イギリスのギタリスト「Phil Manzanera」。 QUEIT SUN、ROXY MUSIC と渡り歩く職人ギタリスト。 ギターを楽器ではなく「装置」と見なしたようなスタイルが新鮮だった。
Charles Hayward | drums, percussion, keyboards, voices |
Dave Jarrett | fender rhodes, steinway grand, farfisa & hammond organ |
Phil Manzanera | electric 6 & 12 string guitars, treated guitar, fender rhodes |
Bill MacCormick | bass, treated bass, backup voices |
guest: | |
---|---|
Eno | synthesizer, oblique strategies |
Ian MacCormick | backup voices |
75 年発表のアルバム「Mainstream」。
60 年代末にマンザネラらが結成したアヴァンギャルド・ロック・グループ QUIET SUN 名義の作品。
ROXY MUSIC でステータスを築き、ソロ第一作を成功させたマンザネラの主導で、かつて取り組めなかったアルバム製作を実現させた。
内容は、SOFT MACHINE をしっかりなぞりながらもガレージ・ロックのマインドも絶やさないカンタベリー・ジャズロック。
尖りざらついた音と変則的なビートと執拗なパターン反復によって、アグレッシヴな面とリリカルでセンチメンタルな面がない交ぜになった奇妙な味わいのドラマを作ってゆく。
過激なサウンドとリフというシンプルなロックンロールのアプローチと、それらに巧妙な変化と複雑な展開をもたらすジャズのアプローチを勢いで一つにしてしまっているところが特徴である。
71 年に SOFT MACHINE の真似をしたかったときにはスキルが足りず中途半端だったが、時間が経って世の中が変化し、75 年になってみるとパンキッシュなサウンドによるジャズロックにかえってリアルな手応えが出てきた、という感じだろうか。
(逆にスキル十分でロックに突っ込んだのがトニー・ウィリアムスの LIFETIME だが、おもしろいことに音の感触がけっこう似ている)
抽象的で圧迫感のある作風は、いかにも若々しい才能による挑戦的な姿勢からきたものに思える。
険しいはずの音がなぜか人なつこく、ウィットにも富むのも若さゆえだろう。
ざらざらしたファズ・ギターが歌う切ない調べをエレクトリック・ピアノの変拍子オスティナートが支え、激情に身をやつしながらいつしか感傷の海へといざなう。
アコースティック・ピアノのアドリヴがメローなフュージョン・タッチにならず、ブリティッシュ・ロックらしいロマンや洒落っ気がにじみ出ているところがいい。
THE BEATLES 好きも発覚。
同時期に製作した「Diamond Head」と共通した表現も多く見られる。
プロデュースはグループ。エンジニアにレット・デイヴィスの名前あり。
「Sol Caliente」(7:34)スリリングな佳曲。KING CRIMSON 的な混沌と波乱の幕開け、けたたましいファズによるサイケデリックな白昼夢感覚、変拍子と反復による幾何学的秩序、そして無限遠への疾走。
冒頭のギターのテーマは「Lagrima」そのもの。
「Trumpets With Motherhood」(1:47)1 曲目の延長なのでエピローグとして以外には別の曲にする意図が分からないが、SOFT MACHINE にも同じような編集があるので、そこまで似させたいのでしょう。
「Bargain Classics」(5:48)パーカッションと奇妙なノイズによる即興ブリッジを経て、再び変拍子で幾何学模様を描く。オルガンのない EGG。
「R.F.D.」(3:23)ドリーミーなオルガン/エレピのデュオ。
「Mummy Was An Asteroid, Daddy Was A Small Non-Stick Kitchen Utensil」(6:00)ノイジーで凶暴、一種怪物的な迫力のある変拍子ジャズロック。
「Trot」(5:18)後期 SOFT MACHINE そのもののようなスペイシーなジャズロック。終盤ギターが暴れる。
「RongWrong」(9:34)メランコリックな変拍子ロック。
初めて、控えめなヴォーカル登場。、ロバート・ワイアットが歌うことを想定していたであろうリリカルな傑作。
(HELP 19 / EXVP I5CD 6043 88457 6 2)
