フランスのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「VERSAILLES」。 伝統のフレンチ・ロック・テアトル。 ANGE、MONA LISA らの系譜であり、毒々しいヴォーカル・パフォーマンスと武骨なギター、古めかしいキーボードを中心とした演奏でヘヴィな奇ッ怪さを演出する。 フランス語ヴォーカル特有の厚ぼったさとアコースティック・アンサンブルがないことを除けば、初期 GENESIS へ直結する感もあり。 再編 MONA LIZA は、本グループが全面的にバックアップしている。 もう新作ははない?
Guillaume de la Piliere | vocals, guitar, flute |
Benoit de Gency | drums |
Alain de Lille | keyboards |
Patrice le Roy | bass |
90 年発表の第一作「La Cathedral du Temps」。
室内楽から軽やかなロック・ビートまでを変化する器楽演奏と、表情豊かな歌を組み合わせたスタイルは、明らかに GENSIS から ANGE へとつながる演劇ロックの流れにある。
ロックという現代的な音楽にもかかわらず、曲調の底には、遥かに古めかしいものが感じられる。
伝統を感じさせて当然である。
元々が、大道芸やオペレッタ、田舎芝居のもつ「変化(へんげ)」の魅力をエレクトリックなサウンドで再構築した音なのだ。
シンセサイザーやギターの音質は明らかに 80 年代以降のポンプ・ロックに通じる透明感のあるものであり、そのモダンな音と 70 年代の古典的旋律/ハーモニーの組み合わせの妙が、特徴である。
もちろん、ハモンド・オルガンやチャーチ・オルガンとコーラスなど、純 70 年代ロック的な仕掛けも満載だ。
そしてとどめは、オーセンティックなロック・テアトルに欠くべからざるフランス語の妖しいモノローグ。
フルートを用いるなど、器楽へ巧みな変化をつけてゆくところも芸が細かい。
GENESIS 云々という前に、リスナーに「受ける」ために生まれた自然な配慮なのだろう。
ハケット風のメロディアスなフレージングを中心に幅広いプレイを見せるギター、ストリングス系の音でクラシカルなムードを盛り上げ、エレクトリックな音でアクセントをつけるキーボード、さらに、低音を強調した重みある演奏など、GENESIS を意識した演奏に加えて、ややもたつき気味がかえっておどろおどろしい効果を上げるドラムス、重厚なオルガンなどオリジナリティを感じさせる音がある。
そして、これらが積み上げられたアンサンブル全体を包み込む、どんよりと重い空気が非常に特徴的である。
深刻で誇大妄想風のヴォーカルには、あらゆる芸に共通する、演ずることのいかがわしさを知った背徳の喜びが見える。
総じて、演奏は微妙なニュアンスを表現しきっており申し分ない。
歌詞がわかると、さらに面白いだろう。
「Musical Box」ばっかり聴いていても大丈夫という方には、絶対のお薦め。
ただし、さすがに 9 曲続くとやや疲れるのも本音である。
各曲も鑑賞予定。
「Intenses Instants」(5:07)
「A La Gloire Des Animaux」(5:21)
「Tels Sont Ses Pastels」(6:26)
「La Dame Des Sables」(4:03)
「Le Sang Bleu」(5:15)
「L'Ame A Fleur De Peau」(3:35)
「La Cathedrale Du Temps」(6:28)
「Le Cri De La Raison」(6:00)
「Le Trepas Venitien」(7:27)
(FGBG 4025 AR)
Guillaume de la Piliere | vocals, guitar, flute |
Benoit de Gency | drums, chorus |
Alain de Lille | keyboards, chorus |
Olivier de Gency | bass, chorus |
91 年発表の第二作「Don Giovanni」。
重く叩きつけるようなベース・ラインともがき苦しむようなヴォーカル、そして深みのあるキーボード・アンサンブルなど、音楽の構成要素に大きな変化はない。
相変わらずドラムスはもたつくし、大作にはなったものの、曲の展開は繰り返し主体である。
しかし、それでも面白く聴けるのは、決して高音へ抜けてゆかず中低音で蠢く音作りとメロディやアンサンブルの性格がマッチしているせいだろう。
借り物めいたところがないのだ。
何かの真似や憧れではなく、ごく自然に演りたい音をプレイした結果なのだろう。
演劇性だけではなく、情熱をストレートにぶつけるパワーとノリがしっかりしているといってもいいだろう。
この自然さは強味である。
そして、メロディと同時にシンフォニックな音作りとロック的なダイナミックさも大事にする姿勢がうれしい。
本作は GENESIS でいえば、演劇的なパフォーマンスとシンフォニックな器楽のバランスが取れた「Foxtrot」だろうか。
雰囲気作りに大きく貢献しているのは、ハケットがハードロックをプレイしているようなギタリスト以上に、ピアノ、オルガン、アナログ風シンセサイザー、メロトロン(?)、チェンバロも操るキーボーディストである。
