フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「STEP AHEAD」。 80 年結成。 82 年、YES 直系のさわやかなシンフォニック・ロックである唯一作発表。
Christian Robin | electric guitars | Danny Brown | vocals, tambourine |
Gerald Macia | acoustic guitar | Claude Truchi | keyboards, piano |
Alain Lejeune | keyboards (9-13) | Antoine Ferrera | bass |
Philippe Recht | bass (9-13) | Jean-Yves Dufournier | drums |
Emmanuel Riquier | drums (9-13) |
82 年発表のアルバム「Step Ahead」。
内容は、ひっかかるようなプレイで音数の多く迫るギターと中性的なハイトーンのリード・ヴォーカルをフィーチュアした華やかなシンフォニック・ロック。
ジャケットに描かれた「White Lady」を主題としたトータル作品になっているようだ。
第一印象は、YES をカヴァーしていたグループが、ややハードロックがかった 70 年代終盤以降の YES を経て、STYX、JOURNEY、REO SPEEDWAGON らの路線へとシフトして、80 年代初頭でのチャート・インを狙った音である。(長くてすまん)
いいかえると、プログレを目指してきたが、ここらでハードポップ風の音でなんとかブレイクスルーを、という感じである。
したがって、コンセプトものであるにもかかわらず、英国プログレに典型的な暗い叙情性は希薄であり、明朗さと健康的な力強さが先んじる。
また、82 年という時期ながらも、HR にモロなプログレ・クリシェを放り込んだポンプ・ロックに比べると、ややスタンスは 70 年代プログレに近い。
いわば、最後の残党というイメージである。
ヴォーカルの歌唱法、声質と忙しなく弾きまくるギターのプレイから YES を連想するということになっているが、じつは、アップテンポのアンサンブルは本家よりもシンプルであり、叙情的なスロー・パートにおいては、むしろ GENESIS やスティーヴ・ハケットのソロに近い面もある。
ギターのプレイには、特定のコピーというよりは、さまざまなスタイルを極めていったような、ベテランらしい風格がある。
ハードロックをクリアトーンでやってみたら意外によかったというのが出発点だろう。
いろいろとアレンジするわりには、結局音数で説き伏せてしまう自己主張型なのが微笑ましい。
ヴォーカルは、高音で透明感ある声質がジョン・アンダーソン風だが、どちらかといえば、ハードポップ、産業ロック系のリード・ヴォーカリスト(たとえば、デニス・デ・ヤングなど)に近い。
ドラムスは、フィル・コリンズに倣っているようなスタイルであり、すさまじいフィルインを得意にするようだが、一気呵成に加速するときにモタつくところがある。
アコースティック・ギター専任のメンバーがおり、ヴォーカルのバックからアンサンブルの補完まで常に透き通った音で主役を守り立てている。
プログレ的なニュアンスを以下に列挙する。
勢いにまかせて細かなパッセージを弾きとばすのも、メロディアスなソロもうまいギター。
ハードな音に対比するピアノやアコースティック・ギターなどのアコースティックでデリケートな音。
ストリングス系キーボードの存在感が大きい。
バンド演奏はクラシックを模したアンサンブルを意識している。
管絃を伴ったロマンティックな演奏には、GENESIS の小品や CAMEL の「Snow Goose」のようだ。
キャッチーなメロディ・ラインの対角に、緩急の巧みに変化をつけて劇的に展開する充実した器楽がある。
プログレを愛するリーダーのキャリアがそのまま反映した、多彩な音楽性を楽しめる佳作といえるだろう。
この内容だと、YES ファンはもちろんのこと、感傷的な哀願調はひょっとすると TAI PHONG のファンにも響くかもしれない。
