EAST OF EDEN

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「EAST OF EDEN」。 67 年結成。 72 年のリーダー、デイヴ・アーバス脱退を含め、メンバー交代と所属レーベルの移動を経て 78 年解散。 初期は、チャールズ・ミンガスと東洋指向のヒッピー文化の影響を受けたアーバスのリーダーシップで、ジャズ、サイケデリック・ロック、東洋音楽を混合し、エキゾチックでミスティカルなサウンドを目指した。

 Mercator Projected
 
Dave Arbus violin, flute, bagpipe, recorder
Ron Caines saxophone, vocals
Geoff Nicholson guitar, vocals
Steve York bass, harmonica, indian thumb piano
Dave Dufont drums, percussion

  69 年発表のデビュー・アルバム「Mercator Projected」。 内容は、サックス、フルート、ヴァイオリンら管弦楽器をフィーチュアした、ジャジーなのにルーラルなサイケデリック・ロック。 大胆に電気処理したヴァイオリンが独特の存在感を放つ。 最大の特徴は、サイケ風味に混ざった中央アジア風のエキゾチズムである。 ブルーズ・ロック、ジャズ、そして、アジアン・エスニックからヨーロッパ・クラシックまでを横断する演奏は、濃密なものであり、さらにそこへ、60 年代サイケのもつインド風サウンドが盛り込まれ、「屋上屋根をつくる」が如く仰々しくアンバランスな音になっている。 部分部分はジャズ、ブルーズ、ポップス、民族音楽とそれぞれ正統的だが、まとめあげられた全体像は極めて怪しい「コケオドシ」風のものである。 そしてそこが魅力だ。 裏ジャケのエジプト風衣装に身を包んだメンバーの写真が音を象徴している、といってもいい。 不気味かつどこか滑稽なのだ。 コケオドシのミクスチャーというのは、ロックそのものを言い当てているような気がするし、その意味ではこのグループは正統的なロック・グループである。 邦題は「世界の投影」。世界地図のメルカトル図法のことのようです。 クレジットはないが、オルガンやメロトロンも使われているようだ。個人的にはたいへん好きな作品です。

  オープニング曲「Northen Hemisphere」(5:02) 獣の鳴き声がこだまする、まるでジャングルにいるような SE から始まり、ヘヴィなギター・リフとノイジーなヴァイオリンのリードで進むブルージーなロック。 重苦しいギター・リフに応えるヴォーカルは、美声ながらどうしようもなく気だるげ。 ヴァイオリンのオブリガートはマウス・ハープ風。 間奏部では、イコライザの効かせた怪しいモノローグとアグレッシヴなベース・ランニング。 フルート・ソロは、あっという間に定位を変化させて後退し、奇妙なざわめき声と重なり合う。 再び力強いメイン・パートへ。 ギターが吠える。 最後はテープ逆回転操作も交え、すべてが混沌とし、爆発音で終わる。
  ギター・リフとささくれだつヴァイオリンがドライヴする、粘っこいヘヴィ・ロック。 SE やヴァイオリン、フルートなど、きわどい音によるエキゾチックかつサイケな演出が冴える。 ブルーズ・ロックに、さまざまなアイデアを無造作に突っ込んだ、初期の DEEP PURPLE に近い世界である。 それにしても、「北半球が好き」っていったい何? 南北問題に楔を打ち込むような歌詞内容なのだろうか。(笑)ケインズ作。

  2 曲目「Isadora」(4:32) イントロダクションは、フォーク・タッチのフルートとサックスのハーモニーによる鮮やかなテーマ。 歌メロもリード・ヴォーカルの表情もセンチメンタルである。 フルートは、風が吹き抜けるような寂しさを演出する。 間奏は、オーヴァー・ダビングされたツイン・ギターによるヘヴィなリフのハーモニー。 続いて、ジャジーでクールなフルート・ソロ。 レゲエ風のギター・バッキングがおもしろい。 天から舞い下りるように、うそ寒いサックスが加わる。 乱調気味ながらもクールなサウンドを保つあたりは、TONTON MACOUTE の作風に非常に似ている。 一瞬のブレイク、そしてメイン・パートへ。 最後はフルートとサックスがひとくさり。
  フルートとソプラノ・サックスをフィーチュアしたフォーキーなジャズロック。 コーラスを交えたうわずり気味の歌メロは、メロディアスながらもトラッド風の枯れた趣がある一方、フルートやサックスのソロにはクールでジャジーな華ぎがある。 ギターのアクセントも効果的。 神秘的な余韻が残る。 ケインズ/ニコルソン/ヨーク共作。

