イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ESPERANTO」。 元 WALLECE COLLECTION のベルギー人ヴァイオリニスト、レイモンド・ヴィンセントを中心に 72 年結成。 75 年解散。 作品は三枚。 弦楽器をフィーチュアし、多国籍メンバーから成るロック・オーケストラというフォーマットによるクラシカル・ロック。
Raymond Vincent | violin | Bridget Lokelani Dudoit | vocals, acoustic guitar |
Glenn Shorrock | vocals, guitar | Janice Slater | vocals |
Bruno Libert | keyboards | Tony Malisan | drums |
Tony Harris | viola, sax | Gino Malisan | bass, flute |
Joy Yates | vocals, flute | Brian Holloway | guitar, piano |
Timothy Kraemer | cello, piano | Godfrey Slamon | 2nd violin |
73 年発表の第一作「Rock Orchestra」。
ヴァイオリン、女性コーラスをフィーチュアした R&B 調の軽快なポップス。
ヴィンセントのクラシカルなプレイと当時の流行であったソウル・ミュージックを合体させたサウンドは、芸術性よりはハナから売れ線を狙ったアプローチのような気がする。
現代音楽的なプレイも、緊張感よりは目新しさとユーモアが先行しており、いわゆるプログレ的な緊密でパラノイアックな音はない。
弦楽をフィーチュアして多国籍メンバーも揃えたエキゾチックなサウンドというアイデアはすばらしいが、結果としてはイージー・リスニングとしてはやや重たく、ロックにしては腰が据わらないというアブハチ取らずに陥っている。
本格クラシック風のヴァイオリンは、むしろこのポップな楽曲に合わせるために少し手加減が必要だったのではないだろうか。
ロックにとって一番エキゾチックなのはいわゆる異国情趣ではなく、ヨーロッパ・クラシックそのものであるということを意識してもっとセンスあるブレンドを試みてほしかった。
もちろん印象的な瞬間もある。
それは B 面 1 曲目のインストゥルメンタル・パート。
スリリングでこそないものの、キーボード、弦楽器、ギター、リズム・セクションが一体となったシュアーなアンサンブルはみごとなセンスである。
R&B 的な部分を取り除くと、意外やクラシックというよりもいかにも大陸的なジプシー系トラディショナルの香りがするところもおもしろい。
クラシックから世俗へ降りるという意味では、ロックと共通する地平にいるということかもしれない。
本作での演奏はさほど魅力を感じないが、おそらく弦楽器をフィーチュアしたライヴ・パフォーマンスはかなり新奇なものであったに違いない。
ヴァイオリンを用いたロックのファンはぜひ。
プロデュースはケン・スコットとデイヴ・マッケィ。
「On Down The Road」(5:00)
「Never Again」(5:40)
「Perhaps One Day」(4:35)
「Statue Of Liberty」(5:00)
「Gypsy」(6:35)
「City」(4:06)
「Roses」(5:10)
「Move Away」(3:39)
(GXG 1031)
Raymond Vincent | 1st violin | Glenn Shorrock | backing vocals |
Brian Holloway | guitar | Bruno Libert | piano, organ, ARP Odyssey, vibes, harpsichord, backing vocals |
Tony Malisan | drums | Gino Malisan | bass |
Keith Christmas | lead vocals | Tony Harris | viola |
Timothy Kraemer | cello |
74 年発表の第二作「Danse Macabre」。
ヴァイオリン中心に弦楽器を大幅にフィーチュアし、脇はキーボードを主にシンフォニックな色調で固めたクラシカル・ロック。
不気味な光沢を放ちながら疾駆する弦楽器群は、バルトーク作品の演奏を思わせるスリリングなものだ。
オルガンによるアクセントや圧倒的な演奏力を見せる本格的なピアノ/チェンバロ演奏も加えて、格調高いいかにも大陸的な深みを感じさせるサウンドになっている。
