なフォーク・ソング風と伸びやかなベル・カンテを往復する。
クラヴィネット系のキーボードによる忙しなくコミカルなタッチ、震えるようなシンセサイザーによるデリケートな表情が特徴的。
(KICP 17)
Walter Pini | synthesizer, Hammond organ, piano, voice |
Alex Camaiti | guitars, vocals |
Enrico Giordani | bass |
Gianluca Lavacchi | drums |
Ivan Pini | words |
guest: | |
---|---|
Betty Cardelli | flute |
92 年発表の第三作「Io E Il Tempo」。
内容は、ハードなギターと多彩なヴィンテージ・キーボードを双頭とする復古調プログレッシヴ・ロック。
クラシカルで雅でロマンティックで邪悪で、時にひょうきんな「あの音」である。
BANCO と違うのは演奏技術と巧まざる諧謔味だけである。
厳かなモノローグと時を刻む時計の音から始まる本作は、二つの長すぎる組曲大作から構成されている。
テンパリ気味のテナー・ヴォイス(ツイン・ヴォーカルである)と不安定さ込みでスティーヴ・ハケット直系のギター・プレイ、厳かなのにどこかユーモラスなオルガンとチープなシンセサイザー、さらにはフォーキーでメロディアスにしてアヴァンギャルドな飛躍のある展開、各自が全員を追い抜きそうな忙しないトゥッティなどなど、シンセサイザーの音にもう少しコクがあれば(ストリングスは 70 年代の良心というべきポール・マッカートニーやエリック・クラプトン、ジョージ・マーティンのアレンジを思わせるオールド・ロックらしい暖かくレガートな手ざわりがかなりいい線をいっているが、ムーグ系はちょっと残念)、70 年代のグループの作品といっても十分通りそうだ。
ハイトーンで歌い上げるイタリア語ヴォーカルには往時の情熱と色気がそのまま詰まっている。
そして、ジャジーなアドリヴ合戦よりも、テーマ部分の忙しなくこんがらがったトゥッティから期せずして生まれるロマンが最大の魅力である。
テンポの揺れなぞなんのその、伝えたい物語を懸命に奏でることが重要なのだ。
ハードロックにはみ出してしまうのもありあまる情熱の悪戯に過ぎない。
今回はゲストによる JETHRO TULL 調のワイルドなフルートが活躍している。(もちろんフルートにはクラシカルで哀愁に満ちた美しい場面も用意されている)
たたみかけるように攻撃的な演奏とオルゴールが響くような密やかな演奏が回り灯篭のようにクルクルと繰り返されるうちに、この不思議な御伽噺の世界に取り込まれていく。
イタリアン・ロックらしい祝祭的な牧歌調と官能的な熱気を基本とするも、表現の端々から分かるのは、このグループが目指していたのが、オールド GENESIS の美しくも怪奇で切ないロマンチシズムだということだ。
(そも、タランテラやパヴァーヌならイタリアが本家本元である)
たどたどしさもある武骨きわまる演奏スタイルながら、すべてに主張と強烈な想いが感じられるので、聴きすすめればやがて(2 曲目の 8 分辺りで)胸が熱くなってくる。
ネオ・プログレがすでに忘れられた古典の域に入った現在、劣化コピーの氾濫の中にもこういう個性あふれるバンドがあったことはやはり憶えておくべきだろうなと思いました。
愛すべきポンコツ、それも真摯な。
「Io E Il Tempo」(18:49)陽性のいびつさを極めた佳曲。四部構成。
「Domani Io Vecchio」(24:01)ギターの存在感が大きくなって前曲よりもハードロック風のエモーショナルな面が強調され、「まとも」な感じになった。六部構成。
「Nuova Era」(2:24)ボーナス・トラック。
チェンバロ、フルート、ギター、シンセサイザー、ドラムスによるバロック音楽風(ジグというよりカナリオスか)のアンサンブル。
このエピローグの感じ、BANCO ですね。
(Contedisc 181)
Walter Pini | keyboards |