  3 曲目「Waterways」(6:49) 遠くさえずるヴァイオリンの調べが霧を巻いて湖面をすべってゆくようなイメージのオープニング。 神秘的かつ感傷的な響きはこのアルバムを通した特徴かもしれない。 ベースに導かれるように、空ろな響きのヴォーカルが入ってくる。 4 分の 5 拍子は無意識の焦燥感と喪失感を同時に演出する。 間奏は再び幻想的なヴァイオリン。 唐突な深いエコーに冷たい空間の広がりが意識される。 ヴォーカル・パートとヴァイオリンの間奏には、宙ぶらりんな落差があり、奇妙な孤独感が募る。
  やおら始まるのは、AMON DUUL II 風のラーガなソロ・ギター。 リズムも音数多くトライバルな力強さを発揮し、シタール風のギターを支える。 完全にインドである。 ピアノのような奇妙な音は民族楽器か。 サイケデリックな混沌を貫いて、エレクトリック・サックスがのたうつようなソロを奏でる。 絶叫するヴァイオリン、咆哮するベース、ギター、荒々しく打ち鳴らされるシンバル。 秩序は霧消し、完全なる狂乱が訪れる。 やがてオープニングのソロ・ヴァイオリンが復活、印象的なベース・ラインとともにメイン・ヴォーカルへと回帰する。
  悪夢幻想的にして女々しさもたっぷりのサイケデリックなバラード。 メイン・パートのはち切れそうな物狂おしさを支えるのはヴァイオリン。 中間部は、インド音楽の影響を隠さないジャーマン・ロック風のサイケデリック・インプロヴィゼーションである。 カッコよくいうならば、幽玄の美と原色の荒々しさが交錯し、互いに引き立てあっている。 エンディングをトイレの洗浄音にする辺りに、自嘲気分と自信がない交ぜとなった若さを感じさせる。 ケインズ作。

  4 曲目「Centaur Woman」(7:09) フルート、ハーモニカがけだるいリフでユニゾンする JETHRO TULL そのもののようなオープニング。 ヴォーカルも気だるいブルーズ・ロック調だ。 一転して倍速で駆け出すも、間奏は再びハーモニカとフルートによるエネルギッシュながらも粘っこいかけあい。 そして、再び走り出す。 巧みなランニング・ベースと狂おしいサックス・ソロから、次第にジャズ色が強くなる。 リズムの変化は目まぐるしく、ドラムスは一貫して手数が多い。
   ファズ・ベースがさらりと主導権を奪うとテンポ・ダウン、リズムはシンバル主体のジャジーな 4 ビートへと変化。 リードは、ファズ・ベース。 アドリヴ独壇場だ。 一人かけあいやコードをかき鳴らすなど、ベースの即興ソロが続く。
   ギター、ハーモニカのリフから、再びブルージーなメイン・パートへ。 鮮やかなランニング・ベースと狂おしく吠えるサックスを中心に、エネルギッシュなジャムが続いてゆく。
  ジャズ調のインプロを軸にサイケデリック・エラらしい無秩序な展開を繰り広げるジャズロック。 中間部では、4 ビートでフリーキーなベース・ソロを大きくフィーチュア。 いわゆるブルーズ・ロック調(メイン・パートのヴォーカルやハーモニカ)、サイケデリック・ロック・スタイル(ファズ・ベース)に、フルートやサックスでジャジーな味付けをたっぷり施している。 つまり、CREAM によく似た作風、サウンドである。 全体の骨格ははっきりしているし、パワフルな演奏に目を見張るが、曲展開は大胆で無理やりである。 ここまで 3 曲、70 年代初期の「何でもあり」状態を象徴するかのように、全パートがそれぞれに大胆な見せ場をもっている。 ケインズ/ヨーク共作。

