アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「PABLO EL ENTERRADOR」。 70 年代初頭から「墓堀人パブロ」として活動を続ける。 79 年現ラインナップが整うも、アルバム・デビューは 83 年。 この年に軍事政権が崩壊しており、ジャケットの絵から想像されるように、政情に対して反発していたグループとして、ようやく日の目を見たらしい。 サウンドは、ツイン・キーボードをフィーチュアしたメロディアスなシンフォニック・ロック。
Jorge Antun | Oberheim OBX synth, Hammond organ |
Marcelo Sali | drums |
Jose Maria Blanc | electric & acoustic guitar, bass, vocals |
Omar Lopez | Yamaha CP 70 electric piano, ARP pro synth, Minimoog synth |
83 年発表の第一作「Pablo "El Enterrador"」。
内容は、ツイン・キーボードを用いたメロディアスかつ精緻なシンフォニック・ロック。
エレガントなテーマをたおやかなヴォーカルが歌い上げ、デリケートな器楽が守り立てる、叙情的な音である。
どちらかといえば、男性的な力強さよりも、女性的な優美な表情が魅力だろう。
リズム・セクションとギターは、安定したプレイで豊かな情感をしっかり支え、アップ・テンポのナンバーのロック的なスリルやダイナミックさ、スピード感なども申し分ない。
キーボードをフィーチュアしたスタイルを活かして、随所に織り交ぜるクラシカルなアクセントもいい。
常に鳴り続けるさざ波のような変拍子オスティナートも、ナチュラルである。
要するに、メロディアスなロックとして一級品ということである。
キーボード類が、オルガンよりもモノ・ポリ・シンセサイザーや YAMAHA CP70 などを中心としているせいで、全体の音の印象がいかにも 70 年代終盤から 80 年代初頭へかけてのものになっている。
個人的には、懐かしさに心くすぐられるところである。
もちろん、南米らしい涼風の如きアコースティックな爽やかさもある。
緻密なキーボードのプレイやタメが少なく手数多く走るドラミングは、中期 GENESIS、また、ファンタジックにしてキャッチーなテーマやほんのり香るフュージョン・テイストなどは、同時期の CAMEL の影響だろう。
しかしながら、この完成度は、本家を凌ぐレベルにある。
HR/HM 色が皆無なため、英国ポンプ嫌いの方にもお薦めできる。
メキシコの CAST のファンには無条件で。
アルゼンチン・プログレ屈指の作品。
ジャケットを「のどかな農夫の絵」といっている方もいらっしゃいますが、よく見ると人(金持ち)を生き埋めにしてますぜ。
「Carroussel Of The Old Foolishness」(5:40)打ち寄せるエレクトリック・ピアノとシンセサイザーの波は、これ以上弾くとビジーに聴こえてしまいそうなギリギリのところで奏でられている。
このキーボードに支えられて、たおやかなヴォイスが軽快に疾走する。
爽やかでファンタジック、なおかつ風を受けて飛翔するようなスリルもある名品です。
「Paper's Elephants」(5:06)今度は、メロディアスで切ないヴォーカルをやや強めにフィーチュア。
エレピ、シンセサイザーも華やいだプレイ(うねるようなシンセサイザーは、まさしくトニー =Cinema Show= バンクス直系)を見せるが、第一印象としては、ラテン風の涼しげなロマンチシズムが残る。
エレピも、アコースティックなタッチ、音色を強調しているようだ。
中盤、ギターが現れて、リズム・セクションも交えた緊迫したアンサンブルを繰り広げる。
LOCANDA DELLE FATE を思い浮かべていただけると正解です。
「Who Turns And Who Dreams」(5:45)フォーク・タッチのバラード。
伴奏は、気品あるピアノがメイン。
歌に応ずる間奏では、ギターが朗々と歌う。
時期的に微妙ながら、音楽的に MARILLION との接触はあったのでしょうか?
