フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「XANG」。96 年結成。2007 年現在作品は二枚。GALILEO RECORDS。
Vincent Hoodge | keyboards |
Antoine Duhem | guitars, electronics on 4 |
Matthieu Hooge | bass |
Manu Delestre | drums, electronic & acoustic percussion |
guest: | |
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Sonia Reris | accordion on 6 |
Alexis Therain | solo guitar on 7 |
Thomas Duhem | acoustic guitar on 8 |
Simon Godly | voice on 4 |
2007 年発表のアルバム「The Last Of The Lasts」。
ジャズ、フュージョン、HR/HM、シャンソン、トラッドなどの演奏スタイルを汲み合わせ、シンフォニックなプログレを中心にまとめたフル・インストゥルメンタル作品(効果音はあり)。
その音楽はかなり多彩であり、ヘヴィで厳か、暗黒にしてつややか、ロマンティックなのに無常感にあふれ、クールに醒めている。
カテゴリ分け不能の音楽というよりは、映画のような一種の総合芸術であり視覚に訴えることなくどれだけ感動を伝えられるかという実験と考えるべきである。
キーボードは、極太ハモンド・オルガン、アコースティック/エレクトリック・ピアノ、シャープなシンセサイザー、深みあるストリングス系などを駆使し、前作と同じく明快なサウンドとフレージングで作品の輪郭をしっかり描いている。
叙情的な表現も的確であり、バッキングにも説得力がある。ジャジーなフレーズを聴いていると、音色こそ違うがキース・エマーソンをイメージすることもある。
ギターは、轟音パワーコードをザクザク刻むかと思えば、華麗な運指とスイープで超絶速弾きとジャジーなソロを放ち、アコースティック・ギターではラルフ・タウナーばりの本格的なエスニック・ジャズを軽やかにこなす。
分散和音を生かしたアドリヴが得意なようだ。
ただし、どちらかといえば、主役はキーボードに譲って、敵役を買って出た感じである。
キーボードがしなやかでカッコいいテーマを歌うと、ギターがグサっと突き刺さってそれに対抗する、といった感じの場面が多いからだ。また、リズム・セクションは、パワーとヘヴィさよりも、場面に合わせた柔軟な表現を心がけているようだ。
こういうドラムスも、個人的には好きである。
全体に、ジャズっぽい表現が一つのしっかりした軸になっていると思う。
これら名手達による凄まじいばかりに集中したパフォーマンスが、ケイオティックでサイケデリックなクライマックスを導き、やがて霊感と詩情にあふれるメッセージを解き放つ。
7 曲目の残虐極まるアンサンブルがかなりカッコいい。
最終曲は、SIGUR ROS ばりの彼岸的慈愛の調べ。
一方、難点は、各場面の音楽的な内容はとんでもなく豊かだが、その総和ほどにはアルバムとしての印象が強くないこと。
ブックレットによると、本作品は第一次欧州大戦の酸鼻極まる戦場がテーマとなっている。
あまりの惨状にある人物が、「この戦争こそが最後の最後(The last of the lasts)」と悲嘆したそうだが、現実はどうであろうか?
「Sacrifice」()
「On Leave」()
「Verdun」()
「Sons Of The Empire」() ノイズとナレーションによる大胆なミュージック・コンクレート風の小品。
「Mud」()ヘヴィなギターとジャジーなキーボードが激しいコントラストを見せる、暴力的な傑作。
「Roommates」() MARILLION ばりの泣きのギターもフィーチュアされる叙情的にして重厚な作品。
「Trenches」()
「Gas」()
(GR 012)
Matthieu Hooge | bass |
Manu Delestre | drums |
Antoine Duhem | guitars |
Vincent Hooge | keyboards |
99 年発表のアルバム「Destiny Of A Dream」。
内容は、ジャン・ミシェル・ジャールばりのスペイシーなシンセサイザー・サウンドをヘヴィなプログレ・メタルに放り込んだシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
ギターを中心とした HM/HR 的な押し、泣きを、ネオ・プログレ風のクリアーな変拍子オスティナートと交差し、パワフルな演奏力のままに駆けずり回る芸風である。