  5 曲目「Bathers」(4:57) メランコリックなメロトロン・ストリングスが物悲しく吹きすさび、訥々としたギターとともに、シンバルは潮騒のように震えざわめく。 ヴォーカルは陰鬱だ。 うごめくようなベース・ライン。 虚無の淵に吹きつのる寒風の如きメロトロン、サビでは、ロマンティックな響きが加わって盛り上がり、ギターにオルガンとメロトロンが切なく追いすがる。 打ち鳴らされるドラムス、高々と叫ぶオルガン、ギター。 再びどっと落ち込み、暗い歌が繰り返される。
   茫漠たる荒野に吹きすさぶ寒風のような哀愁バラード。 オルガン、メロトロン(エレクトリック・ヴァイオリンの可能性もある)が効果的に用いられており、ドラムスとともに憂鬱な歌からシンフォニックな高まりへ上り詰める演奏を支える。 他にも、エネルギッシュな動きを見せていたギターやサックスが、物静かなプレイでアクセントをつけている。 ブリティッシュ・ロックならではの感傷的、幻想的、無常感ある作品だ。 ケインズ作。

  6 曲目「Communion」(4:03) テープの早送りのような雑音が飛び回るオープニング。 厳しいヴァイオリンの和音が轟くが、意外やリズミカルに演奏が始まる。 ヴァイオリンとフルートのユニゾンによるリフは、なかなか軽快。 しかし、メジャーともマイナーともつかない不安定さあり。 そして飛び込むメイン・ヴォーカルは、ノーブルにしてみごとなまでに感傷的。 斜に構えながらも、感傷の尾を引きずる GS 歌謡風のメロディである。 スリリングな伴奏とのアンバランスなコンビネーションがおもしろい。 ヴァイオリンのリフで演奏はドライヴされ、メランコリックな歌が続いてゆく。 フルートとヴァイオリンのハーモニーがなぜか明るい。
   センチメンタリズムの味が CRESSIDA などに通じる、英国ロックらしい作品。 スリリングな弦楽の力を利用した演奏には、奇妙な調性のアンバランスがあり、アップテンポで颯爽と疾走しつつも緊迫した摩擦もあるという矛盾したタッチである。 フルートとヴァイオリンのハーモニーによるアンサンブルは、じつに突拍子がない。 冒頭のノイズやエンディングの SE 風のスキットなど、大胆な表現もある。 バルトークの弦楽四重奏からインスパイアされたとのこと。 かなり前衛的な作品だ。 アーバス/ケインズ共作。

  7 曲目「Moth」(3:54) タムのビートが電気処理とともによじれながら、いくつも重なる。 電気処理されたサックスによるやや中近東風ながらもクラシカルな哀愁のテーマ、密やかに歌うヴォーカルの表情は薄暗い。 歌そのものは切ないバラードである。 繰り返しの伴奏は、サックスとヴァイオリンによる哀愁のハーモニー。 サビは、ヴァイオリンが軽くコードを刻み、オブリガートでは朗々と歌い上げてノイズとともに高まってゆく。 セカンド・ヴァースの繰り返し。 スペイシーなのだがノイジーにして埃っぽい、なんともすさまじいサウンドである。
  大胆な電気音響処理を施したデリケートなバラード。 ドラムス、サックス、ヴァイオリン、ヴォーカル、すべての音に毛羽立つような処理が施されている。 器楽のテーマもヴォーカルのメロディもオーソドックスな哀愁バラード風であり、決して悪くない。 きっぱりと秩序を宣言するようなサックスの調べもなかなか印象的だ。 イタリアン・ロック、またはサイケ時代の THE BEATLES にありそうな作風だ。 ケインズ作。