シンセサイザーが、短いながらピリっとソロを奏で、終盤切なくも美しいアンサンブルで締める。
「Illusion On Seven Eightths」(4:51)インストゥルメンタル。
一転してデジタル・ビートのエレポップ調だが、16 分の 9/15/7 拍子で走るつややかなシンセサイザーのリードに、ほのかにクラシカルな味わいがあって救われる。
連続するヘアピンカーブを鮮やかに回って進むような、トリッキーで勢いのある演奏です。
「Shareholder」(3:17)デジタル・シンセサイザーの刻む和音とヴォーカル・ラインは、典型的 ニューウェーヴ、エレポップである。
救いはアナログ・シンセサイザーの音色か。
前曲までのドラムスとは別人のようなプレイが興味深い。
当たり前ですが、こっちが「普通」です。
「Inside The Stable」(6:03)
明快なテーマをスピーディに展開し、クラシカルなキーボード(オルガンに似せたシンセサイザーが珍しい)が彩るスタイルは、まさしく中期 GENESIS。
後半、ギターがメロディアスなパートが呼び覚ます。
「Vanishing Spirit」(3:53)
ピアノをフィーチュアした、華やかなロマンティシズムと哀感がほどよくブレンドしたナンバー。
後半、泣きのギターから終盤へかけての盛り上がりがすばらしい。
「Paul's Inheritance」(7:17)オルガン、シンセサイザー、ギターによる眩いアンサンブルをフィーチュアしたインストゥルメンタル。
7 拍子を主としたせわしない弾きまくりではあるが、伴奏とリードが巧みに切りかわって、優美なメロディを紡いでゆく。
前半飛ばす分、後半のギターがリードするシーンには、ゆったりとした広がりが生まれる。
(PRW 020)
Jose Maria Blanc | guitar |
Jorge Antun | keyboards |
Omar Lopez | keyboards |
Marcelo Sali | drums |
98 年発表の第二作「2」。
同一メンバーによる十五年ぶりの新作。
内容は、メロディアスにしてデリケートなファンタジーの風合いある「歌もの」シンフォニック・ロック。
終盤、かなりビートを強調したポップ・ナンバーも現れ、「息切れ」という印象がぬぐえないところが残念だ。
単に方向性が異なる、よりキャッチーな音楽を目指したのかもしれないが、アルバムのトータル・イメージという意味では、二つに分けるべきであったろう。
ミュージシャンは、キャリアとともにシンプルな歌ものへと向かうのだろうか、という思いにもとらわれた。
しかしながら、前半のクオリティは、それらの懸念を振り払ってあまりある。
たおやかなヴォイス、ノーブルにして切れのいいエレクトリック・ピアノ、つややかでカラフルなシンセサイザー、メロディアスなギター、ナチュラルな変拍子を刻むリズム・セクションらによるロマンティックな作風は、前作の内容をそのまま熟成させたようなイメージである。
ふくよかなファンタジーという印象とは裏腹に、演奏そのものはタイトであり、シュアーな技巧をもっている。
特に、インストゥルメンタル・パートでは、技巧的なアンサンブルがみるみるうちに白熱してゆく。
ヴォーカル・パートは、その繊細な表現に、つい AOR やシティ・ポップスを思い出してしまうが、じつは宗教的な慎ましさと素朴な品のよさが核心にある。
デジタル・キーボードやエレアコなど、典型的なフュージョン・ステレオ・タイプな音のために、やや表情を失っているところもあるが、タイトな演奏とクラシカルな慈愛の歌に嘘はない。
3人 GENESIS や ASIA のファンは、違和感なく聴けるでしょう。
プロデュースはグループ。
各曲も鑑賞予定。
「Nariguetas(Little Nose)」(7:55)
「La Ciudad Eterna(The Eternal City)」(5:35)
「Emigrante(Emigrant)」(8:29)
「Sentido De Lucha(Struggle Sense)」(5:37)
「San Vicente(Vincent Saint)」(6:31)ヴォーカルが非常に美しい名品。
「Solo Viento(Only Wind)」(5:57)
「Mitad x Mitad(Half By Half)」(6:54)
「Accionista(Shareholder)」(3:46)前作収録作品の再録。
「Fotografia(Photography)」(5:50)
(PRW 035)