SLAPP HAPPY

  ドイツ、イギリス、アメリカ混成のプログレッシヴ・ポップ・グループ「SLAPP HAPPY」。 72 年結成。 ダグマー・クラウゼのヴォーカルをフィーチュアした抱きしめたくなるよな「ナイーヴ・ロック」。 HENRY COW と合体するも、後にクラウゼを奪い去られて解体。 以後も散発的に活動を続け、97 年に新作発表し、2000 年来日。

 Sort Of
 
Peter Blegvad sax, guitars, vocals
Dagmar Krause piano, woodblock, tambourine, vocals
Anthony Moore guitars, keyboards, vocals
Gunther Wüsthoff(FAUST sax
Werner Diermaier(FAUST drums
Jean Herve Peron(FAUST bass

  72 年発表のアルバム「Sort Of」。 内容は、ロリータ・ヴォイスを飛び道具に、米国カントリー、西海岸サイケデリック、VELVET UNDERGROUNDPLASTIC ONO BAND の影響を強く受けた愛らしき前衛的ガレージ・ロック。 クラウゼのラヴリーな声とは裏腹に、辛辣なる多国籍歌詞、何気ない変拍子、田園風なのにスタイリッシュといった「棘」や「含み」をもつ刺激的な内容だ。 いってみれば、「ところはつえ」のマンガのような作品である(ホントかな)。 本作品のアプローチは、仮もののスタイルに主張を紛れ込ませてハリボテ化すればするほどリアルなメッセージが浮かび上がる、といったアイロニカルな効果を真面目に狙うものではなく、「難しいことはできないよ」という開き直りとヒッピー的なイージー・ゴーイングさが交じったうえで根っからのヒネクレモノとしての毒気だけは決して失わない、という感じのものだ。 美しい風景写真がだまし絵になっているジャケットもこの作風を象徴するようだ。 演奏も製作もガレージ風でシンプル。 しかしプレイに緩みはなく適切な重量感とキレがある。 こういう音でカッコよく聴かせるのはかなり難しいはずだ。 60 年代サイケと 70 年代パンクと 80 年代テクノ・ポップが同じ根っこであったことが分かる、一種のミッシング・リング的な内容ともいえる。 女性リード・ヴォーカリストの声が好みを分けるが、個人的には僅差でケイト・ブッシュよりもいい。 男性ヴォーカルのオブリガートや、ギター・プレイなど VELVETS に似すぎなところがたくさんあり、ほほえましい。 たまに無性に聴きたくなるディスクです。 立花ハジメのサックスはブレグヴァドの真似か。

  「Just A Conversation」(4:02)
  「Paradise Express」(2:40)
  「I Got Evil」(2:30)
  「Little Girl's World」(3:25)中間部の変拍子アンサンブルがおもしろい。
  「Tutankhamun」(2:17)
  「Mono Plane」(6:50)ジョン・レノン風。
  「Blue Flower」(5:10)VELVETS のリード・ヴォーカルをクラウゼが務めているような作品。嫌いになれない。
  「I'm All Alone」(2:30)
  「Who's Gonna Help Me Now」(2:25)COWBOY JUNKIES を思わせるカントリー・バラード。
  「Small Hands Of Stone」(4:38)ジャジーにこなれた異色作。この位置にあるので非常に映える。
  「Sort Of」(2:15)インストゥルメンタル。夜中に冷蔵庫に開けてチーズとソーセージ食べたくなる。
  「Heading For Kyoto」(3:00)ピチカート・ファイヴか?
  「Jumping Jonah」(3:03)ボーナス・トラック。再び VELVETS

(POLYDOR 2310 204 / Voiceprint BP318 CD)

 Acnalbasac Noom
 
Peter Blegvad clarinet, guitar, vocals
Dagmar Krause piano, vocals
Anthony Moore keyboards, vocals
FAUST 