  8 曲目「In The Stable Of The Sphinx」(8:30) 電話が鳴る。 受話器の向こうからは留守録らしい男の返事。 一転、ロカビリー調のシャープなドラムスがシャフルのリズムを刻み始め、なめらかなサックスのテーマで演奏開始。 ひねったオープニングだ。 小気味のいいパワーコードとアルペジオ風のギター・リフが重なり、サックスとともに快調な演奏が続く。 しかし、ブルージーなギター・リフがぐいっと受け止めると、リズムはやや重たく変化する。 今度はベースとギターが低音の調子のいいリフを提示、サックスとヴァイオリンはリフの上でなめらかなフレーズを歌う。 再びブルージーなギター・リフが受け止める。 リズムがテンポのいい 4 ビートに変化するとともに、エレクトリック・ヴァイオリンが唸りを上げながら大胆なアドリヴで飛翔し始める。 ざわめくような演奏、そして歪んだギターが追いかける。高まるスリル。 レガートなテーマが受け止めて、カタルシス。 ギターはブルージーな、うねるようなアドリヴで演奏をリードする。 サックスのシャープなブロウがギターをオーヴァーライドし、演奏は混沌の様相を呈し始める。 みるみる演奏はノイズの塊へと膨れ上がり、フリーフォームの不気味な空間へと突っ込んでしまう。 音響の欠片が散らばる。 秩序を求めたのはベースであった。 追いすがるヴァイオリンはリリカルなフレーズで歌い始め、ギターやサックスも追従してゆく。 スロー・テンポの重苦しいバラードになった。 KING CRIMSON の叙情路線に近い。 力強くもものがなしいサックスのソロ。 フルート、メロトロン・ストリングスのようにサックスを取り巻くヴァイオリン、ギターのアルペジオ。 サックスの調べが高鳴るとともにリズムが復活してくる。 一瞬のブレイクとドラムス・ピックアップ、そして 1:00 あたりで提示された低音のへヴィなリフとともになまめかしいヴァイオリンの調べがよみがえる。 三度受け止めるギター・リフ、そしてこれがエンディング。
  へヴィなジャズロック・インストゥルメンタル。 ブルージーなギターとジャジーなサックス、フルート、ヴァイオリンをフィーチュアし、スピード感と重みの両立したハードな曲調と叙情的な調子を巧みに行き交う。 リフとテーマ、フリーキーなソロを組み合わせ、ワイルドなプレイを次々に決めてゆき、クライマックスで破裂する。 危険な即興空間からも重厚なアンサンブルで復帰を果たす。 大いなる混沌と理性の秩序を象徴するような展開だ。 やはりやや古臭く野暮ったい音とその音を活かしたどこまでも妖しい感じが持ち味か。 何にせよ CREAM の影響は強いと思う。 アーバス/ケインズ/ニコルソン/ヨーク共作。


  ブルーズ・ロックとジャズの連携にエキゾティックな演出を効かせたヘヴィ・ロック。 ギターの音はどうしようもなく古臭く、管楽器とヴァイオリンも荒っぽいが、アヴァンギャルドな展開やエキサイトしたときの迫力はすさまじい。 音の感触はサイケデリック調だが、サックスやフルートがジャズ志向なため、ダウナーな脱力系ではなく一貫して力勝負の演奏になっている。 そして、このまとまりを欠いた奔放な演奏とうまくバランスするのが、きわめて英国的なヴォーカルとコーラス・ワークである。 メランコリックな歌メロがじつにいい。 ヴァイオリンもクラシック調からジプシー系まで多彩であり、時としてメロトロン・ストリングスと音の区別がつかない。 まったく垢抜けなずいかにもアングラな音だが、何が起こるか分からない面白さはある。 やはり名盤だろう。

(SML 1038 / PMS 7040-WP)

 Snafu
 
Dave Arbus violin, tenor sax, trumpet, flute, bagpipe
Ron Caines sax, piano, vocals, stylophone
Geoff Nicholson guitar, harp, strings, vocals
Andy Sneddon bass, strings, vocals
Geoff Britton drums, claves, african drum

