アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「PAVLOV'S DOG」。 70 年デヴィッド・サーカンプとリック・ストックトンによって結成される。 75 年アルバム・デビューし、現在も活動を続ける。 サーカンプの個性的なハイトーン・ヴォイスが特徴。
David Surkamp | vocals, guitar |
David Hamilton | keyboards |
Doug Rayburn | mellotron, flute |
Mike Safron | percussion |
Rick Stockton | bass |
Siegfried Carver | violin, vitar, viola |
Steve Scorfina | guitar |
75 年発表の作品「Pampered Menial」。
内容は、個性的なリード・ヴォーカルを多彩な器楽が守り立てるメロディアスなハードロック。
メタリックなハイ・トーンのヴォーカルと、アメリカン・ロック特有の明快で手を休めない曲展開のおかげで、いわゆるプログレよりも、ぐっとハードロックに近いイメージとなっている。
同時に、フルートやヴァイオリンなども用いた多彩な器楽を丹念に積み上げた演奏が、ブリティッシュ・ロックに通じる色合いも見せている。
そういえば、ジャケットの細密画もヨーロッパ的なセンスではないだろうか。
明解なメロディ・ラインと真っ直ぐな展開こそきわめてアメリカン・ロック的だが、メロトロンがざわめくと独特の湿っぽさが出て、英国風の陰翳が強く感じられるようになる。
そして、何より強烈なのは、リード・ヴォーカリストの声質と唱法である。
女性的、いやボーイ・ソプラノ的といっていいほどのキンキンした金属的な声なのだ。
ゲディ・リーに類似するが、こちらの方が遥かにキツい。
初めはこのヴォーカルのインパクトせいで他の音が耳を素通りするが、慣れてくると、意外やヴァイオリン、フルート、ギターなど多彩な音が充実したアンサンブルの魅力が分かってくる。
1 曲目「Julia」(3:13)
ロマンティックなラヴ・バラード。
クラシカルにしてロマンティックなピアノが導き、アコースティック・ギターが切々と和音を刻む。
涙を絞るヴォーカル・メロディ、そしてメロトロンによるシンフォニックな色づけ。
ていねいなリズム、ジャジーなベース・ライン、フルートの間奏など英国伝統のポップスの王道を感じさせるアレンジである。
甘ったるいだけのラヴ・ソングにならないのは、これらの丹念な器楽のおかげだろう。
ロマンティックにして品のあるバラードであり、クラシカルにしてジャジーな演奏が個性的なヴォーカルとのバランスをとって巧みに守り立てている。
意外なまでにメロトロンは強烈。
細かな音の使い分けがすばらしい。
GNIDROLOG に近い世界である。
2 曲目「Late November」(3:13)歯切れよいリズムによるロック・バラード。
ギターとメロトロンが強烈なヴォーカルを支え、ヴァイブが脇を固める。
ていねいなリズム・セクションとアコースティック・ギターが刻む軽やかなストロークのおかげで、泣きの強い歌メロに爽やかな表情も交じる。
短くびしっと決めるギター・ソロに続く間奏は、オルガンを変調させた音だろうか。
後半のハイトーン・ヴォーカルの表情も強烈だ。
軽めの GS 風のビートの利いた演奏とメロディアスなヴォーカルが絶妙のコンビネーションを見せるビート・チューン。
メイン・パートの雰囲気は前曲に近い「泣き」だが、全編リズミカルであり、ギター、オルガンもしっかりフィーチュアされる。
そして、何よりキャッチーなサビ。
そのサビのバックには、メロトロンが贅沢に使われている。
3 曲目「Song Dance」(5:00)
ドラマチックなギターとメロトロン、ヴァイオリンのトレモロから悠然重厚に幕を開ける。
ヴァイオリンとピアノが小刻みに反応し合い、メロトロンが追いかけるユーモラスな演奏が、突如ヘヴィなギター・リフを呼び覚ます。
一気にハードロックだ。
ヴォーカルは、高音のヴィブラートがここでも全開。
