イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「THE GREATEST SHOW ON EARTH」。 68 年結成。71 年解散。作品は二枚。ジャジーなブラスを活かしたニューロック。英国らしい神秘性や混沌、落差激しい躁鬱が魅力。 グループ名はおそらく往年のハリウッド映画より。
Colin Horton-Jennings | vocals, flute, acoustic guitar |
Garth Watt-Roy | vocals, acoustic & electric guitar |
Norman Watt-Roy | bass |
Mike Deacon | organ, harpsichord |
Ron Prudence | drums |
Dick Hanson | trumpet, flugel horns, percussion |
Tex Philpotts | tenor & alto sax, percussion |
Ian Aitchison | tenor sax, percussion |
70 年発表のアルバム「Horisons」。
内容は、オルガンとブラス・セクションによるスリルとダイナミズムを活かしたニューロック調ジャズロック。
いかにも英国ロックらしく、R&B からフォーク、クラシックまで音楽的なイディオムは多彩であり、それらによる気品ある重厚さ、メロディアスな親しみやすさ、ファンキーで肉感的なグルーヴが一つにとけあって作り上げた芸術である。
そして、史劇のように勇ましく高揚感ある表現から、ロマンチシズムがしたたるような表現までを繊細なメランコリーが貫いているところが、また英国風である。
悩ましげなメロディのバックでクラシカルなオルガンが高鳴るところには、PROCOL HARUM の「蒼い翳」、RARE BIRD の「Sympathy」と共通するテイストがあり、それはそのままアメリカのブラス・ロックとの微妙な違いになっている。
ウェットで暑苦しく、情感過多ながらソッポを向くようなシニシズムがあり、苦悩はあるが哀願一辺倒では決してない。
そして、優しいときには限りなく優しい。
評価が分かれるとすれば、ソウルフルで野性味あるリード・ヴォーカルに垢抜けなさを感じるか、CHICAGO 風のポジティヴな熱気を感じるかのいずれかでだろう。
個人的には全部好き。
オルガンによるクラシカル・テイストとブラスによるジャズ・テイスト、そして根っこにある R&B が三位一体となり、その上に猛々しいファズ・ギターが君臨する瞬間には、かなりのカタルシスあり。(ギターはジャジーなプレイもうまい)
オルガン・ロック・ファンにはゼッタイのお薦め。
プロデュースはジョナサン・ピール。
タイトル曲はソロもフィーチュアした 14 分にわたる大作であり、ジャジーなグルーヴにあふれ、胸を張ってプログレといるアヴァンギャルドな感性が横溢する佳作。
CHICAGO 「V」を思い出しました。
スマッシュヒットとなったシングル曲「Real Cool World」は確かにキャッチーであり、ヒット・ポップチューンの必要条件である「どこかで耳にしたような」をしっかり満たした作品である。
一方シングル B 面になった「Again And Again」は、素朴さとクールネスが一つになったこの時代らしいドラマティックな力作。
グレードアップした FRUUPP という感じ。
このカップリングなら売れても不思議なし。
「Sunflower Morning」(4:57)
「Angelina」(4:06)
「Skylight Man」(4:30)
「Day Of The Lady」(4:09)
「Real Cool World」(4:49)
「I Fought For Love」(4:23)
「Horizons」(13:58)
「Again And Again」(4:02)
(SHVL 769)
Colin Horton-Jennings | vocals, flute, acoustic guitar |
Garth Watt-Roy | vocals, acoustic & electric guitar |
Norman Watt-Roy | bass |
Mike Deacon | organ, harpsichord |
Ron Prudence | drums |
Dick Hanson | trumpet, flugel horns, percussion |
Tex Philpotts | tenor & alto sax, percussion |
Ian Aitchison | tenor sax, percussion |
70 年発表のアルバム「The Going's Easy」。
内容は、管楽器、オルガン、ギターをフィーチュアした R&B テイストたっぷりのサイケデリックなジャズロック。
リズムギターの「跳ね」やパーカッションの「効き」も抜群、ファンキーでイケイケな演奏を中核に、自由な発想の下、幅広い作風を披露している。
前作よりも軽重、硬軟のメリハリがあり、その幅広い音楽性それぞれにしっかりした輪郭をつけている。
お約束の見得の切り方は堂に入っているし、目まぐるしい大胆な展開を転がしてきちんとしたストーリーにまとめるのも巧みである。
