スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRIBUTE」。 80 年代に活躍。 作品は四枚。 サウンドはインストゥルメンタル主体のワールド・ミュージック調シンフォニック・ロック。 マイク・オールドフィールドの影響もあるようだ。 GONG のピエール・モエルラン、ハンスフォード・ロウが参加。
Christer Rhedin | synthesizers, grand piano, marimbas, syntharmonic orchestra, drums, acoustic guitar on 6 |
Gideon Andersson | drums, bass, acoustic & electric guitars, marroccan clay drum, percussion, backing vocals |
Pierre Moerlen | synthesizers, piano, backing vocals |
Nina Andersson | vibraphone, xylophone, marimbas, flute, vocals, backing vocals, |
Lena Andersson | timpanis, tubular bells, percussion, vocals, backing vocals |
Dag Westling | backing vocals, concert & electric guitars |
Hansford Rowe | bass |
Ake Zieden | guitar |
Michael Zylka | chapman stick |
84 年発表の第一作「New Views」。
内容は、ややニューエイジ寄りのリズミカルなジャズロック。
多彩なパーカッション、ストリングス系デジタル・シンセサイザー、アコースティック、エレクトリック・ギターらが、さざ波のように重なりあう、親しみやすくダンサブルな演奏である。
涼やかで耳に優しいサウンドも特徴だ。
ワールド・ミュージック、ケルト・トラッド調もあり、素朴ながらも清潔で透明感がある。
ヴィブラフォンなどパーカッション類の音が多いところや、マイク・オールドフィールド風のフレーズ反復は、PIERRE MOERLEN GONG との共通点である。
パーカッシヴな音を志向するらしく、この時代のデジタル・シンセサイザーが得意とした打楽器系のクリアーで小気味のいい音を多く使っている。
そして、最も際立つのが、テーマとなるメロディ・ライン。
マイク・オールドフィールド流ケルト風味とスウェーデンのグループらしい人懐こいトラッド風味をまぜた旋律が、全編に豊かに散りばめられている。
調子のよい 2 曲目のギターのテーマやメロディアスな 3 曲目のイングリッシュ・ホルンのテーマなど、一瞬で耳をとらえて離さない、すばらしいメロディである。
この親しみやすく口ずさめるようなメロディも本作品の大きな特徴だ。
4 曲目は、オープニングは CAMEL で、リフがあまりにマイク・オールドフィールドそのままだが、メロディアスなギター・ソロに救われる。
5 曲目は、木管風のシンセサイザーが美しい。
リズムはけっこう粘っこくサイケデリック・ロック風である。
透明な音と扇動的なビート感の組み合わせが珍しい。
また、最後の大作の序盤では、美しく典雅なアコースティック・ギターによるクラシカルかつエキゾチックなアンサンブルが披露される。
この大作は、長い助走を経て、若々しいアンサンブルからアフロなパーカッションとヴォカリーズが高鳴るワールド・ミュージックへと流れ込む力作である。
当時の流行をセンスよく取り入れつつも、それだけに終わらず、後世に残るレベルの作品に仕上がっている。
全体に命の息吹のような躍動感とともに、イノセントで透き通るような清潔感をもつ音である。
ジャズロックのファンにもシンフォニック・ロックのファンにも薦められる傑作だと思う。
一部ヴォカリーズが入る以外は、すべてインストゥルメンタル。
1 曲目だけはややポンプ色強し。そんなに悪くはないですが。
2012 年ひさびさの CD 再発。
「Icebreaker」(5:20)
「Too Much At One Time」(5:45)
「A New Morning」(5:00)
「Climbing To The Top」(4:15)
「Unknown Destination」(4:30)
「New Views」(21:45)
(RP 10500 / EUCD 1042)
Dag Westling | electric guitars, vocals, tin whistle |
Ake Zieden | guitar, bass |
Gideon Andersson | bass, guitar, mandolin |
Lena Andersson | timpanis, tubular bells, percussion, vocals |
Nina Andersson | sax, vibraphone, marimbas, percussion, vocals |
Pierre Moerlen | drums, vibraphone, marimba, percussion, vocals |
Christer Rhedin | keyboards, bass on 3 |
guest: | |
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Amadu Jarr | african percussion on 4, vocals on 4 |
Peter Wangberg | snare drums on 5 |
86 年発表の第二作「Breaking Barriers」。
内容は、打楽器とエキゾチックな音をフィーチュアしたクリアーなニューエイジ・ミュージック。
歌ものでは 80 年代初頭の CAMEL と同じようなポップ化の展開を見せている。
エキゾチックなサウンド(スコティッシュ含め)を取り入れた作品は、その特徴付けによって曲にうまく色が出ていて、それぞれ成功している。
民族色ある旋律の強みに加えて、デジタル・サウンド特有のチープな感じと民族色が交じり合うとこういう面白さが生れるようだ。
(これが 80 年代のワールド・ミュージック隆盛の理由の一つかもしれない。ちなみに MINIMUM VITAL は同様な位置から独自色を打ち出した)
特に、最終曲は、無常感や悲劇性がヴィブラフォンの音色にしみわたる美しい小品である。
一方、問題もある。
テクニックは十分なので演奏に余裕があるが、残念ながら、楽曲そのものにあまり際立ったところがないのだ。