  73 年発表のアルバム「Acnalbasac Noom」。 前衛ロック・グループ FAUST をバックにしたがえた作品。 73 年に収録されたものの、Virgin 盤の後、81 年になって初めて発表された。 サウンドは、世紀末ベルリンの歌姫がアニメ・ソングを歌っているようなダグマー・クラウゼ嬢のヴォーカルをフィーチュアし、タンゴから THE BEATLES まで多彩なスタイルを散りばめた「レトロ・ポップ」。 多様なスタイルをヴォーカルの魔力で貫いた、キュートにして奇妙な味わいのユニークな音楽である。 驚いたことに、73 年にして、すでにニュー・ウェーヴを予感させるインチキ臭げな瑞々しさでいっぱいである。 ガレージ風のラフな録音にもかかわらず、可愛くて、はちきれそうな魅力がつまった名作だ。 オープニングの「Casablanca Moon」の魅力は、時間を超えて遠く前世紀まで響き渡り、無声映画、アール・デコ、銀幕のスタア、男装の女傑、デートリッヒとバーグマンといった連想がとどまることを知らずに続いてゆく。 また、FAUST の演奏を聴いていると、サイケデリック・ロックがテクノやニュー・ウェーヴの元ネタだったということが、よく分かる。 VELVET UNDERGROUND と同じく時代を越えた音。 PUFFY 好きなら是非聴いて。 愛に飢えてる方も。 それから、浅草の仁丹塔(もうないけどさ)みたいなレトロなものや、THE BEATLESXTC の音楽が好きな人(オレか)へは心からご推薦します。 ただ、ヴォーカルがとても個性的なので、まず 1 曲聴いてみてからにしてください。 プログレかどうかは、知りません。 現行 CD に付く 4 曲のボーナス・トラックは、テクノ・ポップ風だがノスタルジックで悪くない。

  「Casablanca Moon
  「Me and Paravati
  「Mr.Rainbow
  「Michelangelo
  「The Drum
  「A Little Something
  「The Secret
  「Dawn
  「Half-way There
  「Charie'n Charie
  「Slow Moon's Rose
  「Everybody's Slimmin'」ボーナス・トラック。
  「Blue Eyed Wiliam」ボーナス・トラック。
  「Karen」ボーナス・トラック。
  「Messages」ボーナス・トラック。

(ReR SHCD)

 Casablanca Moon
 
Peter Blegvad clarinet, guitar, vocals
Dagmar Krause piano, vocals
Anthony Moore keyboards, vocals
Henry Lowther trumpet Jeremy Baines bassoon Clem Cattini drums
Claire Deniz cello Andy Leggett jug Geoff Leigh wind
Jean Hervu Peron bass Graham Preskett mandolin, violin Kesh Sathie percussion
Marc Singer drums Eddie Sparrow drums Dave Wintour bass
Roger Wootton vocals Nick Worters bass

  74 年発表の第二作「Casablanca Moon」。 81 年発表の「Acnalbasac Noom」とほぼ同内容(「Charie'n Charie」が「Haiku」に置き換えられている)であり、こちらが Virgin からの正規リリースである。 ただし、このアルバムでは、ヴォーカル・トラックやバッキングにオリジナルである「Acnalbasac Noom」とは異なるアレンジを施している。 ふんだんに管楽器や弦楽を使用し、タンゴやハワイアン、カントリー、ジャズなどのルーツを明快にしたアレンジは決して悪くはない。 しかし、オリジナルのチープなガレージっぽさの魔力にとらわれているとなかなか耳に入ってこないかもしれない。 「The Drum」なんかはこちらのアメリカン・ロックのパロディのような仕上がりもイイ感じである。
  写真の現行 CD は、Virgin からの「Casablanca Moon」と、HENRY COW と共作した 75 年発表の次作「Desperate Straights」をカップリングしたもの。

(CD0VD 441)

 Desperate Straights
 
Peter Blegvad clarinet, guitar, vocals
Dagmar Krause piano, vocals
Anthony Moore keyboards, vocals
Fred Frith guitar, violin
Tim Hodgkinson clarinet, piano
Chris Cutler drums
John Greaves bass, piano
Geoff Leigh wind Pierre Moerlen percussion Lindsay Cooper wind
Mongezi Feza trumpet Muchsin Campbell horn Nick Evans trombone