ギターやリズム、ヴォーカルは完全にハードロックだが、メロトロンとヴァイオリンが分厚く高鳴って、プログレ色を絞り出している。
さて、アメリカン・ロックにおけるヴァイオリンは、ほとんどがカントリー・フィドル的なプレイである。
しかし、ここのヴァイオリンは一概に何風といえない独特のもの。
しかし、演奏の奇妙な味わいがこのヴァイオリンに負うているのは確かなようだ。
ギター・リフとヴォーカルの応酬は、ほとんど URIAH HEEP である。
切り返しに続く、ムーグ、ヴァイブ、ギターによる短い間奏は、かなりおもしろい。
終盤は、突き刺さるようなヴォーカルがリード、演奏が高まる第二のクライマックスでは、最後はホンキー・トンク・ピアノも現れ、サビの応酬。
オープニングで期待させるが、ふたを開ければ、リフ中心のミドル・テンポのハードロック。
ヘヴィなリフとメタリックなヴォーカル、コーラスによるサビにいたっては、URIAH HEEP か BLACK SABATTH。
演奏中鳴りっぱなしのメロトロンとヴァイオリンが独特の翳りを生む。
4 曲目「Fast Gun」(3:05)
オープニングは、オリエンタル風味のスケールで上昇するギター、ストリングス、ヴァイオリンの流麗なユニゾン。
ストレートな歌唱は日本のフォークのようであり、伴奏のオルガン、メロトロンがシンフォニックな広がりをつけている。
ギター、ヴァイオリンのオブリガートもいい感じだ。。
シャフルでたたみかけるコード・ストロークとヴォーカルの絡み、そして緊張感を高めては解き放つドラミングもいい。
オルガンとメロトロンが交互に伴奏に入る。
一貫して東洋風のギターのフレーズがフィーチュアされる。
東洋風のエキゾチックなテーマをフィーチュアしたポップなバラード。
むせび泣くようで小気味のいい演奏は、TAI PHONG にも通じる。
5 曲目「Natchez Trace」(3:43)
ギタリストの作品だけあって、ギター・リフとオルガンのコンビネーションが冴えるロックンロール。
鮮やかなピアノのオープニングが、一気に、ギター・リフとオルガンの絡むロックンロールへと変貌する。
ヴォーカルも加わって走り出すと、じつに軽快だ。
ホンキートンク風の奔放なピアノ・ソロ。
ヴァイオリン・ソロは、短いがビシッと決まっている。
勢いあるサビをコーラスで決める QUEEN 風。
これだけビートを利かせた作品でも、歌の伴奏は、思い切りメロトロン・ストリングスだからすごい。
エンディングのギター・リフを支える 8 ビートを叩くピアノも鮮烈だ。
ギターとオルガンがカッコいい、アメリカンなロックンロール。
こういったメロディよりもリズムが中心となる作品でも、ヴォーカリストは敏速に演奏に応じて華やかな歌唱を決めている。
LED ZEPPELIN が細身になったような作品だ。
こういう作品でメロトロンがフィーチュアされるのは珍しいと思う。
6 曲目「Theme From Subway Sue」(4:26)
メロディアスなギターに呼び覚まされるピアノ伴奏のバラード。
メロディもバッキングもセンチメンタル。
オブリガートや決めもムードがある。
この作風が最も得意なようだ。
ピアノのバッキングでギター・ソロ、ヴォーカルと進むが、常に感傷的。
メロトロンもそういった気分を出している。
ピアノとギターのコンビネーションが、最後まで曲をリード。
ところどころでギターがカッコいいプレイを決めている。
やや感傷的な雰囲気を持ちつつも、ドラマチックに盛り上る日本人好みの作品。
ピアノの伴奏とギターのオブリガートなど、ALICE や 加山雄三、SAS など日本の歌謡曲ロック・バンドのような演奏である。
サビだけは、乾いたアメリカン・タッチではあるが。
7 曲目「Episode」(4:04)
憂鬱なヴィオラに導かれたギターのアルペジオが伴奏する哀愁のバラード。
ドラムスととともに、メロトロンが夜明けを迎えたような長調への転調を支え、ゆったりとした広がりをもたらす。
間奏は、ピアノの伴奏で美しく哀しいヴィオラ。
表情豊かなヴォーカルは寂しげな調子で歌うが、メロトロンが響き始めるに連れ、力と希望を得てゆく。
最後も美しいヴィオラの響きで終る。
寂しげにして豊かなヴィオラの音色と、さざ波のようなギターのアルペジオが静かな感動を呼ぶシンフォニック・ロック。
