UTOPIA

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「UTOPIA」。いわずと知れたトッド・ラングレンが率いた名グループ。 74 年結成。初期作品はキーボードを多用したハードロック調のプログレッシヴ・ロック。

 Utopia
 No Image
Kevin Ellman drums, percussion
Moogy Klingman keyboards
M. Frog Labat synthesizers
Todd Rundgren vocals, electric guitar
Ralph Schuckett keyboards
John Siegler bass, cello

  74 年発表の第一作「Utopia」。 内容は、キーボードをフィーチュアしたテクニカルなプログレッシヴ・ロック。 シンセサイザーの未来的なサウンドをふんだんに使った上で、得意のノスタルジックなポップ・テイストも散りばめた、ぜいたくな内容である。 YESEL&P と同系列の高密度アンサンブルによる演奏だが、異なるのは、クラシックからの翻案によるシンフォニック・テイストがまったくないこと、いかにもアメリカらしい素朴にノスタルジックな音があることなど。 ヴォーカル・パートはハーモニーを活かし、ELO 風のポップでキッチュなテイストとアメリカンな埃っぽさが混じった、比較的メロディアスなイメージだ。 一方、インスト・パートは、シンプルながらもエッジの立ったビートとともに、カラフルな音と変拍子で徹頭徹尾攻め捲くる、ややサディスティックでサイケデリックなタッチである。 甘口で暖かみがあるが容赦がない感じ、といえばいいかもしれない。 なにしろキーボード奏者が三人いるので、小気味いいハモンド・オルガンのソロのバックでアナログ・シンセサイザーがつややかな唸りを上げ、クラヴィネットがクランチなリフを刻むという、想像を絶するほどにぜいたくな音作りになっている。 革新的な音楽クリエーターのイメージが強いラングレンも、ここでは技巧派ギタリストとして、カッコいいプレイで前に出てくる。 また、ジャジーな和声やアンサンブルをちらつかせる辺り、テクニカルなフュージョン・ミュージックへの注意も怠りないようだ。 ただし、技巧とメロウさ一辺倒というのは、どうにもラングレンの趣味には合わないのだろう。 R&B を口ずさみながら、軽やかなステップで一息に宇宙へ踏み出してしまうのだ。 少々偏屈だが君を飽きさせることのないナイスガイといっしょに旅に出ずにどうする? また、アナログ・シンセサイザーのいい音を聴きたくなったときに、トレイにのせるべきアルバムの一つだと思います。 スウィートなハーモニーも特筆もの。

  「Utopia Theme」(14:18)ライヴ録音による、ほぼインストゥルメンタルの作品。ハードロック寄りのキーボード・プログレ。 BRAND X に近いものを感じるところも。

  「Freak Parade」(10:14)たたみかけるテクニカル・ジャズロック調とメローなシティ・ポップス・テイスト、そしてエレクトリックな実験色。 大胆な変転はイタリアン・ロックにありそうな作風だ。

  「Freedom Fighter」(4:01)

  「The Ikon」(30:22)後半のインスト・パートは、中期 RTF を意識したようなハイ・テンションのジャズロック。終盤のアメリカンな緩さも、まあありでしょう。
  
(Bearsville 6954 / VICP-64207)

 Another Live
 No Image
Moogy Klingman harmonica, glockenspiel, keyboards, vocals, Korg synthesizer
Roger Powell synthesizer, trumpet, keyboards, vocals, Moog synthesizer
Todd Rundgren vocals, guitar
Ralph Schuckett organ, bass, accordion, keyboards, vocals, clavinet
John Siegler bass, cello, vocals
John "Willie" Wilcox drums

  75 年発表の第二作「Another Live」。 同年のツアーでのライヴ録音盤。 ロック・バンドによる高品位のポップス・ライヴという非常にぜいたくなエンターテインメントの記録である。 A 面の三曲は、新曲。 ジャジーな力強さと R&B のしなやかさがバランスした佳曲だ。 キーボード開発者としても有名な名手ロジャー・パウエル参加。

  「Another Life」(7:37)キーボード・サウンドを縦横無尽に活かしたジャズロック。R&B 色と AOR/フュージョンっぽさの均衡、すなわち大人なロックの見本。プレイヤーの呼吸がじつにいい。
  「The Wheel」(7:04)アコースティック・ギターの弾き語りにもかかわらずソウル・フィーリングあふれる名演。スティーヴィ・ワンダーとキャロル・キングのブレンド。
  「The Seven Rays」(8:52)スペイシーなポップ・ロック・チューン。ヤン・ハマーばりのシンセサイザー・ソロをフィーチュア。