Claudio Guerrini | vocals |
Enrico Giordani | bass |
Gianluca Lavacchi | drums |
Ivan Pini | words |
94 年の第四作「Il Passo Del Soldato(兵士の行進)」。
内容は、90 年代の作品ということが俄かには俄かには信じられない正調 70 年代風キーボード・ロック。
前作まで在籍したギタリスト兼ヴォーカリストが脱退し、より声量ある専任ヴォーカリストが加入した。
このヴォーカルとハモンド・オルガン、ムーグ・シンセサイザーのリードによる勇壮にして神秘的、邪悪にして崇高というキーボード・シンフォニック・ロックの神髄ともいうべき演奏が繰り広げられる。
それは、古めかしくもパーカッシヴなエネルギーに満ちたハモンド・オルガンが猛然と牙を剥き、ベルカントが天高く歌い上げれば、往年の BANCO を EL&P 寄りにしたような世界だ。
ヴィンテージ・キーボードのプレイは音色のみならずフレージングの呼吸も含めて心憎いまでにキーボード・プログレ・ファンのツボを押してくる。
また、武骨一本槍ながらもサービス精神も旺盛なリズム・セクションは格段と進歩した。
どの曲も中心となるテーマがしっかりしているため、アクセスしやすいという強みもある。
タイトルと冒頭の軍靴の響きの SE から想像するに、戦争を主題としたトータル・アルバムと思われる。
ヴォーカルはイタリア語。
EL&P ファンにはお薦め。
1 曲目「All'ombra Di Un Conflitto(紛争の影)」(6:42)
勇壮なマーチ。
軍靴の響きとともに、マーチング・スネアが響き渡り、メロトロンが不安げな旋律で盛り上げる。
繰り返しの部分でメロトロンにハモンド・オルガンが重なり、金管風のシンセサイザーがオブリガートするキーボード・ロックならではのカッコよさ。
メロトロンとシンセサイザーの提示する旋律を、レスリーでひずんだハモンド・オルガンが食いつくようなフレーズで塗りかえると、伸びやかなヴォーカルが始まる。
豊かな声量とサスティン。
重量感のあるドラミングとハモンドの取り合わせもいい。
ややゆったり目のテンポがいい感じだ。
2コーラス目では、またもシンセサイザーがファンファーレ風のオブリガートする。
ヘヴィなハモンドのリフから 8 分の 6 拍子へと変化し走り出す。
この緊迫感がたまらない。
ヴォーカルは一際高々と力強く歌い上げ、4 拍子へ戻るとともに、メロディアスな余韻を響かせる。
二重の意味でクラシックな、正統キーボード・プログレである。
細かいところに気を配った流れがうれしい。
2 曲目「Lo Spettro Dell'agonia Sul Campo(不惑の幻想)」(7:28)
16 分の 6+7 拍子で挑発的な音のシンセサイザーのリフが高鳴る、スリリングなオープニング。
オルガン、チェンバロ、ドラムスも重なって、演奏は一気に走り出す。
シンセサイザーがオクターヴを駆け上がり、ムーグとオルガンが不気味に数回決めを轟かせると、ヘヴィなオルガンがリードする演奏へと変化する。
オルガンが一歩引くと、巻き舌ヴォーカルが勢いよく歌いだす。
オブリガート、伴奏はオルガンだ。
2 コーラス目はムーグも伴奏で暴れる。
間奏は、8 分の 6 拍子のムーグのリフにオルガンがゆったり重なる。
再び粘っこいヴォーカルとオルガン。
オペラ風の巻き舌が面白い。
今度の間奏は凶暴なオルガン・ソロ。
続いてファンファーレ調のムーグ。
オルガンが湧き上がり、シンセサイザーを押し上げる。
食いつくようなオルガン、ドラムス。
シンセサイザーの大見得。
エンディングではオープニングの過激なリフが回顧されて、オルガンが吠えメロトロンが哀愁の旋律を歌う。
ミドル・テンポながらも、ぐいぐい力強く突き進むハモンド・オルガンと金管風のムーグの音色がすばらしい作品。
同じテーマを楽器を変えて繰り返すなど細かなアレンジが活きている。
変拍子リフはもはや常套句と化す。
3 曲目「La Parata Dei Simboli(軍隊)」(3:00)
