イギリスのジャズロック・グループ「AQUILA」。 結成経緯など委細は不明。 ギターのラルフ・デニヤーは BLONDE ON BLONDE 出身。 作品は 70 年 RCA からの一枚のみ。 グループ名は「鷲座」の意味。
Ralph Denyer | electric & acoustic guitar, vocals |
Phil Childs | bass, piano |
George Lee | flute, alto & tenor & baritone saxes |
Martin Wooward | Hammond organ |
James Smith | drums, tympany, percussions |
70 年発表のアルバム「Aquila」。
内容は、多彩な管楽器とハモンド・オルガンをフィーチュアした R&B 系ジャズロック。
ハモンド・オルガンの軽やかな響き、機を見ては切り込むサックス、わびしげなフルートなど、TRAFFIC と同じくサイケデリックな甘さとフォーキーな土臭さが共存している。
ヴォーカルもスティーヴ・ウィンウッドを思わせる、ソウルフルで黒っぽいスタイルだ。
つまり、荒々しくもリズミカルな演奏の基盤は完全に 60 年代ビートなのだ。
しかしながら、新鮮なのは、強烈な R&B 臭さとともにトラッド調の渋くくすんだ色合いがあるところ。
ドラムスが性急なビートを繰り出し管楽器が雄たけびを上げる場面と、感傷的で冷ややかな場面が、ごく自然に並んでいるのだ。
あたかも精霊の舞う田園と紫煙のけぶる都会のクラブがごちゃまぜになったような内容であり、そこがいかにも「70 年」という分水嶺に発表された作品らしい。
ファズの効いたギター、ややアフロっぽく音数多いドラムス、ほとばしるようなオルガンはアート・ロック調である。
管楽器はそこへ武骨ながらもジャジーな味わいを持ち込んで音をほどよくなめらかにしている。
特に、フルートのひやりとした音色には汗の飛び散る熱気を冷ますようなマジカルな効果がある。
また、エレキギターよりもアコースティック・ギターの方が多めであり、全体を通して妙に元気にフレーズを放ち存在感を示すベースも特徴だろう。
巧みなアンサンブルがソウルフルなヴォーカルや突っ込み気味のワイルドなソロを巧みに散らして知的な印象を与えている。
管楽器のパワフルなリフや野太いリズムの押しの強さはブラス・ロックのものであり、アメリカ指向を打ち出しているといって間違いないだろう。
にもかかわらず、総体としては繊細な物語が感じられる。出自とはまことに正直である。
旧 B 面を占める組曲は、各パートのソロを大きくフィーチュアしたメドレー形式の作品。
リズミカルで野趣あふれる第一楽章から、リリカルかつブルージーな重みのある第二楽章、そしてソフトロック調のサウンドで郷愁をかきたて劇的な余韻を残す第三楽章と破裂しそうな勢いのままに突き進む、流れも起伏も見事な傑作である。
作曲はラルフ・デニヤー、プロデュースは、VERTIGO の名プロデューサー、パトリック・キャンベル-リオンズ。
各パートの音はよく取れているが、雑音から見て盤起こしの模様。
こういう音は本当に好きです。
アルバム・ジャケット裏面には、
「As Thoughts Are, They Would Only Confuse Others More.
So With Bailey's Wood In Hand, Filter And Form A Collage Of Time Against Vibration.
And Wait」
なる謎の詩が書き殴られている。
ご存知の方、出典をご教示くださると幸いです。
「Change Your Ways」(5:18)管とオルガンがシンクロするファンキーなテーマがすばらしいソウル・ジャズロック。
汗臭くパンチの効いたヴォーカルとポジティヴなグルーヴがアメリカ風です。
最初のソロがベースというところが粋である。
もっとも、ティム・ハーディンの「You Upset The Grace Of Living When You Lie」に似すぎではある。
「How Many More Times」(6:22)CRESSIDA や TONTON MACOUTE、BRAINCHILD を思わせる、フォーキーにしてハイテンションの R&B。
「黒人っぽいたくましさ」と「侘しげな枯れ具合」の調和がみごと。
アコースティック・ギターやフルートがフィーチュアされる。
ヴォーカルも泣かせる。
これぞ英国ロックと自慢できる作品の一つです。
「While You Were Sleeping」(5:25)
一発キメたサイケ・フォーク調に EAST OF EDEN やジャーマン・ロック風の奇妙なエキゾチズムのスパイスを効かせた怪作。
中近東風のハモンド・オルガン、チャルメラ風のアルト・サックスが執拗にからみ、奇妙な味わいを増幅している。
けだるく空ろである。
「We Can Make It If We Try」(4:35)
クールに抑えたテーマとはち切れそうにソウルフルなサビが呼び合い、鮮やかなコントラストで迫るキャッチーなブラス・ロック。
ブラスとコーラスによるユニゾンのテーマは控えめに、サビでは徹底的にパワフルに迫る。
サックスの爆発的なソロ以外、キャッチーなサビなどは、ほぼ初期の CHICAGO である。
オルガン、エレキギターも少ないながらもオブリガートや間奏でスペースを取って盛り上げに貢献する。
「The Aquila Suite」
組曲。
ソウルフルなブラス・ロックの逸品。
カッコいい曲と難しい技術にあまりは関係ないという見本のような作品です。
「First Movement」(8:29)
フルート、オルガンによるイタリアン・ロック的叙情性を目いっぱい打ち出すプロローグを経て、本編はきわめて黒っぽいソウル & ジャズロック。
饒舌なベース・ランニング、ギトギトなオルガン、テンパッてるアコースティック・ギター、ワイルドなトーキング・フルート、熱っぽくも投げやりなヴォーカルらが 1 曲目と同種のグルーヴでひたすら突き進む。
アコースティック・ギターのアドリヴなんてデタラメ寸前だが、それがまたカッコいいから不思議。
ギターのオクターヴ奏法など思いつき風の展開を堂々と繰り広げた果てに、ドカドカなドラム・ソロへと進む。
パワフルな演奏力を披露する第一楽章である。
「Second Movement」(8:52)
再びイタリアン・ロック的な牧歌調クラシカル、シンフォニック・テイストあふれる悠然たる序章。はやここで感動。
ベーシストの奏でるピアノ、サイケなアコースティック・ギターのふくよかな和音、さえずるようなフルートらによるロマンある演奏である。
ベーシストがベースに持ちかえると、伴奏もエレキギターとオルガンに切り替わる。
本編はなかなか粘っこくブルージーなへヴィ・ロック。
サックスも加わった熱くへヴィなリフが演奏をドライヴする。
食いつきそうな勢いのバリトン・サックスと熱気迸るハモンド・オルガンのオブリガート。
やや覚束ないギターも熱気にあてられて健闘す。
終盤はジャジーなハモンド・オルガンが沸騰しそうな勢いで激走する。
「Third Movement」(8:57)
夢から醒めたら君がいたという状況を大人な喜び方で歌い上げる、素敵過ぎるバラード。
本場アメリカのソウル・ミュージックとしても通用するきわめて王道的な名曲である。
アレサ・フランクリンが歌っていても不思議ではない。
デリケートな表情を見せるオルガンとともに、アルト・サックスのソロがすばらしい。
エピローグは、穏やかなギター弾き語りに導かれる、オルガンとサックスと雷鳴のようなドラムスによる力強いシンフォニーである。
(RCA Victor SF8126 / TRC 046)