  「Intro/Mister Triscuits」(5:27)インストゥルメンタル。シンセサイザー・ミュージックからフュージョンまで。パウエル作。
  「Something's Coming」(2:51)ウエストサイド・ストーリーの劇中歌のカヴァー。レパートリーにハリウッド・ミュージカルがあるのが、とてもラングレンらしい。
  「Heavy Metal Kids」(4:16)前年の「Todd」より。ライヴの定番。
  「Do Ya」(4:12)ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA のカヴァー。今一番耳にできないタイプの曲です。
  「Just One Victory 」(5:37)「A Wizard, A True Star」より。モータウン風の名曲。ライヴの定番。スティーヴィ・ワンダー風のキーボードがいい感じだ。
  
(Bearsville 6961 / VICP-64209)

 Ra
 No Image
John "Willie" Wilcox drums, percussion, vocals
Kasim Sulton bass, vocals
Todd Rundgren guitars, vocals
Roger Powell keyboards, synthesizer, vocals

  76 年発表の第三作「Ra」。 内容は贅沢すぎるサウンドが詰め込まれた、グラマラスでパワフル、ポップなプログレッシヴ・ロック。 5 年早く生れていたら THE BEATLESTHE BEACH BOYS をプロデュースしたであろう揺るぎないポップの王者が、シンセサイザーやヴォコーダー風のヴォーカル処理による「未来」っぽいイメージをけたたましいロック・サウンドとともに送り込んでくる。 これでもかとばかりに音を盛り込み容赦ない演奏力を突きつけるへヴィ・チューンでぐいぐい迫り、感傷的なバラードで優しく落とすというラングレン氏らしい力技が冴えている。 プロデュースも、一見ライヴ風ながらもきわめてゴージャスである。 エキゾチズムのスパイスを効かせたところもあるが、「コンセプトもの」に伴いがちな青臭いニュアンスはなく、あくまでプロフェッショナルなポップス・アレンジ手法の手札から一枚を使っているだけ、という感じがする。 もっというと、プログレッシヴ・ロックやジャズロック/フュージョンの隆盛をしっかり捉えて、意識的にそのスタイルに依拠していると思う。 こういうことは多才でスタイリッシュな音楽家には当たり前なんだろうが、ラングレン氏の場合はコンスタントに活動を続けているだけに特にそういう変遷が分かりやすい。
  さて、本作品、テクニカルな演奏(ギターとキーボードのバトルは本当にカッコいい!)と SF 風のキラキラしたサウンドという点では間違いなくプログレだが、オールディーズを沁み込ませた舌触りの良いメロディやハーモニーとショウアップした構成がそういう「くくり」をさせにくくしている。 範疇分けなんて便宜のために過ぎないし大した意味はないが、英国風の翳りとは無縁のアメリカン・ロックについては常に付きまとう件の感じが、この作品においては特に強い。 本作品の場合、序章や最終曲のようにパウエルがクラシカルなフレーズを奏でたり、演劇調のしかけで大見得を切る「それらしい」ところもあるが、それが不思議と「プログレ」というよりは、「Sgt.Peppers」 や 「Ogden's Nut Gone Flake」 のような一時代前のポップ・エポックに直結してしまう。 それだけ製作者の音楽的なバックボーンが強固、つまり、どうしても THE BEATLES になりたい人が作るとほとんどこうなるということなんだろう。 「プログレにしてロックンロール体質」という点では YES も同じだが、こちらはさらにロックンロールへの集中度合いが高く、ぶれがなく、職人的な緻密さがある。 フランク・ザッパから現代音楽を取り除いて、THE BEATLES の分量を増やして、キャロル・キングを加えたのが、ラングレン氏といえると思うが(そうか?)、おそらくザッパと同じように、自身のルーツ・ミュージックを大切に抱いて、さまざまなスタイルに応用しつつ丹念に磨き続けているのだろう。 シンセサイザーやさまざまなキーボードが使われているが、サウンドそのものの絶対的な革新性よりも、そういう音をメロディアスなオールディーズ風ロックンロールにきちんとはめ込んで新しい味わいを出しているところに驚かされる。
  本作品より、ベーシストはカシム・サルトンとなる。

  「Overture: Mountaintop And Sunrise - Communion With The Sun」(6:54)
  「Magic Dragon Theatre」(3:27)
  「Jealousy」(4:40)
  「Etrenal Love」(4:49)
  「Sunburst Finish」(7:27)
  「Hiroshima」(7:16)
  「Singring And The Glass Guitar (An Electrified Fairytale)」(18:23)
  
(Bearsville 6965 / VICP-64211)


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