歌詞はすべて英語。
MUSEA の CD には、ライヴ・テイク 3 曲と未発表曲が 2 曲のボーナス・トラックつき。
ギタリストは、ライヴにおいてはかなりハードロック寄りのプレイを見せている。
1 曲目「Eyes」(4:40)
ピアノとアコースティック・ギターが呼吸よく反応しあう可憐なアンサンブルから、一気にギターのリードするスピーディな演奏へ。
序盤からのめまぐるしいテンポの変化や、ハウ風のギター・プレイ、リリカルなキーボードとアコースティック・ギターがうれしい。
そしてハイトーン・ヴォイスにとどめをさされる。
キャッチーにして華麗な変転が眩い名作。
2 曲目「Right Or Wrong」(8:11)
メローなキーボードと訴えかけるようなヴォーカルという典型的なハードポップ路線から、シンフォニックなインストゥルメンタルへと発展する大作。
大々的にフィーチュアされるギターだけは、ややハードロック調で迫る。
一部で、翳りあるシンセサイザー(メロトロン・クワイヤに近い)とアコースティック・ギターのデュオによる GENESIS 風のデリケートな美感あり。
終盤は、このシンセサイザーと朗々たるギターのリードで勇壮に突き進む。
この最後のインストゥルメンタルはハケットのソロ作に通じる。
3 曲目「Thinking」(5:43)
ギターが大活躍する、やや古めかしくもスピーディなメロディアス・チューン。
フルート、アコースティック・ギターによる CAMEL 風のファンタジックな場面もあるが、けたたましいギターがその印象を掻き消す。
ギターはスピーディな 3 連やミューティングなどさまざまな技を駆使して、圧倒的な存在感を示すが、やや一本調子。
アコースティック・ピアノ伴奏のメイン・ヴォーカルは、メローな STYX 風から、快調に走り出す。
後半、シンセサイザーとギターのアンサンブルが、なかなかカッコいい。
しかし、まとまりをつけるのが、ギターのアドリヴのみというところが弱点。
展開は切れ味がいい。アドリヴがなければ 2 分で終わりそうな内容ともいえる。
4 曲目「Heaven」(3:08)
エレアコによるリリカルなソロから、一転ヘヴィな演奏へと展開するインストゥルメンタル。
リズムを強調した恐ろしげな演出やリム・ショットの連打など、なぜかスティーヴ・ハケットのソロ作の翻案のようなところがある。ギターはここでも HR 風。
5 曲目「Eleven Days」(4:02)
ジョン・アンダーソン風の歌唱とメロディ・ラインが印象的な作品。
エレアコのソロに導かれて始まるチェロとギターのアンサンブルが美しい。
コンパクトだが完成されたイメージのある曲だ。
6 曲目「Hell」(2:03)
タイトルとは裏腹にエレアコ・ギターとアコースティック・ギターのデュオによるメローな演奏。
チェロがひっそりと寄り添う。
7 曲目「White Lady」(3:51)
ここから次までがクライマックス。
2 曲目と同じくキャッチーなメロディ・ラインのヴォーカル・パートを後半のシンセサイザー、ギターによるインストゥルメンタルでぐっと盛り上げてゆく。
8 曲目「The End」(7:46)
最終章は幻想的にして重厚な傑作。
密やかなアンサンブルと呼応するようにリード・ギターは突っ走り、ヴォーカルは天上からのメッセンジャーと化す。
音量や動きの対比が、劇的な効果を上げる。
エンディング、シンセサイザーによる華やかなソロが披露される。
9 曲目「Heaven」(4:08)ライヴ・ヴァージョン。ギターはかなりハードロック風のアドリヴを見せる。
10 曲目「White Lady」(5:26)ライヴ・ヴァージョン。
11 曲目「The End」(7:20)ライヴ・ヴァージョン。ややガチャガチャするが熱の入ったパフォーマンス。
12 曲目「The Sun Will Rise Again」(3:53)歌を除けば、どちらかといえば GENESIS 風、というか当時のブリット・ポップの主流のイメージ。
13 曲目「Shangri-La」(4:13)リズムは一気にシンプルになり、完全にメインストリーム・ポップ化。
(MUSEA FGBG 4037.AR)