TEMPEST

  イギリスのハードロック・グループ「TEMPEST」。 COLOSSEUM を解散したジョン・ハイズマンによって、72 年に結成。 ライヴ含め三枚のアルバムを残す。
  ブルーズ、ジャズと多彩な音楽性を見せるテクニカルなグループ。

 Tempest
 
Paul Williams vocals, acoustic guitar, keyboards
Allan Holdsworth guitar, violin, vocals
Mark Clarke bass, keyboards, vocals(lead on 6)
Jon Hiseman drums, percussion

  73 年発表の第一作「Tempest」。 ソウルフルなポール・ウィリアムスのヴォーカルと、アラン・ホールズワースのハードロック・ギターが魅力的な作品。 内容は、CREAMEXPERIENCE のようなパワー・トリオを甦らせたブルージーなハードロック。 緊迫した演奏の中に幻想性とドラマが浮かび上がるミドル・テンポの雄々しきナンバーが主であり、その堂々たる風格は間違いなく英国ハードロックの王道である。 そして、ギター・ソロやドラムスのプレイは、技巧的かつ緻密。 全体として、安定したテクニックによる贅沢なハードロックといえるだろう。
  ホールズワースのギター・プレイは、通常のハードロックを遥かに超える先進的なもの。 ハードロックらしいエモーショナルなフレーズが加速とともに一気に別の次元へ駆け上がる。 後追い世代にとっては、あの独特のスケールと「レフトハンド奏法」によるジャジーな速弾き王がハードロック調のリフやバッキングまでもしなやかに決めてしまうところに、きわめて新鮮な驚きを感じる。 やはりこの人は只者ではない。 幻想的な雰囲気は、彼がバッキングで用いるジャズ風のコードの響きが醸し出しているのではないだろうか。 またドラムスも、手数の多さにもかかわらず、ワイルドでダイナミックなノリが、キープされている。 地響きを立てる壮絶なフィルイン、そして、3 連がなんともカッコいい。 ハイズマンならではの暴力的にして安定感あるプレイだ。 演奏全体のもつなめらかで沈着な雰囲気は、このギターとドラムスに負うところが大きい。 そして、緻密さの余り演奏がまとまり過ぎて勢いを失ってしまうのを防いでいるのが、パワフルなウィリアムスのヴォーカルだといえるだろう。
  ヴォーカル・スタイルと巧みなギター・プレイの与えるイメージは、どちらかといえば CREAM よりもジミ・ヘンドリックスの EXPERIENCE をぐっと洗練したものである。 ブルージーだが、粘りよりも、燃え盛る炎が舞い上がるような軽快さがあるのだ。 随所に見られるジャズ・テイストやテンポの巧みな変化など、プログレッシヴな薬味も効いている。 たとえば、1 曲目のイントロ部のリリカルなアコースティック・ギターと電気処理されたヴォーカルや、6 曲目のコーラス、そして最終曲のオープニングの完全なジャズロック・インストゥルメンタルを聴けば、その薬味の効果は歴然である。 テクニカルなロックを指向したハイズマンの目論見は成功したといっていいだろう。
  NUCLEUS とかけもちのホールズワースは、慣れぬハードロック・リフを決めたり、最終曲でみごとなヴァイオリンを披露したりと大活躍。 バリバリのブルーズ・ロックからコーラスの決まるソフト・ヴォーカルものまで、さすが芸達者の猛者連である。 ワイルドなカッコよさとクールな洗練が同時に満足されたハードロックという意味では、稀有の作品だろう。 プログレの文脈で語られることが多いのは、単にホールズワース、ハイズマンというメンツに起因するばかりではなく、ハードロックというスタイルの一つの芸術的完成形の提示という意味合いもあるのではないだろうか。 反面、あまりに器用なためにひっかかりが足りず、あっさりした印象が強いという批判もありそう。

  「Gorgon」(5:44)
  「Foyers Of Fun」(3:41)
  「Dark House」(5:02)
  「Brothers」(3:37)
  「Up And On」(4:19)
  「Grey And Black」(2:29)
  「Strangeher」(4:07)
  「Upon Tomorrow」(6:41)

(CMACD 515)

 Living In Fear
 
Ollie Halsall guitar, Moog synthesizer, piano, vocals
Mark Clarke bass, vocals
Jon Hiseman drums, percussion

  74 年発表の第二作「Living In Fear」。 ホールズワース、ウィリアムズが脱退するも、個性という意味ではホールズワースに優るとも劣らぬ達人オリー・ハルソールが加入、リード・ヴォーカルを兼務してトリオ編成となる。 内容は、変拍子やテクニカルなプレイを盛り込んだスピード感とキレのあるブリティッシュ・ハードロック。 あまりに自然にこなれているのでストレート・アヘッドでキャッチーに聴こえてしまう。 全編剛のドラムスと才気あふれる柔のギターが火花を散らし、速度、重量感ともに、すさまじい充実ぶりを見せている。 ハルソールのギターは、圧巻のプレイを連発する。 オーヴァーダブも効果的だ。 マーク・クラークのヴォーカルも前作で実証済みの実力を発揮している。
  はちきれそうな技巧派ハードロックにほのかにフォーキーな香りをまぶした名作。ムーグ・シンセサイザーによるメタリックなアクセントも印象的。

  「Funeral Empire」(4:26)軽快にしてタメの効いたスピード・ハードロック。 重量級ドラムスの走りっぷりが見もの。 やはりジミヘンのバンドのイメージあり。

  「Paperback Writer」(2:49)THE BEATLES のカヴァー。 あまりにパワフルなフィル・インに圧倒される。

  「Stargazer」(3:36)英国のグループらしいブルージーながらも小粋な作品。 シンセサイザー処理が新鮮。リード・ヴォーカルはクラーク。

  「Dance To My Tune」(7:49)ハルソールの個性爆発、ホールズワースの影響を感じさせる(ライヴではツイン・ギター体制もあったそうだ)圧巻のギター・ソロ。

  「Living In Fear」(4:17)60 年代末くらいのグルーヴがたまらない、ブルージーでソウルフルなブギー。 ハルソールのピアノはとても余技とは思えず。

  「Yeah, Yeah, Yeah」(3:39)

  「Waiting For A Miracle」(5:18)ほのかなトラッド風味とキース・エマーソンのようなシンセサイザーが魅力の名品。アルバム・タイトル曲といい、この作品といい、ハルソール氏の作曲センスにも驚かされます。

  「Turn Around」(6:10)ベースが轟きギターが絶叫するヘヴィ・チューン。セクシーなヴォーカルもよし。

(CMACD 516)


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