ブラジルのプログレッシヴ・ロック・グループ「POÇOS & NUVENS」。 86 年結成。 作品は四枚。2008 年ギタリストがソロ作品「Memorias Do Tempo」発表。 作風はアコースティックな音を活かしたクラシカルなタッチとメタリックなヘヴィネスを併せ持つシンフォニック・ロック。 グループ名は「井戸と雲」の意で、聖書における偽りのメタファー。 最新作は、2012 年発表の「Clouds on the Road」。
Gerson Werlang | guitar, violin, bandolim, percussion, vocals |
Edgar Sleifer | flute, cromorne, guitar, acoustic 12 string guitar, piano on 3 |
Irvin Faller | bass |
Savio Werlang | keyboards |
Rafael Bisogno | drums, percussion |
98 年発表のアルバム「Ano Veloz Outono Adentro」。
内容は、フルート、チェロ、ヴァイオリン、ギターらのアコースティックな音色を活かしたネオプログレッシヴ・ロック。
くねくねとしたエレクトリック・ギターと華美なシンセサイザーによる典型的なポンプ・ロック・スタイルはマンマ英国流を継承するが、独自色も打ち出している。
それが、若々しく素朴な弾き語り調であり、それをアコースティックな器楽によるヨーロピアン・クラシック・テイストと民俗性で膨らませている。
ヘヴィさ、スリル、スピード感といったロックらしいファクターはネオプログレのテンプレート以上には強調されない。
あくまで誠実にして朴訥な詠歌が主であり、それを彩るためにネオプログレのテンプレートに加えて活発なフルート、本格クラシックなアコースティック・ギター、弦楽セクションらの音色をふんだんにあしらっている。
なよやかなポルトガル語による讃美歌調混声ヴォーカル・パートやエレクトリック・ギターのソロは、イタリア辺りの輸入型ネオ・プログレッシヴ・ロックと同じくメロディに寄りかかりきりであり、正直にいってかなり頼りない。
ただし、その垢抜けなさが素朴な滋味へと移り変わる瞬間があり、ナチュラルな牧歌調に聴こえてくる。
そうなるとメロディ・ラインも俄然いい感じの色合いで輝いてくるし、曲の作りのよさにも耳がいくようになる。
音楽の核に素朴さがある、これは強みだ。
また、アコースティック・アンサンブルにおけるクラシカルな表現のグレードの高さも強調しておくべきだろう。
不安定なバンド演奏をガマンしているうちに流れ去ってしまいそうな曲調に待ったをかけるのが、明快な旋律をきっぱりと奏でるフルート、ミドルテンポで威力を発揮する ANGLAGARD のマティアス・オルセン風の "太鼓" ドラムスである。
また、キーボードを多用していないため、ピアノやムーグ、ストリングスが印象的に聴こえるのも長所だ。
ホーンもジャジーな味わいで意表を突くアクセントとして使われているが、やはり主となるのは弦楽器であり、その点で最近では珍しいタイプだろう。
2 曲目では、メキシコの作曲家マヌエル・マリア・ポンセ作のギター・ソナタのテーマの翻案が出現する。
9 曲目でも明らかだが、このギタリストはエレクトリック・ギターではなくアコースティック・ギターが本職のようだ。
また、もう少し演奏の運動神経がいいとなあ、と思っていると 8 曲目では、知ってか知らずか、ナイーヴさを逆手に取ったような勢いのいい全体演奏も披露する。
10 曲目の JETHRO TULL ばりのアコースティック・クラシカル HM もおもしろい。
個人的にはこういうハードな演奏をもっと盛り込んでくれた方がいい。12 曲目も同様な点で Good。
最終曲はアコーディオンとアコースティック・ギター、ピアノとモノローグ風の歌が織り成す哀愁あふれる名品。
第一曲が回顧される。
技巧の拙さはあるにしても、目指しているところは明確であり全体の雰囲気はとてもよくできたアルバムだと思います。
録音にはメンバー以外にも管弦多くのゲストのサポートを得ている。
「Memorias do Campo(Memory Of 'Campo')」(3:09)ANGLAGARD を思わせるトラジックで重厚な響きの序曲。
「Tres Contos de Outono(Three Stories Of Autumn)」(11:38)
「Amanhecer(Dawn)」(4:59)ネオプログレ・スタイルが顕著。
「O Sol Desperta(The Sun Wakes Up)」(0:53)
「Provincias Do Infinito(Provinces Of The Infinite)」(5:11)このグループの作風を代表する楽曲。
「Navio Fantasma(Ghost Ship)」(4:08)
「Vagalumes(Glowfly)」(0:21)
「Geracao Perdida(Lost Generation)」(5:25)ギターやホーンによるジャジーなタッチが新鮮。