70 年代のロックのファンにもお薦め。
最終曲が静かに消えてゆくと、古い映画を見た後のように切なさと充足感が同時に湧き上がってくる。
傑作。
各曲も鑑賞予定。
「Hybridite」(11:41)
「Erre Au Fil Des Eres」(9:52)
「Don Giovanni」(15:29)
「Subtiles Delicatesses」(2:15)
「Memoires D'Hecatombes」(13:40)
「Drama」(3:19)
(FGBG 4056 AR)
Guillaume de la Piliere | vocals, guitar, flute |
Benoit de Gency | drums, chorus |
Olivier de Gency | bass, chorus |
Alain de Lille | keyboards, chorus |
96 年発表の第三作「Le Tresor De Valliesres」。
内容は、クラシカルなキーボード、粘りつくギターとお芝居系ヴォーカルによる、荒々しくも切ない狂気とロマンの世界。
ほぼ前作と同じ路線であり、70 年代プログレ・ファン、イタリアン・ロック・ファンには、非常になじみやすい音になっている。
ギター並みにリッケンバッカーを弾きまくるベーシストも健在、太く鋭い音でビートとメロディの両方を打ち込んでくる。
各パートの音は充実していて全体としても音に厚みがあるようだが、よく聴けばギター、ベース、オルガンがかなり綱渡り的なアンサンブルを繰り広げていることがわかる。
そして、そのアンサンブルを強引なヴォーカルがつなぎ止め、引きずり回している。
このダサさすれすれのカッコよさが全盛期のプログレに近いのだ。
今回は、へヴィな演奏に加えてアコースティック・ギターとメロトロンによる消え入るようなアンサンブルもあり、表現の彫りを深くして、よりドラマティックに迫っている。
毎度 1 曲目には充実した作品を提示しているが、本作でもその通りであり、ANGE と同じくいかにもシャンソンらしいキャッチーな歌メロが耳に響く名曲となっている。
そして、切ないまでのメロディの繰り返しとともに湧き起こる独特のヤケクソ感が、さらに胸に刺さる。
リリカルな序章が印象的な 3 曲目の大作(20 分超!)のインストゥルメンタル・パートは、まさにプログレ幻想としかいいようがない。
フルートが舞い、オルガンがキコキコと鳴き、ファズ・ギターが歯軋りする、そう、「Knife」が延々続くのです。
そして、4 曲目では ANGE、GENESIS に加えて少しだけ PINK FLOYD も入っているかもしれないことに気づく。
なににせよ、間違いなく若き重要文化財保存隊である。
ジャケットはいよいよ訳が分からなくなっている。
名作。
(FGBG 4103 AR)
Guillaume de la Piliere | vocals, guitar, flute |
Benoit de Gency | drums, percussion |
Alain de Lille | keyboards, chorus |
Olivier de Gency | bass, chorus |
98 年発表の第四作「Blaise et Benjamin」。
内容は、ごつごつと武骨にして乙女の涙のようなロマンを抱える哀切のロック・テアトル。
大作指向は変わらず、最低でも曲長は 10 分、そして 20 分に近い曲もある。
わざとなのか自然体なのか分からないヘタウマ風の演奏はすでに風格を備えており、初期 GENESIS の攻撃的で熱情的な部分を抜き出したようなイメージがさらに強まっている。
一人芝居的歌唱と切な過ぎるメロディのサビの 1 曲目は、はっきりいって ANGE による「Knife」としかいいようがない。
演奏技術よりも曲展開とアンサンブルの面白さに重きをおき、同時に不器用なまでに 70 年代プログレ風フレーズを叩き込んで繰り広げられるダークなロック・テアトルは、まさしく ANGE と GENESIS の奇怪な嫡子といえるだろう。
ポンプ・ロックがメロディアスな GENESIS を追いかけているとするならば、こちらは、明らかにヘヴィな面を追いかけている希有な例。
イタリアン・ロックにはまった純正プログレ・ファンには、こちらがアピールしそう。
遠慮なくシンバルを打ち鳴らし、バタバタうるさいドラムス、弦が緩むのではないかと心配になるほど強くアタックするベース、ネバネバギトギトのファズ・ギターなど魅力ある音にあふれている。
「Blaise Et Benjamin」(15:21)序盤のこのリズム感、孤高です。というか誰もリズム・キープしてませんね。サビのメロディの冴えは本家クラス。他にもいろいろとモロですが、好感しか湧かない。美と真実は乱調にあり。
「Poison De Passion」(19:19)DISCIPLINE などアメリカの病んだ GENESIS、VdGG フォロワーに近いスタイル。後半 10 分は引っ張りに引っ張る。バランスの取れた傑作。
「La Haine De L'amour」(9:23)幻想夢的バラード。こう歌いこむと ANGE のイメージとなる。
薄霧のようにヴォーカルを包み込むメロトロン・ストリングスもよし。後半はダイナミックに跳ね回る。
「Cruel Duel」(9:55)
(FGBG 4245 AR)