CHICAGO のジャジーでプログレッシヴな名作「V」と同様の流れにいるが、こちらはジャズよりも R&B 寄りであり、暑苦しくもしなやかなところが大きな特徴だ。
そして、ブラス・ロック特有のうねるように荒削りなグルーヴに加えて、時代の流れを象徴するかのように、へヴィなギターのリードによる直線的でけたたましいハードロック的な表現もある。
さらに、英国ロックらしく、素朴な弾き語りに土臭さよりもマジカルな味わいが勝って浮かび上がってくる。
そして、すべてにアクセスしやすい、ポップな味わいをふりかけるのを忘れない。
複数人がリード・ヴォーカルをつとめ、胡散臭さ全開からデリケート過ぎる SSW タッチまで幅広い歌唱スタイルがあるのもいい。
2 曲目の不可思議なパーカッションと幻想的なコーラスや 3 曲目のファズ・ギターとブラスの絡みなど、さりげなくも工夫された音になっている。
それにしても、ギラギラ脂ぎったソウル・ミュージックと淡くくすんだフォーク・ソングがなぜにこんなに一まとまりになり得るのか、浅学のわたしには到底分からない。
ブラスやリズム・セクションを活かしたエネルギッシュなタッチと田園幻想が入り交じる感じは AQUILA と共通する。
ノリがいいの悪いのか、おとなしいのかウルサイのか、機嫌がいいのか悪いのか、一見してこれらがよく分からないところがチャートインを阻んだのかもしれないが、ゆっくり味わえる後の世の人間としては、出会えてラッキー!と快哉の声を上げたくなる内容である。
喩えていうなれば、ナンパする気にはならないが、つきあってみたらスゲエいい女の子だった、みたいな。
おそらくは、こういう作品を秘宝というのだろう。
ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックらしい陰影あるドラマにあふれる佳作である。
プロデュースはジョナサン・ピール。
「Borderline」(9:17)ブラス・ロック、ブルーズ・ロック、R&B からサンバまでをサイケデリックなトーンでまとめた逞しくアッパーな作品。(さまざまな音楽の「境界線」を走るということだろうか)
ギターとオルガンによるアグレッシヴで巨大なソロ合戦を経て、満を持してブラス・セクションが登場し、ブルージーな歌ものへとなだれ込む。
そして、締めくくりは、フリーキーなサックスが登場して、クライマックスが燃え上がる。
勢いのままに走る。
全編パーカッションの効きが半端なく、流行のラテン・ロックのニュアンスもあり。
ハードなブルーズ・ロックの角を取りグラマラスに小粋に仕上げるのがブラスの役割である。
男っぽくソウルフルな歌声と焼け焦げたハモンド・オルガンもいい。
「Magic Woman Touch」(5:13)幻想的な朝方サイケデリック・フォーク。
虚脱感の果ての透明なハーモニー。
一曲目からのムードの落差がすごすぎて、耳がキーンとなる。
ここでも冷えたひそやかな空気をパーカッションが沸き立たせる。
ピアノも跳ねてだんだん元気になるのは、賢者から普通の人に戻るイメージだろうか。
後半の間奏の奇妙な音は口琴か?
イタリアン・ロックの趣味に通じる世界である。
「Story Times And Nursery Rhymes」(4:54)
R&B 色の強いハードなブラス・ロック。
バッキング、オブリガートや間奏では管楽器がパワフルに主役を張るが、テンポや調子の変化が大きく、バラードからハードロックまでいくつかの曲を一つにしてしまったような印象だ。
アグレッシヴな悪声ヴォーカルとクールなハーモニーによる歌唱パフォーマンスも、大胆な演奏の展開の変化にしたがって予定調和を覆し続ける。
エンディング、ジェットマシンによるオルガンの爆音のおかげで 初期の YES のイメージにも近くなる。
英国らしい芸術的でスケールの大きい作品である。
「The Leader」(5:43)ピアノ、管楽器セクションをフィーチュアしたジャズロック。
ここでも唐突なブレイクや極端な調子の変化が盛り込まれて、すんなりとは展開しない。
ギターはさりげなく展開をうながし、バッキングのリフのキレ、重みはこのギターのおかげ。
中盤のブラス・セクション、ホンキートンク・ピアノによるロックンロールはいい感じにまとまっている。
トーキング・モジュレータを通したような管楽器のプレイがおもしろい。
後半、ピアノ・ソロから緩やかなブラスに導かれるヴォーカル・パートの哀愁に痺れる。
「Love Magnet」(9:29)フルートが導くジャジーなアドリヴたっぷりのバラード。
ハモンド・オルガン・ソロからジャジーなギターも加わった展開のみごとな安定感、そして、炊きつけるブラス、サックスのブロウ、波打つパーカッションらが得意のエネルギッシュな演奏へと展開させてゆく。
この音なら AOR にも向かえそうだし、クロスオーヴァーにも向かえそうだが、そういう分かりやすい方向には行かなかった。
改めて、本作は、アレンジよりも多彩で強壮な演奏力を堪能すべき作品と認識した。
「Tell The Story」(4:30)
しゃがれ声ヴォーカルとファルセットのゴスペル・コーラスによるグラマラスな R&B。
ベースのリフが冴える。
フォーキーなギターのアルペジオのミスマッチ、そしてブルージーなピアノの座りのよさ。
(SHVL 783)