  70 年発表の第二作「Snafu」。 ベーシストとドラマーが新メンバーに交代する。 内容は、ジプシー・ヴァイオリン、エレクトリック・サックス、ファズ・ギター、フルートの強引なコンビネーションによるアナーキーかつアヴァンギャルドなジャズロック。 前作同様な西アジア風エキゾチズムとともに前作を超える前衛精神にあふれるも、ブルーズ・ロックやさらに古いロカビリーすら引きずったどこまでも怪しくアングラ臭のあるパフォーマンスである。 パッチワーク的ではあるものの、フリージャズや現代音楽志向は顕著であり、大胆な表現方法が試みられている。 しかし、そういった即興的なインタープレイを積み重ねた演奏から生まれるのが、芸術的な美感や知的なスリルというよりは、猥雑なストリートっぽさやチープな紛いものっぽさが発するひたすらに怪しい迫力なのだ。 何が起こるのか、はたして演者がまともなのかどうかもあまり定かでない、いってみれば闇鍋なのだ。 破天荒な勢いでは、正統異端の主 SOFT MACHINE にも負けていない。 ワールド・ミュージック的なアプローチも JADE WARRIOR のようなスピリチュアルな浮世離れ感とは異なる、どこまでも汗臭く酒臭く薬煙臭いものである。 もちろん英国ロックらしいリリシズムはそこここにあるが、ノイジーなヴァイオリンとサックスが吹き荒れると、埃に油が混じったような空気しか残らないのである。 個人的にはかすかな記憶しかないが、このアルバムには、混沌とした、知性の焼け野原のようだった 70 年代の始まりを象徴する響きがあると感じる。 本作品ののち音楽的に迷走するのは、垢抜けようがない音が確たる個性であっただけにしかたがないのかもしれない。 奇天烈な曲名含め、乱調美という言葉の似合う作風である。 ヴァイオリンのプレイはザッパでおなじみシュガー・ケイン・ハリスと同系統。
   プロデュースは、デヴィッド・ヒッチコック。 ボーナス・トラックはシングル・ヒットの「Jig-A-Jig」。

  「Have To Whack It Up」(2;20) けたたましいギター、神経症的に引き攣るヴァイオリン、エレクトリック・サックスらをフィーチュアしたへヴィ・ロック。 ヴォーカルを尻目にギターとヴァイオリンが思うさま暴れ、最後は狂人たちのわめき声となってゆく。 EDGAR BROUGHTON BAND というよりは、イギリスの OSANNA です。 タイトルは猥褻。

  「Leaping Beauties For Rudy / Marcus Junior」(7:03) 管楽器をフィーチュアした中近東風のスリリングなジャズロック。 アルト・サックス(ロン・ケインズ)とテナー・サックス(デイヴ・アーバス)、ドラムスによる凶暴なるフリー・インプロヴィゼーションから、ギターのきっかけで一転、するりとシャープなジャズロックへなだれ込む。 西アジア風のメロディ・ラインをクールに奏でるサックス、けたたましくノイジーなギター、ドライヴ感あるベースによる走り抜けるように快調なアンサンブルである。 二管は、デイヴ・アーバスがテナー・サックス、ロン・ケインズがアルト、ソプラノ・サックスを担当。 序章のフリー・インプロはエルトン・ディーンに通じるパワーがある。 北欧のグループが参考にしそうな、パンチは効いているがライトなタッチである。

  「Xhorkom / Ramadhan / In The Snow For A Blow-Part1 / Better Git It In Your Soul / Part III」(8:08) 組曲風のソウルフルなジャズロック作品。 第一章は、ヴォーカルとハーモニカをテープ逆回転処理した不気味なイントロダクション。 第二章は、ハンドドラムのビートとベースの刻む呪術的なリフがドライヴし、中近東風のサックスがリードするエキゾティックなジャズロック。クールに抑えたヴォーカル、付随うフルートもいい。ところが、サビではアフロ・ビートの盛り上がりとともに、一気に箍が外れてダモ鈴木と化す。グループによるトラッドのアレンジ。 第三章は、ギター、テナー・サックスによる極太なリフにトランペットが挑む脂っこく肉感的なブギー的展開。アルト・サックス・ソロがお洒落にまとめる。 第四章は、一転、ソウルフルなブラス・セクションの登場。アッパーなリフを高らかに吹き上げ、ビッグバンド風にきちんと受け止める。管楽器群はそれぞれに主張を述べ始め、次第に即興ノリが強まる。 管楽器主導のイケイケなジャズロック。(チャールズ・ミンガスの曲らしい) 第五章は、一声合図があがると、ブラス・セクションの挑発からドラムス・ソロへと渡り、エンディング、と思いきや長いブレイクの果てにヴァイオリンがユーモラスなまとめをする。