Phil Manzanera | guitars, tiplé on 3,9, organ on 6,9, piano on 6, bass on 6, strings synthesizer on 9, fuzz bass on 9, vocals on 9 | |||
Eno | background vocals on 1,2, vocals on 3,6, guitar treatment on 2,7 rhythm guitar on 6, piano on 6, handclap on 6 | |||
Robert Wyatt | lead vocals, timbales, cabasa, background vocals on 1 | Eddie Jobson | all strings on 2, fender piano on 2, electric clavinet on 4, synthesizer on 9 | |
John Wetton | bass on 1-5,7,9, vocals on 5, mellotron on 5 | Bill MacCormick | handclaps on 6, fuzz bass theme on 7, vocals on 9 | |
Brian Turrington | bass on 3,6 | Paul Thompson | drums on 1-7,9 | |
Sonny Akpan | congas on 4,5,10 | Charles Hayward | percussion on 7 | |
Dave Jarrett | keyboards theme on 7 | Ian MacDonald | bagpipes on 7 | |
Andy Mackay | soprano & alto sax on 4, oboe on 8 | Doreen Chanter | vocals on 5 | |
Chyke Hanu | drums on 10 | Danny Heibs | bass on 10 | |
Mongezi Feza | trumpet on 10 |
75 年発表のアルバム「Diamond Head」。
上記「Mainstream」製作の端緒となったマンザネラのソロ第一作目。
内容は、エレクトリックで鋭角的なサウンドにラテン風味も交えた軽妙洒脱なブリティッシュ・ロック。
ストレートなロックではあるが、独特の諧謔味や変拍子ファズのノイジーなサウンドなど「カンタベリーのいとこ」のような面もある。
ただし、無理やりプログレ文脈で売らずとも、軽めのヒネクレ・ロックすなわちニューウェーヴでぜんぜん問題ない。
ゲストは ROXY MUSIC 人脈を主に旧知、ジャズ畑まで多彩。
7 曲目「East Of Echo」は、QUIET SUN のメンバーが揃い、そのままアルバム製作へと向かった。
この 7 曲目に加えて、1 曲目「Frontera」、8 曲目「Lagrima」、9 曲目「Alma」は、元々 QUIET SUN 時代の作品からの再構成らしい。
「Frontera」(4:02)ロバート・ワイアットがスペイン語で歌うノリのいいロックンロール。ギターがロバート・フリップ風。ワイアットが歌うとチカーノ特有のいかがわしさが微妙にねじれていい感じである。
「Diamond Head」(4:30)「夏をあきらめて」の英国流解釈か、天気のぐずついたリゾートの味わい。
エディ・ジョブソンによるらしきストリングスのアレンジが不気味。位相系エフェクトのいい活かし方。インストゥルメンタル。
「Big Day」(3:44)癒し系ポップロック。リード・ヴォーカルはブライアン・イーノ。キーボードとベースが目立つ。
「The Flex」(3:32)サックスがリードするラテン系 R&B。クラヴィネットの音が印象的。貧乏なゴージャス。インストゥルメンタル。
「Same Time Next Week」(4:45)リード・ヴォーカルはジョン・ウェットンとドリーン・チャンター(姉妹のパツキンロン毛の方です)。
バッキンガム & ニックスの変拍子版。ギターは軽快なバッキングもいいが、ごりっとしたソロもいい。
「Miss Shapiro」(6:40)ノイジーで暴力的なギターがカッコいいガレージ・ロック。
ここでリード・ヴォーカル担当のイーノがガナると普通のパンクになったが、ワンノートのとぼけた歌なので ROXY っぽくなっている。
改めて思うのは、ギターのセンスがジョン・レノンに近いこと。
「East Of Echo」(5:45)QUIET SUN のメンバーが参加したジャズロック。
シンプルな反復と独特のサウンドが幻惑効果を発してめまいを起こさせる。