哀愁のヴォーカルは次第に力と明るさを得、演奏も雄大な広がりを見せる。
短いがドラマを感じさせる。
アメリカン・ロックらしさの出たシンフォニック・チューンである。
8 曲目「Preludin」(1:36)
ヴァイオリンとギターがリードするクラシカルなアンサンブル。
愛らしいテーマである。
手数の多いドラムスがせわしなさを生む。
かけあいからピチカートのハーモニーを華麗に決めると、チェンバロが歌いだす。
ヴァイオリンは軽やかに併走し、やがてトリルへ。
ギターとピアノも追いかける。
テーマはギターからオルガン、そしてムーグへと移ってゆく。
軽やかに走るムーグ。
テンポが落ちるとメロトロンが高鳴り、ピアノがさざめき、ストリングスがさらに盛り上げる。
やがてリタルダンド、分厚いアンサンブルが消えてゆく。
次曲の導入となるクラシカルな序曲。
テーマをめぐり、目まぐるしくアンサンブルが変化する。
せわしなさの中に明るいユーモアがあり、短い中にドラマもある。
インストゥルメンタル。
9 曲目「Of Once And Future Kings」(5:33)
ギターによる乾いたアルペジオ、わびしげなメロトロン・フルートをバックにヴォーカルは思いのほか力強い。
繰り返しでは、シンセサイザーが轟々と高鳴り、ピアノとともに THE BAND のような重厚なムードにあふれる。
一転、ジャジーなピアノの導きで曲調はリズミカルなロックンロールへと突っ込む。
そして、アップテンポのロックンロールは一瞬でクラシカルに変化、ヴァイオリンがむせび泣きピアノが歌うと、再び曲調は序章のような悠然としたものになる。
高鳴るピアノ、メロトロンらが一体となって盛りあがるも、ギターのリードですべては轟音とともに消えてゆく。
吹きすさぶ風、ざわめくピアノ、メロトロンとともに力強くヴォーカルが復活。
メロトロンとシンセサイザーによる重厚な伴奏を得て、さらに高らかに伸びやかに駆け上るヴォーカル。
ギターとピアノも躍動的にヴォーカルに絡んでゆく。
誇り高くオプティミスティックな余韻を引いて、風の音とともにすべては去ってゆく。
クラシカルな演奏とメロディアスなヴォーカル表現を思い切りフィーチュアした力作。
イタリアン・ロックを思わせる目まぐるしく大胆な展開をもち、きわめて劇的である。
中盤までヴォーカル含めかなりエキセントリックな音が次々に現れるが、ピアノやメロトロン・フルートらによるリリカルな表情と、ヴォーカルそのもののオーセンティックな表現が次第に流れを大きく悠然としたものに変えてゆく。
ふと気付けば、雄大なシンフォニーであり、暖かな余韻が残っている。
ようやくヴォーカルに耳が慣れたら、もう最終曲でした。
いわゆるアメプロ・ハードとは異なり、デリケートなニュアンスのあるメロディアス・ハードロック。
主としてヴォーカルの声のせいだと思うが、全体に独特の感傷が漂う。
強烈なヴォーカルのせいでなかなか耳に入ってこないが、クラシカルでデリケートなインスト・パートやコンパクトで劇的な曲展開など、演奏/曲のセンスにはすばらしいものがある。
今ならメロディアス・ハード、様式美メタルといういい方もあろうが、75 年当時の区分けでは、ハードロックよりもプログレッシヴ・ロック側にカテゴライズされていたようだ。
ヴァイオリンやピアノ、フルートらによるクラシック風味とメロトロン、シンセサイザーによるシンフォニックなサウンドは、英国ロックと比べても遜色ないでき映えであり、大陸的なロマンチシズムもしっかりと感じられる。
とはいえ、これだけおセンチながらも、湿り気には乏しくどこかカラッとしているところが、やはりアメリカ出身である。
(PC 33552 / SRCS 6286)
David Surkamp | vocals, acoustic & veleno guitar | Douglas Rayburn | mellotron, bass, percussion |
Stephen Scorfina | lead guitar | David Hamilton | keyboards |
Richard Stockton | bass | Thomas Nickeson | acoustic guitar, backing vocals |
