ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「WALLENSTEIN」。 71 年結成。当初は「Blitzkrieg」という名前だったが、イメージ悪化を避けるために改名した。 70 年代前半はシンフォニック・ロックを演奏し、その後、ポップ・バンドに転身、80 年代まで活動を続けた。 ドラゼとグロスコフは THE COSMIC JOKERS セッションにも参加。
Jürgen Dollase | piano, keyboard, vibraphone, vocals |
Harald Groskopf | drums, percussion |
Dieter Meier | bass |
Bill Barone | guitar |
Joachim Reiser | violin |
73 年発表の第三作「Cosmic Century」。
ハードロック寄りの演奏が表現の幅を狭めてしまったような前二作を経て、KOSMISCHE MUSIK レーベル移籍後の作品である。
副題には "The Symphonic Rock Orchestra" とあり、プログレ王道路線に自信たっぷりの様子。
また、ベーシストはディテア・マイアに交代し、さらに、ヴァイオリン奏者としてヨアヒム・ライザーが加入する。
本作では、ヘヴィで直情的なプレイにロマンチズムを無理矢理盛り込んだサウンドがなんとか成熟し、ヴァイオリンを多用したナチュラルなシンフォニック・ロックとしての新生面を見せてくれる。
ヴァイオリン、キーボードによるロマン派クラシック風の曲想は、成功しているといえるだろう。
ただし、多くのジャーマンロック・グループと同様に、ヴォーカルの英語の癖が野暮ったさを強めているのは否めない。
1 曲目「Rory Blanchford」(9:25)。
ピアノ・ソロから朗々とヴァイオリンが歌いだすロマンティックなオープニング。
ロマンティックなのだが、ピアノの音がこもり気味なのが残念。
ドラムスは音こそモッタリしている手数は多く、ピアノに導かれて始まるアンサンブルのキレはなかなかである。
ヴァイオリン、ベースのプレイも安定している。
ESPERANTO を髣髴させる弦楽リードのクラシカルな演奏である。
ピアノ、ギター、ヴァイオリンによるインタープレイもスリリングだ。
ただし、インストゥルメンタル・パートはやや単調。
ベートーベン風の劇的なピアノ・ソロによる切込みや、60' ポップス風の頼りなげなヴォーカルによって演奏の表情を変化させるなど、一本調子にしないための工夫もあるのだが、やや遅きに失す。
クリスマス・ソングのようなエピローグ調のエンディングにホッとさせられる。
全体としては、素朴でロマンティックなクラシカル・ロックといえるだろう。
2 曲目「Grand Piano」(2:11)。
タイトル通りロマンティックなグランド・ピアノ独奏。
エルトン・ジョンも少々混じるため、野暮ったい TRIUMVIRAT という感じ。
3 曲目「Silver Arms」(9:40)。
堂々たるハード・シンフォニック・チューン。
ベースが刻むシングル・トーンにけたたましいギターのトリルが重なる衝撃的なオープニング。
ヴァイオリンとハードロック・ギターという不釣合いな取り合わせで、大仰な演奏が繰り広げられる。
ファズ・ギターの向こうを張るようにワイルドなハモンド・オルガンも暴れ出す。
ストリングス・シンセサイザー、メロトロンらの轟々たる響きも加わってリック・ウェイクマンばりの本格キーボード・ロックとなるが、力量を超えたプレイで背伸びするギターが安定をかき乱す。
一方、ピアノや弦楽による切り返しは小気味よく鮮やかだ。
ロマンティックなピアノとギターのトリルが演奏を押しとどめ、頼りなげなヴォーカルを導く。
感傷的な表情など、TRIUMVIRAT を意識しているのは間違いなさそうだ。
ここでも泣きのハードロック・ギターのデリカシーのなさが残念である。
メロトロン・フルートとピアノ伴奏による密やかな歌唱はなかなかいい感じだ。
ドラムスとピアノ、ヴァイオリンがリズムを呼び覚まし、再び演奏が動き出す。
華やぎながらもあくまで劇的なピアノのプレイ。
シンセサイザーも唸りを上げ、ピアノ、ヴァイオリンのリードでアンサンブルは最高潮のまま一直線に走り続ける。
ギターがうるさいのと、終了 3 分前からのフィナーレがややしつこいことを割り引いても佳曲である。
4 曲目「The Marvellous Child」(6:10)
景気が好いのか悪いのか、俄かには判然としないシャフルのハードロック。
イントロは、電子音が鬱々と奏でる謎めいた、軍楽調のテーマ。
ベース、ドラムスが重いシャフル・ビートを刻み出し、ピアノの和音がアクセントを付ける。
唸りを上げるファズ・ギターと重々しくも躍動するアンサンブル、これは初期二作品の作風である。