シンプルなテーマを繰り出してどんどん展開するので、長めのインストゥルメンタルでも食傷しない。
内容はストレートなジャズロックではないが、この延々と続いてゆく演奏スタイルはジャズロック作品でよく見られる。(メンバーの一部は実際過去にはジャズロックをやっていたらしい)
一つの場面での語り(ソロ)が長過ぎて納得するまでお説教されているような気持ちになることもあるが、全体としては、緩急や強弱の係結びも自然である。
また、メロディーによる説得力、歌心で迫るとともに、ハードロックらしく音圧で押し切る強引さもある。
そして、ギターとツーバス・ロールによるメタル一直線な表現があるかと思えば、アコースティック・ピアノによるエレガントなソロやエレクトリック・ピアノによるジャジーな表現も飛び出す、意外性の面白さもある。
全体に、現代的なクロスオーバー感覚を活かしたプログレとして、かなりの水準にあるといえるだろう。
透明感とまがいもの臭さが同居するアナログ・シンセサイザー・サウンド特有のえげつない説得力とハモンド・オルガンのパーカッシヴなアクセントをフルに生かしたキーボード・プレイはまさにプログレど真ん中。
近現代クラシックのニュアンスを生かした攻撃的なプレイが非常にカッコいい。
加えて、エレガントなアコースティック・ピアノやチャーチ・オルガンも披露する。
いわゆるシンフォニック・ロックとしてのフレームを形作るのはこのキーボードである。
ザクザクなギターが突っ走るのをストリングスが悠然と受け止めると、ギターもそれに応じるようにレガートなフレーズを紡ぎ出すあたりの攻守の呼吸もいい。
一方、キーボードの多彩さに対して、ギターはザクザクな HM/HR のリフで刻み、哀愁のメロディで歌い上げるというオーソドックスなスタイルで筋を通す一徹もの。
ヒステリックなロングトーンでもアヴァンギャルドに迫るのではなく、どちらかといえばブルージーに、ネオ・クラシカル調でメロディアスに決めてゆくことが多い。
パワー・コード、メロディック・マイナー・スケール、スウィープによる跳躍アルペジオなどメタル嫌いにはピンとくるテクニカルなプレイとスティーヴ・ハケット直系のようなレガートなフレージングを、きちんと切りかえて見せる。
この「らしさ」の説得力はかなりのものだし、リズム感もすばらしい。
ただし、器用な分やや線が細いというか、どこかで聴いたようなという印象を常に払拭できない。
また、リズム・セクションはキメどころでのツーバス・ロールの他は堅実にアンサンブルを支えるタイプであり、パワーよりも精密な技巧を重んじていると思う。
あえていえば、サウンドの過激さのわりには落ちついて音についていける演奏であり、プログレ本来の魅力である、度肝を抜くような、振り落とされるような、あっけに取られるような展開が少ないことが指摘できる。
したがって、いったん器楽に飽きてしまうと、やはり個性的なヴォーカリストがいた方が、という思いにもとらわれる。
叙情的な場面でなんともナイーヴな(お里の知れる)表情をそのまま晒してしまうなど、音楽的に隙があるのは確かなので、今後、スタイリッシュにいくか、よりアヴァンギャルドにいくかの決断を迫られそうだ。
それでも、アクセスのしやすい、小難しくない演奏はやはり魅力である。
この聴きやすさの源は、テーマして選んだフレーズのキャッチーさ、そのテーマを中心としたアンサンブルの組み立てにあるのだろう。
長大な作品をヴォーカルなしで描けるのは、間違いなく、へヴィにジャジーにクラシカルにとナチュラルかつ自由自在に変化する器楽アンサンブルの語り口のうまさ(饒舌といってもいい)のおかげだ。
ギターとキーボードがそれぞれ演奏をリードし、相手に反応しつつセンスよくまぜっかえして、そこにリズム・セクションが堅実かつ俊敏に追従していって、全体のバランスがうまく取れている。
インストゥルメンタル作品としては CHANCE の諸作と並ぶ傑作。
最終曲は長いポーズの後にエピローグがある。
また、ブックレットには全曲分の歌詞らしき文章がある。
「The Revelation(La Revelation)」(7:27)プログレ・メタル風ながらキレのよさが印象的なシンフォニック・チューン。シャッキリと歯切れがいいので紋切り型の変拍子リフも気にならない。
「Misgivings(Le Doute)」(4:50)
「My Own Truth(Ma Verite)」(5:22)
「The Prediction(La Prediction)」(7:04)再びややプログレ・メタル・タッチながら疾走する力を感じる好作品。
「The Dream(Le Songe)」(3:34)
「Bitterness(Amertume)」(10:23)
「The Choice(Le Choix)」(8:11)
「The Light(La Lumiere)」(13:18)
(GALILEO RECORDS GR CD001)