エチュード風ながらも素朴な美しさのある、切ないピアノ演奏から始まる。
テーマは、ピアノからトランペット風のムーグとストリングス・シンセサイザーのデュオへと引き継がれる。
リズムはマーチング・スネア。
さらになめらかな音色のシンセサイザーも重なって、三声のアンサンブルとなる。
転調し変調したオルガンがテーマを引き継ぐ。
そして、オルガンとムーグのアンサンブルによるテーマ演奏から、オルガンはフリーなソロへ。
再びテーマ演奏へとまとまり、激しいドラムスとともにリタルダンド、悠然たるエンディングへ。
様々な音色で重なりあうシンセサイザー・アンサンブルによるテーマ演奏から、ハモンド・オルガンのアンサンブルへと移り、やがて、それぞれが交互にメロディと伴奏を取り合う展開部へと進む巧みな構成。
地味だが、メロディアスなテーマをもち丹念に作られたクラシカル・ロック・インストゥルメンタルである。
4 曲目「Il Passo Del Soldato(兵士の行進)」(12:13)
ロマンティックだが、練習曲のような素朴なソロ・ピアノによるイントロダクション。
一転して、凶暴なハモンド・オルガンとドラム・ビートが、行進を始める。
高鳴るシンセサイザーのテーマ、支えるオルガンの轟き。
ミドルテンポで断続的な強いアクセントとともに、ずしりずしりと歩みは続く。
メイン・ヴォーカルは力強くもどこか怪しく、ハモンド・オルガンがのっそりと、しかし噛み付くように追いすがる。
再び、のっそりとしたシンセサイザーとともに呪文のような歌が始まる。
ヘヴィなオルガンと派手派手しくきらめくシンセサイザー。
オルガンが新たなテーマを刻み始める。邪悪な音だ。
うねりながら飛び出すシンセサイザー。
ドラムスも乱れうちを始め、一気に、エネルギッシュながらも混沌とした演奏へと突入する。
ストリングスはメロトロンだろう。
オルガンのテーマにシンセサイザーが無茶に絡みつくも、強引にインテンポへとひきずり戻してゆく。
再び高鳴るシンセサイザーの第一テーマ。
そして伸びやかながらも呪文風のヴォーカル・ハーモニー。
終章は再びオープニングのピアノが再現、次第にリズミカルな演奏へと変化し、オルガンのリードで悠々と進む。
ハモンド・オルガンのジャジーなアドリヴ、トロンボーンを思わせるシンセサイザー。
最後はテーマを三つのキーボードが折り重なるように奏で、軽やかなリズムで走ってゆく。
ミドル・テンポでクラシカルなテーマを悠々と綴ってゆくオムニバス風の大作。
薄い音を逆手にとったような明快きわまるアンサンブルである。
巻き込まれるような勢いはないが、テンポに合わせてゆったりと味わうことができる。
邪悪なハモンド・オルガン以上に、序盤と終盤のアコースティック・ピアノに存在感あり。
5 曲目「Armicrazia(アルミクラツィア)」(7:40)(狙撃兵のことらしい)
シンセサイザーの厳かな旋律と風の音の SE に続いて、炸裂音とともに始まる。
リズムとともに、シンセサイザーの重厚な旋律が流れ始める。
シンセサイザーの余韻を経て、激しいドラムスとオルガンがフェードイン、アグレッシヴなリフで攻め立てる。
十字砲火のようにオルガンが攻めまくる。
シンセサイザーが加わってリフに重なると、テンポが落ち、美しいピアノの演奏とメロトロンをバックに、メランコリックにヴォーカルが歌い始める。
憂鬱と哀愁。
再び、オルガンは和音によるリフを刻みつつ、狂気じみたソロを壮絶なスピードで繰り広げる。
緊張と狂気の高まりは、狙撃兵の心情か。
電子音も飛び交う。
そして、演奏はリフへと収束し、攻め立てながらも、再びテンポが落ちつき、シンセサイザーが空しさに堪えないような旋律を奏でる。
トランペットのような音もキーボードだろう。
シンセサイザーが繰返されて、消えてゆく。
張り詰めたシンセサイザーのテーマを受け、爆発的なハモンド・オルガンが暴走気味に突っ走る作品。
シンセサイザーは理性を、ハモンド・オルガンは反対に野性に戻ってしまった精神を表現しているようだ。
ハモンド・オルガンによるリフとソロは壮絶の一言。