インストゥルメンタルは大幅に拡充され、全体として叙情的かつエキセントリックな、プログレらしい音になったといえるだろう。
この志向の変化とともに前作の R&B テイストを決めていた女性ヴォーカル陣は脱退、男性リード・ヴォーカルとしてより本格派のキース・クリスマスが加入してメロディアスな部分のデリケートな表現を一手に引き受けている。
1 曲目の疾走するインストゥルメンタルの迫力と 2 曲目のたなびくような叙情性が、本作における音楽的な変化をよくあらわしている。
一方、3 曲目ではエモーショナルなヴォカリーズと変拍子のテーマをぶつけた、ねじれたドライヴ感を演出し、一作目の作風をうまく活かしている。
B 面のヴォーカル・ナンバーでは(おなじヴァイオリンをフィーチュアしたバンドというせいもあるだろうが)、ダリル・ウェイの WOLF や CURVED AIR を思わせるスピード感と、英国らしい「雅」を感じさせる音もある。
もっとも、やや限界を感じさせるようなところも同時にあるのだが。
しかし、タイトル・ナンバーは弦楽四重奏とキーボード、リズム・セクションが超絶プレイで火花を散らす佳品である。
英国ロックのダークでヘヴィな音が伝統の汎ヨーロッパ的な情趣と対立して、緊張感という新生面を引き出すことに成功した作品。
プロデュースはピート・シンフィールド。
雑談です。
同じクラシック畑からのアプローチでも、指揮者/キーボード奏者の発案した THE ENID と弦楽奏者の考えた ESPERANTO では、同様なオーケストレーションを標榜しつつもずいぶんと音質が異なる。
弦楽四重奏のメンバー間の呼吸がバンドに近いものを持つ分、こちらのサウンドの方がロック・ファンにはなじみやすいのかもしれない。
しかしアクロバチックかつ素朴なアイデアという点では、両者譲らないだろう。
聴き比べもおもしろい。
「The Journey」(10:15)インストゥルメンタル。
「The Castle」(3:33)
「The Duel」(7:06)インストゥルメンタル。
「The Cloister」(5:28)
「The Decision」(5:57)
「The Prisoner」(7:21)
「Danse Macabre」(2:01)インストゥルメンタル。
サン・サーンスのアレンジ。
(AML-213)
Tony Malisan | drums |
Gino Malisan | bass |
Bruno Libert | piano, organ, ARP Odyssey, vibes, harpsichord, backing vocals |
Roger Meakin | vocals |
Kim Moore | vocals |
Raymond Vincent | 1st violin |
Godfrey Salmon | 2nd violin |
Timothy Kraemer | cello |
75 年発表の第三作「Last Tango」。
ギタリスト脱退、ヴォーカリスト交代などを経るも、パワフルでダイナミックな演奏には影響は感じられず、全体に一作目のポップ路線と二作目のシリアス路線がバランスした好作品となった。
硬質な音感をもつリズム・セクション、多彩なキーボード、そして華やかなヴォーカル・ハーモニーは、いわゆるポップス・オーケストラというにはあまり高度な運動性と雅な音質をもつ弦楽セクションとがっちり手を組み、あくまでポップなメロディを中心にしつつも、演奏の切れ味の鋭さやヘヴィなグルーヴをちゃんとアピールできている。
RENAISSANCE が思い切りタイトでハードになったように感じられる瞬間もある。
ただし、いわゆるクラシカル・ロックと異なるのは、分厚い旋律の流れによるシンフォニックな昂揚感や繊細な表現だけではなく、バロックでアグレッシヴ、そしてエキゾティックな面を常にもち続けているところだろう。
イタリアの音楽祭に出てもまったく問題のない大陸風のロマンの味わいがあるのだ。
ヨーロッパ的なロマンティシズムを携えたまま、いい意味でプログレからメインストリームの音楽へと進む方向が感じられる、といってもいい。
英国のグループなので P.F.M や FOCUS と比較するのは変かもしれないが、英国出のユーロロックとして、この二つのグループに続いて世界規模の成功を収めても不思議はなかっただろう。
名プロデューサー、ロビン・ジェフリー・ケイブルを迎えるなど製作も充実し、リリース後のツアーも成功したようだが、さまざまな要因で本作が最終作となってしまった。
これ以上ハマりようのない「Eleanor Rigby」のカバーもカッコいいが、白眉は B 面 2 曲目の大作「The Rape」。
(AMLS 68294 / UICY-9265)