低音主体によるタランテラのリズムでぐんぐんと突き進む。
そのわりに華はなく、やや沈んだ調子である。
P.F.M の「Celebration」を、野暮ったくした感じである。
後半、例によって頼りないヴォーカルが現れ、若干ながらも全体の調子が元気で明るめになる。
ここのギターのオブリガート風の間奏は珍しくカッコいい。
終盤、ブルージーな気配も現れ、ギター、ピアノともに安酒場風のホンキートンクになる。
勢い一発のはずなのだが、体が重すぎるのか演奏が弾けきっていない。
5 曲目「Song Of Wire」(7:46)
ピアノをフィーチュアした感傷的な英国ポップス風バラード。
SSW 調の無常感も現れる。
メロトロン・コーラスやピアノが大仰に盛り上げ、意外なほどアメリカン・ポップス風のハーモニーが追いかける。
カントリー・フレイヴァーあふれるギターや高低の変化の少ない旋律など、70 年代中期のエリック・クラプトンの作風にも通じる。
感傷的過ぎるほどに感傷的ながらも、同時に無闇なスケール感のシンフォニーやポップ・テイストもある不思議な雰囲気の作品である。
この闇雲な広がりは、サイケデリック・ロックの名残だろうか。
日本人には受けそうな作品である。
終盤のピアノによる繊細な表現が光る。
6 曲目「The Cosmic Couriers Meet South Philly Willy」(7:24)。
ジャジーなピアノとハードロック・ギターを思い切りフィーチュアした、豪快なインストゥルメンタル。
ドラムスも乱れ打ちで応戦する。
タランテラのリズムで、タイトル通りの遠慮のないブルース・ギターロック大会が繰り広げられる。
「フニクリフニクラ」ハードロック。
個人的には苦手な部類。
やや一本調子の素朴なシンフォニック・ロック。
クラシカルな要素を見せつつも、基調はあくまで直情型のハードロックである。
ピアノなど、キーボードはそれなりのセンスなのだが、ギターはデリカシーとはあまり縁がない。
この独特の『カッコ悪さ』は、後期 EL&P と共通する。
シンフォニック・ロックが好きという方には、視野を広げるという意味でお薦め。
ドイツ気質の武骨さ、純朴さは味わえます。
(CD KM 58.006-2)
Bill Barone | guitars, vocals |
Jürgen Dollase | piano, lead vocals, mellotron, synthesizer, vibraphone |
Harald Groskopf | drums, percussion |
Jürgen Pluta | bass, percussion, vocals |
Joachim Reiser | violin, percussion |
74 年発表の第四作「Stories, Songs & Symphonies」。
肩の力が抜け、あまり似合わないながらもポップな軽やかさが現れた作品。
頼りなげなデヴィッド・クロスビー風ヴォーカル、エルトン・ジョン風のピアノ、そして、ヴァイオリンが加わると、無声映画のオーケストラのような雰囲気が生れ、そのままポール・マッカートニーお得意のヴォードヴィル調になる。
しかし、英米の音とはどこか肌合いの異なる濃密さと汗臭さがある。
唐突にハードロックするギターの表現やモタる繰り返しの多い演奏は変わらない。
2 曲目は、中盤のブルージーかつアメリカン・ロック風のギターをフィーチュアした強引なインストに悪酔いするが、発展するヴォーカル・パートに意外なほどの説得力がある。
PINK FLOYD 的な作品である。
4 曲目の 12 分にわたる大作は、ロマンティックながらも、珍しくベタつかない不思議な浮遊感のある傑作。
5 曲目は、バルトークをモチーフにしたと思われるピアノ、ヴァイオリンがリードするアンサンブル。
線の細い EL&P に、ヴァイオリンが入ったような演奏は、PELL MELL とともに、ドイツ的なロマン、前世紀的美感を強く感じさせる。
SP 盤が似合いそうである。
しかし、クラシカルなのかといわれるとそういい切る自信もない。
音楽に取り留めがない、もしくは形が定まっていないのである。
ひょっとするとこのグループは、ほんとうはサイケ、トランス系の音楽をやりたかったのかもしれない。(実際、ドラゼとグロスコフは、マニュエル・ゲッチングとともに THE COSMIC JOKERS セッションに参加している)
ヴォーカルは英語。KOSMISCHE MUSIK レーベル。
「The Priestess」(4:16)
「Stories, Songs & Symphonies」(9:52)
「The Banner」(6:02)
「Your Lunar Friends」(11:23)
「Sympathy For Bela Bartok」(5:18)
(CD 58014-2)