guest: | |||
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William Bruford | drums | Mike Abene | organ |
George Gerich | organ | Michael Brecker | sax |
Andy Mackay | sax | Les Nicol | guitar |
Elliot Randall | guitar | Paul Prestopino | mandolin |
Gavyn Wright | violin | ||
Mountain Fjord Orchestra | strings | ||
High Wycombe boys Choir | vocals |
76 年発表の作品「At The Sound Of The Bell」。
膨大な数のゲストを迎えた第二作。
ビル・ブルフォードは、客演ながら、すべての作品でドラムスを叩いているようだ。
マイケル・ブレッカーも、まさにロック・ミュージシャンと積極的に交流していた頃なのだろう。
本作も、サーカンプの特異なハイトーン・ヴォイスを活かした曲がメインである。
ただし、前作の少女マンガ的な美麗メロディアス・ハードロック路線は若干変更し、ヒステリックなハードネスも「泣き」も一歩後退、落ちつきあるアレンジによるリラックスしたポップな作風となった。
喩えていうなれば、エルトン・ジョンのように舌ざわりのいいポップスの中で大人の情感を表現できている、ということである。
ヴォーカルを支えて楽曲の流れを作る弦楽奏アレンジもいい。
また、充実したゲストのサポートを得て、演奏の質は上がり、楽曲のバリエーションも AOR、ロックンロール、シリアスなプログレからバラードと幅広くなっている。
つまり、もはやメロトロン鳴らしっ放しというレベルではないのだ。
いわゆるプログレ的な技巧を誇示するような場面は少なく、曲の雰囲気をしっかりと聴かせるというプロフェッショナルなスタンスである。
2 曲目なんて、まるでキャロル・キングのようです。
ジャケットはノートルダムのせむし男=カジモドでしょう。
「She Came Shining」(4:18)
アメリカン・ロックらしい作品に英国風の音が散りばめられ、独特の感傷がある。オルガンのオブリガートがいい。
「Standing Here With You(Megan's Song)」(3:51)
ヴァイオリン含め、ストリングスとピアノがエレガントに支えるキャロル・キング風のバラード。風格を感じさせる名曲。
「Mersey」(3:05)
洗練されたギター・サウンドによる西海岸 AOR 調のメロディアス・チューン。懐かしい音です。ここのサックスはアンディ・マッケイかな。
「Valkerie」(5:23)
ピアノ、オルガン、メロトロン、ギターでクラシカルに、悩ましく盛り上がる英国風プログレ・チューン。
メロディアスでシアトリカルで独特の忙しなさがあり、しいていえば GENESIS スタイル。
なぜかドラムスが目立つミックスになっている。サックスはアンディ・マッケイでしょう。
少年合唱も動員。
タイトルはワーグナーで有名な「ワルキューレ」。
「Try To Hang On」(2:08)
歯切れのいいピアノと表情豊かなベースライン、クランチなギターで迫る小洒落たブギー。
「Gold Nuggets」(3:27)
英国ロック的なロマンチシズムのあふれるバラード。ハーモニウムのようなクラシカルなオルガンが緩やかに響く。
「She Breaks Like A Morning Sky」(2:27)
トッド・ラングレンのような軽快なロックンロール。サックスはブレッカー。
「Early Morning On」(3:11)
シンセサイザーやギター、ストリングスがにぎにぎしく高鳴るポップなシンフォニック・ロック。
「Did You See Him Cry」(5:38)
冒頭のメロトロン、クラシカルなソロ・ピアノ、厳格な変拍子オスティナート、呪文めいたヴォーカルなど、プログレ全開の作品。
(PC 33964 / CDCBS 32405)