イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「WRITING ON THE WALL」。 66 年結成。73 年解散。グループ名は故事より「不吉の前兆」の意。MIDDLE EARTH レーベル。
Linnie Paterson | vocals |
Willy Finlayson | guitars |
Jake Scott | bass |
Jimmy Hush | drums |
Bill Scott | Hammond organ, piano, clavinet |
69 年発表のアルバム「The Power Of The Picts」。
内容は、R&B 調の黒っぽいヴォーカルと焼け爛れたようなハモンド・オルガンが唸りを上げるヘヴィ・ロック。
ビート、サイケ、ハードロックが混然となった、60 年代末英国らしい、行き場のない手に負えない音である。
荒々しいくせにメロディアスで、男臭いのに感傷的、切実なようで奇天烈にブッ飛んでしまう。
驚くべきは、ヴォーカル、オルガン、ギター、リズム・セクション、すべてがかなりのハイレベルにあること。
これは前身である R&B グループ「Jury」としてキャリアを積んでいるせいだろう。
ハモンド・オルガンの鋭いグリッサンドと苛立つような速弾きソロは、完全に THE NICE 系なのだが、豊かな和音の響きとともに泣きのギターとスワンプなヴォーカルが高まると PROCOL HARUM のような雄々しい風格も現れる。
演奏は、王道を行きつつも、ついつい羽目を外してトリッキーな変わり身を見せる。
ファズ・ギターによる力強いプレイと包容力と切れ味を兼ね備えたオルガンが雄々しく迫るかと思えば、大胆なリズム・チェンジで流れを破断し、ザッパのような人を食ったユーモアまで放り込む。
パワフルに直線的に走るのも、急カーブをフルスロットルで切り返すのもお手の物である。
英国流のヒネリもアメリカ風のストレートな男臭さもともにある。
レア盤、ヘヴィなオルガン・ロックというだけでは到底片付けられない、多彩な魅力のある好作品である。
ARCADIUM よりも、各プレイヤーの技量、ソウルフルななめらかさ、意表を突いてもハズさないアレンジのプロっぽさでは上。
ATOMIC ROOSTER のファンにはお薦め。
ヘヴィなサウンドにこれだけ知的な工夫を感じさせる内容に、「ピクト人のパワー」という、自らを原始人になぞらえた自嘲気味のタイトルを付けるところが、いかにも英国人らしくていい感じです。
ポジティヴ・バカのアメリカ人には、あり得ないセンスです。
プロデュースは、デイヴ・ホウソン。
レパトワ盤は、なぜかオリジナル LP の A/B 面を逆にして曲を収録してあり、2 曲のボーナス・トラック付き。
「Bogeyman」(3:45)ギトギトのクラヴィネットが強烈なヘヴィ・ブギー。
ハーモニカによる「フォークダンス」風のオープニングがユーモラス。
「Shadow Of Man」(5:57)
オルガン全開の野蛮で重厚でセンチメンタルなハードロック。
PROCOL HARUM と BEGGARS OPERA と THE NICE の合体。
冒頭ティンパニが打ち鳴らされ、ホルストの「火星」の翻案も。
R&B 風の黒いヴォーカルが強烈。
「Tasker Successor」(3:42)
雄々しくもキャッチーな佳曲。
昔の TV 番組の主題歌風である。
「Hill Of Dreams」(3:08)
オルガン鳴り響く情熱的なバラード。
ヴォードヴィル・ショウ風のオブリガートなど、贅沢な作り。
ヴォーカルは黒人過ぎる。
好きですが。
「Virginia Water」(5:56)一直線のヘヴィ・サイケとソウルフルにしてユーモアのあるヴォーカルが合体。
ヴォーカルは、どう聴いても黒人。
「It Came On A Sunday」(4:18)
引きずるような王道ハードロック。
ギターとオルガンがブルージーなインタープレイを披露。
カッコいいです。
この曲からが旧 A 面。
「Mrs. Cooper's Pie」(3:21)
軽やかに勇壮に疾走するオルガン・ロック。
名曲。
「Ladybird」(3:46)
タメの効いたヘヴィなリフでドライヴするハードロック。
「Aries」(8:06)
今度は突っ込み気味のリフで凶暴に迫るハードロック。
アーサー・ブラウンのような怪しげなモノローグがはさまる。
以下ボーナス・トラック。
「Child On A Crossing」(3:30) 69 年発表のシングル盤 A 面。
「Lucifer Corpus」(5:43)同シングル盤 B 面。
(MDLS303 / REP 4854)