  75年発表のアルバム「Desperate Straights」。 ブレグヴァド、ムーアの作品を HENRY COW とともに演奏した作品。Virgin オールスターズの趣もある。 内容は、コケットにして狂的なエネルギーを発揮する歌ものロック。 室内楽調のクラシカルなタッチやガレージ・ロック、エレクトリックなジャズロックなどさまざまなスタイルを独特のヴォイスを中心にクールなモノトーンでまとめている。 演奏は、変拍子を使い音の込み入ったチェンバー風のアンサンブルとあどけなさが不気味なクラウゼのヴォイスを軸にする。 ギターやシンプルで腰の据わったドラミングなど基本的なロック・バンドとしてのセンスもいい。 管楽器の暖かみある豊かな響きや重厚にして洒脱なピアノ、鍵盤パーカッションのアクセントなどが適宜挿入されて、過激で、熱に浮かされたうわ言のようにアッパーになりがちな雰囲気のカームダウン効果をうまくあげている。 クラウゼは前作の蠱惑的なスタイル一辺倒ではなく、緊張感あふれるヒステリックでシャーマニックな表情も操る。 中低音のドスの効き方はただごとではなく、管楽器アンサンブルとともに無邪気なまま深刻さを増してゆくところが特にコワい。 タイトル曲を含めインストゥルメンタルもあり。 二つのバンドの特長を生かした合体技としては理想的な内容だろう。 ほのぼのタッチと険しさがない交ぜになった演奏の端々に現われるのは、やはり切ないノスタルジーの香りである。 そして、最終曲のシリアスな室内楽の大作が不気味な予兆のような存在になっているところもまた興味深い。
   現在は前作「Casablanca Moon」とのカップリング CD が入手可能。 ここのジャケット写真は LP のもの。 Muchsin Campbell とクレジットされているのは、あの EGG のモント・キャンベル。
  
  「Some Questions About Hats」(1:53)
  「The Owl」(2:17)
  「A Worm Is At Work」(1:52)
  「Bad Alchemy」(3:06)
  「Europa」(2:48)
  「Desperate Straights」(4:14)アンソニー・ムーアのピアノがリードするノスタルジックなインストゥルメンタル。
  「Riding Tigers」(2:02)
  「Apes In Capes」(2:16)
  「Strayed」(1:54) そもそもブレグヴァドの歌い方がルー・リードに似ているのである。
  「Giants」(1:57)キャンベルのホルンがいい味を出すチェンバー歌もの。
  「Excerpt From The Messiah」(1:49)
  「In The Sickbay」(2:09)
  「Caucasian Lullaby」(8:25)管楽器が静かな対話を続けるインストゥルメンタル。

(V2024)

 Kew. Rhone.
 
Lisa Herman vocals Peter Blegvad tenor sax on 5, guitar, vocals
John Greaves piano, organ, bass, vocals, percussion on 7 Andrew Cyrille drums, percussion
Mike Mantler trumpet, trombone Carla Bley vocals, tenor sax on 1,7
Michael Levine violin, viola, vocals on 9 Vito Rendace alto & tenor saxes, flute
April Lang vocals on 5,8 Dana Johnson vocals on 2
Boris Kinberg clave on 5  

  77 年発表のアルバム「Kew. Rhone.」。 SLAPP HAPPY はクラウゼを HENRY COW に奪われて自然消滅、ブレクヴァドはアメリカに戻り、HENRY COW を脱退したジョン・グリーヴスとともに、マイケル・マントラー、カーラ・ブレイ夫妻のサポートも得て本作を録音する。 内容は、カンタベリー・サウンドのジャズ面をブラッシュアップし、アレンジと歌詞も凝り捲くった歌ものアヴァンギャルド・ジャズ。 前衛的にして高尚かつお洒落な傑作である。 なめらかにしてミステリアスな演奏と、諺から謎かけや語呂合わせ、スリーヴのイラストの解説文まで不可思議な言葉遊びに満ちた歌詞が生み出すのは、洒脱にして、奇妙に捻じ曲がった不思議の世界である。 作曲はグリーヴス、作詞はブレグヴァド。 エンハンス CD になり、さらにマルチメディア作品として充実した内容となった。

  「Good Evening
  「Twenty-Two Proverbs
  「Seven Scenes From The Painting "Exhuming The First American Mastodon" By C.W. Peale
  「Kew. Rhone.
  「Pipeline
  「Catalogue Of Fifteen Objects And Their Titles

  「One Footnote (To Kew. Rhone.)
  「Three Tenses Onanism
  「Nine Mineral Emblems
  「Apricot
  「Gegenstand

(V 2082 / VP200CD)


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