6 曲目「L'armistizio(休戦)」(4:00)。
チャーチ・オルガンのリフレインから幕を開ける。
リズムとともに、ハモンド・オルガンは激しいリフとともに攻めあがる。
ブレイクとハモンドのリフの連発。
一転、ピアノによるリリカルな演奏が始まり、メロトロンが流れ出る。
そして、哀愁のヴォーカルへ。
暗闇のどこかに明かりを見出そうとするかのようなシンセサイザー。
ハモンド・オルガンが追いかける。
8 分の 6 拍子に変ってハモンド・オルガンが走り、最後はブレイクとハードな和音のリフの連続でしめる。
ついにチャーチ・オルガンが登場、一瞬厳かなムードになるも、すぐさまハモンド・オルガンの攻撃的なリフで取って代わられる。
中間部は、ピアノとヴォーカルによる叙情的なアンサンブルである。
シンセサイザーの橋渡しで、再びアグレッシヴなハモンド・オルガンのプレイに回帰する。
短いがドラマのある作品だ。
7 曲目「Riflessi Di Pace(静寂の訪れ)」(2:51)
鐘の音が響く祝祭的なシンセサイザーから始まり、活気あるヴォーカル・パートへ。
ヴォーカルは、シンセサイザーのバッキングで伸びやかに歌う。
間奏のシンセサイザーも、祝福に満ちた明るい音である。
鐘が響く。
明るいシンセサイザーの音色が活きた小品だ。
8 曲目「Epitaffio(墓銘碑)」(4:36)
不気味なピアノの打撃音、シンセサイザーは音色こそ鮮やかだが、メロディ・ラインは不安を煽りたてる。
前曲の明るさは、かき消されてしまう。
シンセサイザーは、4 分の 4 拍子から 4 分の 7 拍子へと変化し、オルガンのユニゾン・リフがさらに挑発的に煽り立てる。
オルガンとシンセサイザーが絡みながらフェード・アウトすると、一転ハモンド・オルガン伴奏でシンセサイザーが勇壮なメロディ(戦闘の再現?)を奏でる。
リズムが行進曲風に変化し、メロトロンをバックに低い声のモノローグ(死者の声?)が入り、バスーンのようなシンセサイザーが響く。
多くの人の声が、さまよう亡霊のように錯綜し、吸い込まれるように音が消えていく。
シンセサイザーがさまざまに使われる、暗くミステリアスな作品。
変拍子をリードするハモンド・オルガンは、強烈に歪んでおり、神経に触る。
破綻気味に展開し、最後は非常に不気味な亡霊達の声に耳を傾けなくてはならない。
PINK FLOYD にも通じる、暗い展開である。
9 曲目「Nuova Era Atto Secondo(ヌオヴァ・エラ、第二世代)」(4:50)
オルガンによるハードなリフとシンセサイザーによる東洋風のメロディが印象的な EL&P 風の作品。
ドラムス連打は本家を彷彿させる。
挑戦的なハモンド・オルガンのリフと突っ走るソロ、さらには煽り立てるシンセサイザーのテーマ。
シンセサイザーの電子音がショーケースのように次々と現れる。
オペラ風の歌唱をハモンド・オルガン、ムーグ・シンセサイザー、メロトロンが守り立てる 70 年代風王道キーボード・ロック。
感電しそうなほどパーカッシヴなハモンド・オルガンのプレイ、挑戦的なシンセサイザーのリフ、極太のアコースティック・ピアノは EL&P 直系であり、おまけにそこへ郷愁のメロトロンが吹き上げる。
IL BALLETTO DI BRONZO か BANCO かという、ヘヴィなロマンある世界である。
アグレッシヴなプレイと柔らかくメロディを歌わせるシーンの対比など、キーボードの使い分けも巧みである。
ただし、音質そのものはややチープな気がしなくもない。
これは、機材によるものなのだろうか、それとも製作作業によるのだろうか。
全体にトータルイメージにしたがって逞しい筆致でテーマを明確に綴ってゆくスタイルである。
無暗な迫力がある一方でこじんまりとまとまり過ぎているところもあるが、そこはクラシカルな格調の高さで十分補っている。
リズムがもたつくところも不思議と曲調に合っていて不自然に感じさせない。
ギターやヴァイオリンかフルートなど、何か他の旋律楽器がいればさらにアンサンブルの妙味を楽しめそうな気がする。