  「Uno Transito Clapori」(2;28) レコードのスクラッチ・ノイズのような反復音、そしてテープ回転数を操作した「おしゃべり」がヴォリュームを上げつつ延々と繰り返される。エンジニアによるテープ操作が主のやや埋め草風の音響実験。


  「Gum Arabic / Confucius」(8:18) 第一部は、メタル・パーカッションが呼び覚ますインド風味のフリーフォームの作品。 バグパイプ・チャンター(バグパイプの笛の部分のみ)が遠く聴こえる。 自由に舞い踊るフルート。 蚊の羽音のように波打つノイジーなオルガンのような音は、クレジットによればスタイロフォン(ペンタッチで演奏する玩具のようなシンセサイザー)らしい。 ドラムスの轟きとともにミステリアスなフルートが強まってゆく。 第二部は、フルートとサックスのパワフルなリードで暴れるゴツいグルーヴのジャズロック。 アドリヴで乱れるアルト、ドローンのように低音をとどろかすテナー、剃刀のようなギターのストローク。 なんともオ下劣な感じはフォークダンス風のテーマを無理やりジャジーにしているからかもしれない。不気味なモノローグ入り。 両作品ともフルートをフィーチュアしている。

  「Nymphenberger」(6:15) ワイルドに突っ走る六弦ヴァイオリンをフィーチュアしたプログレッシヴなジャズロック。 変拍子で疾走する WOLF ばりのパートと二本のギターとヴァイオリンらの叙情的なアンサンブルが支える繊細なヴォーカル・パートから構成される。 泣きのツイン・ギターもうまくはまっている。 ヴォーカルのミックスが妙に小さいのは本来不要だったからだろうか。 終盤、雰囲気をかえるタイトな変拍子アンサンブルもカッコいい。 過激なインパクトと物憂げな風情が入り交じる。

  「Habibi Baby / Boehm Constrictor / Beast Of Sweden」(6:20) 第一章は、ヴォーカルも含めて演奏が逆回転テープで作られている。(テープを逆回転したときに普通に聴こえるように歌うというのはなかなか難しいだろう) フルートの響きなど 60 年代の名残を感じさせるサイケデリックかつ感傷的な表現だ。 第二章は、フルート、パーカッション、弦楽器らによるミージック・コンクレート風の即興。静かな居間で時計や外の騒音がまぎれてくるのを聴いているようだ。 第三章は、エレクトリック・ヴァイオリンがヒステリックに騒ぎ立てるへヴィ・ジャズロック。 思いつき感の強いヴァイオリンのプレイ、反応するギター、意固地なベース。 キメのパワーコードによるハードなリフがジミヘン風でカッコいい。 気まぐれに牙をむく感じは MAHAVISHNU ORCHESTRA のブートレッグのようである。 この最終章のタイトルはグループ名にひっかけた駄洒落ですかね。

  「Traditional: arraged by EAST OF EDEN」(1:30) クラシカルかつジャジーなピアノ伴奏による、ぼんやりとした歌もの小品。 クラシックかジャズの引用のようなので、こういう曲名クレジットになっているようだ。(じつはオリジナル曲らしい) 冒頭、キース・エマーソンのようにグランド・ピアノの弦を弾く音が聴こえる。 埋め草になると、かなりやる気が失せているのが手に取るように分かる。いいんだろうか。

  「Jig-A-Jig」(3:43) ボーナス・トラック。71 年にシングル・ヒット。 ジプシー・ヴァイオリンがリードするダンサブルなフォーク・ソングをロック・ビートにアレンジした怪作。 リズム・セクションがうるさいが、カッコいい。 今なら DAVE MATHEWS BAND か?

(SML 1050 / POCD-1847)


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