カナダのプログレッシヴ・ロック・グループ「OPUS-5」。 77 年解散。 作品は、89 年発掘の未発表曲集を含めて二枚。 ピアノとフルートを用いたアコースティックでクリアな音色と鋭いリズムが特徴。
Olivier Duplessis | keyboards, vocals |
Luc Gauthier | guitar, vocals |
Serge Nolet | flute, vocals |
Christian Leon Racine | bass, vocals |
Jean-Pierre Racicot | percussion, vocals |
76 年発表のアルバム「Contre-Courant」。
タイトルは「逆流」の意。
内容は、クールな叙情性と切れのいいプレイを特徴とする、クラシカルかつジャジーなシンフォニック・ロック。
技巧的なアコースティック・ピアノと細かいロールを多用するドラムスを軸としたアンサンブルに、メローなポップス風ヴォーカルを乗せてフルートでファンタジックな味つけをした芸風である。
演奏を仕切るのは、華やかな音色のピアノ。
バッキングでもソロでもクラシカルかつジャジーなプレイで活躍する。
ギターは不協和音を用いたソロやファズを活かしたプレイをアクセント的に決めてゆく。
どうやら、ピアノの役割が構成と秩序の維持であるのに対して、ギターはかき回し役に徹しているようだ。
ただし、3 曲目冒頭のように、アコースティック・ギターのプレイではクラシカルで本格的な腕前を見せている。
ドラムスは、若干タイム感に難があるようだが、やや性急なマイケル・ジャイルスか抑え目のフリコ・キリコといった感じ。
ジャズ風のドラミングであり、小刻みなロールが特徴的だ。
全体が甘くなり過ぎないのは、ひとえにこのドラムスの尖り具合のおかげである。
そして、忘れてはならないのはエレガントなフルートである。
気品と神秘性を兼ね備えて存在感が際立つにもかかわらずデリケートなニュアンスを失わない、という理想的な演奏である。
このフルートを用いた静かな演奏と小刻みに動き回る演奏との対比が、アルバムに深みをつけている。
またフランス語のヴォーカルがユーロ・ポップ独特の翳りと感傷をもっているのもいい。
安定感、緻密さという意味では、あと半歩という感じの演奏ではあるが、一瞬の切れ味のスリルや刻々と表情を変えてゆくインストゥルメンタルはかなり面白い。
同じフランス語プログレでも、明確なモダン・ジャズ色やクラシック色が突出している分、ATOLL ほどテクニカルかつポップにこなれた感じはない。
むしろ、イタリアン・ロック風のせわしない曲調の変化が繰返され、その忙しい変化と甘めのフレンチ・ポップスの合体したプログレッシヴ・ロックといえるだろう。
透明感あふれるストリングス・シンセサイザーに代わってメロトロンが入れば、百点満点だったかもしれない。
ケベックのグループらしく非常にヨーロピアンです。
ジャケット写真は再発 CD のもの。
「Le Temps Des Pissenlits」(9:11)
渦巻く強風と不気味なコラールから始まる作品。
クラシカルなピアノ、フルートによるファンタジックなアコースティック・デュオから、リズミカルで緊張感のあるイタリアン・ロック風のアンサンブルへと展開する。
アコースティック・デュオもスピード感あふれる演奏を見せ、ムーグ・シンセサイザーと巧みに反応しあう。
その緊張と対照するのが、中盤から入ってくる、いかにもフレンチ・ポップ・タッチの歌メロとハーモニー。
そしてピアノの華麗なるオブリガート。
演奏は、ジャズからクラシカル・タッチまでせわしなく変化する。
ドラムスは、フィルで煽り刻み捲くる。
ストリングス・シンセサイザーも要所で奥行きを演出する。
ソフトなヴォーカルをファンタジックなインストゥルメンタルで取り巻いた作品。
70 年代イタリアン・ロックをフランス語で歌っているという表現がピッタリくる。
「Il Etait Magicien」(11:53)
ジャジーで明暗、硬軟、緊張と弛緩の変化に富む作品。
ギターのアルペジオ、コード・ストロークとフルートによるおだやかなアンサンブルに、ピアノとフルート主導のテクニカルでスピード感のある演奏を組み合わせている。
ファンタジックな雰囲気を維持しつつ、変拍子アンサンブルなども用いて自由な曲想で飛び跳ねる。
やや崩れ気味ではあるがジャズ・フュージョン風の演奏もある。
タイトルからの連想か ATOLL 風にも感じられる。
しかしジャジーなプレイを中心に次々と目まぐるしく変転する演奏は、やはり全盛期イタリン・ロック的というべきかもしれない。
エンディングの幻想的な演奏は GENESIS 風。
イタリアン・ロックほどは破綻のないものの、過激な変化が売りの作品。
「Les Saigneurs」(9:15)