ギターはファズと位相系エフェクトとリフで主張。ベースもファズを使う。ロマンティックでオルガンのない SOFT MACHINE。インストゥルメンタル。
「Lagrima」(2:27)QUIET SUN の「Sol Caliente」の憂鬱なる名テーマ。アコースティック・ギターの爪弾きとアンディ・マッケイによる哀愁あるオーボエのデュオ。インストゥルメンタル。
「Alma」(6:48)シンフォニックかつパストラルな穏やかさあふれる傑作。
じつに英国ロックらしい作品である。
ひねくれた間奏以外は BARCLAY JAMES HARVEST のようです。
終盤のアーシーな力強さはエリック・クラプトンか。
ビル・マコーミックの素朴なヴォーカルもいい。
「Carhumba」(4:48)ボーナス・トラック。持ち味であるアーティフィシャルなフェイクっぽさをフィーチュアした軽快なラテン・ロック。インストゥルメンタル。
(ILPS 9315 / EXVP 14CD 6043 88457 5 2)
Phil Manzanera | guitars |
Bill MacCormick | bass, vocals |
Simon Phillips | drums, electronic drums |
Francis Monkman | Fender Rhodes, clavinett |
Lloyd Watson | slide guitars, vocals |
Eno | synthesizer, vocals, guitars, tape |
76 年発表のアルバム「801 Live」。
マンザネラ率いるユニット「801」によるライヴ・アルバム。
ROXY ファンはもちろん手に取ったが、時は 76 年、プログレのアルバムが減ってきたので珍重された。
さりげない変拍子や多彩な場面展開など、プログレに憧れた QUIET SUN の心意気はここでも健在。
そして、折からのフュージョン・ブームも受けて、バカテク・超多忙セッション・ドラマーのサイモン・フィリップスを軸にしたテクニカルな演奏で迫っている。
マンザネラ、イーノらは決して「テクニカル」なタイプではないが、先進的で尖ったサウンド・メイキングとタイトなリズム・セクションに引っ張られる形でなかなかのパフォーマンスになっている。
イーノのすっとぼけたヴォーカルも、やや歌いすぎの感はあるが、キレのいい演奏にのっかると独特の効果がある。
もちろん、ミステリアスな場面の演出やブルージーでガレージ調のロックはさすがに素のままでもカッコいい。
マンザネラもオーソドックスなプレイにとどまらず攻めたプレイをファズ・ギターで決めている。
個人的には、冒頭から BEATLES にかけての展開とクラプトンのアルバムで聴けそうなロイド・ワトソンのスライド・ギターが好み。
「Lagrima」(2:34)「Diamond Head」収録作品。
「T.N.K. (Tomorrow Never Knows)」(6:14)もちろん BEATLES。この曲が好きな人はみな不器用だがいい人である。
「East Of Astroid」(4:58)
「Rongwrong」(5:10)チャールズ・ヘイワード作のロマンティックなバラード。
「Sombre Reptiles」(3:14)イーノ作。「Another Green World」収録作品。インストゥルメンタル。
「Golden Hours」(4:34)イーノ作。「Another Green World」収録作品。CD 収録曲。モンクマンのクラシカルなクラヴィネットのプレイがみごと。
「Fat Lady Of Limbourg」(5:54)イーノ作。「Taking Tiger Mountain」収録作品。CD 収録曲。
「Baby's On Fire」(5:02)イーノ作。「Here Come the Warm Jets」収録作品。
チープなガレージ風のグラム・ロックでもリズムがすごいと新しい世界が見えてくる。ギターのかけあいもカッコいい。
「Diamond Head」(6:21)「Diamond Head」収録作品。ほのかな哀愁と開放感のバランスした名曲。インストゥルメンタル。
「Miss Shapiro」(4:20)「Diamond Head」収録作品。
グラマラスでユーモラスなロックンロール。
「You Really Got Me」(3:23)KINKS の名曲。前曲からメドレー。なんだこの歌は。
「Third Uncle」(5:14) イーノ作。「Taking Tiger Mountain」収録作品。暴走系テクニカル・ロックンロール。
(ILPS 9444 / EXVP 16CD 6043 88457 7 2)