「Danca Ao Crepusculo(Dance To The Twilight)」(2:46)インストゥルメンタル。
「Vida Na Terra(Life on the Earth)」(7:38)
「Ano Veloz(Fast Year)」(1:13)
「Outono(Autumn)」(3:21)
「Outono no Sul(Autumn in the south)」(5:17)
(PDCD1)
Irvin Faller | bass | Gerson Werlang | guitar, classical & acoustic guitar, vocals, keyboards on 1 |
Savio Werlang | keyboards | Edgar Sleifer | flute, guitar, vocals, acoustic & 12 string guitar |
Iva Giracca | violin | Rafael Bisogno | drums, percussion |
guest: | |||
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Amaro Borges | cello | Luis Carlos Borges | accordion on 10 |
Paul Taylor | tabla | Patricio Orozco | guitar, keyboards, loop, effect |
Joao Fernando Machado | trumpet |
2001 年発表の第二作「Província Universo」。
内容は、ヘヴィさ、重厚さを基調に素朴なタッチを交えたクラシカル・シンフォニック・ロック。
アコースティックな音を随時活かしつつ、どっしりと重量感ある全体演奏で突き進む作風である。
前作の後半の「元気な」演奏をそのまま延長し、変わらぬフルートやアコースティック・ギターによる典雅な音を散りばめている。
特に、フルートは前作同様ハードな場面でもリリカルな場面でも堂々と主役を張っている。
エキゾティックなタッチも見せるなど、表現の幅は広がっていると思う。
また、ヴォーカルは、変わらぬ頼りない風情が独特の味わいを生む「得な」タイプであり、鋭角的な音との均衡という意味でも存在感はある。
そして、特徴の一つであるヴァイオリンは、新メンバーが担当しているようだ。
アコースティックな音への配慮はさすがであり、ヴァイオリンとアコースティック・ギター、ゲストのアコーディオンらが精緻なテクスチャを描くアンサンブルなど、往年のイタリアン・ロックを精密化したようなみごとな演奏になっている。
また、ギターやドラムスのヘヴィな音が相対的に増えてモダンなハードロック調になることも多くなった。
取って付けたようなバスドラのロールや力任せのパワーコードなど、HM として二流っぽい感じもあるが、クラシカルなプレイと対比させて聴くとなかなかヒネリがあっておもしろいし、
12 曲目のようにハマったときのカッコよさはかなりのものである。
サウンドや真正面にシンフォニック・ロックに取り組む姿勢などは、SOLARIS などの東欧圏 80 年代以降のグループや近年のロシアのグループに酷似している。
アコースティック・アンサンブルがかなり本格的なのに比べて、ロックとしての表現にはあまり気を遣わず常套句で済ましてしまうところも似ている。
アコースティック・アンサンブルとのコントラストを視野に入れ、プログレ・メタル風のヘヴィな音を活かした全体演奏が特徴的な作品であり、今風のサウンドによる、80 年代テイストあるクラシカルなシンフォニック・ロックの佳作である。
管楽器をフィーチュアした 12 曲目は力作。
前作もそうだったが、60 分弱の収録時間をわりとすんなりと受け入れられるのは、意外とアルバムの構成にも工夫を凝らしているからではないだろうか。演奏力だけでこのグループの作品を見過ごしていると損をするかもしれません。
「Provincia Universo」(1:19)
「Copla」(3:47)
「Vindima e Ventania」(4:38)
「No Inverno」(3:38)
「Vega」(8:54)
「Neblina」(0:37)
「Inverno」(4:10)
「Cancao」(4:41)
「Pocos e Nuvens」(7:17)
「Milonguita」(3:54)アコースティックな音のパッチワークによるきわめて幻想的な作品。美しくストレンジであり、プログレらしさは満載。
「Noites nas ruas」(4:50)
「Incenso e chuva」(9:49)冒頭は突然 80 年代 KING CRIMSON を思い出したような演奏そして、メインパートではラテン・フレイヴァーも醸し出し、MARS VOLTA ばりの展開を見せる。
「Universo provincia」(1:10)
(RSLN 060)