極端な緩急をつけたインストゥルメンタル・パートと予想外の変化が特徴的な奇想曲風の作品。
クラシック・ギター独奏による序章。
そしてフルート、ピアノ、ヴォカリーズから成るクラシカルなアンサンブルが走り出す。
細かく刻むスネア・ドラムにぴったり合わせて、演奏は自由自在に走ったり止まったり。
ムーグのオブリガート。
コラール、不協和音、突然のランニング・ベース、せわしないユニゾンなど次々と飛び出すアイデア。
ビジーなトゥッティとトラッド調のコーラスのかけあいが繰り返される。
なんとも忙しい展開だ。
終盤にポップス風のロマンティックなヴォーカルが現れて、雰囲気を一掃する。
「Le Bal」(6:42)チェンバロ、コーラス、フルートが美しい叙情的な作品。
序盤のメロディアスなヴォーカルを聴くと、HARMONIUM と同じレーベル出身であることがよく分かる。
メロディアスなヴォーカル・パートとマーチ風に刻む演奏が対比されて繰り返される。
前半はクラシカル・タッチであり終盤はジャズ。
テクニカルなアンサンブルは YES 風。
リヴァーヴの深いギター、フルート、透明なストリングス・シンセサイザーのプレイには、ラウンジ調のノスタルジックな暖かみあり。
エンディングは大胆にもふっと途切れてしまう。
「Contre Courant」(3:53)クラシカルでねじくれたプログレらしい小品。
コラールで幕を開けるも、すぐにピアノのオスティナートとギター、フルートによる傾いだようなアンサンブルが緊張感を高める。
またもや、イタリアン・ロック風ということだ。
エレガントな演奏とせわしない演奏がくるくると変転する。
ピアノがキース・エマーソン風だなと思っていると、突如ハモンド・オルガンも唸り出し、瞬間 EL&P。
(CEL 1929 / Disques L'Aller-Retour )
Olivier Duplessis | keyboards, vocals |
Luc Gauthier | guitar, vocals |
Serge Nolet | flute, vocals |
Jean-Pierre Racicot | percussion, vocals |
89 年に発表された未発表曲集「Serieux Ou Pas」。
第二作として録音されるも未発表であった幻の作品である。
内容は、ピアノをフィーチュアしたカンタベリー調の透明感あふれる軽やかなジャズロック。
つまり、ユーモラスで余裕シャクシャク、人懐こくも爽やかで手応えもあるサウンドである。
作風は、ファンキーなジャズロックからフォーク・タッチのアコースティックな歌ものまで多彩であり、どれも完成度が高い。
全体に習作というレベルではなく、アルバム用にしっかりと整えられた作品といえる。
演奏は、テクニカルなキーボードとフルートが舞い踊るようなプレイでリードする。
キーボードはピアノとエレクトリック・ピアノを多用、そしてシンセサイザーのプレイと音が NATIONAL HEALTH のアラン・ガウエンによく似ている。
ベースは、クレジットからもれているようだが、音は聴こえる。
歌もののクールにしてまろやかな感触は、HARMONIUM にも似る。(レーベル・メイトらしい)
さらに個別に楽器を味わってみよう。
ファズ・ギターは、明らかにフィル・ミラーへの意識あり。(本家よりも技巧は上)
音惜しみせず小刻みなロールも交えて俊敏に変化するドラミングもいい。
アコースティック・ピアノは冒頭から抜群の存在感を見せ、その自由闊達でオラオラと俺様な演奏スタイルにキース・エマーソンがオーヴァーラップする。
そして、フランス語ヴォーカルの響きが、エキゾチックな味わいを強める。
ヴォカリーズが女性ならば、さらにカンタベリー調になったかもしれない。
曲は最長で 6 分少し。
前作よりも全体にジャズ色強しと感じるのは、エレクトリック・ピアノの割合が高いせいだろう。
北米カンタベリーの秀作。構築美ももちろんだがフランス語圏だけあってエスプリの効きもよく、よりヨーロッパ風の洒脱さがある。
「Provisoir」
「Prelude Au Suivant」
「Subtil Désir」 ピアノがすばらしい。
「Episode Sur Cette Plage」 傑作。
「Sac À Délice」
「Y A Des Choses Dans L'Air」 アンソニー・フィリップスのフランス語版のようなファンタジックな作品。
「Nos Amis / Fermeture」
「Qui Cé Qui Cé Pas」
「Sérieux Ou Pas」 HARMONIUM 的なうたもの小品。傑作。
「Rêves De Voyages」
「Jouer Chanter」
「Pour Boire Il Faut Vendre」
「Bonus A Bob」
(Disques L'Aller-Retour )