伸びやかなヴォーカルも合わせて考えると、やはり 90 年代の BANCO ということになりそうです。
(KICP 2819)
Walter Pini | keyboards | Guglielmo Mariotti | bass, guitar |
David Guidoni | percussion | Gianluca Lavacchi | drums on 4-9 |
Claudio Rogai | bass on 4,6 | Riccardo Vello | voice on 4 |
Ivan Pini | words on 4,5 | Alex Camaiti | voice & guitar on 5, 7-9 |
Enrico Giordani | bass on 4, 7-9 | ||
guest: | |||
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Alessandro Papotti | sax on 1 | Salvo Lazzara | guitar on 2 |
2010 年発表の作品「Nuova Era」。
内容は、企画盤への提供曲三曲、既発曲のヴァージョン違いとリアレンジ計三曲、87 年のライヴ録音三曲から構成される編集盤。
とにもかくにも久しぶりのクラシカルなコテコテ・キーボード・プログレ、黙って聴いて胸熱くやがてしみじみできる、いい内容である。
特に、ダンテをテーマとしたフィンランドの企画盤への提供曲(新曲)、これがカッコいい。
轟々と唸るハモンド・オルガンとコンピュータのつぶやく呪詛のようなムーグ・シンセサイザー、哀愁の弾幕を張るメロトロン・ストリングスと伽藍を揺るがす重厚なピアノ。
これに無駄に荒ぶるベースも加わって、高潔にして情熱にあふれ、邪悪にして古典的な神秘をまとう変拍子アンサンブルを繰り広げる。
善とも悪ともつかぬほど奇怪に歪み、時に滑稽ですらありながら純粋な精神による美感を示すこの音楽は、「プログレッシヴ・ロック」をそのまま体現したものといえる。
したがって、ヨレるリズムもこのバロックな芸術の一個性である。
再録音も大作を選んでいる。
どれもみずみずしく充実した演奏だ。
スタジオとライヴで完成度には差がなく、荒っぽさが臨場感につながるという点でライヴの方が似合ってる。
「Torilogia Dantesca」ダンテ・トリロジー。
「Lasciate Ogni Speranza...Voi Ch'entrale(Lucifero) - Inferno」(6:17)「地獄篇」。唸りを上げるオルガン。フリージャズなサックスをフィーチュア。武骨な調子ながらも攻め捲くる。
「Canto xii - Purgatorio」(6:41)「煉獄篇」。ネジが外れてバラバラになりそうな古式ゆかしいアンサンブルがドタドタと歩む。不細工だが誠実ではある。ひずんだ姿勢のままだからこそ貫けるピュアなリリシズム。それでもちゃんと見得は切る。
「Canto ii - Paradiso」(6:22)「天国篇」。厳かで落ちついたバラード調の序章が終わると呪文のようなピアノのオスティナートの導きとともにさまざまな演奏が繰り広げられる。
全体にトーンはクラシカルでおだやかだが、シンセサイザーをフィーチュアした最終章のおかげでやはり地獄っぽくなっている。
「Dopo L'infinito」(17:45)第二作収録の大作。リメイク版。苦悩する切ないヴォーカルがいい。
「Io E Il Tempo」(14:28)第三作収録曲。デモ版。前曲と比べると洗練されている。72 年くらいから 75 年くらいに進んだ感じ。
「Venus And Mars」とか好きそう。
「L'ultimo Viaggio」(3:54)第一作収録曲。スイング・ジャズ版。
「Cattivi」(6:33)ライヴ録音。第一作収録曲。
「La Tua Morte Parla」(10:33)ライヴ録音。第一作収録曲。
「Epilogo」(3:04)ライヴ録音。第一作収録曲。
(AMS 187 CD)