オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「PANTHEON」。 71 年結成。74 年解散。唯一作はオランダ・ロックらしい気品と親しみやすさのある、いわば FOCUS の子分のような音。
Ruud Wouterson | organ, spinet, celesta, piano, vocals, ARP synthesizer |
Hans Boer | flute, alto & tenor sax, vocals |
Albert Veldkamp | bass, guitars |
Rob Verhoeven | drums, percussion |
72 年発表のアルバム「Orion」
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内容は、管楽器をフィーチュアし、クラシカルなフレーズを多用するソフトでモンドなジャズロック・インストゥルメンタル。
感傷的ながらも典雅なメロディを軸にして、フルート、ソフトなスキャット、ギターらによるクラシカルなアンサンブルを構成し、なめらかな語り口で小気味よく唄う演奏である。
ホテルのラウンジ、スーパーマーケットの有線放送、午前中のラジオのジングルなどなど「家具としての音楽」ばりに現代の生活にとけこんだ音であり、朗々と切々と歌う調子には、さりげないペーソスや日常の喜怒哀楽が込められている。
それだけではなく、商業音楽として、まろやかなサックスやピアノを中心に R&B 的な躍動感を演出することもある。
そういう場面では、地味ながらも、安定感あるジャジーなリズム・セクションが心地よい。
プログレらしい迫力のある展開もアクセントとして散りばめられている。
ジャズロックにブレンドされたラウンジ・ミュージックやイージー・リスニング風の軽さと薄さがいい具合に機能する。
メロディアスでなめらかなアルト・サックスの響きがイアン・アンダーウッドを連想させたので、その方向から鑑賞すると、めまぐるしいアンサンブルなども含めルーツには「Hot Rats」 辺りもあるのかなと思い至る。
オランダらしい優美さやペーソスを越えて、北欧ものの無常感ある哀愁にまで通じるところがある。
線の細い FOCUS 、ややアマチュア風の SOLUTION か CAMEL といった感じの音である。
作曲はすべて、キーボーディストのリュード・ワウテルソン。
VERTIGO レーベル。CD には 3 曲のボーナス・トラックがつく。
「Daybreak」(2:32)
「Anais」(4:58)アッカーマン、ラティマー直系のギターがうれしい。
「Apocalyps」(10:53)
「The Madman」(1:12)キーボード中心によるクラシック翻案風の目まぐるしい小品。
「Orion」(19:28)FOCUS の大作を意識したような長編。
リズムや調、スタイルを次々と変えながら進んでゆくカラフルな絵本のような好作である。
コラール調のハーモニーやドラムス・ソロもあり。
(CDP 1074-DD)