特に、インストゥルメンタル・パートの一部で、単なる技巧の披露や練りこみ不足のアドリヴにとどまっているところがある。
エキゾチックなメロディや和声の力の効果にややよりかかり気味な内容であることは否めない。
冒頭 2 曲を別の曲に置き換えて、編曲にもう少し注力すればもっとよかったはず。
「Breaking Barriers」(5:45)
「Streanlined」(6:43)インストゥルメンタル。
「Dieselengine」(4:45)インストゥルメンタル。
「A Kumma Ki Yidi」(6:20)
「Scottish Mystery」(4:31)インストゥルメンタル。
「Leaves Are Falling」(9:55)
「I Felt Like It ...」(3:15)インストゥルメンタル。
(EUCD 1042)
Gideon Andersson | acoustic & electric guitars, bass, assorted percussion, piano, synthesizer |
Nina Andersson | vocals, vibraphone, wooden flute |
Lena Andersson | lead vocals, timpani, tubular bells, glockenspiel |
Dag Westling | acoustic guitars, voacls |
guest: |
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Tomas Bergqvist | drums, marimba | Niclas Weltman | cello |
Bjorn Jason Lindh | flute | Martin Rosell | trombones |
Jonas Haltia | trumpet | Petter Karlsson | french horns |
Catherine Warburton | violins | Bo Ojebo | oboe |
Magnus Fritz | additional snare drum | Mats Jonsson | piano |
ライヴ盤をはさみ、90 年発表の第四作「Terra Incognita」。
内容は、ゲストの管弦楽を大きくフィーチュアしたワールド・ミュージック風の涼感あるシンフォニック・ロック。
テーマこそ土臭いトラッド・ミュージックを思わせるメロディだが、シンセサイザー、ギターらによるリズミカルにしてキャッチーなバンド演奏に、弦楽四重奏、各種管楽器、女性のリード・ヴォーカルなどによるアコースティックで透明感ある音を交えて、爽やかで健康的、なおかつ芸術的なサウンドになっている。
アメリカ映画音楽など近現代クラシック作品にも通じる場面からトラッドな素朴さで訴える場面まで、幅広い語り口を貫くのは、現代的な表層のすぐ下にたゆとうペーソスとメランコリーである。
さて、打楽器が中心的な位置にいるのが本グループの特徴だが、今回も通常のドラム・セットに加えて、ティンパニ、スネア・ドラム、マリンバなど充実している。
何気なくビートを刻むだけでも、ミックスのせいもあるのだろうが、存在感あり。
また、ギターはやはりマイク・オールドフィールドを思いださせるケルト・トラッド調のプレイ。
そして、シンセサイザーやピアノは、クラシカルな演奏にはもはや欠くべからざるバック・グラウンドであり、全編しっかりと演奏を支えている。
さりげないピアノの音が、実は演奏を引き締めている。
全体に 80 年代以降のニューエイジ、ヒーリング・ミュージックといったイメージの強い音である。しかし、その印象は透明感のあるサウンドによるものであり、饒舌でエネルギッシュなギターと音数の多い安定したリズム/ビートは、やはりロックという呼び名に相応しい。
最後の大作は、重厚な弦楽の調べや SE、アフリカン・エスニックなビートなどを用いた、まさに映画音楽のようにスケールの大きい作品。
中盤のピアノ・ソロは、擬バロックとでもいうべき本格的な演奏だ。
ISILDURS BANE にも通じる巨編である。
「A Brand New Day」(3:16)
管絃、キーボードがロマンティックに迫るなか、打楽器が存在感を示す、きわめてオーケストラルなインストゥルメンタル。
明るく力強い作品である。
「Poem For Vandrare」(5:42)
女性ヴォーカルによるケルト風のテーマを軸とする、エキゾティックなシンフォニック・チューン。
ギターはかなりオールドフィールド。
コンプレッサを効かせたエレキギターのソロがいい感じだ。
序盤の木管フルートの音や、中盤以降の力強いブラスも印象的。
「Didn't You Notice ?」(3:30)
初期の ISILDURS BANE を思わせるキャッチーなシンフォニック・チューン。
トーキング・フルートがフィーチュアされており、トラッド調な旋律にもかかわらずアレンジはかなりクラシカル。
ドラムスに自己主張あり。
「Where There Is A Shadow There Is A Light」(3:58)
オーボエとピアノが美しい無国籍フォーク・ソング風ポップス。
伝説の語り部のような女性ヴォーカル(謎めいたスキャットあり)と弦楽奏。
パーカッションが強調され、意外にヘヴィなギターやオルガンがアクセントになっている。
「Winds Of Autumn」(6:26)重なりあうアコースティック・ギター、ささやくようなピアノによる物悲しげなアンサンブル。
アルペジオが絡み合うかっちりとした伴奏に、浮かび上がるトラッド風のメロディ。
中盤からは、切なくさえずるギターを支えるように、チェロが寄り添う。
後半は、リコーダーが加わり、素朴な音色で滔々とさえずる。
チェロと対等のやりとりも見せる。
ここでも、クラシカルな演奏をトラッドなテーマが貫く作風である。
しかしながら、同じギターのアンサンブルでも、中世音楽を呑み込もうとした野心満々の GENESIS と比べると、格段にお行儀かよく、その分迫力に欠ける。
全体的には、美しく哀感のあるアコースティック・ミュージックである。
「Terra Incognita」(21:25)ピアノ、チェロ、管絃、コーラスらによる一大ファンタジー。
打楽器もドラムスというよりはマーチング・スネアやティンパニが主であり、オーケストラ的な使い方である。
終盤になってようやく、ギターがリードするオールドフィールド調の演奏へとまとまってゆく。
アコースティック楽器のソロ・パートが長く、エキゾチックなスキャットが典型的なニューエイジ・ミュージックをしばしば連想させるが、物語そのものの調子は一貫している。
やはりシンフォニック・ロックの一スタイルというべき内容である。
導入部の SE も効果的。
(EUCD 1294)